月日流れて

月日は流れた。桔梗の行方は杳として知れなかった。そして、兵頭国右衛門と二人の従者は木の芽峠で津田信澄の配下の者に発見され、惨殺されてしまった。しかし、桔梗は同道しておらず、信長をじれったい思いにさせていた。
楓と新乃助は徹底した修行を受けさせられ、夫婦の交わりを人前で演じるまでに成長していた。信長も考え、二人が責めになれてしまうのを危具してひと月ごとに安寧の日々が送れるよう配慮していた。

その年の大晦日、安土に雪が降ったその日、信長が濃姫と共に楓屋敷を訪れた。
丁度この日は楓と新乃助の休養期間が終る日で国吉とお文もひと月ぶりに楓達の顔を見たばかりであった。
真冬だというのに一片の布も許さず厳しく縛り上げられた二人がはにかみの色を見せながら引き立てられて来たのを目にした信長はほくそ笑んだ。裸を見られるのを気にしなくなるほど羞恥心を麻痺させては信長の楽しみも薄れてしまう。
責められる二人にも苦痛を与えるためにも信長の考えは正しかったといえよう。

「楓、久し振りであった。身体の疲れも取れたであろう。これからは正月も控えておる。正月となれば、諸大名が安土を訪れるおり、こちらに立ち寄ることも多くなると思う。珍芸を披露し、新乃助と息のあった絡みを見せてくれ」
信長の前にしゃがみこんだ楓が哀愁を浮かべた横顔を見せて唇を噛み締めたままでいるのを見たお文が縄で締め上げられた乳房を弾いた、
「信長様の前で黙ってるなんて失礼じゃないか、何とかお言いよ」
お文にせかされて楓は涙の泌んだ瞳を信長に向けると哀節の声を上げた。
「お願い申し上げます。楓はどのような恥じにも耐えまする。しかしながら、新乃助は仮にも元領主の男子にございます。人前にてあのような見世物を演じるのはあまりにも無残にございます」
「ふむ、そうか。………。新乃助、お主、辛いか」
床柱に生れたままの姿を縄止めされている新乃助はさすがに答えに詰まっていた。女である姉を差し置いて、自分だけが楽をしようとする卑怯な考えを言葉にすることは出来なかった。

信長は二人が私生活でも契りを交わし、既に離れられない間柄であることを知っていた。そして、悪魔のような計画が信長の脳裏に湧上っていたのであった。
「相分かった。正月が過ぎたら新乃助は人前で楓と契らなくともよい。ところで楓、和子のできた兆しはないか」
「は、はい。まだそのような兆しはございませぬ」
「兵頭国右衛門の血筋を引くものじゃ、儂は期待しておる。一日も早く新乃助の子の顔を見せてくれ」
楓の心に妊娠の恐れはなかった。畜生腹といわれようとも新乃助の子を孕む事によって兵頭の血筋を守れるのならと悲壮な決意を固めていたのである。

「国吉、今日は毛剃りの日であったな」
「はい、休み開けでございますので二人揃って下の毛を剃りまする」
「早いとこ剃り上げてしまえ、儂も楓の身体で遊びがしたい」
信長の命令で国吉とお文が哀れな姉弟の毛剃りを準備に掛かりだすとそれまで黙っていた濃姫が口を寄せてきた。
「大殿。なぜ、新乃助を見世物にいたしませぬ。私はあの子が恥じらいながら啜り泣く姿が好きでございましたのに」
恨めしそうな顔で覗き込む濃姫に信長は含み笑いをしながら耳元に口を寄せた。
「案ずるな。嫌でも新乃助は見世物になると言い出すはずじゃ。筑前が正月の祝の品に堺で仕入れた黒人を連れてくるそうじゃ。奴は楓に掻かされた恥じの復讐のためにその黒人を楓と絡ませたいというてきた」
「まあ、黒人と」
「しっ、声が高い、心と身体で離れられなくなっている二人じゃ、楽しみだぞ」

