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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2000年01月

『盤上の敵』, 北村 薫
『白夜行』, 東野圭吾
『グレイベアド』, ブライアン・W・オールディス
『グットナイト、スリープタイト』, 景山民夫
『大暴風 上・下』, ジョン・バーンズ
『電脳進化論』, 立花 隆
『陪審員はつらい』, パーネル・ホール

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『盤上の敵』 北村 薫
講談社 本体:1600円(99/9初、99/10,2刷)、★★★★☆
 友人に誘われ狩猟を始めた男が何者かに襲われる。新婚のテレビ・ディレクターが帰宅途中に我が家に向かうパトカーを目撃、携帯で連絡を取ると妻ではなく、猟銃を持って立てこもった犯人が出た。妻を救いたい一心の彼が、決心して、ある計画のために動き出す。

 全体がチェスに喩えられていて、章が「黒のキングが盤上に置かれる」、「白のクイーンが話す」などとなっている。猟銃を持った男が立てこもったというのが、表の話だとすれば、秘められた裏の話によって、あっと驚く結末を迎える。

 主人公がどういう方法で妻を救うのかギリギリまで分からないように書かれていて、その謎に引き付けられる。シメタと言ういやな脇役が効いていて、こいつが何もかも台無しにしないかと気がもめてスリル十分。ラストにはもっと深い感動を期待していて少し不満が残った。理解不能な絶対的な悪人が出るけど、気が狂っているのでない限り少しでも理解出来る部分が欲しかった。  

『白夜行』 東野圭吾
集英社 本体:1900円(99/8初、99/8,3刷)、★★★★☆
 質屋の主人が建設途中のビルの中で殺されているのが見つかった。被害者の妻や店の者、直前に訪問を受けた女性などが疑われたが、犯人は特定できなかった。数年後、成長した質屋の息子や、犯人の疑いをかけられた女性の娘の周辺で不可解な事件が起こっていった。

 主婦への高校生斡旋や、違法ソフトの販売、少女が拉致され全裸にされたりといった内容も、興味本位に刺激的には書かれていないのが良心的だ。それらの事件に関連して、金を得たり、人間関係が変わって得した人物の存在がほのめかされる。犯罪に絡んで金と地位を身につけていく人物がいる。

 彼らを見ていると、彼らが冷酷に犯罪を行える原動力とは何なのかと疑問が浮かんでくる。そういう心の理解なしには、犯人が示されても十分ではないと思っていたら、しっかりと納得いく解決が示された。『盤上の敵』とは対照的に、理解できる悪人が描かれている事に満足した。話自体はさらっと描かれているものの、やり切れない思いが残る作品。  

『グレイベアド 子供のいない惑星』 ブライアン・W・オールディス
創元SF文庫 本体:700円(76/5初、99/3,3刷)、★★★☆☆
 文庫創刊40周年で作家の選んだベストが復刻された。椎名誠さんが選んだベスト1。『子供の消えた惑星』改題。

 人類に子供が生まれなくなって50年、世界の平均年齢は70歳を超えていた。文明は失われ、人類はゆっくりと終末を迎えようとしていた。最年少とも言える〈灰色ひげ〉が妻と共に旅を続ける。地球に何が起こったのか、過去を振り返りつつ、荒廃した世界で生きる人々を描く。

 細々と暮らす世界の様子も、子供が生まれなくて衰退していく過程も説得力があるが、希望がなさすぎて暗い。主人公が力強く生きている事が救いになっているけど、何を求めて旅をしているのか理解できなかった。

 椎名さんが影響を受けたであろう、荒れた世界を巡る川下りは、この作品の中のほんの一部。椎名さんの作品からは、どんな世界でも逞しく生きる少年の強さが感じられて、暗い中にも希望があった。  

『グットナイト、スリープタイト』 景山民夫
角川文庫 本体:440円(H10/2初)、★★★★☆
 著者が育った時代の音楽へのこだわりを、愛情を持って描いた青春音楽小説四編。

「グットナイト、スリープタイト」
著者最後の書き下ろし短編。父親のくたびれた姿に不満の息子。ある日、父のアルバムに意外な姿を発見する。
ありがちだけど、泣かせる話。

「湘南2CV」
入院したベースの代理に間に合うために、湘南を突っ走るシトロエン2CV。変な事からとんでもない勝負を受ける事になる。
1966年を舞台にした爽やかな青春小説。シトロエン2CVといえば確かトラブル・バスターも愛車にしていた。

「青春フォークソング」
高校に合格した息子が、ギターが欲しいと言っていると聞いた彼は、自分の高校時代を思い出していく。
にやっとさせられる小品、オチなど分かっても過程を楽しめる。

