Succes fou EX








昼のピーク時を過ぎ閑散としている食堂で、いつもの指定席に珍しく一人で座っている友人の姿を見つけた青年は向きを変えた 。
「おや、珍しいな。今日はお守りの青騎士団長殿とは一緒じゃないのか?」
手にしていた昼食のトレーをそのテーブルに置くと、憂いという表現がぴったりの表情を浮かべていた彼はつまらなそうな眼をちらりと向け、また大きな窓から眼下に広がるロックアックスの街並みにその視線を戻した。
「今日は街下視察という名目の自由行動です。そちらこそ愛しの赤騎士団長さまに追随していなくて良いのですか?」
「麗しの団長殿は一ヶ月ぶりの休日だとさ」
「ということは今ごろ仲良く…」
「街中でお手手繋いで仲良くおデートだろうな」
いつものにやにや笑いを返上したアレフと、こちらも普段の穏やかの顔を心持ち歪めた青騎士団副長が顔を見合わせる。
心底つまらなそうな表情をして見せたキースは深くため息をつくと、手にしたフォークでケーキを突き刺した。投げやりなその手つきは、いつもの洗練された物腰とはほど遠い。
「だいたい私は元からこの計画には反対だったんです。マイクロトフ殿のことですから、何とかの一念で、自分の思ったことはやり通してしまうんですから、どんなにこっちが画策しても無駄なんですよ」
「へぇ、じゃあお前はあいつらが大人しくくっつくのを指を咥えてみといた方がよかったってのか?」
器用に眉をつりあげて見せたアレフは、突き刺すだけ突き刺して口に運ぶでもない相手からフォークを取り上げるとガトーショコラを口に放り込んだ。
「冗談は顔だけにしておきなさい。私が言いたいのは貴方の計画が甘かったということです。でもまぁ…カミューさまの方が一枚上手だったということでしょうか。団長の座までかけられたらこちらに勝ち目はありませんからね。正直あそこまで手段を選ばず己の目的を遂行される方とは思いませんでした」
己の欲求に素直なカミューさまの新しい一面もなかなか魅力的ですがね…、そう不機嫌そうな顔を一変させ、楽しげに茶を啜る親友にアレフは肩をすくめてみせる。
別にカミューは何を画策して、成功させたのわけでもない。
あれが無意識下の計算による大成功だったならば、それそれですごいのだが。
だがそれをそのまま伝えると、それでなくとも機嫌の悪い友人の機嫌はさらに悪化しそうなので、素直に口に出すつもりはなかった。
「あいつは昔から自分の意思を押し通そうとするときは突拍子もない手段を引きずり出してくる奴だったぜ、そういえば。…それよりもそんなにカミューフェチならお前青騎士団なんかやめて赤騎士団にトラバーユしちゃえばいいんでないのか?」
「トラバーユしたければもうとっくにしています。鑑賞対象は別に近くでなくていいんですよ。かえって距離を置いたほうがいろんな角度からみることができますしね。それにこうなった以上うちの可愛い団長殿の手綱をきっちり引く方が切実に求められていると思いますし」
「……そのことだがな…かなりきつくその手綱引いといた方が良いぞ。まだちゃんとくっついていないようだからな」
「…はい?あそこまで我々を振り回して、それでもまだくっついていないというのならいい加減見放しますよ、私も」
心底嫌そうに顔をしかめて見せた友人に、
「馬ー鹿。士官学校のヒヨコじゃあるまいし、お手手繋いだ仲良し程度でくっついたっていえるかよ。まぁオクテでボクネンジンなマイクロトフだから手を出しあぐねてるんだろうけどな」
アレフはにやりとあくどい笑みを浮かべてみせた。
「そういうことですか…カミューさまも派手な女性遍歴が取り沙汰されていますが、あれでいて結構淡白な質の方のようですからね。それに相手がマイクロトフ殿になると…」
「遊び人ほど本気の恋には臆病ってか?どんなギャグだ一体」
そう毒づきながらも、楽しそうに各々思惑をめぐらす諜報部隊隊長と青騎士団副長である。人の悪い笑みを浮かべ、無言で物思いにふける二人の頭なかではきっとこれからのさまざまな楽しい嫌がらせ計画が練られていることは間違いなく。
晩熟で朴念仁な青騎士団長と、あんがい淡白で臆病な赤騎士団長が本当に恋人同士になるには、もう一波瀾も二波瀾もありそうだった。



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   * 蛇足 *

ということで最後までお付き合いありがとうございました〜。
書きあがった今現在、まったくもって書き上げたという実感が沸いてまいりません。思えば年末からこの話にかかりきりになっていたのですが、その割にはメインの部分はこの数日でラストスパートをかけたのでした。
まぁ、途中逃亡したり、近年稀に見る派手な風邪を引いたりしていたせいもあるのですよ。でも…理由の大半はぎりぎりにならないと火のつかないこの困った性格のせいなのでしょう…(汗)
おかげさまで他のお三方には、本当に泣き言ばかり言って迷惑をかけて反省しております。。。でも、本気で間に合わないと確信していたので、今も裏仕様罰SSを書かねばならないかも、という強迫概念で胃が痛いです(笑)

いまさら内容に触れるのもなんだかなという感じなのですが、オリキャラが出張っていたことについては謝罪しておきます。すみませんでした。
「Simplism」に置いてある話を読んだことのない方にには辛いだろうな…と思いつつ書いたのは、時期設定と、お題リクエスター東原様の強いアレフ氏プッシュによるものであると言い訳させていただきます。。。



 

■お題■
青騎士団長就任後一年目の青赤話。


MODELED BY CAMUS&MIKLOTOV / GENNSOUSUIKODEN 2
LYRIC BY AYA MASHIRO

20000219/Fin

* Simplism *