留美の執念

 翌日も祐子への調教という名の虐待は続いていた。朝、三枝を慰めた祐子は昼には身体を溶かされた上、松井の一物をしゃぶらされた。

 更にやり方がいい加減だと留美に詰られ、針金を取り付けられたまま夜のフェラチオを待たなくてはならなくなった祐子は苦悶していた。

 後手に縛られた祐子は陰核を針金で括られ、胡坐縛りにされた裸身を揺らして切ない吐息と啜り泣きを洩らしていた。

 「あー、嫌、嫌」

 もう、3時間もその姿勢のまま、何度も同じような呟きを洩らした祐子は両膝をガクガクと揺らしていた。

 良美は苛酷な責めに遭い、苦悩している祐子が心配になり、そっと身を寄せた。

 「お姉さん。大丈夫?」

 「く、狂うちゃいそう」

 ハラハラと涙を滴らせた頬を震わせて祐子はそれだけ言うと再び、目を閉ざした。良美に針金を外して貰いたいのは山々だが彼女までとばっちりを食いそうな現状にそれは頼めない。祐子は何としてもこの難局をひとりで乗り切ろうと心に決めていたのだ。

 その頃、留美と恵子の間にもひと悶着が持ち上がっていた。

 今日、三枝は出版社の連中と打ち合わせのため松井の運転する車で東京に午後から出ていた。よって、館に残ってる男は塩野唯一人である。塩野とは夜のセックスを予定している留美は搾り出したくない。そこで留美は夜の祐子の特訓の相手を徹にしようと三枝に具申したのだが、それは却下されていた。それでも留美は諦めきれずに徹を引きずり出して折檻部屋に連れ出そうと言い張るのだった。

 「止めときなよ。先輩。三枝さんが駄目だって言ったじゃない」

 「黙ってりゃ、判りゃしないよ」

 「三枝さん。毎日、地下室のテープはチェックするんだよ。ばれたら大変だよ」

 恵子は留美の暴走を止めようと躍起になっている。

 しかし、留美は言うことを利かなかった。

 「じゃあ、あんたはここにいなよ。私が責任持つからさ」

 「先輩」

 恵子は留美が何故、祐子をそこまでして辱めるのか理解できなかった。恵子は部屋を出てゆく留美を見送るしかなかった。

 留美は台所に赴き、食事の後片付けをしていた塩野に声を掛けた。

 「ねえ、徹を地下から出すの手伝ってくれない」

 「いいぜ」

 塩野は三枝の裁決を知らないので二つ返事で承諾した。

 モニタールームを通る際、留美はこっそりとVTRのスイッチを落としてから物置に入った。

 塩野は一人で地下に降りると徹をゴンドラに乗せ、上に残った留美がスイッチを押し、それを引き上げた。塩野は折檻部屋まで徹を連行すると自分の仕事に戻った。

 留美は天井から吊り下がる鎖に後手錠の徹を固定すると部屋の隅で身を揉む、祐子の傍らに座り込んだ。

 「奥さん。辛いかい?」

 全身汗まみれになって苦悩する祐子は荒い息を吐きながら大きく頷いた。

 「最後の実験台だよ。この男を陥落させたら。針金を外して寝かせてあげるから頑張りなよ」

 留美は胡坐縛りの縄を解き、祐子の肩を掴んで立ち上がらせると徹の前に膝を付かせた。

 徹は始めてみる女たちに多少の戸惑いを隠せない。頬を染めて顔を背けた徹を見た留美はその尻を引っ叩いた。

 「何を照れてるんだい。男なら堂々と晒していないよ」

 徹が正面を向くと留美に促された祐子は待ち兼ねたようにその一物にかぶりついた。股間に取り付けられた針金の刺激にくたくたにされている祐子は一刻も早く、その状態を逃れるために激しく舌を使い始めた。

 留美はじっと快感を堪えている徹の顔が好きだった。眉を寄せ、悔しそうに唇を噛み、寂しさの中に快感を堪える徹の横顔に惹かれるように顔を寄せた留美はその唇を吸い取った。

 突然の留美の接吻に徹は慌てふためき、唇を取り戻そうともがいたが鎖に吊り下げられている身ではそれも叶わず、舌を挿入され口中を愛撫される。

 留美の刺激に相俟って、徹が自失したのはそれから間もなくだった。

 祐子は涙を流しながら太股をブルブルと震わせ、徹を暴発させた喜びに感激している。何か自分という人間が悪魔たちの淫虐な調教の前に変わってゆくような錯覚に祐子は陥っている。

