罠に嵌る弘美
栗山の結婚パーティは一階のリビングで開かれていた。豪華な料理を前に三枝と大野は上機嫌にグラスを空けている。奴隷たちも前手錠を掛けられた姿でパーティに参加していた。
地下に居る時はサンドイッチか握り飯しか与えられていない育ち盛りの娘たちは旺盛な食欲を発揮していたが相変わらず後手錠の刑を受けている留美はご馳走を口にすることが出来ずに部屋の片隅で項垂れたまま座っていた。
「おや、皆、冷たいね。何も食べさせてもらってないのかい」
めざとくその姿を見つけた由里は料理を皿に盛ると床の上に置いた。
「さあ、食べなよ」
由里に言われた留美は恨めしそうな顔で自分を見つめる小憎らしい顔を見上げる。
「手は使えなくたって口は使えるんだから犬みたいに食べなよ」
勝ち誇ったように自分を見下ろす由里に留美は思わず敵意の篭った視線を送った。
いきなり由里の平手打ちが留美の頬を襲った。
「なんだよ。その生意気な目は?あんたはは奴隷なんだから言われた通りに食えばいいのさ」
テーブルの周囲に陣取る奴隷たちの視線が一斉に留美に注がれた。しかし、由里の暴走を止めるものは居ない。皆、とばっちりを受けるのを恐れて押し黙ったまま食事を続けている。
「食べないのなら片付けるよ」
由里の脅しに屈した留美は腹這いになると料理を口に含んだ。
「あははは、留美姉さんも犬みたいに食事をするしかないんだ」
由里の言葉を聞いても留美は口を動かしだけであった。
良美は一人だけ全裸なのが恥ずかしくて壁際に一人で食事をしていた。隣に絵里が腰を下ろすと小声で話しかけてきた。
「あなたたちは栗山さんに誘拐されたのね?」
「ええ、栗山さんの手引きで・・・」
良美は悔しそうに顔を伏せた。絵里は何か情報を聞き出したいらしく盛んに話し掛ける。
「私たちは女子高生失踪事件の当事者なのよ」
絵里の告白を耳にした良美は驚いたような顔をした。二ヶ月前、世間の耳目を集めた事件だったからだ。その当事者がこんな場所に幽閉され、自分もその仲間に加わったことに良美は暗い気持ちになったのだ。
「私たち、どうなるの?」
良美がいつも祐子にする同じ質問をすると絵里は力無く首を振った。
「判らないの。判らないけど私は諦めていないのよ」
流されるだけの運命は御免だとばかりに絵里は唇を結んだ。良美にとってそれは心強い存在に写ったに違いなかった。
「おお、新郎、新婦のご登場だ」
大野が手を叩いて二人の入場を囃し立てる。
栗山はラフな姿に戻り、祐子は首を嵌められ褌一枚の裸体で従っていた。
「さっそく調教をしてるのかね」
ソファに座った栗山に従うように床に膝を付いた祐子を目にして大野はニンマリとした笑いを浮かべた。大野は由希を隣に座らせて乳房の感触を楽しみながら水割りを嘗めている。
「ええ、これから初夜ですからね。僕の妻としての躾をしています」
衆目の中でフェラチオ排便という屈辱を味わった祐子は虚ろな目を床に落としている。あの後ね風呂に入れられ身体の汚れを落した祐子は心身とも身体が疲れきっていた。こんな多くの人々の前にいることさえ苦痛を感じる祐子は折檻部屋に戻って眠りたいと思っていた。
「旨い。これが食べたかったんですよ」
栗山は子豚の腿を取ってくるとそれを一口齧って溜息を付くように言うと祐子の目の前にそれを突き出した。
「お前も食べてみなさい」
祐子は食べたくなかったがへたに拒否して栗山の機嫌損ねてはと懸念し、僅かにそれに口を付けただけだった。
栗山は祐子の鎖を大野に預けると黙々と口を動かしている弘美の傍らに寄った。
「弘美ちゃん。ちよっといいかな?」
自分の処女を無理矢理奪った憎い男に話しかけられ弘美は頑なな表情を見せて壁際に寄った。さすがに恥ずかしいのだろう手錠を掛けられた両腕を胸の前で合わせ、小さい乳房を何とか隠そうとしている。そんな初々しい態度が栗山の欲望をそそるのであった。
「気に入ってくれたかな?そのパンツ」
栗山がリボンの付いたパンティを指して言うと弘美は頬を染めて頷いた。全裸でいるより何倍かも弘美にとってはましなのである。気に入らないはずは無かった。
「弘美ちゃんのお母さんって幾つなの?」
「三十八歳です」
弘美は何で母の年令を聞くのだろうと訝しげな表情を見せて栗山を見ている。
