月
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「 ―――― 月が」 「ん?」 「月が今夜は出ていないかと思ったんだが、ほら」 「あぁ、今夜は三日月だな。今年は元旦が月齢一で、日付に比例しているらしい。大晦日の夜もちゃんと新月だったぞ」 「………」 「どうしたんだ?」 「 ―――― 月を見る余裕があったんだ」 「カミュー?」 「私は月なんか見る余裕なんてなかったのに」
ふいっと顔を背ける恋人に、どうしたものかなとマイクロトフは苦笑した。 マイクロトフが月齢を覚えているのは、武人として暦や天候を日頃から把握する散文的な習慣からだ。 尤も恋人の艶めいた姿を、月にさえ見られないことを喜んだのも確かだが。 さて、それをどう拗ねたふりをした腕の中の彼に伝えるべきだろう。 思案したマイクロトフは、とりあえず目の前の白い項に小さく接吻けを落とした。
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