桔梗の覚悟
全裸の浅野は仁王のような凄みの笑みを浮かべながら葵の前に立った。
「今度はお前が相手か」
浅野が髪を掴んで脅すと葵は顔をねじって必死に哀願する。
「お、お許し下さい」
「妹に手を出すな」
秀正が口を出すと浅野は怒ってその頬を叩いた。
「この若造に恥を掻かしてやる。袴を剥ぎ取って一物を曝け出せ」
沼田が秀正の袴の紐を解き、褌を引き剥がすと、巨大な一物が力無くそこに垂れ下がった。
「なんだこやつ、立派なものをぶら下げているではないか」
浅野は秀正のそれの大きさに目を瞠っている。
秀正は別に見られてもなんとも思わない。桔梗と女中たちの前で契ったことで糞度胸を身に付けていたのだ。
「面白い。どこまで大きくなるか見極めてやろうぞ」
浅野は苦しげな息をしている桔梗の髪を引き掴むと秀正の一物の前に引き摺った。
「こいつを嘗めて大きくしてやれ」
桔梗が力無く首を振ると沼田が再び鞭を振るった。
双臀に厳しく鞭を当てられた桔梗は体勢を崩し、秀正の太腿にその身を受け止められのだった。
「桔梗殿、厭いませぬ。この場でしゃぶって下さい」
浅野に髪を引き掴まれた桔梗は悲しい決意を固めた。吸い寄せられるようにそれを口に含んだ桔梗は秀正の巨根が目を覚まし始めたのを知覚する。
巨大化したそれは桔梗の喉にまで達してしまい息をするのも苦しくなるほど肥大化した。
「もうよい」
桔梗を引かせた浅野はその天を付く蛇とでも形容すべき秀正の一物を憎々しげにみるのであった。
「うーむ。何という大きさだ。懲らしめてやる。鞭を貸せ」
鞭を手にした浅野は桔梗を足で突付いた。
「正直に白状しないとこの男のご自慢のものが使い物にならなくなるぞ」
浅野が鞭を振るうと秀正はつんざくような悲鳴を放った。
秀正の股間から首を出す蛇に蔦が幾重にも絡まり、震えている様に見えるのである。
「言わぬか」
浅野は秀正と桔梗の顔を交互に見回すとさらに一撃を放った。
秀正はあまりの痛さに目が眩み、全身を痙攣させる。
「お待ちくださいませ。全てお話します」
桔梗がその身を投げ出すようにして浅野の鞭打ちを阻止した。もう死を覚悟した桔梗は秀正を救いたい一念だったのだ。
「徳川家康様を暗殺に赴いたのでございます」
「何、徳川か?これは面白い」
浅野は高笑いの声を上げた。桔梗が泣き崩れるのを気にもとめず、浅野は身支度を整えると大声を出した。
「沼田、早馬の支度じゃ」
国許に戻り、領主の指示を仰ぐために浅野は馬を用意させるのであった。
淀君の憤慨
「えーい。まだ、消息は掴めぬのか」
淀君は平伏している石田三成を怒鳴りつけた。桔梗達が大坂を旅立ってから既に二十日が経過していた。
「家康は越後の上杉との会見を終えて既に帰途に付いていると言う報告が入っております。桔梗の消息は寺泊に現れたのを最後に途絶えたままにございます」
「もしや、桔梗が秀正を殺して逐電したということはあるまいな」
淀君は最悪の事を考えて思わず歯軋りする。もし、そんな事になったらなんとしてでも桔梗を探し出し、八つ裂きにしてやると心に思うのであった。
「それはあり得ないと思いますが、秀正が年増女の色香に迷って二人で逐電することも考えられます」
「ああ、憎い、憎い。あの淫乱女め。二人で繋がらせたまま首を跳ねてやる」
三成の発言がまるで現実のように思われた淀君は扇を打ち壊した。
その時、勘平が顔を出した。
「お方様。毛利より書状が参っております」
それを一読した淀君は愕然とし、それを三成に投げ与えた。
「なんということじゃ。秀正は毛利に捕まっておる」
