て。
....................................





「あれは絶対そうだって!」
自信満々に言い切るのは腰に片手を当て頷くニナ。
そんな彼女の横で、醒めた口調でアイリが呟く。
「あの二人って、どっちかというと片方の勢いだけで押されてるって感じだろ。見るからに腰が引けてんじゃん。あれで付き合ってるって言えるんなら世間の片思い全員が付き合ってることになるよ」
語尾に溜息でもくっついてそうな重い声は、若気な少女達が集まって、恋の話に花を咲かせているこの場には似つかわしくない。だが、そのやる気のなさは、こうにも降り続いている雨では仕方がないのかもしれなかった。
いや、雨のせいというよりは、雨のせいで盟主の少年との遠征がお流れになったせいというべきか。
出窓に腰掛け、雨空を睨み上げるアイリの心情も知らず、雨はしとしと冬の空に降りしきる。
先ほどから一人で話を盛り上げようとしているニナの横で、健気にもトモが合の手を入れた。
「ニナさんはどうしてあの二人が付き合ってると思ったの?」
「だって不自然にも部屋が一緒だし、いっつも一緒に行動してるじゃない」
「でもさ、その論法から行くとビクトールさんとフリックさんだって付き合ってることになるんじゃないのか?」
部屋が同じだし、いっつも一緒に行動してるよな、と付け加えるアイリの横で、
「まぁ確かにね」
と友人の恋心よりも、己の発明品の改良に心が奪われているメグが、螺子を仕分けながらぼんやりと同意した。
「甘いわね!一緒に行動してるったって、密着度が違うもの。アイコンタクトの回数が違うし、よく手を繋いで歩いてるのよ。フリックさんとあの熊がそんなことしてるの見たことある?!」
「あー悪いけど私、手を繋いでるだけじゃ納得できないな。だって無理矢理手を握ってる可能性だってあるじゃない」
「手を繋ぐったって、ただの繋ぎ方じゃないの。恋人繋ぎだもん」
「恋人繋ぎって何それ?」
「ほら、こうやって指と指を全部絡めあうラブラブな繋ぎ方。ただ手を繋ぐだけでも暑苦しいくらい恋人同士オーラ出てるけど、この恋人繋ぎは最強なわけ!よっぽど熱々な恋人じゃなきゃやらないわよ」
そう断言するニナは己の妄想の中でフリックと絡ませる指の強さをアイリの手の甲に食い込ませ、悲鳴を上げさせた。
「てことは、やっぱりテンガアールさんとヒックスさんはつきあってる…と」
「そう。だから今日も誘っても来なかったわけよ。あーあ、どうしてボクって言ってるようなガサツな人にさえカレシができて、こんなに女子高生で可愛い私にフリックさんは振り向かないのかしら」
「……自分でそんなこと言えるような性格だからだろ」
「やっぱり押しの強さが決め手かもね。ほら、テンガアールさん押し捲ってるじゃん」
「いらん入れ知恵はやめとけって、ミリー。これ以上ニナが押せ押せになったらフリックさん神経症で死んじゃうよ」
賑やかしく笑いさざめく少女達の横で、一人考え込む顔をしていたトモが不意に口を開いた。
「あのさ…私、マチルダから来たあの騎士団長さん達が、恋人繋ぎしてるの何回か見たことあるんだけど…」
ぼそりと呟かれたその言葉に、しんとあたりが静まり返り、やおら勢いを増した外の雨音だけが部屋に響く。


同盟軍の少女達に一つの疑惑が芽生えた瞬間だった。





web拍手

back

* Simplism *