信長、激怒す
その日の夕方、八代長衛を伴い楓屋敷を訪れた信長は床柱に縛り付けた丸裸の楓を肴に酒を汲み交わしあっていた。
「今日の修行はどんなことをしたのか」
そばに控ている国吉は信長に問われ得意そうな顔をして答えるのであった。
「本日は朝より、間具合の手ほどきを致しました。弟、新乃助と楓は晴れて夫婦になりました」
「そうか、楓、我が弟を向かい入れたときの気持ちはどんなもんじゃった」
「情けないやら、恥ずかしいやら胸が詰まりそうでございました」
全裸の身体を床柱に括りつけられている楓はおくれ毛をほつらせた頬を歪めてかすれた声を出した。早朝から肉の修行を続けさせられた楓は誰の目から見ても疲れ切っていた。
「何とも色っぼい風情でございますな」
八代は感嘆し、持参した風呂敷包みを国吉に手渡した。
「それは雨宮という、茜の色の軍師から貰い受けたものでござる」
「ほう、なんでございましょう」
国吉が包みを広げると、古びた竹でできた筒のようなものが姿を表わした。
「それは便秘がちな女に使うもので糞を強制的に垂れ流すものじゃ、後ろの弁を引き水と油を吸い込ませ、尻の穴に突き立てれば女は嫌でも糞を漏らすことになる。茜はそれをされることをいちばん嫌がったと覚えている。楓にも使って見てくれ」
話を聞いていた国吉は大きな声で笑い、それを楓の鼻先に突き付けた。
「楓、よかったのう。これからは見世物として、糞を盛り上げることを御見せできるぞ、次回の宴席で早速披露しようぞ」
憎悪の篭った瞳で一瞬竹筒を見た楓ではあったが、すぐさま悲しく目を伏せ、我が身を襲う悲しい定めを恨むかのように唾を飲み込んだ。
「さて、儂はそろそろ城に引き上げるぞ、八代の伽を楓にさせろ」
信長が部屋を出ようとすると慌てふためいた足音とともに山沖景吾が姿を現わした。
「どうした。山沖」
朝方、桔梗を茜の元に運ぶために安土を出立した山沖の姿をそこに見て信長は愕然とした。
「申し訳ありませぬ。桔梗を伊吹山中で何者かに奪われてしまいました」
「何、桔梗を奪われただと。馬鹿者」
信長の雷が頭上でさく裂することを予期していた山沖は身体を小さくしてそれを避けた。「賊は何人じゃ、どんな奴等じゃ」
「相手は三人で安土より我らのあとを付けてきたように思われます。大将格の人間は眼光鋭い男で、桔梗の事を存じていたようです」
「何、すると兵頭の民の残党だな、一人残らず始末した筈なのに手落ちがあったのか、うむ。」
床柱に縛りつけられたまま頭を垂れていた楓は桔梗が救出されたと聞いて顔に赤味が差したが、信長が思わず洩らした兵頭の民を根絶やしにしたという言葉に戦慄を覚えていた。やはり、信長は新乃助達を騙していた。楓の胸のうちは信長に対する怒りがじりじり込上がってきた。
腕組みをして考えていた信長ははたと手を打つと国吉の方に向き直った。
「新乃助を道場に連れてこい、この信長直々に詮議いたす。よくも、この信長をたぶらかしてくれたな思い知らせてやる」
烈火のごとく怒り始めた信長を見て、国吉はすぐさま座敷牢に走るのであった。
拷問責め
楓が信長に背を押され、山沖、八代とともに道場に入ると暗い蝋燭の炎の下で全裸の新乃助が丸太に国吉の手で太腿から足首にまでがっちり縄がけされたところであった。
「新乃助、よくもこの信長を笑い者にしてくれたな、礼を言うぞ」
乱れた髪を掴み、悪態を付く信長に新乃助のオロオロする心は隠せない。
「な、何のお話でございましょう」
「たわけ、兵頭国右衛門は生きておるだろう」
「信長様もご存知のはず、父、国右衛門は首になっております」