 「よくやったね。今日はこれで休ませて上げるよ。若い子のザーメンは濃くて飲みにくいけどちゃんと飲むのよ」

 肩を叩いた留美は腰を屈めると祐子の針金を取り外しに掛かった。

 針金を外され、ほっと息を付いた祐子は留美に礼を言うぐらい奴隷としての自覚が身に染み付いていた。

 「あんたも素直になったね。明日までゆっくりお休みよ」

 縄を解き、手錠に変えた祐子の肩を叩いた留美は徹を引き連れて折檻部屋を後にした。

徹の逃亡

 留美と徹は折檻部屋を出たのだがその隣のモニタールームに留まっていた。

 何と誰もいない事をいい事に留美は寝そべらせた徹の上に跨り、喜悦の声を発していたのである。今夜、塩野との約束があるにも拘らず、留美は徹の表情を見ているうちに口付けをし、そのおかげで身体の奥に着いた火が消すに消せなくなっていたのである。

 髪を振り乱して、乳房を揉みながら貪欲に快楽を貪る留美を見上げながら徹は醒めた目をしていた。ここに捕われて一ヶ月以上、経過した今まで、毎日のように恥辱に塗れていた徹は女の本能の性とでも言うものを嫌というほど見てきた。そして、いつもは自分を犬のように扱う留美でも一皮剥けば、一匹の牝として自分の肉棒を相手に狂乱するのだと思うと留美の折檻を恐れて唯々諾々の日々を送っていた自分が馬鹿らしく思えてきたのだ。

 「あー」

 大きな溜息を付いて留美は頂点に到達したらしい、徹の上に覆いかぶさった留美はその余韻に浸っているらしくうっとりと目を閉ざしたまま頬擦りを繰り返している。

 徹は射精しなかったが留美の動きが止まったお陰でその興奮は一気に冷めていった。

 徹が洩らしていないことに気が付いても留美は鼻息を一つ洩らしただけで何んの言葉も吐かず冷笑を浮かべると立ち上がり、徹の肩を抱いた。

 「地下室に返してやるよ。立ちな」

 徹の背を押して庭に進み出た留美は終わったら付き添ってやるという塩野の言葉を忘れていた。

 「な、何をするの」

 いきなり、徹に突き飛ばされ、腹にしたたかに蹴りを打ち込まれた。留美は叫びも上げられずにのた打ち回った。

 徹は夜闇に紛れて逃走したのだ。もちろん、留美に油断が合った事は事実だった。それ以上に監禁され、勝手に運命を変えられた徹の怨念のようなものがその行動を支配していた。

 「た、助けて」

 ようやく声を上げた留美の叫びを聞いて、塩野と恵子が庭に走り出た時には徹の姿は消えていた。

 「だから、言わないこっちゃ無いよ。先輩。三枝さんに知られたら大変だよ」

 恵子が泣きながら言っても未だに徹に蹴られたダメージが残る留美は苦しげな息を吐くだけであった。

 「大丈夫だ。庭からは出ていないようだ」

 二メートルの塀を後手錠の徹が飛び越えられるわけが無いと確信した塩野は木戸が閉まったままなのを確認して安堵の表情で戻ってきた。

 しかし、三枝が戻る前に事態を収拾しないとえらい事になると考えている恵子は気が気ではなく、塩野に捜索を懇願するのだった。

 「ねえ、早く、探してよ。三枝さんが戻ってくるよ」

 「こういう時は慌てちゃ駄目だ。徹は素っ裸でこの寒さだ。朝まで外にいたら死んでしまうぜ。そうだ、松井の携帯に連絡を入れてくる」

 塩野が家の中に消えると恵子はショックに呆然としたまま座り込んでいる留美の傍らに寄った。

 「三枝さんに知られちゃうよ。留美先輩。逃げなよ。どんな目に遭わされるか判らないよ」

 必死に問いかける恵子の言葉に留美は重そうな口をようやっと開いた。

 「天罰が当ったんだよ。私が天狗になりすぎてたんだ。仲間を裏切っていい気になってたんだ」

 「そんな事はどうでもいいよ。先輩。逃げないと殺されるかも知れないよ」

 留美が三枝の警告を無視して徹を連れ出したことに原因があると理解している恵子は再度、逃亡を促した。

 しかし、塩野が二人に近づいてきたことでその機会は失われてしまった。

 「もう、すぐ到着するようだ。三枝さんの指示はここを動くなだ」

 塩野は山に向かって腰を落とすとタバコを吸い始めた。

 夜も次第に更けてゆき、気温も下がってきた。吐く息も白くなる高原の秋の夜だった。

 それからら三十分程度、経ったであろうか車のエンジン音が聞こえてきた。三枝たちが帰ってきたのだ。留美は精一杯、詫びるつもりだった。しかし、三枝のことだそれで済む事はないと留美も承知していた。