「テレビでインタビューを受けているのを見てね。とても綺麗な人だと思ってね」
栗山は意味有り気な笑みを浮かべて弘美の怯えたような目を覗き込んだ。
「お母さんに会いたいでしょう?会わせてあげようか?」
弘美の表情はますます困惑した。栗山の言っている意味を理解できないのだ。
「どういう意味ですか?」
「お母さんをここに連れてきたら楽しいかと思ってね」
弘美の顔面から血の気が引いた。栗山は自分の母までも地獄に落そうとしているのだ。弘美は栗山の胸に顔を埋めると精一杯の哀願の声を洩らす。
「お願いです。母までこんな目に遭わすのは止めて下さい。何でもしますから」
涙まで浮かべて哀願する弘美の姿を目にした栗山の悪魔の炎は更に激しく燃え盛って来た。
「明日、僕とデートしてくれる?」
「します。何でもしますから。母を誘拐するなんて事はしないで下さい」
「でも、僕の一存では決められないからな。君が僕の言う事を何でも聞いてくれたら僕から三枝さんにお願いしてあげるよ」
「お願いします。私は何をされても構いません」
健気にも母を守るために弘美は自分が犠牲になることを決意したのだった。
この話はテレビで弘美の母の美しさを見た栗山が即興で打った芝居であった。弘美をこうまで追い詰め、自分の言うことを聞かせる手立てに役立つとは思いも寄らなかったのである。
栗山の初夜
「あははは、そうか、それはうまい手を考えましたね」
モニタールームで栗山のアイデアを聞いた三枝は大笑いをしていた。
「しかし、新婚のあんたがさっそく浮気とは祐子も可哀想ですな」
三枝にからかわれて栗山はにやりと笑った。
「まあ、今晩、弘美は小さな胸を震わせているでしょうね」
栗山に言われて三枝は地下室のカメラを弘美に合わせた。
弘美は目を閉じて冷たい床の上に横たわっていた。どこかしら頬が震えているように見えた。
「しかし、弘美の母親っていうのはそんな美人なんですか?」
三枝が興味を持ってきたので栗山はポケットから写真を取り出した。それを目にした三枝は深い溜息を付いた。
ビデオからプリントアウトしたものだから画像を良くないが着物をきりっと着こなした目元のパッチリとした美女が悲しみの色を浮かべていた。
「これじゃ、三十前だと言っても通りますね。とてもあんな大きな娘が居るように見えませんわ」
三枝はしばらく写真を見てから口を開いた。
「栗山さんのアイデアをそっくり戴いて宜しいですか?」
「え、彼女を誘拐するんですか?」
「こうなってくると贅沢になってくるんです。年増女も一人くらい加えたいと思ってます」
三枝がまた危険を冒そうとしていることに栗山は驚きを隠せなかった。栗山が弘美を脅かすために用いた手段が現実となるかもしれない。弘美にとっては泣いても泣ききれぬ事態になる可能性があった。しかし、二人の悪魔はこの新たな計画を練るために額をつき合わせているのだった。
祐子は栗山の部屋で待たされていた。結婚式からくたくたにされた祐子は少し気持に余裕を持ち始めていた。
最早、栗山に抱かれる事に恐れは無かった。良美の貞操だけは何としても守るために栗山に懇願してでも頼むつもりだった。
「やあ、待たせたね」
酒の酔いに目の周りを赤くした栗山が姿を現すと祐子は縛り上げられた裸体を思わず捻ってしまう。
「のっけから嫌われては叶わないね。僕の妻なんだから笑顔で迎えてくれよ」
栗山は愚痴のような言葉を吐くと祐子の正面に廻りその顔を覗きこんだ。
祐子は暫く瞑目して何かを考えていたが決意を固めるとそっと憂いの篭る瞳を開いた。
「栗山さんが私を愛してくれるのですね。ならば私はあなたの妻になります」
「よく、言ってくれた。祐子」
いきなり栗山が唇を求めてきたのを祐子は避けると次の言葉を続けた。
「妻ならば妻らしく扱って下さい。これではまるで奴隷ではありませんか?」
涙を滲ませて訴える祐子を見て栗山は苦笑いを浮かべた。
「さっそく妻の権利を主張するのか?それは出来ない。君が心底、僕に惚れるなら由里みたいな準奴隷にすることも可能だが」
「もう、覚悟しました。あなたに縋るしか有りません」
祐子は真剣な表情で栗山を見つめて決意を語った。しかし、栗山は動じなかった。
