史論(歴史を考える方法論)

歴史を解釈する場合、色々なアプローチの仕方があるが、先ず目的を明確にしなければならない。

政治的な目的で歴史を利用する場合、民族意識を高揚し、政権の正当性を担保するために編纂・解釈する歴史は、事実を追求するものではなくなる。目的に合致しない事実は切り捨てられ、残余を綴り合せて辻褄合わせが行なわれるからだ。日本の古代史はレアケースとして、民族意識を劣化させる為に、編纂・解釈されている。いずれにしても政治的な目的での編纂だから、真実を追求するものではない。

このHPは、現行の日本の古代史解釈が余りに政治的なので、その骨格を再構築する事を目的とし、倭人の歴史を再評価する。そのためには、骨格だけを議論しても、信憑性が薄い結論しか得られない。「真実は細部に宿る」と言う言葉は、古代史に関しても金言になる。

歴史の解釈は、自然科学の様には出来ないから、科学的という表現を安易に使うべきではない。「科学的」という言葉は誤解されやすく、一部の人は誤解させようとして使っている。唯一の科学である自然科学は、以下の方法論を基礎にして成立し、自然科学を科学と呼ぶにふさわしい状態を形成している。

 

1、追試の方法を提示できる観察結果や実験結果を、事実の候補と看做す。

    それに対して、複数の追試が実施されなければならない。

追試によって再現性が確認された結果だけが、事実と見做される。

2、事実を組み合わせて法則を見出す。

    法則は、実験が未実施である領域の、予定事実を定量的に予見できなければならない。

    新しい事実は、予見通りの結果である事が確認されなければならない。

    その確認により、科学的な法則が認知される。

3、上記の確認のために、情報交換を円滑に行なう参加自由の学会組織がある。

    学会は参加者の成果を公表する仕組みを持ち、

他の参加者や部外者からの批判を、学会員に伝達する機能を持つ。

    

以上の機能と経緯を供えた実験結果や法則は、科学的事実になる。

歴史の研究にはこの手法は使えないが、学会が存在して科学の真似をしている。学会に情報伝達機能はあるが、それ以外の条件が満たされていないので、諸説が乱立して何が事実なのか分からない状態になっている。歴史を政治的に利用しようとする人が多数参加しているので、彼らの発信するプロパガンダが事実を隠し、事態を更に悪化させている。特に日本の古代史は、民族意識を劣化させる為の虚報に満ちているので、歴史の骨格さえも分からなくなっている。

この状況を打破するためには、先ず方法論を確立する必要がある。歴史は科学ではなく、論理で処理するべきものだと認識すれば、科学とは異なる他の手法がある。歴史は人間世界の過去の事象を扱うのだから、それにふさわしい手法の確立を目指すべきだ。

人工的な環境下で起こる事象を把握する手段として、マーケティングがある。自由経済の市場の中で、どの様な商品を選定して何処までの機能を盛り込み、何処でどの様な原価で製造し、どの様な価格で、どの様な販売手法で、何処の地域を重点とし、どの様な階層に販売すれば、どれだけの売上げと利益が見込めるか、判断する手法を含んでいる。

この手法は、個人事業者から大企業の専門職まで、幅広く試みることにより、事業収益を左右する結果を生んでいる。手法に関する体系化が試みられ、その頂点にビジネススクールがあるが、ビジネススクールの出身者が必ずしも有能なビジネスマンではない事も、良く知られた事実である。ビジネススクールの出身者は、往々にして業界の専門知識を十分持っていないからだ。汎用的な手法に詳しい者は専門知識に乏しく、専門知識が豊富な者は手法に疎いという事が、ビジネス界では起り易い。単なる知識量の違いではなく、専門知識を得る事とマーケティング手法を駆使する事には、求められる発想が異なる事も、大きな要因になっている。

しかしマーケティングの手法を学び、実践している人の数は、日本の古代史を研究している人と比べれば、桁違いの多さになるだろう。多数の人が職業的なポジションを争いながら、切磋琢磨している世界だから、そこで発達した手法には、参考にすべき事が沢山ある。このHPでは、マーケンティングに用いられる手法を適用し、日本の古代史の骨格を確立する。マーケティング手法がその作業と相性が良いのは、共に不条理な人間界を解釈する手法であるだけでなく、包括的な結論を出さねばならない立場も、共有するからだ。マーケティングの結果は売上を左右するから、「そこは不明」とか「そこは判断できない」という立場は、許さない思考法になっている。これは従来の歴史解釈の方法とは、大きく異なる。

以下にマーケティング手法を応用した歴史の解析手順を説明する。

 

