襟。
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先ほど公示されたばかりの新しい配属先の補佐控え室を覗くと、親友の姿はもうそこにあった。 その後姿に声を掛けようとするが、開いた口はその奥の声帯を震わせることなくそのままの形に留まる。 上着を脱いだ白い綿一枚のせいか、いつになく広く見える肩幅、そこから腰まで流れるゆるやかな直線。すっきりと締まった身体の線は、少年から青年へ変わり行く不安定な細さとともに、男ならではの硬質さも兼ね備えている。 階位のある役付騎士は平騎士とは違い、一律に支給される既製品ではなく、採寸して作られた制服を着用する。 だからだろうか。 いっそ生々しいほど顕な身体の線は、言葉を失うほどの衝撃とともに思考を奪った。
やがて横を向いた彼の首筋、その上二つの釦を外した襟元から、首筋と陽光から秘されている白い肌が洩れ見えた。 その瞬間、踵を返す。 足早に向かった先は人気のない、建物の裏。 その壁にもたれ、詰めていた息を吐く。 俯きながら吐いた溜息には、隠しようのない疲労と苦さが混じるのが分かった。
今まで自分はあの親友の、柔らな物腰や女性のそれとも通じる優美な造形に惹かれているものと思っていた。 だが、今自分が欲情を覚えたのはきりりと伸ばした背筋に広い肩。そして女性のそれとは似つかぬ首筋の硬質な曲線だ。
俺は…変態なんだろうか ――― 。
石壁に背をつけ、ずるずると座り込みながら頭を抱えるマイクロトフの脳裏には、だがどれほど追い遣ろうとしても、親友のあの首筋の陰影の残像がこびりついて消えてはくれなかった。
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