淀君が悔しそうに溜息を付くと書状を詳細に読んだ三成が冷静に口を開いた。
「これによりますと秀正殿が越中領内で毛利の武士に狼藉を働いたとなっておりますが桔梗の事に触れておりません。私の思うますに桔梗は毛利の手先としてお方様を襲ったのではありますまいか?」
「何?毛利の手先」
「いかにも、毛利としては桔梗の行方を探します。それで同道していた秀正を捕らえたという事になると思います」
「草間。ただちに毛利の下屋敷に赴き、詳細を聞いてまいれ。桔梗の事も忘れでないぞ」「はは」
勘平はすぐさま飛び出すのであった。
救出の代償
その日も桔梗は道場に呼び出され、浅野の肉の相手をさせられていた。
桔梗は秀正と葵を守るため、一人で矢面に立っていた。
後ろ手に縛り上げられたままの全裸の楓を膝の上に乗せ上げたまま繋がった浅野は辛そうに眉を寄せている桔梗の顔を覗き込む。
「もう、生きてここを出られると思うなよ。淀君がお前の事を見限ったら即、打ち首じゃ。こうやって繋がったまま首を切ってやろうか」
浅野が身の毛もよだつような残酷な事を口にしても桔梗は言い返す気力も無かった。連日のように浅野の嗜虐趣味の餌食にされている桔梗は心も身体も疲れ果てている。
「ふふふ、一度やってみたかったのよ。あそこが締まって良い気持ちになる。そうじゃ、一思いに殺さずにその肌を切り裂き、痛みを散々味合わせてから留めをさした方が面白いか」
浅野は残酷な妄想を膨らませるとそれに酔ったかのように腰をうねらせ始める。
「浅野様。豊臣家よりお使者がお見えです」
「おう、少し待たせておけ」
桔梗の胎内におのが欲望を吐き出した浅野は空虚な瞳を見開いて身動きせず身を横たえる桔梗を楽しげに見つめながら身支度を整えた。
浅野が広間に赴くと草間勘平が待ち構えていた。二人は旧知の間柄だった。
「これは草間殿、火急に何用でござるか」
「本日、お伺いしたのはこの儀にござる」
勘平は淀君から手渡された書状を指し示した。
浅野は内心ほくそ笑んだ。相手が餌に食いついた手ごたえがあったからだ。
「おお、その儀でござるか、毛利家の武士が領国内より逃亡中の罪人の女を捕らえようとしたの当家家臣の邪魔だてしたので併せて捕らえたという事だ。他にその女の姪という女も捕らえておる」
「その女は桔梗と申すもんであろう。その女は豊臣家も追っていた女だ。三人全て引き渡して戴きたい」
ニヤリと浅野は笑った。ここからが正念場だった。
「ただで返すわけにはいかぬ。桔梗は死罪に値する大罪人じゃ」
「しからば条件をお聞きしたい」
「当家が豊臣家にお支払いしてる課徴金を来年より免除して戴きたい」
勘平の顔色が変わった。
「驚く事はあるまい。元はといえば桜の枝一本の話ではないか」
高笑いをした浅野を勘平は当惑した面持ちで見つめていた。
「私の一存では決めかねる」
「おお、そうであろう。淀殿と石田殿の連署の誓詞をご持参いただければすぐにお引き渡す。その三人はこの屋敷におる」
浅野が笑うのを勘平は悔しそうに見つめるだけであった。
「な、なんと課徴金を免除せよだと。毛利め足元を見おったな」
勘平の話を聞いた淀君は悔しそうに扇を打ち鳴らした。
「三成、毛利を成敗する。戦の準備じゃ」
「お待ちくだされ。我が豊臣のみで戦ったら衰えたりとはいえ毛利にございます。簡単に参りません。それに徳川にこの機を突かれましたらひとたまりもありませぬ」
三成はハラハラしながら淀君の暴走を止める。
「それにこれだけの条件を突き付けてくるには我々が桔梗に託した一件を承知の事と思われます。ここは条件を呑むのが得策だと思われます」