悪夢のような相談を信長と濃姫がしているとも知らず楓は仕置台の上で薄く目を閉ざし、新乃助はお文に一物を弄ばれ、羞恥に顔を赤くさせていた。
「離せ、これ、離さぬか」
新乃助の振り絞るような悲鳴に楓が目を開くとお文が新乃助が無残にも屹立させたものをいたずら半分にしごいているところであった。
「お戯れはお止め下さい」
楓が慌てた声を掛けるとお文は自慢そうに握りしめたそれを揺さぶりながら意地悪い顔をになった。
「お前たち、姉弟のくせに毎晩交わってんだろう。それにしても、新乃助は元気がいいね」
「ああ、新乃助を許してくださいまし」
さらに揺り動かし、新乃助を追い込もうとするお文に楓は悲痛な叫びを上げた。
「おや、楓、妬いてんのかい。白状しろ」

楓が胸を抉るようなお文の悪態を受け、悔し涙に咽び始めると信長はお文に新乃助の痛ぶりを中止させた。
「こら、楓が泣いておるだろう。新乃助を離してやれ、お文、風呂場に火を付けてこい、それに硯箱を持て」
お文がようやっと新乃助から手を離し、楓がおとなしくなるとその下腹部に国吉が取り付いた。

墨と筆

お文が硯箱を手に戻ってみると、既に楓の下腹部の陰りは綺麗に剃り取られ、国吉は柱に縛りつけられている新乃助の毛剃りに取り掛っていた。
「まあ、奇麗になったじゃないかい。やっぱり、お前さんは剥き出しにしといたほうが似合ってるよ。可愛いね、こんなものまで覗かせて」
開股縛りされている楓の足の間に座ったお文が陰りを失った亀裂の影から覗く楓の陰核に手を触れてくると楓は辛そうに身体を震わせた。
「ああ、触らないでくださいまし、嫌」
「恥ずかしがることないじゃないか、前は平気だったろうに」
「辛ろうございます。何卒、御容赦を」

楓の必死に抵抗する姿を苦り切った顔でお文が見つめていると、硯箱を手にした信長が声を掛けた、
「楓が抵抗するのも無理からぬこと、しかし、それが新鮮でよい。恥ずかしさを覚えぬ女など面白くもない。そのへんで勘弁してやれ、お文は庭に出て雪礫を作れ」
お文を遠ざけさせた信長は含みのある笑いを浮かべて楓の傍らに腰を降ろした。
「楓、今日は大晦日じゃ、お主の身体を使って遊ばせてもらうぞ」
「な、何をなさいます」
「うん。見れば分かる」
信長が墨をたっぷり含ませた筆を楓の乳房に這わせるとその冷たさに楓は思わず悲鳴を上げた。
「冷たかったのか、楓。」
「真冬に裸でいる身にあまりにも無残でございます。どうか、御容赦を」
歯の根も合わぬほど寒さに震えている楓に信長は容赦なく墨を塗りたてて行く。

両の乳房から陰りを失った部分にまで白い楓の身体を墨で黒々と塗り上げた信長は濃姫を振り返った。
「濃、こんなところでよいか」
「あら、顔がさみしいございますね。髭を描いてやったらいかがでしょう。昔を忍んで武将のような立派な髭が似合いと思います」
寒さと屈辱に震える楓の顔に立派な髭が描き加えられると信長は国吉を呼び付けた。
「庭の柿の木に楓を縛りつけろ。雪礫をぶつけて、濃と戯れる」
雪の降っている真冬の庭に全裸で晒されると知った楓の頬は凍り付いたように蒼ざめるのであった。いかに哀願しようとて、受け入れられる訳のないことは楓が一番よく知っている。

何も身に着けない肌に刺すような痛みを感じる庭先に全裸の楓が連れ出されると赤い頬をして雪礫を固めていたお文がすっ頓狂な声を上げた。
「おや、肌にも顔にも化粧してもらったのかい、よく似合うよ」
楓の肌をどす黒く汚す墨を見て笑い転げるお文の吐く息も白くなっている。楓は雪の上を裸足で歩かされ、柿の木の幹に、国吉によって縛りつけられようとしていた。
「お文、御苦労であった。手が冷たいであろう。新乃助の肉棒をしごいて暖まるがよい。儂らは楓を的にして雪礫を当てるのだ」
楽しそうにお文が室内に消えると信長は雪礫を掴んで楓の方を向き直った。

