あいすくりーむ。
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「アイスクリームが食べたい」
唐突なカミューの言葉に、マイクロトフはとっさになんと答えればよいか分からなかった。
折りしも季節は夏、しかも高緯度で涼しいロックアックスならいざしらず、暑さにうだるこのデュナンの地でアイスクリームなど果たして売っているのだろうか。
「気持ちは分かるがカミュー、そんなに簡単にアイスクリームは手に入らないと思うのだが」
恐る恐るそう告げるのは、カミューの眼が据わりきっているからだ。
暑さに弱いカミューは顔に『不機嫌です』と書いている。
「でも食べたいんだよ」
「だがな、カミュー。手に入らないものは食べられないだろう」
「だったらまた蹴ってつくってくれればいいんだ。作ったことあっただろ、お前」
「それはそうだが…」
「えー?アイスクリーム、マイクロトフさん作れるの?」
反論を返そうとしたマイクロトフは、不意に割り込んできたナナミの声に言葉を止めた。
慌てて振り向くと彼女とともに同盟軍のリーダー、シュエの姿もある。
「そうなんですよ、レディ。マイクロトフはアイスクリーム作りの名人なんです」
今まで脱いでいた、猫ならず騎士の皮を瞬時にまとったカミュー面の皮の厚さに呆れていたマイクロトフは、不意に顔を寄せた少年に驚きのけぞった。
「どうやってつくるの?」
「え、えぇとですね、二つ缶を用意して、小さい缶にアイスクリームの材料、大きい缶に小さい缶と塩と氷を入れて蹴ればよいのです。塩と氷を一緒にすると氷点下になるので、アイスクリームになるのです」
「なるほどね」
感心した少年に向かって、期待に満ち満ちた眼を向けるのが約二名。
「シュエっ!」
「シュエ様!」
「分かったよ、さっそくアダリーさんに道具を作ってもらうよ」
「わーいv」
ユニゾンで歓声を上げる赤騎士団長と少女は、どこをどう見ても同レベルにしか見えない。
それに嘆息しつつ、マイクロトフは小さな声で少年に囁いた。
「しかし氷はこの時期高いものですし、シュウ殿が了解なさるとは…」
「大丈夫だよ、あの人も商売人だもん。こんな儲かりそうな話、反対するわけないよ」
にっこり笑った盟主は、『2.5掛け、…いや4掛けくらいでも…』などとぶつぶつ一人呟きだす。
さすがリーダー、大勢の生活を支えるだけあり経済観念はシビアだ。
単に義姉に甘いだけかと思っていたマイクロトフは、その考えを改める。
だが、宙を睨みながら心底楽しそうな笑みを浮かべ数字を爪弾く姿に守銭奴と誉れ高い軍師の姿を重ね合わせ、少々薄ら寒くなったのも事実だった。





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