三成に諭された淀君は歯を噛み鳴らして虚空を睨んだ。
「にっくきは桔梗よ。責め殺してやる」
淀君の怒り
翌日、桔梗、秀正、葵の三人は大坂城に戻ってきた。三人は二の丸の間で淀君と謁見した。
淀君は桔梗の顔を見付けると眉を吊り上げて桔梗を睨みつけた。
「よくぞ生きて戻ってきた。桔梗のお陰で豊臣家は多大なる出費をしたのだ。この恨みはただでは済まぬぞ」
「申し訳ありませぬ」
「詫びるなら裸になれ、そっちの娘。お前も裸になるのだ」
淀君の怒りは震えている葵にも向けられた。
「この者は関係在りませぬ。姉、楓の娘でございます。越中へお返しください」
楓の娘と聞くと淀君の顔がいくらか綻んだ。
「そうか、娘。年は幾つだ」
「17にございます」
葵は強大な権力をもつ淀君の怒りに恐れをなしている。
「お前も裸になるのだ」
「お方様。この者を嬲りぬくのはご容赦くださいませ」
今度は秀正が自分を遮ったのを見て淀君は驚いた。
「何故、この娘をそちは庇うのか」
「私の妹にございます」
淀君の瞳は大きく見開かれ秀正を見ていた。
「お前は珍呑丸なのか」
淀君も北庄にいた時、幼い珍呑丸をあやした事を覚えていた。
「お方様。お耳に入れたいことがございます」
素っ裸にされ後ろ手に縛り上げられている桔梗が必死に叫んだ。
「お方様。秀正にも葵にもお方様の折檻によって姉が命を絶ったとは申しておりません。秀正には豊臣家、家臣としての道をお与え下さいませ」
耳元に囁かれた淀君は大きく頷いた。
「今日のところは桔梗がどんな折檻に遭うか見ておれ」
葵にそう告げると淀君は縛り上げられた桔梗の方を向いた。そして、桔梗の優美な身体に鞭打たれた跡がいたるところにあるのに気が付いた。
「これはどうしたのだ?」
「浅野様に毎日のように折檻を受けました」
「く、無粋な奴」
淀君はその傷を跡を目にすると桔梗を痛ぶる気持ちが醒めたように口を開いた。
「桔梗、葵を牢に入れよ」
「お方様に申し上げます。葵の父は新乃助にございます。何卒、お目通りのほどを」
「何、楓と新乃助の間の子供だと申すのか」
引き立てられようとする桔梗が口にした言葉に淀君は驚きの声を上げた。
「葵はここに残れ、誰か新座をここへ」
桔梗が男たちに囲まれて出て行くと淀君は葵を呼び寄せた。
葵の姿には淀君は楓の事を思い出すのだった。しかし、それは暗い欲望を呼び起こす事になる。
「そちは男を知っているか?」
「はい。祝言を上げております」
葵は夫に抱かれた事が二度しか無かった。他の女の嫉妬が怖くて桔梗は夫に抱かれるのを嫌うようになり、夫もそれを許すようになっていた。
「そうか、その身体を見せてはくれまいか?」
葵は嫌がりもせずに着物をするりと脱いだ。痩せており、その乳や腰は未発達ながらいずれは大輪の花を咲かせる期待感のある肉体だった。
「ここに寝てみよ」
葵を仰臥させた淀君はその肌に触れて驚いた。その弾力のある触れ心地は若さのためだけではない何かが秘められていた。
「新座でございます。お呼びでございますか」
淀君の近くに膝を落とした新座は鼻を鳴らした。
「おや、また、裸の女がいますね。どうも桔梗とは違うようですね」
新乃助は盲目のためその他の感覚が鋭敏になっている。彼の鼻は若い女の臭いを嗅ぎ分けていた。
「そなたの娘が裸で横たわっている。触れてみるがよい」
娘がいると聞かされて新乃助は驚いた。それは彼にとって初耳であり、何より誰が母親なのかそれすら見当がつかなかったのだ。
「私には思い当たりませぬ」
「その娘に聞いて見よ」
新乃助は手探りで葵の柔らかな腰の辺りに手を触れさせた。
「娘さん。名は何と言う」