全身に刺すような痛みに近い寒さを感じている楓は幹に縛りつけられ目を閉ざし真っ青になった唇をわなわな震わせている。
「えい」
信長が気合いもろとも投擲した雪礫は楓の腰の辺りに命中した。楓に言い知れぬ恐怖と痛みを与えた雪礫は墨の黒さも消し去っていた。
「濃、楓の身体から墨の黒さを拭い去るのだ。そちもやってみよ」
信長に促された濃姫が照れたような笑いを浮かべながら楓の前に立った。
しかし、濃姫の投じた雪礫は大きく弧を描き力無く楓の太腿をかすめただけだった。
「駄目じゃ、駄目じゃ。こう投げるのよ」
信長の第二投目は楓の右の乳房を直撃した。息が止まりそうな衝撃と凍えるばかりの寒さに身を震わせる楓は遂に哀願の声を洩らした。

「か、身体が千切れそうにございます。お止め下さいまし」
「黙れ」
返事のかわりに飛んできた三投目は楓の右頬を襲い雪礫の破片が楓の口にまで飛び込んできた。
雪の貼り付いた頬を歪め信長を恨めしそうに見つめる楓に、今度は遠くにいては当たらぬとばかりに手が届くところまでに近付いた濃姫の雪礫が襲い掛かった。
楓は涙さえも凍るのではないかと思われる寒さのなかで意識を失いかけていた。
悪鬼のような信長と濃姫は雪に濡れるのも厭わずにこの無残な遊びを一心に続けるのであった。

楓、信長を嫌う

しゃべる気力さえ失うほどに身体の芯まで冷え切った楓は国吉に風呂に入れてもらっても身体の震えは止まなかった。しかし、悪鬼のような信長はまだ楓を休ませようとはしなかった、
両手を縛られずに楓が連れ込まれた部屋には夜具か延べられており、傍らには手酌をしながら寝装束姿の信長が待ち構えていた、
「おお、きたか、ここに座れ」
いまだ震えの止まらない楓を信長の隣に座らせた国吉が部屋を出て行くと、信長はその白い肩に手を回してきた。
「震えておるのか、怖いのか楓」
「いえ、寒さのためにございます。風呂に入っただけでは納まりませぬ」
「酒を飲ませてやろう。暖まるぞ」

信長が含んだ酒を口移しに飲まそうと顔を近付けても楓は素直にされるがままになっている。信長が舌を絡ませてくると楓も大胆にそれに応え、二人は激しく舌を吸いあうのであった。
長い接吻からようやっと解放された楓は肩で息をしながら火照った頬を信長の胸に擦り寄せると囁くような声音で訴えるのであった。
「信長様。ここまで恥じを晒している楓をまだお憎みですか、今日の仕置きは身体にこたえております」
「楓を憎いと思う気持ちは今の儂にはない」
「ならば、あのような所業はお控なさってくださいまし」
凍り付くような恐怖が生々しい傷跡として楓の心に残っている。涙を泌ませて哀訴する楓を無視するかのように信長は楓の乳房を愛撫し始めた。

「ああ、嫌」
楓はむずかるように鼻を鳴らして、信長の腕を強く掴み拒否する姿勢を見せた。
「身体が冷え切っておろう、儂が暖めてやる」
「嫌にございます。今の私は新乃助の子を孕むのが務め、他の殿方の相手をする訳には行きませぬ」
真剣な眼差しで訴える楓を見て、信長は大声で笑い始めた。
「誰の子であろうと新乃助の子として育てれば良いものをそれほど真剣になることはあるまい」
「なりませぬ。楓の生きる望みにございます」
一糸纏わぬ姿で信長の前に平伏する楓のなだらかな背中が震えている。救出される望みもない楓にとって、たった一つの心の支えは新乃助の子を産み、兵頭の血筋を絶やさぬことだけであった。

「楓、面を上げ」
泣き濡れた楓が顔を上げると信長はその場に座り直した。
「楓、お主の父親は誰か茜から聞いたことはあるか」
「信長様の家臣の部下、大内喜多郎殿と伺っております」
「それは茜にも分からぬことなのよ。よく聞いておれ」
信長は遠い記憶をたどるように一言一言噛み締めながら茜の思い出を話し始めた。
「儂に捕らわれてた頃、茜は大内と夫婦になった。もちろん夫婦といっても茜を肉の修行を受けさせるための手管師の立場を利用してのものじゃった。その後に国吉やお文の父である木村惣平衛と茜は自らの父のあだ討ちを行ない破れ、惣平衛とも夫婦になった。して、その間、儂とも伽を重ねたのだ。ひょつとすると楓は儂の子かもしれぬ」