「黙れ。」
信長は終りまで言わせなかった。新乃助の頬を拳で殴り付けた信長は肩で息をしながら国吉に拷問を命じた。
「な、なにをする」
お文が新乃助の雁首を持ち上げ、国吉が身を沈めると新乃助は恐怖に引きつった声を出した。
「鍼を根元に差し込んでおったたせたままにしてやるのだ。」
「ぶ、無礼者」
いくら身悶えても、太腿にまで縄で柱に固定されている身、あがらいも虚しく新乃助の垂れ袋の付け根辺りに二本の鍼が深々と食い込んだ。
「あっあああ。」
痛さとともに急速に股間を襲い始めたやるせない感覚に新乃助は悲鳴を上げた。
「まあ、嫌だね、昼間散々姉さんに始末してもらったと思ったのにこんなにしちゃつてさ」
意志とは無関係に屹立を見せるそれをお文にはたかれた新乃助は人前もはばからず悔し泣きを始める。
「信長様。新乃助をお許しくださいませ」
頬を蒼ざめさせ、八代に乳房を間探られている楓は信長に哀訴した。
「何、夫婦の契りを交わしたとたん、新乃助に情を掛けるようになったか」
信長にからかわれた楓は唇を噛み下を向いてしまう。悔しげな楓を打ち捨てたまま信長は国吉の方に向き直った。
「国吉、それを差しているとどうなる」
「はい、ここに鍼を刺されますれば男はとめどなく涎を流し、しばらくは使い物にならぬ身体になってしまいます」
「ほーら、出てきたよ」
お文に亀頭を擦られた新乃助は泣き声を上げた。男の涎が糸を引くようにして土間に落下するのを目にした楓は八代の手を逃れると信長の前に土下座した、
「新乃助をお許しくださいませ、お腹立ちならこの楓を仕置きしてくださいまし」
縋るような目つきで自分を見上げる楓にふるい尽きたくなるような色気を感じた信長はこの楓も痛めつけてやりたい欲望に駆られ出した。
「新乃助、兵頭国右衛門は死んだとまだ強情を張るつもりか」
「我が父は兵頭の民を救うために自害した。それだけだ」
顔を真っ赤にさせ、振り絞るように叫んだ新乃助は両手が自由なら迷わずおのが一物を慰めたであろう。それほどやるせない感覚が下半身を襲っていた。
「国吉、楓を責めろ。姉が苦しむ姿を見れば新乃助の性根も代わろうぞ」
信長に命じられた国吉の手が楓の乳色に輝く肩に触れると素直に楓は立ち上がった。
しかし、生贄を仰臥させる修業台が打ち震える新乃助の真正面に据えられると凍り付いた表情を見せた。
「何を慌ててるんだい、自分から望んだことだろう」
お文に頬を突かれた楓は太腿を小刻みに震わせた。
「あー、新乃助の目の前にあからさまな姿を見せる事は御容赦くださいませ」
「二人、仲良く床入りした仲じゃないか、そんなもの見られるくらい気にしちゃ駄目さ」
お文に乳首を抓まれ、冷たく拒絶された楓は悲しげに顔を伏せてしまう。
台に載せられた楓は垂れ下がる鎖に国吉の手が掛かると楓は狂ったように暴れ始めた。
「嫌、嫌にございます」
涙の粒を振り撒きながら必死に身悶える楓の頬をお文は力一杯叩いた。
「素直になったと思ったら、又、暴れるなんて、私たちに恥じを掻かすつもりかい」
「弟の前で恥じを掻かされるのは嫌にございます」
一向におとなしくならない楓に業を煮やした信長は新乃助の傍らに立った。
「見てみろ楓、おとなしく仕置きを受けぬのなら新乃助を斬る」
新乃助の目前で信長が刀を抜いているのを目にすると楓は抵抗を諦め、冷たい修業台に大粒の涙をこぼしながら鳴咽の声を洩らす。
「ばか」
お文に再び頬を張られた楓が身体から力を抜くと、国吉が二本の鎖に楓の細く締まった足首を固定した.
