椅子
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同盟軍に入って与えられたのは、ベッドが一つだけの二人部屋。 そしてその隣室の執務室だった。 執務室といっても、物置を改装して作ったような小部屋で、机一式を入れるともはや手狭になる小さな空間だ。 この部屋を、赤騎士団長と青騎士団長は午前と午後に分け交互に使っていた。 理由は一つ、とにかく手狭で二人が同時に仕事をするだけの空間がないから。ただそれだけである。 となると、椅子は一脚しか要らないだろう、とはひょんとした折に部屋を覗いた軍師の言葉で、その日のうちに対の椅子は一脚持ち去られてしまった。 確かに普通のテーブルとはいえ、一応は執務机だ。向かい合って椅子を配置するのも変だと、これまたちんまりしつらえてある窓の下に一脚だけ置いていたのだ。 傍から見たら使うあてのない椅子にしか見えない。 急速に増えつつある人口のせいか万年品不足の城内で、無駄に物品を遊ばせておく余裕がないことを鑑みると、軍師の行動は至極もっともな措置であった。
数日後。 青騎士団宛の書類を片手に入ってきたカミューは、窓の下においてある椅子に眼を瞬かせた。 なだらかな曲線を描く背凭れに、がっしりとした肘掛がついた大きな椅子だ。 どうしたのかと尋ねると、買ってきた、とはそっけないマイクロトフの返事。 指を顎にあて、何事か考え込むそぶりをしたカミューは、だが何も言わずそれに座った。 そして、いつものように資料を片手にマイクロトフを相手に、騎士団の現状について討論を交わす。 仕事中は執務椅子、うららかな昼間にはうたたねをし、時には一人過ごす夜の寝台代わり。 彼らがこの城を去ってからも、その椅子は赤騎士団長の私物として認識され大事に扱われた。
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