1、関連情報を極力沢山集める。

情報は質の良いものを選ぶ。人間界には異端者が存在するから、必ずしも量が問題ではない。

その時代の人間を、大きな集団として捉えているものを、優良な情報と考える。

例えば、「王」が何をしたかではなく、「王を支えた人達」が望んだ事を考察し、その理由を考える。

異分野であるかどうかに拘らず、すべての関連情報を集める。

2、情報の相関を調べる。

   情報を整理し、できるだけ可視化し、言葉で論理を連ねて情報の相関を検証する。

   出来るだけ定量化し、図表を作成して傾向を検証する。

   矛盾する情報は詳細に分析し、矛盾する原因を考察する。

   言葉で論理を連ねながら、欠けている情報を探し、その断片を取得する。

3、仮説(解釈)を作る。

   これは必須である。仮説を作らなければ、マーケティングではない。

   仮説は広範囲のものから作成し、個別論に入る。

4、情報と仮説を付き合わせ、矛盾が無いか検証する。

   人間界には必ず例外的な存在がある。厳密性より傾向や必然を重視し、

矛盾するものはその原因を追究し、必ず仮説を設定する。

1次資料に内包される矛盾は、極めて重要な情報になり得る。

仮説間の矛盾は、仮説の再構築によって解消する。

5、仮説を発展させる。

   仮説群が出来れば、それから推測できる発展的な仮説が生まれる。

   仮説群を並べ、既存の知識と摺合せ、矛盾すれば新しい仮説を作る。

   仮説を検証するために、欠けている証拠を見極め、その断片を探す。

   この過程で仮説の妥当性が判断され、妥当性のない仮説は放棄される。

   仮説は絶対的な論理ではない。当該時点で一番尤もらしい説明でしかない。

   既存の主要知識が仮説の中に包含されるまで、上記の作業を繰り返す。

   上位仮説は事実認識の骨格だから、その検証は重要だが、全ての下位仮説を検証する必要はない。

6、仮説を検証する。

   仮説群が、既存の知識を「全て」包含できる事を確認する。

     「全て」は、目的に合致した全ての知識を意味する。

このHPの場合には、古代史の骨格と判断される知識を指す。

  何が古代史の骨格であるかは、仮説との相関で決定される。

7、歴史の解釈を体系化し、説明のためのプレゼンテーションを準備する。

   マーケティングでは、プレゼンテーション技巧も重要になる。

     仮説の設定と検証は、多面的・多次元的な思考プロセスで実行されるから、

     複雑な思考プロセスを、言葉の論理で再現する事は難しい。

     プレゼンテーションは、複雑な思考プロセスとは別の論理で展開する必要がある。

一般的なプレゼンテーションは、命題の提示とその説明から構成される。

     命題は階層化する事が可能である。

     そこで使う論理をプレゼンテーション論理と命名すれば、それは仮説検証論理とは異なる。

     仮説を検証してプレゼンテーション論理を展開すれば、多面的な検証を展開した事になる。

   8、通常のマーケティングでは、専門家と非専門的経営者がプレゼンテーションの聴衆になる。

        専門家は仮説の検証を批評し、非専門的経営者はプレゼンテーション論理を検証する。

        不適切な論理展開が検出されれば、仮説の再検討を求められる。

 

現在流布している日本の古代史は、{2}の段階で躓いている。日本書記と中国の史書に明らかな矛盾があるが、その説明をしないからだ。日本書紀史観に拘泥している現状では、説明を回避する事で精一杯だろう。それでも従来は、矛盾する両者の優劣は判定できないと、逃げる事ができた。しかし21世紀なると、Y遺伝子解析、ミトコンドリア遺伝子解析、農学の成果、新しい考古学的な成果が、歴史的な解釈の変更を求める様になった。日本書記を基盤とする現行の古代史の解釈では、それらに対して納得性のある説明が出来ないから、完全に暗礁に乗り上げている。

上に説明した様に、マーケティング手法での検証は、全ての現象が説明出来る仮説群を構築し、それに漏れがない事を以て、真実らしい証拠であると判定するから、暗礁に乗り上げることはない。しかし解析が非常に煩雑になり、読者に理解しにくい物になる。そのためにプレゼンテーションを行うが、プレゼンテーションは言葉で論理を展開するから、何かにフォーカスしなければ論理的な説明は難しい。従来はその解決策として各時代のキーワード10項目を掲げ、個別にそれを証明する方針だったが、縄文人は海洋民族だったという事実が判明しさえすれば、日本書紀史観は瓦解するので、その項を縄文時代の序論とした。

日本は縄文時代から原始的な社会ではなく、生産と交易に立脚した複雑な社会だったから、縄文時代を理解するためには、かなり複雑な社会状況に関する法則的な理解が必要になる。歴史に関する法則的な事象を別掲し、背景的な歴史法則の理解を深める項目を付加した。

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