「チュウチュウ・トレイン」
終戦の上海から、外見が西洋人に見える一家が、必死の思いで日本に帰って来る。やがて、マイケルはプロのミュージシャンを目指すようになる。
本書の半分以上を占める中編。この中のあるエピソードがとても気に入っている。主人公マイケルはミッキー・カーチスがモデルらしい。  

『大暴風 上・下』 ジョン・バーンズ
ハヤカワ文庫SF(SF1168,SF1169) 本体:各699円(96/11)、★★★★☆
 2028年、国連のシベリア連邦への空爆によって、海底から数千年にわたって蓄積されたメタンが北極海に湧き出した。通常の大気の何倍ものメタンは異常気象をもたらし、史上最大のハリケーンが発生した。発達したネットワーク網と、全感覚的な新しいメディアによる過激な未来を背景に、史上最大のハリケーンの被害を描く。

 クラスレート化合物の崩壊という現象で、海底に蓄積されたメタンガスが放出されるというシステムが面白い。通常のハリケーンの発生過程の説明に感心したが、今回の異常なハリケーンの特徴や成長予測も十分に納得できる内容で良かった。

 温暖化が進み、消滅する事のないハリケーンが、次々と世界を襲う。これだけだって魅力的なパニック小説だけど、これに「発達したネットワーク網」と「全感覚的な新しいメディアXV」というSF的な要素が加わっているのが本書。

 世界を巻き込む規模のパニック物なのだから、登場人物として気象学者や大統領などは当然としても、XV女優とか、娘を拷問XVの為に殺された男とか、特許のきわどい取り引きで成長した企業の総師などは、一風変わっていて興味は引くけど、ちょっと羽目を外しすぎた感じ。これだけの物を揃えていながら、後半になって話が妙に落ち着いて退屈させられるのも残念だった。

 車に搭載されたシステムの口調は、ハインラインの作品そのままなので、懐かしさに思わずニヤリ。  

『電脳進化論 ギガ・テラ・ペタ』 立花 隆
朝日文庫 本体:700円(98/4初、98/5,2刷)、★★★☆☆
 「科学朝日」の連載に加筆して一冊にまとめた物。

 スーパーコンピュータとは何かを知るために、生産現場を取材。様々な応用として、自動車産業、高炉内シミュレーション、医療の現場、建築産業などを訪ねる。さらに、未来のコンピュータの姿を求め、ニューロコンピュータ、量子コンピュータ、バイオコンピュータなどの研究を報告する。90年代初期のスパコン周辺の現状が分かる。

 スーパーコンピュータ(スパコン)は、パイプラインを応用してベクトル演算に利用しているのが特徴で、別名ベクトル計算機というそうだ。単なる最新の高速コンピュータだと思っていた。パイプライン方式は最近のパソコンでも使われているので何となく分かる。命令を読み込んで、解釈して、実行して、結果を書き出すという様な処理を流れ作業の様にこなすのだ。

 流体力学や自動車、医療、建築、原子力などの本書の中で取り上げられた成果は、十年たった現在は当たり前の様に研究・開発に利用されているのだろう。当時の研究の最前線を、現在次々と成果として目にするようになってきている。

 興味深い内容で、とても分かりやすく伝えているけれど、十年も昔の内容だと、現在はどうなっているのかと気になって、本書の内容だけでは物足りない。特に後半の未来のコンピュータは、現在の研究の進み具合を知りたくなった。  

『陪審員はつらい』 パーネル・ホール
ハヤカワ文庫HM 本体:720円(94/12初、97/4,3刷)、★★★★☆
 お人好し探偵スタンリー・ヘイスティングズ・シリーズ六作目。

 スタンリーは個人事業の私立探偵で事故専門の調査員をしている。だから陪審員は免除される筈が、何故か陪審義務を課せられた。これでは生活が成り立たないと、陪審員のかたわら早朝と残業に契約取りの仕事も受けて大忙し。女優を目指す美女と知り合えて、浮かれたところで、今回も殺人事件に巻き込まれる事に……。

 “お人好し探偵”というのは自分で勝手に付けた物で、実際は“調査員スタンリー・ヘイスティングズ・シリーズ”と言うらしい。でも主人公の人柄が出ている“お人好し探偵”が気に入っている。

 ぼやきで始まる出だしから、良い意味でのマンネリが嬉しいし、そんな中に毎回飽きさせない新鮮なネタも見せている。読むたびに魅力が増していくシリーズだ。今回はスタンリーが昔、アーノルド・シュワルツェネッガーの映画に出ていた事が分かる。

 陪審員についても興味深かく面白かった。分かっているつもりでいて、色々誤解している部分がある事を知った。ちょっと違うけど日本では「検察審査会」なんて言うものがあって、佐野洋さんが『検察審査会の午後』というミステリーを書いている。  






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