センタクモノ。
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「だからどうして俺までやんなきゃいけないんだよ」 「しょうがないだろ。これも騎士の務め。どんなお仕事でもマジメにやるのが騎士の鏡だぞ」 「だからって…」 「あ、それから俺って言うのはやめといた方がいい、似あわないから」 「…うるさいっ!余計なお世話だ!」 「せっかく綺麗な顔を…イテッ!」 「黙って手を動かせ!……それよりも、どう見ても俺の方が洗う量多いぞ?お前が言い付かった役目だろう!どうして俺の方が多いんだ?」 「一個一個の数はお前の方が多いが、俺はその分大きい物を担当しているからおあいこだと思うぞ」 「じゃあ、俺がそっちを洗う!」 「駄目だ。こっちは大きいから力が要るんだ。いいじゃないか、敬愛する団長の靴下が洗えるんだぞ」 「う〜」 「まぁ、いいけど、たまには代わっても。赤騎士団長の下着を洗う機会なんてめったにないし〜」 「俺が!洗うっ!」
後ろの方から漏れ聞こえる、少年達の声にシャツの皺を伸ばす手を止め、ヨシノは目を細めた。 陽の良くあたる後庭には、お天気の日になる城中の洗濯物が干されている。 大きな盥を前に、手と口を良く動かす女性達が集うこの社交場に、たくさんの洗濯物をつめた洗濯籠を抱えて少年達がやってきたのはつい先ほど。 それからこのかたずっとこんな会話を続けている。 仲の良い少年達のじゃれ合いを、集う女性たちもそれぞれの会話をしながら注目しているようだ。 やがてその内の一人が近づいて、何事か話しかける。 きっと洗濯をしてあげよう、という申し出だろう。 だが。 「お申し出ありがとうございます。しかし、これも従騎士の務めですからお気遣いなく」 そう答えたのは、不満を漏らしていた年少の少年。 それまでの口調とは一変して、大人びた言葉と表情になっている。 「本音としてはお願いしたいなぁ、なんて思うんですけど、煩い上司がたまには洗濯でもして己も磨いてこいっていうもんで。コレ、他人に任せたら殺されますんで、お申し出だけありがたく頂いときます」 その横からにこやかに言葉を添えるのは、飄々とした口調で年少の少年をからかっていた大柄な少年だ。 生真面目な少年の表情に驚いた顔をしていた女性も、年嵩の少年の愛想笑いにつられてにっこり笑い、元の場所へ戻っていく。 この場所で何度か繰り返されたことのある光景に、ヨシノは頬を綻ばせた。 彼らの上司にあたる騎士団長たちは、普段の細々とした洗濯物を出すことはあるが、シーツや靴などの大物の洗濯を頼むことはない。 そういう力のいるものはいつもこの従騎士たち、特に力の要るものは大柄の少年がなんのかんのと理由をつけ、一手に引き受けている。 騎士になるにはこういう生活面での訓練も厳しいのだろう。 また仲良く手と口を動かし始める少年たちの姿に微笑んで、ヨシノは庭を見回した。 整然と紐が張りめぐらされ、そこらで洗濯物が風を受けてゆらゆらとはためいている。 その合間からのぞく青は、たっぷりと水をたたえたトラン湖。 そして抜けるような雲ひとつない空。
――― 本日晴天。
絶好の洗濯日和だった。
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