「葵と申します」
「母上の名は覚えているのか?」
「楓という名だと窺っております」
「年はいくつだ」
「17にございます」
新乃助は雷に打たれたような衝撃に見舞われた。あの時、たった一度の交わりでこの娘は生まれたのか。新乃助は家康と信長の前で姉、楓との屈辱的な交わりの中で生まれた娘を不憫に思っていた。
「おお、儂が父よ。儂に子供がいてこんなに大きくなっているとは夢にも思わなかった」
衝撃に打ち震える新乃助の目が開かぬ顔を葵はまじまじと見つめるのであった。
「お方様。この娘を一晩、我が家につれて帰ってはならないでしょうか?娘としみじみ話し合いたいと思います」
「ならぬ、そちの手管をその娘に発揮せよ」
淀君の言葉に新乃助は震え上がった。実の娘を辱しめろと命令しているのである。
「そ、それはご容赦を願います。娘と判っている女にそのような真似は出来ませぬ」
「ならばそちは用済みじゃ。二度と城に上がる事は許さぬ。大坂の町で路頭に迷うが良い」
「ああ」
淀君の返答に新乃助は悲嘆な声を上げた。市中で按摩を行うためには鑑札が必要だ。新乃助はそれを持っておらず、請願しても発行してくれる道理はなかった。
「父上」
淀君に難題を押し付けられ、悩んでいる新乃助に葵が口を開いた。
「私は17にございます。気にせず、私に情けをお与え下さい。赤の他人に手を下されるよりは楽にございます」
「ほほほ、娘の方が聞き分けが良い。新座、そちの手管で娘をいかせて見よ」
娘に諭され、淀君に脅された新乃助は心を鬼にする事にした。どうせこの目は見えぬ、ならば娘を優しく誘ってみようと決意したのであった。
「判りました。娘の身体をいたぶります」
新乃助が葵の滑らかな肌を優しく愛撫し始めると葵は目を閉ざした。辱しめられるという恐れも羞恥も葵にはなかった。長年夢にしか現れなかった父の優しさをその手に感じようとしていたのだ。
やがて、新乃助の手管に煽られ甘い身悶えを見せ始めた葵の姿を目にしながら、淀君はこの先、どのような形で桔梗と葵をいたぶるか想像を巡らすのであった。
淀君の決断
桔梗と葵は牢舎に素っ裸で監禁される事になった。秀正は相変わらず二人の世話係を続けていたがもう桔梗を辱しめるような真似はしなかった。
淀君は政務に忙しいらしく、牢舎に立ち寄る事も無く二人は安寧の日々を過ごしていた。大坂城内では一大事が勃発していた。毛利家の浅野義忠が淀君の前に平伏していたのだ。実は桔梗が家康暗殺の目的を持って越中まで赴いたのを毛利家の中元が徳川の中元に洩らしてしまい、家康の耳にそれが入り、次の大老会議でそれを持ち出し、豊臣家の懲罰を諮ろうとしているというのである。
淀君は三成と善後策を講じ、浅野に和解の仲介役を依頼しているところであった。
しかし、浅野の返事は芳しくなかった。
「されど家康殿のお怒りはことの他強く、事の次第をはっきりとせよと申しております。ただ、和解の会合だけではご納得戴けないかと」
「さすれば、いかにすれば良いと言うのじゃ」
「桔梗を引き出し、本人の口から私怨を述べさせ、お手討ちにするのが一番かと思います」
「桔梗を手討ちだと」
思いもかけぬ展開に淀君も気色ばんだ。
「加倉秀正については桔梗の親戚ゆえ、一緒にいたところを捕らえたがその秀正が豊臣の家臣ゆえ、間違って豊臣家が家康様暗殺を企んだと伝えられたと説明すれば宜しいかと思われます」
淀君は溜息を付いた。しかし、三成はこうなってくると毛利家に対して免除した課徴金が惜しくなってくる。
「桔梗を手討ちにするならば毛利家に対し課徴金、免除の件は白紙に戻してくれるか」
