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著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『宇宙生物ゾーン 異形コレクション15』 |
井上雅彦 監修 |
廣済堂文庫 |
本体:800円(H12/3初)、★★★★★ |
異形コレクションも15巻、これまで『侵略 異形コレクション2』と『月の物語 異形コレクション8』を読んでいる。「宇宙生物ゾーン」というテーマのアンソロジー。
収録された著者は、江坂遊、野尻抱介、山下定、森下一仁、谷甲州、森岡浩之、岡本賢一、山田正紀、梶尾真治、大場惑、石田一、田中啓文、とり・みき、ひかわ玲子、竹河聖、五代ゆう、友成純一、笹山量子、かんべむさし、横田順彌、井上雅彦、菊池秀行、堀晃、眉村卓。
野尻抱介さんの「月に祈るもの」は、星野之宣さんのマンガを思わせるハードSFの雰囲気に酔った。もっと世界に浸っていられる長いものが読みたくなった。谷甲州さんの「緑の星」は、異星生物の繁殖欲を描いていて、SFアンソロジー『宇宙への帰還』(KSS出版)の著者の作品とテーマ的には似ている。雰囲気はかなり違い、二作品を読んで非常に優れた書き手だと改めて知らされた。
岡本賢一さんの「言の実」は、怪現象の解明のため未開な惑星に調査に訪れる話。細かな設定がSF味にあふれ、ラストが憎いほど良く出来ている。今年のSFのベストに入る傑作だと思った。眉村卓さんの「キガテア」は、惑星の調査隊が遭遇した異星生物が愛玩生物として有用だったが、という話。ある意味では予想どうりだけど、展開とアイデアが上手い。
これ以外にも面白い作品が多く、バラエティーもあって、これほど充実したSFアンソロジーを他に知らない。日本SFの好きな人は、是非読んで欲しい。この後の予告などが載っているけど、状況がかわり廣済堂文庫からの出版はこの巻で最後になるらしい。出版社が変わっても、この後20巻、30巻と続いて欲しい。
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『いさましいちびのトースター』 |
トーマス・M・ディッシュ |
ハヤカワ文庫SF(SF1167) |
本体:520円(96/11初、00/1,2刷)、★★★☆☆ |
SF作家ディッシュのSFメルヘン。
夏別荘にとりのこされた五台の電気器具は、何年も休暇に来ないだんなさまを心配して冒険の旅に出た。フーバーの掃除機、目ざましラジオ(AM専用)、黄色の電気毛布、首の自由に曲がる卓上スタンド、ピカピカのサンビームのトースターが力を合わせて森を抜け都会へ向かう。
全部のページの上三分の一に空きがあって、イラストのページが入って150ページ弱という薄い本で、1981年の星雲賞を海外小説短編部門で受賞している。
「電気器具は人間の見ている前ではかならずじっとしている」という原則があったり、移動するのにバッテリーが必要な事など、擬人化にあたって少し制約があるところが楽しい。ラジオは音楽や世界の出来事に通じていたり、掃除機が犬のように鼻が利いたりというそれぞれの特徴も工夫されていて良かった。
SFメルヘンとしてSF専門の文庫に入っているより、普通の童話として読まれて欲しいと思った。『いさましいちびのトースター火星へ行く』という続編があるけどそっちはSFかな。
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『100万ヒット ホームページを作った人々』 |
金田善裕 |
アスキー |
本体:1200円(00/1初)、★★★★☆ |
インターネットで人気のページを作り出した15人のウェブマスターのインタビューから得られたウェブページ制作の動機や経過、苦労を通じて人気の秘密を探る。月刊「インターネットアスキー」の連載「人気ホームページプロファイル」に大幅加筆したもの。