「それはいい心掛けだ。暫くはこのまま辛抱してくれよ。いいだろう?」
栗山は顔を近づけ、囁くような声音で祐子に言うと唇を合わせた。祐子も差し入れてきた栗山の舌を優しく愛撫する。なんとしても良美のことを約束させたい祐子は必死に媚態を演じていた。
熱い口付けを交わした後で息を弾ませている祐子は頬を擦り合わせるようにして鼻を鳴らした。
「お願い。何でもあなたの言うとおりにします。あなたの気に入られる女になるよう努力します。ですから、良美さんだけはあのまま静かにさせておいて欲しいの」
「ふーむ。妹、思いなんだね」
栗山の瞳が残酷そうに光り輝いたのを祐子は知らなかった。栗山は頭の中で再び祐子を追い詰める算段を考え始めたらしい。
「でも、彼女の管理は三枝さんに一任されている。僕の一存ではどうにもならない」
「なら、お願い。三枝さんにお願いして。じゃないと、私、私・・・」
祐子は栗山の胸に縋って泣き声を上げ始めた。栗山はそんな祐子の姿をいとおしむように見つめながら髪の毛を弄んでいる。
「何でも僕の言うとおりにするんだね」
「ええ、するわ」
涙に濡れた瞳を開いて祐子がはっきりと頷くと栗山は彼女の肩を抱いて立ち上がらせた。
「君が僕を嫌いになったのは何故?」
栗山は昔のことを思い出させて祐子を言葉でいたぶろうと考えていたのだ。案の定、祐子は羞恥に頬を赤らめ、苦悶し始める。
「そ、それはあなたが私のおしっこをする姿を見たいなんて言うから・・・」
「今は平気なんだろう。あれだけ僕への愛と忠誠を誓ったんだから」
「ええ、平気だわ」
祐子がこっくりと頷くと栗山はその柔らかな肩を押した。
「じゃあ、見せて貰おうか」
トイレに導かれた祐子は栗山の手で褌を剥ぎ取られると洋式の便座に腰掛けようとした。
「そのままじゃ、つまらないだろう。僕に良く見えるような格好でしてくれよ」
5年前の出来事を思い出しながら栗山笑みを浮かべて便座を跳ね上げた。
「その上に乗っかっておしっこをしてくれ」
祐子の頬に赤みが刺した。栗山の考えたポーズが屈辱的なので逡巡しているのだ。
「どうした?出来ないのか。言葉では僕のものになるなんて言いながら心のどこかでは旦那のことを忘れられないんだろう」
「ち、違うわ」
強い口調で突っ込まれた祐子は思わず大きな声で否定した。実際、夫のことは頭に無かった。栗山に気に入られない限り、この地獄のような生活を抜け出すことは出来ないと祐子は気持に整理を付けていたのだ。
「は、恥ずかしいから・・・」
耳まで赤く染めて羞恥に悶える様を見せた祐子を栗山は思わず抱きしめたくなった。しかし、そんな態度はおくびにも出さず栗山は便器の前に胡坐を掻くと羞恥に震える祐子を見上げる。
「もう、夫婦なんだからそんなことで恥ずかしがってちゃ話にならないよ。さあ、早く乗って」
「そうね。私もどうかしてたわ」
踏ん切りを付けた祐子は怯える心を叱咤して、便器の上に跨った。
栗山の前にあからさまに羞恥の姿を露呈することに女の本能が拒否反応を示していた。しかし、踏ん張る両足はガクガクと震え、その頬は燃え上がるほど赤く色付いている。
「駄目だよ。目なんか閉じては。僕に見られるのが嬉しくなるくらいにして貰わないと」
栗山の抗議で目を開いた祐子に自分の股間を覗き込む栗山の姿が飛び込んできた。
(こんな男の言いなりになるなんて)
祐子は喉元まで込み上がってきた嫌悪の感情を押さえ込むと大きく息を吐いた。
「さあ、始めてくれ」
栗山は上ずった声で命令した。5年前、自分を罵倒し、目の前から姿を消した女が今、大股を開いている。栗山は心の中で喝采を叫んでいる。言葉ではいたぶっていてもそれが彼の愛情表現なのだ。
祐子は唇を固く結び身体を震えを収めるように大きく深呼吸すると放水を開始した。
「駄目だよ。震えちゃ」
ガタガタと腰を揺らし始めた祐子の膝頭を抑え付けながら便器に飛び散る飛沫に目を凝らすのであった。
「それにしても夢のようだ。こうやって君のおしっこする姿を間近で見れるなんて」
感慨深げに語った栗山の言葉が震える胸をえぐったのだろう、祐子は遂に嗚咽の声を洩らし始める。勝利感と達成感を同時に感じている栗山は祐子の辛そうな顔と便器の中を交互に見つめ、喜悦の笑みを浮かべるのであった。