タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『ゲット・ショーティ』 |
エルモア・レナード |
角川文庫 |
本体:738円(H8/3初)、★★★☆☆ |
高利貸のチリ・パマーは、飛行機事故で死んだ男の遺族から金を取り立てる事になった。男は生きていて、賠償金全額を持ってラス・ヴェガスに逃げている事を知らされる。情報を得てロス・アンジェルスに向かったチリは、借金を抱えた映画監督と知り合い、好きな映画の仕事に引かれていく。
映画好きのやくざなチリの自信たっぷりのふてぶてしさが魅力。彼に比べたらハリーという映画監督が軽薄で情けなくなってくる。始めはチリに関心の無かった女優キャレンが、徐々に興味を持っていく所にも彼の魅力が現れている。
そんなチリがハリーの持っている脚本に魅せられて、彼に力を貸そうとする。映画好きの麻薬の密売業者などが絡んで、華やかなハリウッドの裏側が描かれる。彼らの映画関係者にも負けない映画好きの気持ちが、随所に現れていて、そんな雰囲気が良い。
映画を通じて協力していくかに見えたのに、余り良い結末を迎えないのが残念。事故の賠償金を騙し取った男を追ったチリの経験を映画にしようとする話は、この本の映画化みたいで面白いけど、彼らがハリーの脚本に魅せられている部分が霞んでしまい、話の流れがずれてしまった。
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『もつれっぱなし』 |
井上夢人 |
文春文庫 |
本体:533円(00/2初)、★★★★☆ |
「宇宙人、見つけたの」、「未来から電話しているの」、「呪い殺したの」など、非常識な告白にもつれていく会話。信じられない話を何とか信じてもらおうとする中で、徐々に理解できる状況が見えてくる。男女二人の会話だけで構成された短篇六話を収録した異色のユーモア短篇集。
全部のタイトルを並べると、「宇宙人の証明」、「四十四年後の証明」、「呪いの証明」、「狼男の証明」、「幽霊の証明」、「嘘の証明」となる。それぞれ非常識な事を信じてもらおうとする話で、男女二人だけの会話で通している。制約が大きい中で出来るだけ様々な状況を選んでいる。
特に好きなのは「四十四年後の証明」。未来からの電話の話で、SFには良くある話だけど設定が上手い。優しくしてくれた祖父を失った少女が寂しさから、祖父の発明した技術で過去に電話してしまう。優しい祖父とか、全てがピタッと符合するところが良い。
「狼男の証明」は、コンサート当日に狼男に変身してしまうと告白する男性歌手を、女性マネージャーが説得する話。狼男と女性マネージャーとなれば、ちょっとエッチなニュアンスが感じられるところが絶妙。
発表順に並んでいて、一話目はまだ掴めていない感じでテンポが今ひとつだったが、それ以後は練ったアイデアと軽快なテンポの会話が楽しい傑作がそろっている。
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『模造世界』 |
ダニエル・F・ガロイ |
創元SF文庫 |
本体:580円(00/1初)、★★★★☆ |
映画『13F』の原作で、1964年の長編の初翻訳。
世論調査が進んだ未来社会で、電子的な仮想世界に仮想人物を住まわせる完全環境シミュレーターが開発されようとしていた。技術監督フラーの突然の死によって、仕事を引き継いだ助手のホールは、保安主任からフラーの謎の言葉を知らされる。事故に疑惑を感じはじめた彼の周辺で不思議な現象が起きていった。
これが35年前の作品だった事に驚く、グレッグ・イーガン『順列都市』で斬新な感じを受けた仮想世界での絶望感も、既にこの作品中で使われていた。仮想世界の中の仮想世界とかも話に出てくるし、世論調査の設定が面白いし、訳が新しい事もあって古さは感じない。
感銘しながら読んでいたけど、主人公が上位世界から来ている人物を探そうとするところで、次々怪しい奴に「お前の正体は分かっているんだ」とか言って、その度に何かを暴かれたと思った奴と勘違いした会話をするのだ。真面目に読むべきなのか、笑うべきなのか困ってしまった。
後半は意外な人物の正体が分かって、世界の破滅にも繋がりかねない問題に発展していく。この世界の謎や主人公の運命を追って話が進んでいくのは、最後になってイメージを壊されてしまう最近のSFと違って安心して読めた。
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『もっとおもしろくても理科』 |
清水義範/え・西原理恵子 |
講談社文庫 |
本体:476円(00/1初)、★★★★☆ |
『おもしろくても理科』の続編だけど、雑誌連載は「小説現代」に変わったようだ。
