戸。
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昼下がりの執務室。
忙しく筆と同時に口も動かしていたカミューは、
「そういえば先ほどシュエ様から、ケーキのお礼をお前に伝えといてくれとの伝言を預かったよ」
とふと盟主の名前を口にした。
「あぁ、ナナミ殿が差し上げられたのだな」
小さく笑ったマイクロトフは、城内の少女達を相手にお菓子の講習会を不定期で開いている。
プロのパティシエもかくやという腕前を知った彼女達に請われ、真夜中に行なっているその会はなかなかの好評ぶりらしい。少女達の中にはその夜はヒルダの宿に部屋をとって、皆でお菓子を食べながらのお泊り会を行なっている者もいるらしく、日常を彩る一大イベントとして楽しんでいるようだった。
「ガトーショコラは二、三日おいて食べたほうがしっとりして美味しいと言っておいたんだが」
苦笑したマイクロトフに、
「でも眼の前においてたらつい食べたくなるものだろう」
とあくまでも少女達と同じ立場に立つスタンスのカミューは笑う。
「でも置いておいてもケーキはなくならないぞ」
行儀悪くテーブルの端に腰をかけ、首を傾げるマイクロトフは、さほど甘いものに対する欲求はない性質らしい。
不思議そうな顔をする彼とは違い、甘いものに眼のないカミューは口を開いて続きをせかす。
丁寧に口に運ばれた濃厚な甘さの黒いケーキを咀嚼しつつ、山のような書類に眼を通しながら、思いを巡らせていた彼は、ふと顔を上げた。
「じゃあ、美味しそうで我慢できないってものはお前にはないわけだ」
意味ありげに艶めいた視線を投げかければ。
「……前言撤回」
意図をしっかりと理解したマイクロトフは、降参というように皿をテーブルに置く。
チョコレート味の甘いキスは、しつこく叩かれるドアが開けられるまで続いたのだった。





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