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 オンナノコ。
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 「女の子って…分かる?」
 レストランのテラス。
 いつもの指定席でのんびりと午後の紅茶を楽しんでいたカミューの前に座り込んで、同じように中庭を眺めていたシーナは不意に呟いた。
 過剰なほどの若い自信に溢れているのが常な少年の言葉に、カミューは軽く眼を瞠る。
 それに気づいているのかいないのか。
 溜息を吐いた彼は、言葉を続けた。
 「アップルにさ、花とチョコを買って帰ったわけよ、サウスウィンド行った土産にさ。チョコと花って女の子の喜ぶものの定番じゃん」
 そしたらなんて言ったと思う?
 「『いらない』『興味ない』…だって」
 またもやの溜息を語尾にくっつけて肩を落とすトラン大統領子息が、若き軍師補佐のアップルにアタックをかけているのは結構有名な話だ。そしてそれをあっさりと袖にされていることも。
 「まぁ若いレディといって一括りにするのも乱暴な話ですし、個人差もあるわけですからアップルさんに前もって聞いた方が無難だったかもしれませんね」
 「いや、そりゃ分かってるんだけどさ。でもアップルのことだから、あんまりまじめに取り合わないだろうなと思ってさ。だから俺も無難中の無難、はっきり言って芸も捻りもない花とチョコを買ったわけなんだぜ。女の子ならみんな喜ぶはずじゃねぇの、あれって?」
 わっけわかんねー。
 唸り声を上げて頭を抱え、テーブルに伏せこむシーナの傷心も分からないではない。
 そして、そんな彼を袖にし続けているアップルの心情も。
 前を見ることだけに必死になっている彼女にとって、シーナの言動は迷惑なのだろう。おそらく彼女は恋よりも何かの目標に一心に打ち込むタイプなのだから。
 とはいえそれを、それこそ恋に生きる少年に言って理解してもらえるものだか。
 そんなことをわざわざ説明して、あたら若い青少年の心を傷つけることもあるまい。
 そう判断したカミューは、穏やかな声で諭した。
 「確かにレディの心は秋の空より気まぐれといいますから、理解するのは難しいですよ。でも、努力は無駄にはなりません。
 なぜ断ったんだろう。相手の立場でそういう断りの言葉を出すということは、どんな要因があるんだろう。
 そう冷静な視点で考えることは、将来人の上に立つ上できっと役に立つはずです。
 とはいえ私など、同じ分類に属す男性の心情もたまに分からないのでね、なんとも大きなことも言えないんですが」
 ふっと脳裏を過ぎった男の残像を思い出し付け加えた言葉。
 だが、それに返ってきたのは実に直截な指摘だった。
 「カミューさん…もしかしてまたマイクロトフさんと喧嘩したわけ?」
 その言葉に浮かべていた笑みが凍りつく。
 
 ・・・ああ確かにその通り。
 昨夜からマイクロトフとは絶縁中だ。
 だって分かるわけがないだろう、毎晩毎晩このクソ暑いのに同衾したがり、あまつさえ隙あらば押し倒そうとする男の気持ちなど。
 分かってたまるものか。
 
 「いい加減痴話げんかもあきてこない?」
 額に浮かんだ青筋はさらさらと流れる前髪に隠れて見えないのか。
 とどめに放たれた言葉は恐れを知らぬ、傍若無人で無神経な十代の少年ならではのもので。
 前言撤回。
 こいつは遠慮も配慮もいらない人種だった。
 
 どうしてくれようこのガキ…。
 
 張り付いた笑みを浮かべ、笑ってない眼でカミューはにっこりと微笑んで見せた。
 
 
 
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