その日は朝からあいにくの雨で、空模様を映したかのように人々の表情もさえなかった。朝早くから起き出し息子らの晴れ舞台の準備をしていた母親のグチがきこえる。彼が目覚めてから、階下ではひっきりなしに訪問の声がする。
―――― うかれ過ぎだ
親も近所の大人たちも。
確かに、彼は子供の頃から他の子供とは違っていた。街の道場では天才とほめそやされ、そして今年騎士団へ入隊することになった時も、末は騎士団長だといわれた。自分でもそう思っている。
だから必要以上にほめられるのは、嫌だった。


入団式でも、彼は人の輪の中心だった。
「おい、女がいるぜ」
揶揄るような声に、彼は目を向ける。人の波の中、その人はぽつんと一人傍ずんで、雨にぬれていた。ぬれねずみのような自分たちと違って、まるで泣いているような風情すらする。身体つきは自分たちと変わりない。手足が細くて、頼りなげで、まだ子供だ。だが、身体の上にのっかっている頭は、自分たちとこれっぽっちも似ていなかった。
驚くぐらい、整った顔立ちをしている。しかし、この街では見たことがない。
大多数が街出身の者で構成されているこの騎士団だが、遠方、近隣の都市からも入団者は少なくない。彼もおそらくその一人なのだろう。
「あんな奴も、入団するのかよ。何だかがっかりするよ」
取りまきの一人が言った言葉に、彼は無言で返した。
その数週間後、彼らはその少年に、裏切られることになる。
入団後、初の各騎士団の親善試合で、彼はその少年に負けてしまった。
人生初の負け試合になったわけである。


彼は勝手に相手をライバル視した。
その後の親善試合で負けることはなくなったが、二人の仲は急速に近づいた。
相手は遠方グラスランド出身で、名前をカミューと言った。グラスランドといえば武雄の多く配出された土地でもある。つまりは荒れた土地なのだが、カミューにはそういう雰囲気はない。
グラスランドのイメージが剛なら、彼は柔だ。外見も、太刀さばきも、流れるごとしである。
そしてやはり、グラスランド出身の騎士たちの間でも、カミューは浮いていた。
「グラスランドから、どうして騎士団に入ろうと思ったんだ?」
それはよくきかれる質問らしく、カミューは嫌そうに眉をしかめた。
「どうしてって、じゃあマイクロトフは何故騎士団に入団した?」
「それは、自分の生まれ育った街を守るために…」
「さすが、優等生ごりっぱだ」
相手の台詞に、むっとした。"子供だな"と言われたような気がした。
実際、自分が友人と比べて幼いことは痛いほど知っていた。本当は、自分が今時点で彼にかなわないことも分かっている。だが数年後どうなるかは分からない。
だから今、友人に自分の幼さを指摘されると、彼はどうしていいか分からなくて、怒ることしかできなかった。
「で、どうなんだ!?」
つめよる彼に、友人は視線をあらぬ方に向けた。つられて、彼もそちらを見ると、高い城壁に区切られた空がある。しばしの間、その青に目をうばわれていた彼が視線をもどすと、びっくりするくらい近くに、友人の顔があった。
「……っ…」
びっくりしすぎて、声が出なかった。遠くで見てもみとれる程だが、近づくと友人の造作は本当に整っていると分かる。なつかしい風景のような色をした瞳に、自分がうつっている。
「怒るなよ。うらやましいと思っているんだ。守ることが当然だと言うお前が」
きれいな眉をひそめながらつぶやかれた言葉の意味が、彼には分からなかった。
おそらく ぽかん とした顔をしていたのだろう、カミューが仕方ないなぁ、と息をつくように言う。そんな一点でも、彼は「あぁ、自分はやっぱり子供だ」と思い知るのだ。
「俺の育った土地では、誰もそんな風に思っていないよ。奪うことをやめれば死んでしまう。そんな生活したことないだろう?」
「………」
そして、またこれも彼には分かっていたことなのだが、友人の雰囲気、大人びた所は、幸せの中で築かれたものではなかったのだろう。
「だからね、簡単な話、俺は何かを守るっていうことをやってみようと思ったから、ここに来たんだ。これでいいだろう?」
そう言うと、いつものように笑う。
―――― こんなにキレイなのに
いつもにこにこ笑っているのに、友人の心の中はたくさんの痛みで沢山だ。大人になることがムリして笑うことだとしたら、彼には耐えられないと思った。
「子供みたいだって思うだろう?」
その問いに、彼は驚く。子供なのは自分だ。それなのに友人はそんな事を口にする。
「そんなコトない」
という言葉は、ノド元までせりあがって、しかしそのまま小さく消えてしまった。自分が何を言っても、友人がそれを否定することを彼は知っていたから。
彼は手の平を守っていた手袋を取ると、素手で友人の頭を撫でた。
「軽蔑しないでくれよ、こんな理由しか持たない俺を」
「尊敬するよ」
彼は友人の小さな頭を自分の肩口にひきよせた。いつもきれいに整えられている髪をぐしゃぐしゃにかきまわし、つぶやくように答えるのが精一ぱいだった。




20010222/Fin


MODELED BY CAMUS&MIKLOTOV / GENNSOUSUIKODEN 2
LYRIC BY KEISUKE KANOU




今年の誕生日に友人加納圭介氏に頂いた、青赤SS。
誕生日のプレゼントにわざわざ指定した甲斐があった素晴らしい少年青赤君たちのお話ですv
書いた本人は「これっぽっちも青赤ファンじゃないのに新世紀早々書いたものがコレとは…」と腐っておられましたが、なんでもこのSSは不出来なので、わざわざまた裏仕様なリベンジをしてくださるとかv
色気のあるSSを得意とされている方だけにリベンジが楽しみです〜v
一刻も早く読んでみたいと思われる方は、掲示板かメールにて叫んでみましょうvサービス精神旺盛な方なので公開が早くなるかもしれません(笑)




* Simplism *