楓は母のたどった悲惨な運命を耳にして戦慄を覚えた。そして、父に捕らわれ、兄弟に辱めを受けているやも知れぬ我が身を哀れむのであった。
「構わぬであろう。儂の伽をせよ」
涙に咽ぶ楓の真情など無視するかのように信長は楓の腕を掴んだ。
「な、なりませぬ」
楓は精一杯の抵抗を見せ、信長の腕を振り解くと凄味のある目つきで薄笑いを浮かべる信長を睨みつけた。
「ならば信長様。口でご奉仕させていただきます。それでご容赦くださいませ」
「ならん」
楓の申し出を跳ねつけた信長は乳房に手を伸ばそうとした。
たまらない嫌悪感を覚えた楓はその腕を掴むと信長を投げ捨ててしまったのだ。座敷に転倒した信長は恨みの篭った目で楓を睨みつけた。

「何事でございますか」
物音に驚いた国吉と山沖が飛び込んで来ると烈火の如く怒った信長は足早に部屋を出て行ってしまう。
残された楓は詫びの言葉も言えずに信長が出て行ったことに言い知れぬ恐怖を覚えていた。

ボブ登場

年明けの行事を慌ただしく過ごした信長は四日になってようやっと楓屋敷を訪れることができた。その日、広間に集まった面々は信長と濃姫、楓に男の誇りを傷付けられたと思っている秀吉、そして、秀吉が堺から連れてきた柳庵斉という薬師と、その持ち物の黒人のボブが居並んでいた、
「柳庵斉とやら、ボブをいかようにして手に入れたのだ」
「はい。オランダ船乗りから買い求めましたボブともう一人の黒人の女を使い、男女の睦み合いを見世物としておりました。相方の黒人女が先般、客死し、途方に暮れておりましたところを秀吉様に暖かい御言葉を頂き、馳せ参じた次第にございます。ボブは日本語は全く解しませぬゆえ、私が通訳いたします」
「それでそちは女を仕込むことにも丈ていると聞くが」
「はい。女を色情狂に仕込む術は心得ておりまする」
「よし、今日よりそちはこの屋敷に住み込み、ボブと楓の夫婦生活を見守りながら、楓を色に狂う女に仕込んでくれ」

濁った目をして呆けたような表情をしているボブを目にした信長が濃姫と顔を見合わせて微笑むと襖が開かれ、国吉とお文が首をうなだれた哀れな全裸の姉弟を引き立ててきた。元旦より、宴会流れの客のために見世物を演じていた二人は疲れ果てていた。
見世物を演じるときは人肌を恋しくさせるため、水風呂に入れられた楓は唇を紫色にさせ、ぴったりと閉じあわせた太腿を震わせている。
新乃助を床柱に繋ぎ止めた国吉は楓を信長の面前に引き据えた。
楓は見知らぬ柳庵斉とボブを目にし恐怖に頬を引きつらせている。

「楓、新年の務め、誠に御苦労であった。働きに報いるためそちの望みを叶えてやることにした」
楓は信長の言葉に縋るような視線を向けた、しかし、内心では信長が途方もなく恐ろしいことを考えているようで心をおののかせていた。
「新乃助は本日より、宴席に出ずともよい。この黒人が宴席で楓の相手をする」
楓は見すぼらしい着物に身を包んだ目だけを光らせる長身のボブをはっきりと認めるとその恐怖にぴったりと閉じ合わせた膝頭を震わせるのであった、
「ふふふ、何を驚いておる。茜もエスパニア人と夫婦になった時期もあるのだ。ボブとて人間、案ずることはあるまい」
「信長様に申し上げます」

楓は蒼ざめた頬を震わせながら信長に必死の瞳を向けた。
「か、楓は新乃助の子を孕むことだけを希望に今日まで生きてまいりました。それなのにそのような異人と……」
「あはは、楓、儂の伽を嫌ったときに何といったか覚えておるか、この黒人の子供ならば肌色とか顔だちですぐにそれと分かるはず。案ずる必要はない」
信長に痛いところを付かれた楓は思わず唇を噛んでしまう、しかし、柱に縛り付けられ惨めな姿を晒している新乃助は悲痛な叫びを上げた。
「姉上をそんな黒人の慰み者にするな。私は宴席の晒し者にされてもよい」
楓が何か言おうとするのを制した信長は激しく身悶える新乃助の傍らに立った。
「新乃助。楓を黒人と契らせたくないか」
「信長様。あまりに無残でございます。私は進んで宴席で恥じを晒しまする」