理科のことを、みんなが面白がって読めるようにと『おもしろくても理科』を書いた著者が、「理科で面白いことはまだいっぱいあるのだ」と再びサイバラ画伯と組んだ理科エッセイ。テーマは、生物の進化、生物とは、動物と植物、男と女、ロケット、化学、ビックバン、遺伝、遺伝子とDNAとなってる。
何冊もの解説書で勉強しながら、良心的な理科エッセイを目指す清水さんに、カットとマンガの西原さんが、無責任なツッコミを入れる。これが、面白く語ろうとしても理屈っぽくなってしまう理科の解説に、ほんとに嬉しい息抜きとなっている。
清水さん自身が良く分からないと言いながら説明してるところが、正直で良い。ビックバンの以前とか、宇宙の果てについては、専門の科学者の本を読んでも何となくしか分からないものなあ。
利己的遺伝子ついて書かれた竹内久美子さんの『そんなバカな!』は面白い本だけど、誤解を生みやすい内容なので、良い科学解説書ではないと思っていた。清水さんも、ほぼ同じ考えのようで良かった。
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『ウインクで乾杯』 |
東野圭吾 |
祥伝社ノン・ポシェット |
本体:505円(H4/6初、H8/9,5刷)、★★★★☆ |
祥伝社ノン・ノベルの『香子の夢』を改題して文庫化。
宝石店のパーティの後、コンパニオンが毒入りビールで死んだ。現場は密室で警察は自殺と考えたが、彼女と親しかった同僚の香子は信じられなかった。香子はマンションの隣に越して来た刑事と親しくなり、彼女の言葉を信じた彼と事件の真相を追う。
主人公、小田香子は金持ちと結婚する事を夢見ているコンパニオン。不動産会社の若い重役に策を使って近づこうとしているのだけど、刑事に注意されて禁煙したりするところに誠実さが感じられる。親しくなっていく刑事との中が、ちょっと気になったりするのが上手い。
死んだコンパニオンの過去から別の殺人事件との関連が浮かび上がり、香子の憧れの不動産会社の重役が今度の事件に関連している可能性が出てくる。彼女の事を気にかけ始めた刑事は、微妙関係で苦しんだりする。事件の謎とロマンスの行方が上手くバランスしていて、先を読まずにはいられない。深い余韻が残るような作品ではないけど、さらりと読めて文句なく楽しめる。
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『日本の宇宙開発』 |
中野不二男 |
文春新書 |
本体:660円(H11/7初)、★★★☆☆ |
30年前の「宇宙開発は平和目的に限定する」という参議院決議と、アメリカのレポートの「日本は三年以内に核弾道ミサイルを開発できる」という記述に日本の宇宙開発は制約を課せられてしまったと語る。打ち上げシーケンスに見る軍需と民需の違いから誤解を解き、国際社会での日本の宇宙開発の役割を追う。
主に日本の宇宙開発の政治的な問題や、国際的な問題について書かれている。宇宙開発技術は核ミサイル技術ではないと説いている。予定に向けて多くの調整を経て打ち上げられるロケットと、常に発射できるミサイルとの違いはもっともだが、ロケットには液体燃料、ミサイルには固体燃料が向いているとあり、固体燃料ロケットの技術が進んでいた日本は、警告されても仕方ない面もあると思った。
情報収集衛星も「宇宙の平和利用の原則」に抵触するので、その扱いは慎重にならざる得ないらしい。そういう衛星は、軌道の修正などに使う小型のロケット・エンジンの燃料の尽きるまでに、後継機を打ち上げねばならず、衛星を維持するためにロケットを定期的に打ち上げ、成功しなければならない時代に入っている事を知った。
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『探偵倶楽部』 |
東野圭吾 |
祥伝社ノン・ポシェット |
本体:544円(H8/6初)、★★★☆☆ |
祥伝社ノン・ノベルの『依頼人の娘』を改題して文庫化。
特別な金持ちだけを会員にするメンバー制の調査機関「探偵倶楽部」から来た探偵と黒い服の助手の女性が事件の謎を解くシリーズ短編集。「偽装の夜」、「罠の中」、「依頼人の娘」、「探偵の使い方」、「薔薇とナイフ」の5編を収録している。
「偽装の夜」は、大手スーパーの社長が自殺して、副社長らはその死を隠そうとしたが、何故か死体が消えてしまった。探偵が事件の真相を突きつける。ノン・ノベルでの表題作「依頼人の娘」は、母が殺され、娘が父親に疑惑を向ける話。父は何故昼に帰宅したのか、父の靴を揃えたのは誰なのか。彼女が探偵に相談する。その他、同じ探偵と助手が活躍する短編が並んでいる。
活躍すると書いたけど、地道な捜査などは描かれず、調査結果を元にした事件の行方も当事者たちに任せてしまう話が多く、活躍とはちょっと感じが違って物足りない。ミステリとしての作品の質は保たれているのだけど、二人の探偵が感情の無い謎の人物ままなのは少し面白味に欠ける。
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