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2010SUMMER::Information

 
獄ツナ:『ボンゴレ・フェロモン』

 それは映像であって、リボーン本人ではなかった。
 立体映像でもない。
 映写機で壁に映し出しただけの映像だった。
 視線を走らせると、すぐにその映写機も見つかる。ツナはきょろきょろとあたりを見回し、映像のリボーンに目を向け、小声で話しかけてみる。
「リボーン? なぁ、こっちも見えてるのか? 聞こえてんのかよ?」
「ちょっと待て、まだ映像が……ああ、今やっとこっちにも届いたぞ」
「映像? どっかにカメラあんの?」
 カメラを探そうとすると、呆れきった中にもイラついているのが分かる声が飛んでくる。
「んなことより、もっと気にしなきゃならねーことがあるだろ」
「あ! そうだ! リボーン、おまえどこにいるんだよ! なんか今日、みんなおかしいんだ。どうなってるんだよ、コレ」
「オレは今、おまえに近づけねーんだ。その理由も含めて簡単に説明する。詳細は後でもっと詳しく知ってる奴が来るから、そっちに聞け」
 ツナは早速いくつか質問したくなったが、堪えてまずリボーンの話を聞くことにする。その姿勢に満足したように、リボーンは軽く頷いてから続けた。
「ボンゴレのボスを継ぐ人間には、ある力が宿る。大抵は一時的なものだ。時期や期間、表れ方は毎回違うから一概には言えないが、共通しているのはそれが周りの人間の感情を暴き、さらけ出させる能力、ということだ」
「っ! まさか……みんなの様子がおかしかったのって……」
「そうだ。今話した力、ボンゴレ・フェロモンの影響だ」
「ボンゴレ・フェロモン?」
「フェロモンっつーと、誘引物質と勘違いしそうだが、ボンゴレのボスに発現するものは、そんな都合のいい生ぬるいもんじゃねぇ。たしかに部下や周りの人間を魅了し、従えることに役立てたボスもいなかったわけじゃねぇが、それは本人がもともと穏健派で部下から慕われ、地域住人からも愛されていたボスだったからってだけだ」
 リボーンはそこで一呼吸置く。ツナはひどく緊張しながら、続きを待った。
「実際には、本当の味方を見つけ、隠れた敵をあぶりだす為に使われてきてるんだ。魅了して引きつける力じゃない、好意も敵意も関係なく、本性を引きずり出す力だからな。本心から好意的な相手はストレートにその感情を言葉や行動で示すが、敵意や悪意を隠し持っているような相手は攻撃性をあらわにする。能力の強さによっては……感情の増幅器、ブースター的に作用することもある」
 
 
     * * * * * 
 
 
「――……だな」
 横を歩いていた獄寺がぽつりとつぶやく。
 なんだろうとツナが目を向けると、獄寺は後ろを振り返り、Gとの距離を確認してから、ツナとの距離を半分まで縮めて、体も屈めて、内緒話をするときの要領で口元に手を当て、なんとか聞き取れる程度の小声で囁く。
「あいつ邪魔じゃねーっスか?」
「ちょ……そんなこと言っちゃダメだよ。協力してくれてるのに」
 ツナも獄寺と同じくらいの小声で答える。
「でも、あいつさえいなかったら……ここまで歩く間に……細い道に十代目を引っ張り込んでキスできてたんですよ」
「んなっ! なに言ってんだよ、それこそダメだよ」
 ツナは慌ててGを振り返る。Gはツナたちには全く関心を払っていない様子で、ごく自然に周囲に視線を配りながら歩いていた。それにほっとして、ツナはあらためて獄寺を見る。
「獄寺君? こんなときにそういう冗談は……」
「本気です。もう三回はチャンスがあったんスよ? オレ、今すっげー十代目に触りたいです。思いっきり抱きしめて、キスしてぇ……」
「な、なんで、そんな……」
「十代目が寂しそうだから……俯いてばかりでオレを見てくださらないから……悩んで苦しそうだから……頭がぼーっとするくらい深くて長いキスして……オレ以外のことはなにも考えられないようにしちまいてぇなーとか」
 ただ元気付けようとしてくれているだけだ。自分が考え込むようなそぶりを見せてしまったから。そう思っても恥ずかしくて何も言えないツナに、獄寺はさらに甘く囁きかける。
「でも、まぁ、実際のところは、そんな理由抜きにしたって、オレは十代目のことが好きで……いつでも一緒にいたい、触れたいって思ってるだけっスよ」
 ツナはリングをはめた手をぎゅっと握りこみ、反対の手でその指を撫でる。
 指先にひっかかるリングの感触。
 このリングは本当に効果があるのだろうかと思わされる。
 でも、今までだって獄寺は、こんなふうに熱烈にツナに愛情を伝えてきた。隣で甘く囁くのは、ツナがよく知っているいつもの獄寺だ。
 むしろ、もし今このリングがなかったら。
 そう過ぎらせたタイミングで、獄寺がツナのリングに触れてきた。
 はたから見たら手を繋いでいるようにしか見えないだろう。大丈夫かなとちらりと心配して、けれど獄寺の言葉にクラリと来て、思考が飛んでしまう。
「このリングがなかったら、オレがGがいても構わずに実行するかも、とか思いました? それはありえませんよ。大好きな十代目が隣にいて、我慢するのはすっげぇ辛いですけど……それでも、必死に抑え込んでるのは……十代目がオレだけに見せてくださる一番エロくて綺麗でかわいくて……魅力的な姿をぜってー他人に見せたくないからです。あれは一生オレしか知らなくていい、オレだけのものです」