読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2000年08月

『奇跡の少年』, オースン・スコット・カード
『天空の蜂』, 東野圭吾
『ぼくはマンガ家』, 手塚治虫
『ミクロ・パーク』, ジェイムズ・P・ホーガン
『風が吹いたら桶屋がもうかる』, 井上夢人
『極大射程 上・下』, スティーヴン・ハンター
『笑わない数学者』, 森 博嗣

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『奇跡の少年』 オースン・スコット・カード
角川文庫 本体:720円(H10/11初)、★★★★☆
 18世紀末の北アメリカ、開拓民たちは超自然的な力を信じて暮らしていた。彼らにとって七番目の息子の七番目の息子は奇跡の子と呼ばれる特別な存在だった。嵐を生き延び、兄の献身によって誕生した奇跡の子アルヴィン・ジュニア。彼の命を狙う破壊者の手を逃れる事が出来るのか。《アルヴィン・メイカー》シリーズ第一巻。

 自分のいたずらが元で姉たちに仕返しされる姿や、開拓者の一家の生活が描かれる。超自然的な力を信じる彼らに、牧師が神以外の奇跡は存在しないと迫る。姉の仕返しに恐怖し、愚かな牧師に怒り、ファンタジー色が薄かろうが引き込まれてしまう。

 圧巻は牧師が混乱するシーンで、力の存在を現実感を失う事無く描き出している。部分的には他のカードの作品にそれぞれ似ていなくも無いけど、それはある程度は仕方ない事だろう。一冊の話としてきちんとまとまっているけど、シリーズとして今後のアルヴィンの成長も楽しみだ。  

『天空の蜂』 東野圭吾
講談社文庫 本体:838円(98/11初)、★★★★☆
 620ページの大作。東野圭吾さんの作品中一番長いと思われる。

 防衛庁に導入される特殊使用の大型ヘリコプターが強奪された。遠隔操作されたヘリは一人の子供を乗せたまま高速増殖炉の上空でホバリングを続ける。ヘリの燃料が尽きれば高速増殖炉に向かって墜落する。犯人の要求は、稼働中の原発をすべてを使用不能にすること。政府は要求を飲むのか、子供は救われるのか。

 ヘリが遠隔操作で奪われ、脅迫状が届くまでが急ピッチで進む。事件関係者と同じように、呆気に取られながら読んだ。著者の意図にはまったかも。「これからどうなるのか」「犯人は何を考えているのか」と進むほどに、謎が解かれるごとに、魅力が増す。

 これまでの東野さんのどの作品とも似た所のない大型サスペンス物だけど、従来のファンもそうでなくてもサスペンス物の醍醐味を十分に楽しめる。地道な警察の捜査が実を結んで、犯人が何を考えているかが分かっていくと、犯人の気持ちにぐっと来る。当初のアクション物のイメージを覆す心を打つ作品なのだ。  

『ぼくはマンガ家』 手塚治虫
角川文庫 本体:495円(H12/6初)、★★★☆☆
 昭和44年の刊行の本に昭和54年に加筆訂正し、文庫化にあたり新たに編纂したもの。

 芝居、天文、昆虫、漫画映画など、著者を形成した少年の頃の思い出から始まり、戦時中からの漫画に対する熱い思いが語られる。当時活躍した漫画家たちについても多くのページを割いている。自身の漫画家生活、国産アニメの始まり、虫プロの発足へと続く1960年代中頃までの手塚さん唯一の自伝。

 意外に多くのページを当時の漫画家の話に費やしている。福井英一さん、馬場のぼるさん、足塚不二雄(藤子不二雄)さん、寺田ヒロオさんやその他多くの漫画家の名前が上がっている。同じ調子でSF作家の話も出てきて、「ホシヅル」の話や第一回のSF大会にも触れている。

 漫画家仲間に批判されたり、売れなかったりして悩んでいる時もある。当時の手塚さんの地位がもう一つ分からない。福井英一さんの『イガグリくん』と人気を競っていた時は大人気だったのは間違いない。

 手塚さんについての本は沢山あるし、何冊か読んでいるので、良く知っている事も多かった。手塚さん自身の唯一の自伝と言う事では貴重な本だ。手塚さんは第二部を構想していた様だが、書かれていないと思う。  

『ミクロ・パーク』 ジェイムズ・P・ホーガン
創元推理文庫 本体:980円(00/3初)、★★★★☆
 ニューロダイン社では脳と直結して操作する超小型ロボットの開発を目指していた。社長の息子ケヴィンは、友達と小型ロボットを改良し、技術者としての才能があった。二人は昆虫たちの世界を冒険するテーマパークを構想していた。ケヴィンは継母の荷物に紛れ込んだ小型ロボットを通じて見聞きして、彼女の行動に不信感を抱く。