「J.O.Y」、「東京福袋」、「ご近所さんを探せ」、「Webやぎの目・東京トイレマップ」、「東京トップレス」、「テレビドラマデータベース」、「Weekly Teinou 蜂 Woman」、「ネットサーフレスキュー[Web裏技]」、「Pink Trash」、「電脳風月堂」、「Dream BayStars!!」、「旅行リンク Travel Page」、「寿司奉行のページ」、「全商品裁判所」、「サポートセンターの秘密」のウェブページと製作者が紹介されていてる。
本格的なデータを誇るページ、個人だから出来た楽しいページ、毎日長時間の作業に苦労している人、自動化されていて楽だと語る人まで幅広い。そして、それぞれの製作者が様々な思いでページを作っている事が分かった。
幾つかは見た事のあるページで、本を読んでるときにさらに幾つかを見に行ったけど、趣味の合わないページも少なくなかった。万人に人気のあるページを狙わないからこその個人ページだろう。
紹介されたページが95年頃に始まったのが多いのは、日本のインターネットで個人ページが始まったのがその頃なのだろうか。この本を読んでいると、まだ個人のホームページが非常に珍しかったらしいのが感じられる。
僕は他のページの真似をしながら、ウェブページを作ったけど、この人たちの多くは自分で個人ページを開拓していったのだろう。日本の個人ページを開拓した人たちの話だから、インターネットの歴史として貴重な資料になっていきそうな本である。
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『フレームシフト』 |
ロバート・J・ソウヤー |
ハヤカワ文庫SF(SF1304) |
本体:880円(00/3初)、★★★★☆ |
個人的には、ホーガンと並ぶ好きなSF作家となったソウヤーの新作。
帰宅途中にネオナチに命を狙われたピエールは、妻モリーの特殊な能力によって救われた。彼はいつ発病するかも知れない難病の可能性を恐れつつ、ヒトゲノムの研究に打ち込んでいる研究者で、ネオナチとは何の関係もなかった。どうにか幸せな生活を築いた彼らが、陰謀に巻き込まれてしまう。
近未来を舞台にした研究者の話で、途中から本格的なSFになっていくのだろうと思っていたら、最後までSF風サスペンス小説で終わってしまった。SF味の濃いアイデアにあふれた作品を書くソウヤーだけにちょっと意外だったし、残念な気もする。
主人公が難病の遺伝病の可能性に悩んでいて、「もし自分がそういう病気だったら」という気持ちで少し鬱になりながら読んだ。内容的には暗くなく、次々に事件が起きて巧みに楽しませてくれるけど、難病に脅えながらいかに生きるかという事に正面から取り組んでいるので、気持ちの弱い人には少し覚悟がいる話かも知れない。
フレームシフト、遺伝子検査と保険契約、ジャンクDNAの情報など、遺伝子がらみのアイデアが豊富に盛り込まれていて、SFファンも十分に楽しませてくれる。これにナチの残党、娘の成長異常、保険会社の不正などが次から次と絡んで来る訳で、読んでる時にごちゃごちゃしてるとは感じなかったけど、なるほど盛りだくさんの話だと思った。
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『催眠術師』 |
清水義範 |
福武文庫 |
本体:534円(96/12初)、★★★★☆ |
テレビ局のディレクター・筑紫は、結婚の約束のあるアナウンサーと久しぶりにホテルに泊った。思うように果たせなかった事で不能に悩み、妹の新興宗教への傾倒に苛立つ日々を送る。担当の健康番組で精神病理のシリーズを始める事になって、精神医学のあれこれを学び、身の回りを振り返る。
主人公の行動を興味深く読んだ。一度の不能を気にしながらの彼女との関係や、結婚に対しての気の重さを意識し始めたり、新興宗教に操られる妹と犠牲になる母の問題、逢った事のない女性のメール友達への気持ち、自分の身近で起こっても不思議でないような出来事が次々と降りかかる。
短い話の中に、精神についての話がたくさん盛り込まれている。それらを伏線にして意外な結末が用意されていて関心した。これだけの話を不自然なく結び付けられる事に、生活が精神医学と深く結びついている時代を実感する。また、そういう時代だからこそ、興味深く読めたのだと思う。
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『日輪の遺産』 |