「はっ、それは」
浅野の表情は一気に曇った。よもや、三成がこんな話を持ち出してくるとは思いも寄らなかったからだ。
「今回の一件、徳川方に洩れたのはそちらの手落ちに違いあるまい」
確かにその通りである。しかし、自らの手腕にて課徴金を免除させた手柄が水泡に帰すのは耐えられなかった。
「は、半減にてご容赦戴けませんか」
「よし、そちも、此度の仲介の労もあろうからそれで手を打とうではないか」
三成は笑ったが、淀君は悔しげに歯を噛み鳴らしていた。
宣告
それから数日後、桔梗は淀君の前に引き出された。全裸の身体を縄に締め上げられ、淀君と三成の前に跪いた桔梗の縄尻を秀正が握っている。
「桔梗、傷の方は癒えたか?」
「大方、綺麗になりました」
「それは良かった。さて、明日、桔梗には宴席に出て貰わねばならぬ事になった」
「桔梗は淀君様の奴隷にこざいます。相判りました」
静かに平伏した桔梗に淀君は涙が溢れそうになる。しかし、こればかりは致し方なかった。
「明日、そちは伏見城に運ばれ、徳川家康殿の宴席に供される。その後、命を絶つ」
桔梗はうな垂れていた顔をはっと上げて、淀君を見た。秀正にも驚愕の表情が浮かんだ。
「わらわとて、桔梗を死なせたくはない。しかし、これは豊臣家にとって一大事なのじゃ。徳川方に今回の儀が洩れ伝わり、家康殿が激怒なされている。そこで桔梗の私怨にて家康殿暗殺を図った事にして豊臣家を救ってくれ」
悔しそうに言うと秀正が平伏して淀君を見上げた。
「お恐れながら、それがし桔梗に同道しております。徳川殿に申し開きは出来ないかと存知まする」
「そちと桔梗は縁戚関係じゃ。その辺心得て、明日は徳川殿の前で証言して欲しい」
「されど、伯母上を辱しめた上、命を絶つとはあまりにも無残にございます。何卒、お考え直しの程」
必死に哀願する秀正に淀君は胸が熱くなってくる。しかし、豊臣側から見せる誠意はこれ以外にはなかった。
「徳川殿のお心積もりでは処刑を免れる事も出来ようが、わらわの一存では出来かねる。どうか堪えてくれ」
桔梗は未練を振り切るように頬に縺れた髪を振り上げて淀君を見た。
「こちらに捕らわれた時から常に死は覚悟して参りました。豊臣家のためになるのなら喜んであの世へ旅立ちまする。秀正殿の事、今後もお引き立ての程、よろしくお願い申し上げます」
「相判った。桔梗、最後の願い、しかと聞き届けたぞ。明日は秀正との最後の間具合で女の喜びを噛み締め、冥土に行くが良い」
涙も見せず、堂々と淀君を見つめる桔梗に比して、秀正は激しく泣きじゃくっている。淀君はそんな二人をその場に残して立ち去った。
「伯母上」
牢に戻った桔梗を秀正はひっしと抱き締めた。
「逃げましょう。私は見過ごすわけには参りませぬ」
「なりませぬ。秀正殿はこの豊臣家で武将への道を進むのです」
「伯母上!」
自らの命より自分の将来を案じてくれている桔梗に秀正は胸が熱くなって、更にその裸体をきつく抱き寄せた。
「そして、出来るなら葵を守ってやりなさい。この豊臣家が傾くような時は二人で逃げなされ。それまでは豊臣家に尽くしなさい」
「承知いたしました。秀正、誓いまする」
二人はそこで激しく口を吸い合った。
「明日は情け容赦なく、私を辱しめなさい。淀君に疑心を抱かせてはなりませぬ。今宵はやさしく、この場にて情けを下さい」
秀正の逞しい胸板に顔を埋め、恥ずかしそうに囁く桔梗をいとおしく思った秀正は再び口を合わせるのだった。
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