真珠
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シトリンの眩さを孕んだ金髪に、知的な輝きを帯びた深い翡翠。
ふっと微笑むと、大理石の白が口元からこぼれ清々しさを強調する。
鏡の中の自分を見つめると、今日も美しい。
数多の女性、そして稀に男性をも魅了してきた己の美貌を、彼は誇りにしていた。
美しいものを嫌悪するものは、この世にいるだろうか。
否、いない。
醜いものよりは美しいもの。
心やすらぐ美しさを人は好むものである。
他者の心の潤いになる己の美貌を磨くことは、自分の為ではなく、世間の為。
この美をいつまでも維持することが己の責務だと彼は自負し、その為の努力と研究に惜しむことなく彼は尽力していた。
朝晩のスキンケアは当然のこと、肌に良いと聞けば遠方の紅茶を取り寄せ、肌を日に晒さないように長袖手袋着用。
親友に聞かせたら素晴らしいと誉めてくれるであろう努力を、彼は日々行ない続けていた。
その努力を実を結んだのか、この歳になっても10代のころと変わらず、いや、それ以上にこの美貌は輝きを増していたように感じる。
とはいえ、加齢とともに肌の張りは幾分衰えを見せるようで。
「ダメだ…やはり、昨日に比べると肌の色がくすんで見える」
鏡を注視していた彼は、ふっと美しい眉を寄せ呟く。
一見では気づかぬ肌の色合いだが、毎日検分を続けている己には分かるのだ。
…やはり彼に聞くしかないだろうか。
内心の好敵手とも思い定めている、かの青年の姿を思い浮かべる。
自分よりはややくすみのある金髪に、翠玉の瞳。
美しさではやや自分には劣るであろう彼は、しかし類稀な肌の白さを有している。
立場上城を不在にすることが多いが、日に晒しているはずのその肌は、帰城した次の日に見てもしっとりと白く真珠の輝きを放っている。どこか気だるげな雰囲気に不思議な色気のある白い肌。
好敵手に膝折るのは悔しいが、これも美しさを維持する為の己の務め!
仕方あるまい、午後のお茶の時間に彼の赤騎士団長を招き、その肌の秘訣を教え請わねば。
そう決意してヴァンサン・ド・ブールは、鏡の中の自分に微笑みかけた。





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