浅田次郎 |
講談社文庫 |
本体:733円(97/7初、97/12,3刷)、★★★★☆ |
不動産会社の社長・丹羽が馬券の発売所で出会った老人が遺した手帳には、驚くべき歴史が書かれていた。帝国陸軍がマッカーサーから奪った財宝を、終戦直前になって隠した経緯が事細かく記されていたのだ。手帳の内容が真実なのか調べるに連れ、財宝に関わった人物の思いが明らかになってくる。
宝探しの物語だと思って読んでいて、いつまでも本格的な展開がないと思ったら、財宝を隠した過去の人々の物語であり、現代人の再生の物語になっていた。終戦前後の話の合間に、現在で手帳を読み進める姿が交錯する。戦争という混乱の中での壮絶な生き方と、目的を失った現在の生き方が比較されているのだ。
リアリティが無いと思った話にどんどん引き付けられていく。これだけ信じられないような話を納得させてしまうのだから、著者は大法螺吹きだ。途中の辛い場面では、目眩がする程没頭して読んだ。
こういう財宝があって話が進んでいけば、何とか掘り出して欲しいなと思うものだが、彼らの気持ちに共感してしまった。思いのこもった財宝を荒らして欲しくないのと同じように、戦争中に犠牲になった人の真摯な気持ちを、簡単に否定して嫌悪するのは正しい事ではないと感じさせられた。
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『いさましいちびのトースター火星へ行く』 |
トーマス・M・ディッシュ |
ハヤカワ文庫SF(SF1297) |
本体:540円(00/1初)、★★★☆☆ |
ぴかぴかボディーのトースターと共に旅をした電気器具たちは、新しい仲間と共に幸せに暮らしていた。地球の電気器具を人間から解放するために、火星解放軍が地球を攻撃してくる事を知り、トースターたちは知恵と勇気をふるって火星へ旅立った。『いさましいちびのトースター』の続編。
擬人化された電気器具が冒険するSFメルヘンの第二弾。アインシュタインの発明した補聴器が登場したり、掃除機が脱重力を使って掃除したり、火星では電気器具が軍隊をつくり地球を攻撃しようとしたりと、今回の方がSF的。こうなってくると文房具が宇宙航行した筒井さんの『虚航船団』思い出す。『虚航船団』は子供向けではないけど、こっちは子供にも安心して読ませられる内容。ほろりとさせられるラストも気に入った。
イラストがペンからマーカーに変わってタッチがなくなっている。時間がなかったのかも知れないが、前作より魅力がないのが残念だ。
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『漂泊者(ながれもの)』 |
風間一輝 |
角川文庫 |
本体:648円(H11/11初)、★★★★☆ |
私立探偵・室井は、過去に殺人を犯し残り数年で時効を向かえる。教会の養護施設新設の計画に反対運動が起り、牧師は悪質な嫌がらせに耐えかねて室井に調査を依頼して来た。金になれば調査対象者と取り引きし、調査書に手を加える悪徳私立探偵だったが、調べていくうちに疑問を感じ事件に深入りしていった。
プロローグは、サハラ砂漠で行方不明になった二人の日本人の話。これが私立探偵・室井と事件にどう関係してくるのかと思ったら、ありがちだけど嬉しい展開。室井を慕う男の力を恐れた関係者が、牧師の娘を誘拐するという暴挙に出る。室井に協力しその財力、影響力を駆使して犯人を割り出していく過程が意外性があって面白い。
室井を凄い奴と言い過ぎなのが少し嫌になるけど、他にはもう文句が付けられない。助けられた恩と桁外れの強さに主人公を慕うという設定はヒロイック・ファンタジーでに良く使われるのを思い出した。ハードボイルドとヒロイック・ファンタジーは似ているのだろうか。
風間さんの小説は「深志荘」という古アパートの住人が交代で主役を演じている。何冊か読んでいくと意外な繋がりを知る事が出来るという楽しみもある。本書でも『地図のない街』に出てきた名脇役の素性がさりげなく語られる。
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