国吉が壁際の滑車を廻すと楓の両足は天に向かって突き上げ、その優美な二肢は左右に割るように吊り上がるのであった。
浮き上がった双臀の下に木枕を嵌込まれると、楓は火を押しつけられたように激しく泣き出した。仏をも恐れぬあさましい姿を弟の眼前に露呈した楓の胸の中は張り裂けるばかりに悲しみに溢れていた。
泣きじゃくる楓を尻目にお文は燭台を枕に載せ上げられている双臀に近付け、楓の羞恥心を一層煽ると、青筋を浮き立たせている新乃助の屹立をむんずと掴んだ。
「目をつぶっていちゃ失礼じゃないか、姉さんが折角、恥じを晒してお前さんに女の身体の仕組を教えようとしてるんだよ」
新乃助は泣き濡れた瞳を開いたが、やはり目の前に繰り広げられている姉の羞恥図を正視できず、下を向いてしまう。しかし、お文が意地悪く屹立を揺さぶり、痛烈な痛みを与えると諦めたように姉のあさましい姿に悲しい視線を向けた。
国吉はいまだ泣き止まぬ楓の顎を掴み、さらに屈辱の烙印を押そうとする。
「楓、新乃助の前にとんでもない姿を晒しているのだ、ひとつ呼び名を教えてやろうではないか」
「言えませぬ。ああ、お許しを」
「言えぬといっても堂々と弟の前に晒しているのだ。無理にでも言ってもらわねばならぬ。鍼を差し込み、灸を据えて口を軽くしてやろうか」
「ああ、そればかりは何卒、御容赦を」
頭を激しく振って楓は哀願した。鍼灸責めの恐怖は楓の心を震え上がらせるのに十分だった。
楓が観念したと見て取った国吉は吊り上げられている楓の足の間から襞をくつろぐと恥ずかしそうに覗かせている陰核を針の先で突いた。
「ここは何というところだ弟に呼び名をやさしく教えてやれ」
追い詰められ、辱められ、反抗する気力さえ失われている楓はしゃくりあげながら屈辱の呼び名を口にしなくてはならなかった。
「そ、そこは楓のおさねです」
「ばか、そんな色気のない教え方でどうする。弟が肉棒をはちきれんばかりにして見つめているのだ、弟の顔を見て、そこを触られたらどんな気分になるのか教えてやれ」
国吉に平手で双臀を叩かれた楓は涙を飲み込んで無残な晒し者になっている新乃助に語り掛けるのであった。
「新乃助、そこは楓のおさね。よ、よく見るのです。私はそこを触られるととてもいい気持ちになるのです。あなたも私の夫となったからには覚えておいで下さいまし」
ようやっと言い終えた楓が顔を横に伏せ、シクシク啜り上げる。しかし、国吉は不敵な微笑みを浮かべると楓の陰核の下にある小さな穴の中に針をもぐらせた。
「ここの穴は何のためにあるのじゃ、弟に教えてやれ、。」
「そ、そこは楓が小用をするときの穴なのです。新乃助、御覧なさい」
次々と恥ずかしい言葉を震えながら口にする楓を見て、新乃助の心のなかは姉に対するすまない気持ちでいっぱいになっていた。(姉の今の気持ちは辛いとか、恥ずかしいとかで表現できる生易しいものではない)
新乃助はこの時、生きていることを本当に心から後悔していた。
恥ずかしい言葉を口にするという精神的拷問をようやく終えた楓が涙に咽びながら打ちひしがれているのを横目に満足そうな笑みを浮かべた信長は再び、相変わらず針を打ち込まれたままの新乃助の傍らに立った。
「新乃助、いい加減に白状せぬか。楓をもっと辛い思いに追い込むつもりか、兵頭の民を皆殺しにしてもよいのか」
