傷
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「…確かに男の勲章とは言うが、多すぎたら単なる無能者に思われるぞ」 「そうだな」 「大体なんなんだ、この背中は。普通は背中に傷がある騎士など、敵に背を向ける臆病者と言われていることくらい分かってるんだろう」 「ああ」 「だったら背中くらい庇え、この馬鹿者」 「すまない」 「すまないで済むんだったら警吏はいらんといつも言ってるだろうが。それに毎回怪我ばかりしてたら上にも報告が行って、出世に響くだろうが」 「大丈夫だ、今のところ務めで怪我をしたことはさほど…」 「休暇中ならなお悪い!大体今回だってお前がしゃしゃり出なくても、俺は大丈夫だったんだ。それをお節介しやがって…」 「すまない」 「そんなに俺の腕が信用できないとでもいうのか?」 「そうじゃない、ただ俺が我慢できなかっただけなんだ。カミューの腕の問題じゃなくて、ただ俺が…すまなかった」 「…馬鹿者」 「うん」 「…考え足らず」 「そうだな」 「……」
黙り込んでしまった親友の気配を、背中越しに探る。 ひんやりと冷たい傷薬を塗りこめる指は、ゆっくりと丁寧でさきほどと変わらない。 けれども背中から伝わる空気は緊張を孕んだもので、どうしたものかとマイクロトフは思案を巡らせた。 怒ってはいるのだろう。 けれども思い出されるのは、倒れた自分を抱き起こした時の、カミューの青褪めた顔だ。 怒っているならいい。 でも、泣かれたら困るのだ。
強くならなければ
と、思う。 彼の身体ももちろんだが、自分の怪我を見て、彼が心を痛めるようなことがないように。 少々のことでは怪我をしないよう、強くならなくては。 ガーゼと簡易包帯を巻くと、カミューの気配が離れていく。 不自然なほど黙ったままの彼に、やっぱりもう一度謝ろう、とマイクロトフは口を開いた。
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