Call my Name
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「でね、マイクロトフにしようかと思うんだ」
「俺がどうしたというんだ?」
唐突に掛けられた言葉に、マイクロトフは本を並べ替えていた棚から顔を上げた。
きょとんとしたその顔に、カミューは笑う。
「お前のことじゃないよ、新しい犬の名前」
「犬?飼うのか、カミュー?」
「だから部屋の片付けをしてるんだろう」
いきなり呼びつけて、とりあえずここの本を片してくれといわれたのだ。いつにない部屋の混沌状態に思わず疑問も挟まず、つい言われるがままに片付けていたのだが、そんな理由があるとは知らなかったマイクロトフである。
それにしても急な話だな、と怪訝そうな表情が浮かんでいたのだろう。
「飼うよ。うちの従騎士の知り合いのうちで子犬が四匹生まれて、飼い主を探しているらしいからね」
カミューは毛並みの長い絨毯を丸めながら、宣言した。
「…カミュー、そんなに犬が好きだったのか?」
「お前が可愛がっているのを見て飼いたくなったのさ」
「そうか」
「実は犬種もお前の所の犬と同じミニチュアダックスフンドなんだ。本当は大きい犬の方が狩などに連れて行けて楽しそうなんだけど、まぁ一匹いるからいいしね」
そうにっこりと笑うカミューに、マイクロトフは頭をひねる。
だが思わせぶりのカミューの態度はいつものことなので、まぁいいかと思いなおした。
「同じ犬種なら仲良くなりやすいだろうな、カミューも喜ぶだろう」
ちなみにマイクロトフの飼っているミニチュアダックスフンドの名前はカミュー。薄茶色の毛につぶらな瞳が麗しい美犬である。
にっこり笑ったその言葉に、眼の前のカミューは一瞬眉間に皺を寄せた。
だが、一瞬でその表情を戻すと、にっこりと笑う。
「ということでね、名前をマイクロトフにしようと思うんだ」
「へ?な、なぜだ?」
「だって真っ黒な犬なんだよ。歳もお前の所のカミューとは一歳違いで、ぴったりじゃないか」
にこにこにこ。
翳りの一欠けらも感じさせない笑顔を浮かべるカミューとは逆に、マイクロトフのほうは引き攣ったような笑みを浮かべた。
「いや、俺のは呼びやすいからお前の名前を頂いたんだが、マイクロトフではいちいち躾る時に大変だろう。こう…もっと他の名前をだな…」
「例えば?」
「ジョンとかポチとか…」
恐る恐る挙げた提案を、カミューは、
「センスの欠片も感じられないな。名は態を顕すというんだよ。そんなありきたりの名前を付けられて犬が喜ぶと思うのかい?」
とばっさりと斬って捨てた。
「し、しかし…なおさら俺の名では…。もっとこう子犬に相応しい名前を考えた方がいいんじゃないのか」
「例えば?」
「お前の所の従騎士の名前とか?」
素直で良い少年じゃないか、そう続けるマイクロトフにカミューは首をふる。
「じゃあうちの副長はどうだ?」
「シャッカか…名前は呼びやすそうだけど苦労しそうだから却下」
何がどう苦労しそうなのか追及してみたいが、深く追求しても碌な事はないだろうと思いなおす。
そんなマイクロトフの思いに気が付かぬ風に、カミューは
「もっと強くて堂々として立派な犬になりそうな名前がいいな」
と呟いた。
「じゃあガスティン殿の名前を頂くのはどうだ?」
ガスティンとは先の赤騎士団長の名前である。
「ガスティン殿は確かに剣も強くて人格者だったね。…しかしそれでは叱る時に躊躇ってしまいそうだ」
「…アレフリィード殿のアレフ」
「あ、それいいな。躊躇なく叱り飛ばせそうだ。ちょうど腹が黒い所もぴったりだし」
腹黒つながりでちょうどいいよね、そう二人して大爆笑する。 が、顔を合わせると、ぴたりと笑い止め同時に深いため息をついた。
「……やめとこう。性格が曲がりそうだ」
「そうだな」
名前通りの性格に育ったらとんでもないことになるのは目に見えている。怖いもの見たさという言葉はあるが、鬱憤払いにしてはリスクの大きすぎる名前だった。
「となると…やっぱりマイクロトフだな」
「おい!」
「強くて堂々として立派な犬というのにお前の名前を選ぶんだから、光栄に思ってくれ」
「カミュー!」
重ね持つ本の重さもものともせず、立ちあがり詰め寄るマイクロトフに、カミューはため息をついた。
「マイクロトフ、誰に文句を言われても、犬の名前に私の名前を付けたお前だけには文句を言われたくないね」
冷たい眼で睨まれ、うっ、と詰まる。
「そ、それは…」
「ということで決定だね」
「いや!た、頼む!それだけはやめてくれ!お前に俺のトイレの始末や散歩をしてもらうかと思うと、俺はっ…!」
「何を錯乱してるんだ。お前と犬は別だろう。私はお前のトイレの始末などする趣味はないよ。散歩はともかくとしても」
あきれたような表情を浮かべ、カミューはそう冷たく言い放った。
が、でかい図体を丸めて、一生懸命上目遣いで訴える大男の姿に、思わず笑いがこみ上げる。
ひとしきり笑った後で、
「分かった。じゃあミクロにしよう。マイクロトフじゃなくてミクロトフ」
との提案をカミューは出した。
「は?」
「ちょっと読み方を変えたら、マイクロトフはミクロトフとも読めるだろ。小さいから丁度いいし」
「…確かに読めなくもないな」
「流石にマイクロトフを去勢するのは複雑な気分だから、ちょうどいいか。まぁ、たまにしてみたいなって思うこともあるんだけどね」
たまにだよ、たまに。
そうにっこり笑う恋人に、絶句するマイクロトフだった。




 

namae wo yonde
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MODELED BY CAMUS&MIKLOTOV &DOGS
THANXS FOR Miss,T's honey
LYRIC BY AYA MASHIRO

20010617/Fin




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