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「ただいま」
戸を開けてそう言うと、すぐにそれは飛びついてくる。
抱きしめると頬と言わず首筋や耳、鼻や額にまでキスを仕掛けられる。
濡れた柔らかい舌で肌を丹念になめられる感触は、いつまで経っても慣れないもので。
「ちょっと…待てって、くすぐったいっ」
笑いながら慌てて引き離すと、不満そうな表情が浮かぶのは一瞬のこと。
すぐに噛み付くようなキスが唇に落とされ、勢いあまって下唇を噛んでくるに至っては悲鳴をあげるしかない。
「分かった、分かったから…」
なだめるようにぎゅっと抱きしめると、腕の中の小さな存在は満足そうに小さく鳴いた。
「ただいま、ミクロトフ。いい子にお留守番していたんだね」
頭を撫でると、尻尾を振る愛犬はまた一つ、嬉しそうに頬を一舐めした。



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「ただいま」
戸を開けてそう言うと、すぐにそれは飛びついてくる。
抱きしめられると頬と言わず首筋や耳、鼻や額にまでキスを落とされる。
濡れた舌で肌を丹念になめられる感触は、いつまで経っても慣れないもので。
「ちょっと…待てって、なにするんだっ」
慌てて引き離すと、不満そうな表情が浮かぶのは一瞬のこと。
すぐに噛み付くようなキスが唇に落とされ、確信犯的に弱い下唇を噛んでくるに至っては悲鳴をあげるしかなかった。
「やだっ…って言ってるだろうっ!」
胸元にそろりと這わされた手を、叩き落としながらそう怒鳴ると、腰にまで手を回した大男は項垂れた呈で、しょげた眼を向けた。
「ずるいぞ」
思いがけずかけられた言葉に眉を寄せると、男は同じ言葉を繰り返した。
「ずるい」
「…何がどうずるいのか言ってごらん」
頬を抓り上げながらにっこりとそう尋ねると、「あいたたた…」と悲鳴をあげた男は涙目になり、頬を撫でながら恨めしそうな眼を向けた。
ちなみに片手はいまだにしっかりと腰に回されている。
「だっていつもいつも…」
「きーこーえーなーいー」
ぼそぼそと呟く大男に、にこやかに言うとますますしょげた顔をする。
めったに見られないその顔を、案外可愛いかもなどと思っていることなど露知らず、男は不承不承声を大にした。
「だから、お前の犬がいつも同じことしてるだろう。…それで何で俺だけ怒られなきゃならないんだ」
心底不服そうに上目使いにそう尋ねてくる表情は、叱られてふくれてる愛犬の顔に、酷似していて笑いを堪えるのに努力が要る。
だが首を傾げる角度まで同じということに気づいてしまっては、もう努力も何もあったものではなかった。
「あ、ははははっ!!」
「お、おい、カミューっ!」
いきなり笑い出した腕の中の存在に、呆然とするその顔も笑いを誘い…。
「すまない、マイクロトフ」
ようやく笑い止めることに成功した時には、拗ねてむっつりとした大型犬が一匹出来上がっていた。
「俺はあの犬以下か」
恨めしげに尋ねてくる男に、う〜ん、とわざとらしく首を傾げる。
「う〜ん、だってミクロトフのほうが賢いし…」
「俺だってお前の仕事の代わりをできるくらい賢いぞ!」
「柔らかくて毛なんかふわふわして気持ちいいし…」
「両手剣を振り回せて、酔っ払ったお前を抱き上げられるくらい体を鍛えてるし、冬は湯たんぽ代わりで暖かいって言ってくれるじゃないか!」
「それに何ていっても可愛いんだ」
にっこり笑ってそう留めを刺すと、男はがっくりと項垂れた。
「可愛くは…ないかもしれない……」
架空の尻尾と耳がぺたんとへたっているようなその姿に、カミューはくすくすと笑みを漏らす。
「大丈夫だよ、その分格好いいから」
「カミュ〜〜〜〜!!!」
そう言った途端、がばっと顔を上げ飛びついてくる大型犬は、先ほどまでの意気消沈振りが嘘のように盛大に尻尾を振りまくっている。
単純明快。
単細胞とまで言うと失礼か?
こんな所はミクロトフと張る位十分に可愛いんだけどなぁ…。
嬉々として首筋に顔を埋めてくる大男の首筋を抱きながら、ついそんなコトを考えてしまうカミューである。
だがそう思うだけで口に出さないのが、恋人として…というよりも騎士として辛うじての情けだというには、賛否両論分かれるところ相違なかった。



 

tadaima
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LYRIC BY AYA MASHIRO/20011129/Fin




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