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DA・I・SU・KI!収録「 愛情マーキング 」本文サンプル
1シーンから部分的に抜粋しています。





 慌しく部員たちが去って行き、栄口と水谷が最後に残された。
 実のところ、巣山に指摘されてからも栄口はわざと意識的に時間をかけて丁寧にユニフォームをたたみ、スパイクの汚れを払ったりしながら、水谷に合わせて最後に残るようにしたので、これで予定どおりだ。
 機嫌を損ねた恋人にフォローを入れるため。
 昼休みの方がゆっくり時間を取れていい気もするのだが、今までの経験上、下手に時間を置くと水谷の機嫌がどんどん悪化することもあるのが分かっているので、あまりのんびり構えてもいられない。
 案の定水谷は二人きりになるなり栄口に抱きついてきた。正面から腕を回して、ぎゅうっとしがみ付くように栄口を拘束する。身を屈めて身長のそう変わらない栄口の肩に額を押し付けながら、水谷は不満を零し始める。
「さっきの! 泉、近づきすぎだったと思うんだけどー」
「他意があるわけじゃないんだから、いちいち気にするなよ」
「それだけじゃなくってさ、栄口って巣山となーんか仲良いよね。なんでオレの恋人なのに、田島に巣山と仲良し認定されちゃってんだよ」
「部活が一緒で、同じクラスなんだぞ。仲が悪い方が嫌だろ。それにおまえだって巣山とは仲良いじゃん」
 水谷と栄口は、二人が付き合っていることを公言していないし、普段からべったりくっついているわけでもないので、周りから特に仲がいいと指摘されたことも、関係を勘繰られたこともない。
 二人きりになるとこんなふうにベタベタとくっついてくる水谷だが、他人がいるときは絶対に触れてこない。誰とでも肩を組んだりその場のノリで抱きついたりするタイプなのに、栄口にだけはそんな軽いスキンシップさえしてきたことがない。意外なほど徹底している。
 そんな水谷の行動を、栄口はずっと男同士で付き合っている自分たちの関係を回りに知られないように気をつけているからだと思っていた。しかし、一度ふとそんな話題になったときにそうではなかったことが判明した。
『だって、オレ栄口のことめちゃくちゃ好きなんだよ。栄口にはなんでもないみたいに軽く触ったりとかできないよ。好きで好きでたまんないってのが顔にも手つきにもあからさまにでちゃうし、触れたらぎゅって抱きしめたくなるし、抱きしめたらキスしたくなんだよお。ぶっちゃけ、すぐ勃っちゃうしさ』
 そこまでぶっちゃけなくてもいいだろうと若干引き気味になりつつも、顔を真っ赤にして主張する水谷が可愛く思えてしまった時点で自分の負けだよなと栄口は思い返す。
「栄口、今、時間とか計算してオレのこと軽くあしらおうとしてんだろ」
 完全に拗ねている水谷に、これでもこっちは気を使ってわざと残ってやったんだぞと心の中で言い返しながらため息を堪える。代わりに背中をぽんぽんと叩いて「そんなことないぞー」と声をかけると、水谷の腕の力が苦しいくらいにまた一際強まった。
「栄口の匂いがいつもと違うとか、気付くのも気にするのもオレだけでいいのに、みんなに知られたー。悔しい! もったいない!」
「おい、待てよ。それはもとはといえば、おまえがみんなの前で匂いがどうとか言い始めるからだろ。二人のときにこそっと言えばいいのに」
 さすがにそこまで文句を言われるのは心外だと言い返せば、水谷はクスンと鼻を鳴らす。
「だって……」水谷は一度口を噤み不満げに唸ってから、ぼそぼそと続けた。「栄口からしたことない匂いしてるから、誰かの移り香だったらヤダなって思っちゃったんだよ」
「なっ! 早朝からどこで匂い移されてくるんだよ」
「分かんないけど……栄口に他人の匂いついてんのかもと一度思っちゃったらもう気になってしかたなくなったんだもん。オレの栄口なのに、そんなんイヤじゃん」
 あの深刻そうな思案顔はそんなことだったのかと、栄口は呆れてしまう。
「でも、もう納得したんだろ? って……おい、水谷っ」
 水谷がいきなり首筋に唇をこすり付けてきた。
「っ……」
「ここ、痕つけていい?」
「ダメに決まってるだろ」
 ちゅっ、と高い音を立てて首筋を吸われる。
 栄口は思わず身を捩ったが、拘束してくる水谷の腕はびくともしない。