「騙されてはなりませぬ新乃助、兵頭の民は既に皆殺しになっています」
打ちひしがれているとばかり思っていた楓が必死の叫びを上げたとたん信長の顔に狼狽が走り、新乃助の顔に怒りが甦ってきた。
「お、おのれ、信長、よくも騙したな」
怒りに狂った新乃助は発作的に信長の顔を目がけて唾を吐いた。
「信長様に向かって何をするんだ」
お文が赤紫色に変色している屹立を揺さぶっても新乃助の怒りは止まない。自分を辱めるために甘言を弄して捕らえた信長に腹を立てているのだった。
「こ、殺してやる。信長、殺してやる」
「黙れ」
新乃助の頬を拳で殴り付けた信長は国吉に言葉を荒げた。
「国吉、楓を責めろ。新乃助、楓を救えるのはお前が白状することだけだぞ」
「新乃助、負けてはなりませぬ」
楓からは新乃助に対し、叱咤の声が飛ぶ、哀れな姉弟はいかなる犠牲を払っても兵頭国右衛門の存命を隠す覚悟だった。
極限の羞恥図
母屋から戻ってきた国吉は大皿を楓の横に置くと竹筒を見せびらかせた。
「楓、今度は、弟の目の前でこの皿の上に糞を盛り上げるのだ。覚悟しておれ」
その言葉を耳にした楓はうろたえを見せ、哀願の声を洩らした。
「そ、そればかりは。ああ」
「ならば、弟に白状するよう頼むのじゃ。嫌なら諦めることだ」
(弟の目の前にそんな姿まで……)楓は全身に粟粒の生じるような戦慄を覚えていた。しかし、楓の口から新乃助に白状を強いることはできなかった。
台の上に座り、堂々と晒している楓の双臀の前に陣取った国吉はそのしなやかに伸び切った太腿を撫でさすり始めた。
「案ずることはない、儂の手裁きで夢見心地にさせてから竹筒を使ってやる。山沖殿、八代殿、楓の乳を揉んで下され。」
二人の男の手が楓の乳房に掛かり、国吉が本格的に愛撫を開始すると楓は深い溜息を付き、すべてを諦めたように目を閉ざした。
「止めろ。姉から手を離せ」
楓が暴虐の嵐に再び蹂躙されると知って新乃助は悲痛な叫びを上げた。
「うるさいよ。静かにおし、こんなところ突っ張らせて、生意気な口利くんじゃないよ。こうしてやろうか」
新乃助の頬を叩いたお文がまたもや硬直させている物を鷲掴みにして強引にしごくと新乃助の顔は悲しく歪み始めた。
「ほら、また、涎を垂らしてるよ」
お文にしごかれ、新乃助の愛液が糸を引いて落下するのと合わすかのように涙が一筋真っ赤になった新乃助の頬を伝わった。
三人の男たちに愛撫され、楓の身悶えが露わになると国吉はたっぷりと容液を含んだ竹筒を取り上げ、楓に悟られぬようにその部分にあてがった。
「あっ、嫌」
楓がうっとり閉ざしていた目を見開き、拗ねるように双臀を揺さぶっても既にその先端は深々と楓の秘密の肉層に突き刺さっていた。
「諦めよ」
国吉が血走った目つきになり、一気に弁を押し込むと楓はそのおぞましい感触に全身を震わせ、引きつった叫びを上げた。
「どんな気持ちじゃ楓、何とか言ってみろ」
乳房を痛ぶっている八代に顎を弾かれても、楓は顔を横に伏せて、泣きじゃくるだけであった。その楓の表情が驚愕に歪んだ。再び、その部分に先端が埋め込まれたのだ。
「もう、嫌にございます、ああ」
「儂が直々にするのじゃ、心して受け止めよ」
信長が妖気に憑かれたような表情になり弁を押し始めると、楓は豊かな胸を波打たせてくっきりとおとがいを見せた。その部分から生じる痺れにも似た感覚が先程までの愛撫と呼応して、楓に例えようのない快感を与え始めたのだ。