必死に訴える新乃助に信長はさらに大きな罠を仕掛けてゆく、
「実は茜屋敷に男役を一人派遣せねばならぬことになった。信忠が所望していた女盗賊を家康殿が捕らえその女に肉の修行を受けさせたいといってきおった。新乃助がそれ程までに楓の事を思うならボブと勝負をせよ。勝ったほうが楓の夫となるのだ」
「まあ、殴り合いでもさせるのですか、それとも相撲でも」
濃姫が苦悩する楓を横目にそんなことを言うと信長は腕組をして自分の席に戻った。
「そうじゃ、怪我をするような真似はさせたくない、男同志だが、相嘗めで決着を付けさせたらどうだ」
「まあ。」
濃姫が目を剥いて驚くと同時に楓が信長ににじり寄った。
「し、新乃助にそのような真似はさせたくありませぬ、私を黒人と契らせてくださいまし」
目に涙を浮かべて、必死に訴える楓を無視するかのように信長はあまりの恐怖に頬を引きつらせている新乃助の方を向いた。
「新乃助、やるのか、やらぬのか」

返事をしない新乃助とは逆に事のなり行きを柳庵斉から聞いたボブはあっさりと承諾して立ち上がった。ボフは目の前で涙にくれる全裸の美女にすっかり心を奪われているのだ。
「ボブは承諾したぞ。新乃助が拒否するなら、茜屋敷に行くことになる、それでもよいのか」
信長の最後通告を耳にした新乃助は屈辱を飲み下すように唾を飲み込むと口を開くのであった。
「やらせてくださいまし。姉上を助けるためなら」
信長が満足そうにうなずくと楓の号泣の声が湧上った。そして、国吉が夜具をひき終えると新乃助とボブの対決の舞台は出来上がった。
「先に男の精を吐き出したほうが負けじゃ。勝てば楓と夫婦になれる。負けたものは茜屋敷に行ってもらう。よいな」

床柱より外された新乃助は後ろ手に縛られたまま夜具の上に突き転がされた。
「ああ、無残でございます。何卒、御容赦を」
信長の膝に抱き取られた楓は無駄と知りつつ悲しい哀願を繰り返す。
「たわ語を抜かすな。面白い見世物じゃ。見るがよい」
楓の訴えを無視するかのように信長は端正な顎に手を掛けると涙に潤んだ楓の瞳を立ち上がったボブの方に向けさせた。
「………」
既に全裸になったボブがそのあまりに巨大な肉塊を誇示しながら新乃助に近付くさまを目のあたりにした楓は驚きのあまり声も出もない。
「どうじゃ、儂を嘲笑った報いじゃ。あのくらいの大きさならば楓も満足じゃろう」
秀吉のからかいの言葉にも楓は反応を示さない。それほど、ボブの巨大な男根は楓の心を凍り付かせていた。
ボブは夜具の上に仰臥した新乃助に添い寝をするように横たわると嫌がる新乃助の首筋の辺りに舌を這わせ、力無く垂れたままの肉棒に手を延ばしてきた。
必死に身を捩じらせてボブの手を避けようとした新乃助であったが縛られている上、その馬鹿力には勝てず、むんずと握られてしまう。
「あああ」

屹立を示し始めたそれがボブの口にすっぽり埋め込まれると、新乃助は悲痛な声を上げ、真っ赤になった顔を打ち振りながら助けを求めるように楓を見つめるのであった。
「新乃助、早く、ボブの巨根を咥えぬとこの勝負、そちの負けじゃぞ」
信長に諭された新乃助が異臭を漂わせるボフの屹立に泣きながら唇を触れさせてゆくと楓はその光景を見るに忍びず、信長の胸に顔を埋めて泣きじゃくるのであった。
連日のように恥じを晒し合ってきた姉弟ではあったが、新乃助が自分のために黒人と相嘗めを演ずるまでに成り果てようとは楓にとっても信じられぬ思いだった。
消極的に舌を動かす新乃助と違い、両手で雁首を抑え、激しく吸い上げるボブの手管はやがて新乃助をのっぴきならない状況に追い込んで行く。

