うさぎ。
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「あ、美味しそうな兎!」
城内の草叢を軽やかに駆け回る兎をぼんやり見ていたマイクロトフは、不意の背後からの声に驚き振り返った。
その視線をどうとらえたのか、少しばつの悪そうな表情を浮かべそこに立つのはナナミだ。
「今マイクロトフさん、女の子らしくないって思ったでしょう」
「いえ、まぁ…」
「いいんだよ、別に本当のこと言ったって。マチルダの女の子みたいに女の子らしくないって自分でも分かってるもん」
驚いたのは思っていたそのままが耳に飛び込んできたからだが、頬を膨らませている少女にそれを言ったところで本気にしないことだろうことくらいは分かる。
「美味しそう、ですか?」
「うん。美味しそうじゃない?丸々太ってて」
件の兎は自分が会話の中心になっていることも気づかずに、のんきに草を食んでいる。
「勿論可愛いとは思うけど、でもやっぱり食べたらおいしそうっていうのが一番気になるの。ほら、私お姉ちゃんだから、シュエにお腹空かせたらダメだし…。どうしても気になっちゃうんだよね」
そんな兎を眺めながら呟く少女に、マイクロトフは小さく笑みを浮かべた。
確かにマチルダに住む、ナナミと同じ年頃の少女は、兎を見て真っ先に『美味しそう』などという言葉を口にすることはないはずだ。
生きていれば愛玩動物、死んだら、身を飾るファーや帽子の毛皮。
彼女達の認識はその程度だろう。
それも勿論悪くないけれど、生きていくことに常に向き合っている目の前の少女の方がマイクロトフには好ましく映る。
「で、でも!ちゃんと可愛いって思ってるのも本当なんだよ!」
少女らしい含羞を滲ませながらそう言い訳るナナミと、それに頷くマイクロトフの前で、いつの間にか兎は木陰に消えていった。




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