 ライバル会社が社長を殺してでも技術を奪おうとするのに対し、少年が超小型ロボットを操作してそれを防ぐという話。凄く映画を意識して作られている感じで、終わりまでハラハラしながら楽しめる。子供向けのハリウッド映画をお手本に書いたからか、一時期のホーガンの欠点が感じられず良かった。

 SF的には、少年二人のロボットの改造が楽しい。遠距離から操作が出来る中継器を開発したり、昆虫の羽根を応用して飛行ロボットに挑戦したりする。色々なシーンで映画『スモール・ソルジャーズ』が思い浮かんだが、色々な大きさの小型ロボットが存在して、それを使い分けるところが新鮮だった。  

『風が吹いたら桶屋がもうかる』 井上夢人
集英社文庫 本体:533円(00/7初)、★★★★☆
 シュンペイの元に相談に訪れる美女たち。彼と同居する超能力者のヨーノスケの力を借りたいのだった。シュンペイが案内してきた美女の話を聞いて、気を念じる超能力者のヨーノスケの横から口を挟むのが推理マニアのイッカク。見事な論理の展開で事件を解決したかに思えたが……。同じ展開で繰り返される連作短編集。

 牛丼屋に美女がやって来るところからオチまで、毎回ほぼ同じ展開を飽きさせずに見せる。まったく同じだと思わせておいて、さらっとかわすところも上手い。なるほどと思わせたイッカクの論理が崩壊するところが醍醐味か。最後の超能力の結果とシュンペイのぼやきも良い感じ。

 清水義範さんの『こちら幻想探偵社』なんかは、でたらめな推理をする探偵が出て来るけど、こっちは見た目は胡散臭いけど、「なるほど」と唸ってしまうような論理を披露する。約束された展開で、ほのぼのと面白く、気軽に楽しめる。

 “風が吹いたら桶屋がもうかる”という言葉はどういう論理で、「風が吹いたら」「桶屋がもうかる」のか書いてなかったなと思ったら、七編のタイトルがそれだったのか。  

『極大射程 上・下』 スティーヴン・ハンター
新潮文庫 本体:各667円(H11/1初、H11/11,7刷)、★★★★★
 「このミス」の第一位という事なので、著者の作品を初めて読んだ。〈狙撃手ボブ・リー・スワガー〉シリーズ四部作の第一作。

 元米国海兵隊の名狙撃手ボブは、親友を失い重傷を負った日から、ライフルだけを友に隠遁生活を送っていた。彼の元に、開発された高品質弾丸の試射の依頼がきた。試射場を訪れたボブは、長距離狙撃のテストに成功し、依頼者の真の目的が明かされた。それはボブに向けられた罠だったが……。

 主人公が弾丸に興味を持ち試射に出て来る。過去の事件を想定した射撃で、ボブの凄さを見せる。過去にその事件で人質を撃ってしまったニックの存在を知らせる。そのニックがボブに関わって来る。良く練られたスムーズな展開に引き込まれ、最後の最後までハラハラさせられる。

 主人公が死の寸前から生還して、じわじわと反撃していく所が文句なく良い。敵対する側も不気味な凄みを持っていて興奮する。人質を撃ってしまったニックが、ボブの良き相棒になると思っていたのに、残念ながら差があり過ぎた。ラストは一気に解決する方が好みだけど、著者の構成力には感心させられた。  

『笑わない数学者』 森 博嗣
講談社文庫 本体:695円(99/7,初)、★★★★☆
 犀川助教授と萌絵は、天才数学者・天王寺博士のパーティに三ツ星館を訪れた。屋敷の地下に暮らす博士は、庭にある巨大なオリオン像を消して見せた。翌朝、像は元どうりの場所にあり、像の足もとに死体が発見された。犀川と萌絵のコンビが、事件の謎に挑むシリーズ第三弾。

 萌絵には余り魅力を感じないし、犀川は共感出来るけど、煙草が無いと考えがまとまらないなんて、煙草が嫌いな私は距離を感じてしまう。純粋に謎と謎解きを楽しみながら読んでいる。途中に出て来る数学パズルは、答えが出てこなかったので、読み終えてさっそく挑戦。一時間ぐらいかけて強引に解いた。

 オリオン像消失のトリックは割と簡単に思い付く、色々説明の付かない部分をどう納めるのかというのが本当のお楽しみ。主人公たちがなかなか気付かないところが、優越感がくすぐられる。

 十何年も人前に姿を現さない博士という設定は、シリーズ一作目と似ている。昔からミステリでは、現実とかけ離れた設定を使ったりするけど、犀川も萌絵も身近な感覚があるので、もう少し普通の設定の方が面白そう。  






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