「ああ、やめろ、離せ、離さぬか」
限界が近付いた新乃助はボブから口を離すと、激しく全身をくねらせ、ボブの魔の手から逃れようとする。しかし、新乃助の腰をしっかり掴んでいるボブは一気に追い詰めようと、顔を激しく揺り動かす。
やがて、咽び泣きを始めた新乃助の身体からボブが口を離すと、その悲しい屹立は大きく脈打ち、男の精を噴き出していた、
「見ろ、楓、新乃助は破れたぞ」
信長にむりやり顔を向けさせられ、それを目撃した楓はあまりにも無残な弟の姿に声を詰まらせ、畳の上に身体を投げ出し、肩を震わせ嗚咽の声を上げる。
泣きじゃくる楓を打ち捨てて新乃助のそばに歩み寄った信長はその真っ赤になった顔を覗き込んだ。

「新乃助、お主の負けじゃ、楓はボブの妻とする。よいな」
「嫌じゃ、姉上は誰にも渡さぬ」
惨めな姿を晒している新乃助は精一杯の強がりを吐いた。しかし、僅かな反抗の態度まで信長は許すことはしない。
「新乃助、そんな姿で儂に意見するとは身の程をわきまえぬ奴、国吉、こ奴を庭の木に縛り付けて頭を冷やさしてやれ」
新乃助は国吉に立ち上がらせられると信長に食って掛かった、
「姉上をどこまで辱めれば気が済むのじゃ。お前は鬼だ」
「黙れ。こんなものをぶら下げて儂に意見するとは何事ぞ」
信長に股間を叩かれた新乃助は一気に怒りを爆発させた。

「お、おのれ」
鬼のような形相になった新乃助は信長を罵倒すると自由な足を跳ね上げ信長の脛を打ち払った。ぶざまに横転した信長に蹴りを入れる新乃助は秀吉とボブが抑えつけても跳ね除けるほど怒りに狂っていた。
信長は髪まで乱した姿で立ち上がるとボブにはがい締めにされている新乃助の頬に平手打ちを食わせた。
「儂を足蹴にするとは許してはおけぬ。首を跳ねてやる」
「今更、命乞いなどするものか、好きにするがいい」
「おやめくださいまし」
国吉が新乃助を庭に引き立てようとするのを後ろ手に縛り上げられた全裸の楓が遮った。

「私どもが今日までを恥じを晒して参りましたのは兵頭の血筋を絶やさぬ、それだけのため。新乃助の命だけは何卒」
自分の足下に跪き哀れっぽい瞳で訴えるように見つめる楓に背筋が寒くなるような妖艶さを感じた信長は思わず唾を飲み込んだ。
「今度ばかりは許すわけには行かぬ、元服して以来、儂を足蹴にしたものなぞおらぬのだから」
「楓はこれまで随分と織田家のために尽くして参りました。この身をいかにされようと厭いませぬ恨みませぬ何卒、新乃助をお助け下さいまし」
「姉者、命乞いは無用じゃ。新乃助を冥土に行かせてくださいまし」
激しく身悶える新乃助を殴って黙らせた信長は楓の顔を覗き込むように膝を折った。

「楓、何に代えても新乃助を救いたいか」
「はい。命まで差し出す所存にございます。」
楓は新乃助が助けられるなら命も惜しくなかった。兵頭の血筋を絶やさぬことに楓は
すべてを掛ける決意を固めていた。
「よかろう。それ程まで頼むなら新乃助の命は助けてやろう。しかし、楓にもそれ相応の覚悟を決めてもらはなくてはならぬ。柳庵斉」
「はい」
「今日これより楓の肉の修行を開始せよ。明日の夕まで国吉と交代で修行を続けよ。これだけのことを言ったからには音は上げぬと思うが、その時は新乃助を処刑すると脅せ、よいな」
「かしこまりました、柳庵斉、腕によりを掛けて楓を仕込みまする」
「儂は明日来るとする。秀吉は見物して留飲を下げるがよい」
信長が踵を返すと楓は柳庵斉とお文に引き起こされ、道場に歩まされてゆく。その背中に涙にくれる新乃助が国吉に縄尻を取られながら自分のために過酷な責めに遭わねばならぬ姉に慟哭の叫びを上げ続けていた。

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