 地上組の奴隷たちも二階の松井部屋で事の成り行きを見守っていた。

 徹の面倒を何かと見ていた絵里と恋人の由里は事の他、心配そうな表情で窓の外を見守っていた。

 「ねえ、絵里。あんたまで心配してくれなくて良いわよ。私の彼氏だから」

 「そんなつもりじゃ有りません。徹さんが心配なだけです」

 絵里が心配げな表情で戸外を見ていると由里は馬鹿にしたような笑いを浮かべた。

 「私は留美がどんなお仕置きを受けるのかそれに興味があるのよ」

 絵里ははっとしたような表情になり、由里の横顔を見た。由里は楽しげな笑いを浮かべながら戸外を見つめていた。

奴隷降格

 程なくして、松井と三枝が相次いで庭に現れた。三枝は顔を真っ赤にして怒りの表情を露わにしていたが留美の事よりまず徹のことだった。

 「山の斜面に隠れていると思います。気温が下がっているので心配です」

 塩野が告げると三枝は黙って頷いた。

 「スピーカーを持ってきてくれ、俺が話す」

 塩野はすぐさま拡声器を母屋から持ち出し、三枝に渡した。

 「梶間徹。早く、投降しなさい。そのまま隠れていたら凍え死んでしまうぞ。今、出てくれば君は罪に問わない。風呂に入れて地下室に下ろしてやる。後十分、待つ。それで出てこない場合には君の妹の由希をここに連れてきて素っ裸のまま晒すぞ」

 三枝の脅迫は堂に入っていた。由希をこの寒空の下に連れ出せば徹も観念すると思ったのだ。

 「次は由里だ。十分おきに奴隷をここにつれてきて並べてるぞ」

 三枝はそこで言葉を切って松井を見て得意そうに笑った。

彼の脅迫は図に当った。それから5分後、寒さに全身を震わせている徹が彼らの前に現れた。徹の逃亡劇は終わったのである。

 風呂に入れられた徹が地下室に戻されると三枝は地下組奴隷を除く全員をアトリエに集めた。留美に対する裁判を始めるのである。

 「全員、集まったようだな」

 三枝が褌一枚を身に着けた奴隷たちが腰を落とすのを待って口を開いた。絵里、美加子、麻里の三人は心配げに三枝の目前に蹲っている留美を見つめていたが由里だけはうっすらと笑みを浮かべて事の成り行きを見守っていた。

 「吉橋留美。顔を上げろ」

 三枝の言葉でおろおろと留美は頭をもたげた。その表情は恐怖に引きつり、いつものあの傲慢な態度は微塵も見られなかった。

 「お前は私の制止を無視し、徹を地下より連れ出し、祐子に対する調教に使った。更にそれを隠蔽するために地下室のビデオのスィッチを切った。間違いないか?」

 「ま、間違い有りません」

 留美は震える声で頷いた。

 「これからお前に対する刑罰を言い渡すが何か言いたいことがあったら言ってみろ」

 「三枝様に申し上げます」

 弁明の機会を与えられた留美は堰を切ったようにしゃべり始めた。

 「私が三枝様の言いつけに反して徹を連れ出したことは私の思い上がりで有り深く反省致します。しかし、今日まで三枝様のために誠心誠意を持って尽くしてまいりました。どうか、奴隷に戻すことだけはご容赦下さいませ」

 言い終えた留美は三枝の足に取り縋って泣き声を上げ始めた。奴隷に戻されることを留美は一番、恐れていた。奴隷たちが留美に対してどのような態度を取るか、それを思うと留美は心が凍る思いがしていた。

 「なるほどな、お前の今日までの働きは認めてらねばならない。しかし、刑罰を受ける人間が服を着ていては話にならん。裸になれ」

 三枝の言葉に留美はすぐささま反応する。ジャージを手早く脱いだ留美は褌も剥ぎ取り、あっとう間に素っ裸となり三枝の足元に傅いた。とにかく三枝の怒りを静めねばと留美は思っていた。

 「それでは留美に対する刑罰を下そう」

 三枝は周囲を見回して口を開いた。恵子は心の中で留美の奴隷降格だけはないように祈っていた。彼女にとって留美はあらゆる意味で頼れる先輩だったのである。

 「まず、私の命令に背いて徹を連れ出したことに関する罪。留美を奴隷降格とする」

 やはり、奴隷降格であった。留美は溢れ出しそうになる涙を堪えて三枝の次の言葉を待った。

 「続いてモニタールームのビデオの電源を落した罪。浣腸、排泄とする。この刑はただちに執行される。続いて、徹の逃亡を許した罪、剃毛とする。この刑もただちに執行される。最後に無断で徹と交わった罪、地下室に置いて、三日日間の後手錠と処す。この刑は明朝に執行される。以上だ」

 「待って下さい」

 次の指示を与えようとする前に留美は三枝の腕に取り縋った。

 「準奴隷に昇格する機会をお与え下さい。私は今まで三枝様の・・・」

 三枝は留美に最後まで言わせずその頬を打ち据える。

 「その機会は私が考える。奴隷のお前にとやかく言われる筋合いはない」

 新たな怒りを買ってしまった留美は視線を下に落したまま立ち竦むしかなかった。

 松井と塩野が左右から留美の腕を取った。

 「両手を後に廻しな。素直にお仕置きを受けるんだぜ」

 松井の言葉遣いに奴隷となった事を実感した留美は両腕にキリキリ縄を掛けられながら涙を流している。 思うが侭に奴隷たちの上に君臨していた日々は戻らないと留美は諦めに近い気持ちの中に沈んでいた。

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