書影


 軋るような金属音のするエレベータが着いたのは、地下四階。こんなに下まで書庫が続いていたとは知らなかった。司書の男は無表情に案内する。可動式の書庫は手動のハンドル操作で動く。司書の男の手に従って、がごがごと書棚が動く。空っぽの書棚が現れ、その奥の壁が見える。書影だ。わたしは今開いたばかりの狭い通路にゆらゆらと入っていく。今はもう並ばない書物の影が、くっきりと壁に浮かぶ。貸出はできますか? 聞くわたしに。いえ、閲覧は書庫内でのみお願いしいます、そう聞きとりにくい声で答えて司書の男は去っていく。わたしは指で書影をなぞる。どく。脈が波打つ。聞こえない文字が流れ込んでくるのを感じる。わたしは壁に耳をつける。どく。頭の芯がしびれるような感覚。

 ふと気づく。書影に重なるように、うっすらと影。これは人の影? どく。これは衝動? どく。これは、願望? ゆっくりと動く。誰にも気づかれないように。影に重なるように、体の形を重ねる。どく。流れ込んでくる。どく。流れ込んでいく。

 司書の男は誰もいないことを確認してから、書庫の鍵をかける。人の影は、地下四階の片隅で、色をなくす。