身も心も粉々に砕け散るような責め苦の連続のなかで楓は甘い感覚を味わい、慌てた気分になった。しかし、それはやがて排便の恐怖となり、楓の心を容赦なく押し潰す。
続けざまにおぞましい容液を体内に含まされ、急速に込み上げてきた便意と激しく戦い始めた楓の双臀の前に淫猥な笑みを浮かべたお文が近寄った。
「楓、早く弟に頼まないとここを膨らませてとんでもない姿を晒すことになるよ」
お文に微妙な震えを見せ始めた菊座を強く押された楓は喉笛が掻き切れたような声を出した。
「ああ、触らないでくださいまし。ひどい、ひどい」
狂ったように頭を振る楓を横目に国吉は新乃助の前に身を屈めて、垂れ袋を突き刺している鍼を抜いた。
「これ以上、続けると子種が途切れるから抜いてやる。姉の苦しみようを見てみろ。強情を張らず、早く白状したほうがよいぞ」
新乃助の脳裏には昨晩、楓と誓いあった父の死はひた隠すという約束がよぎっていた。
無論、目の前で繰り広げられている楓の苦しみに咽ぶ姿は見るに忍びない。幼い頃から楓に躾られた新乃助はせめて楓の口から頼まれでもしないかぎり父の生存を信長に告げる事はできなかった。
「信長様。お願いでございます。楓を厠に連れていってくださいまし。このような姿を弟の前に晒すことなぞ、楓、到底耐えられませぬ」
女っぽく涙を流しながら哀願する楓の姿に情欲の芯を疼かせた信長は楓の屈辱に震える乳頭を抓みあげた。
「楓、儂に頼んでも無駄じゃ、新乃助に頼め、新乃助が兵頭国右衛門の行方さえ話せば厠に行かしてやるぞ」
涙に濡れた頬を信長に拭われると楓はより一層、涙に咽んだ。楓の気位は弟と交わした約束を自からの口から破るほど崩壊をしてはいなかったのだ、
後ろ手に縛り上げられた上半身をのたうたせ、吊り上げられている下半身を悶えさせて便意を必死で堪えていた楓にも極限の状態が近付いていた。
「さあ、これでいつでも始めてよいぞ」
大皿を苦しげに揺れ動く楓の双臀の前に配置した国吉は激しい息遣いに収縮する楓の縦長の臍を面白そうに弾いた。
光を失った瞳を開いて極限の羞恥図を晒す覚悟を固めた楓は鍼を抜かれても相変わらず無残な屹立を晒している新乃助に声を掛けた。
「ああ、姉さんを笑わないでおくれ、ああ、新乃助だけには見られたくなかった」
諦めたような口調で語り終えた楓が顔を横に伏せ、しゃくりあげ始めると新乃助の心のなかにすべてを捨ててもこの惨めな姉を救いたいという気持ちが突風のように巻き起こってきた。
「信長様に申し上げます。父、兵頭国右衛門は生きております」
「何、それで国右衛門はいずこに」
「存知ませぬ。そ、それより姉を」
新乃助が遂に白状した事を耳にした楓は全身の血が一気に吸い取られるような驚愕に見舞われた。そして、その衝撃は今まで堪えに堪えていた緊張を一気に緩める油断を与えるのに十分だった。
「あ、ああ」
悲しい叫びを上げて、楓の吊り上げられている太腿が痙攣した、
「あはは。もうちょっと我慢すれば、厠に行かせてもらえたのに」
お文に双臀を叩かれた楓は泣き喚きながら大皿の上に、続々と恥辱の塊を盛り上げて行く。自分の決意がわずかに遅れたために、姉にたとえようもない屈辱を味合わせてしまった新乃助は心のなかで楓に詫びながら号泣の声を放っている。
遂に、抑えが利かなくなった楓がお文に罵られ放尿する姿まで露呈すると、信長はうんざりしたような顔になり、吐き捨てるような声を放った。
「どこまで恥じ晒しの女だ。山沖、来い、話がある」
涙に咽ぶ、あまりにも悲惨な姉弟を打ち捨てるかのように信長と山沖は肉の道場を後にするのだった。
明智光秀、小牧に行く
翌日の昼過ぎに、小牧山にある勢津姫の屋敷を不意に明智光秀が訪れた。
所用のために尾張を訪ねていた光秀の元に信長の命令が下り、安土に戻る途中に勢津姫の元を訪れたのであった。
「これは光秀殿。今日は何か面白い話でもあるのか」
「は、これは大殿に固く口止めされていることにございますが、どうにも光秀には我慢が成らず、市様に申し上げます。ご嫡男、万福丸様は三日前、安土にて人知れず処刑されましてございます」
「何、万福丸が……」
勢津姫の顔色が真っ青になるのが光秀にも分かった。覚悟していたこととはいえ、母にも見取られることなく冥土に旅立った幼い我が子が勢津姫には不憫であった。
泌み出た涙を袂で拭った勢津姫は光秀に深々と頭を下げた。
「よくぞ教えていただきました。市、礼を言います。それで、あの楓とかいうおなごはどうしておる」
万福丸のために自害できなかった楓の事が勢津姫も気に掛かっていた。
「相変わらず信長様のために恥じを晒しております。それどころか、兵頭砦を攻め落したおり、楓の弟と妹も生け捕りにし楓と同じように痛ぶるつもりとお見受けいたしました」
「何、楓一人では飽きたらず、弟妹までもか」
「はい、砦の中の民を助けると甘言を使い、二人を誘い出したあとに焼き打ちに致しました。近頃の大殿様の鬼畜にも勝る所業、この光秀にはまったくもって理解できませぬ」
言葉のはしはしに光秀の信長に対する憎しみを感じ取った勢津姫は思い切ってある計画を打ち明ける決意を固めた。
「光秀殿、兄者を討って下さらんか」
光秀は我が耳を疑った。勢津姫を信長の妹、市姫と思い込んでいる光秀にとっては無理からぬことであった。
「大殿を殺すのでございますか」
「そうじゃ、柴田殿は私が抑える、怖いのは秀吉だけ。そなただけが頼りだ」
さらりと言い放つ勢津姫を目にして光秀は背筋が凍る思いを味わっていた。
「出来ることなら、この光秀、我が手で大殿の命を頂戴したいと思います。しかし、私めの今の力ではそれは到底無理でございます」
「そうか、無理か」
勢津姫は肩を落として落胆した。その姿を見て、光秀はいつの日か信長をと心に誓うのであった。
「それはそうと楓の妹は小牧に連れてこられる途中に何者かに強奪された由にございます。それで光秀は近江国境の警備に付くために安土に戻る途中にございます」
その話を聞いた勢津姫の頬に赤味が甦り、思わず膝を進めるのであった。
「光秀殿、その楓の妹をもし見つけたならかくまってはくださらんか。十四になったばかりのおなごの身にあの仕打はあまりに無残すぎる」
勢津姫は遠い昔、自分が受けた辱めを思い出していた。
「しかし、もし大殿の耳に入りますれば私は無事ではいられませぬ」
「それを承知で頼んでいるのじゃ。この通りじゃ」
自分の膝に取り縋らんばかりに涙を流し哀訴する勢津姫の姿に光秀は心を打たれ、この人のためなら命を掛けてもと男の決意を示すのであった。