それは、いつの事か忘れてしまったけど、いつも顎を引き締めている男前が、ふいに空を 見上げた。 その横顔が鮮やかにカミューの心に残り、ふと思い出す一瞬の幸せに変化していった。 本拠地の窓から下を見下ろせば、朝から熱心に剣を振う青騎士達の姿が見れる。 いつのまにか当たり前になった光景を、いつもならベットの中で過ごすカミューが珍しく 窓から顔を覗かしていた。 「よぉ、随分早いじゃねぇか」 後ろから肩を叩かれ、聞こえてきた声にカミューは苦笑する。 「おはようございます。随分早いとは心外ですね」 「おう、おはよう。そうか?この時間ならいつもはまだ行動範囲以外だろう?」 「そう言うビクトール殿こそ、どうやらおはようよりはお帰りなさいの方がよろしかった みたいですね」 密かに漂う酒の匂いに、カミューは少しだけ顔をビクトールに近づけ囁く。 「朝帰りとは、随分と大胆ですね。相棒に怒られませんか?」 「あいつなら、俺が引き摺って帰ってきたぜ。店で潰れやがったからな」 不敵に笑い、カミューとの距離をビクトールはさらに近づける。 「それは失礼しました」 「それはそうと、お前さん、そうむやみに綺麗な顔を近づけるもんじゃねぇぞ。青騎士団 長だけにしとけや」 瞳を緩めながら冗談を言うビクトールにカミューは苦笑して、その額にデコピンを食らわ す。 「〜っ。痛てぇぞ。カミュー」 「まったく朝から馬鹿な事を言っているからですよ。まだ、酔ってらっしゃるみたいです からね。どうぞ、お部屋に帰って休んでください。本日予定されている朝の会議は欠席と いう胸をシュウ軍師に伝えておきますから」 「じょ、冗談じゃねぇ。月に一度の早朝の会議だろう。欠席でもしてみろ、後でどんな嫌 がらせを・・・あっ、それでお前も今日は起きたのか」 「そうですよ」 「そうかそうか。何だよ、俺はてーっきり朝から誰かさんの早朝練習でも覗いているのか と思ってよ」 そう言って豪快に笑うビクトールに、カミューはゆっくりと微笑む。 「見飽きるほど見てますから、今さら覗きませんよ」 そう言いながら、では失礼と言ってビクトールに背を向けるが一歩足を踏み出すとゆっく りと振り返る。 「あぁ、もちろん、見飽きるといっても飽きたりする事はありませんけどね」 鮮やかに微笑み、カミューは歩きだす。 ビクトールは小さく舌打ちをして頭をガシガシと掻く。 (ちっ、結局は覗いてたんじゃねぇか) 早朝の会議を追え、マイクロトフと共に道場に向かうカミューを後ろから呼び声が二人の 足を止める。 「カミューさぁ〜ん」 聞き覚えのある声に後ろを振り向くと、ナナミが手を振って走ってくる。 そして、その後ろにはアップルやミリー達もいる。 「な、なんだ?」 「さぁな」 不思議そうに振り向くマイクロトフに答え、カミューはナナミを待つ。 「ご、ごめんなさい。あの、急に呼びとめちゃって」 「いえ、そんな事はいいですけど。どこから走ってらっしゃったんです?随分と息が切れ てますけど」 「う、うん。ちょっとがんばっちゃった」 そう言って少しだけ頬を染めてナナミは笑うと、いきなりカミューに手を差し出す。 「レディ?」 「カミューさんの手、見せてほしいの」 「手、ですか?ナナミ殿」 マイクロトフに質問され、ナナミはコクリと呻づく。 二人は顔を見合せ首を横にする。 カミューは白い手袋を抜き、それを胸元に納めると両手をナナミに差し出す。 「ありがとう」 ナナミはニッコリと笑い、その両手を掴む。 「うわぁ〜、ナナミちゃんってば大胆」 「本当です、自らたしかめるというのはこの事だったんでね」 近づいてきたミリーやアップルが、カミューの手を握っているナナミを見つけると口々に 驚きの声をあげる。 「だから、貴方達が分からないって言うからでしょう」 「それは、違います。個人の好みというのは十人十色なんですから」 「じゅうにん・・・なぁに?それ、ボナパルトは知ってる?」 問いかけられたボナパルトは短く鳴き、ミリーの肩先から離れいきなりマイクロトフの顔 面に飛びつく。 「うっ・・・・・」 「きゃー!!!マ、マイクロトフさんっ」 「ボ、ボナパルト〜。ダメだよぉ〜」 「ミリーさん、早くどうにかしてください」 アップルに急かされ、ミリーは慌ててマイクロトフに近寄りボナパルトを引き剥そうとす るがいかんせん、とんでもない身長差があるため、上手く行かない。 「いやーん、届かない。もぅ、ボナパルトのバカぁ〜」 「カ、カミューさん」 ナナミは硬直しているマイクロトフの隣で涼しげな顔をして状況を見つめている、赤騎士 元団長を見上げ助けを求める。 「大丈夫ですよ、レディー達。こんな事で騒ぐ男じゃありませんから」 優雅に微笑み、次の瞬間片手でボナパルトをガシっと掴むとその顔からベリっと引き剥す。 「なぁ、マイクロトフ。そうだろう?」 「・・・・・・あぁ」 低い声で答え、マイクロトフは片手で顔を覆う。 感触が残っているのだろう。 「ご、ごめんなさい。ほら、ボナパルトも謝るのっ!」 カミューに掴まれたまま、情けなさそうにくぅ〜と何度も鳴きながらボナパルトはミリー の肩に乗っかる。 「どうして、いきなりマイクロトフさんの顔に貼りついたのかしら?」 眼鏡の縁を上げながら、アップルは不思議そうにミリーに問いかける。 ナナミも首を何度も振り、ミリーを見つめるがその視線が動く。 「あっ、リィナさん」 「まぁ、皆さんおはようございます。朝からとてもたのしそう。私もぜひ仲間に入れて頂 きたくて慌てて追いかけてきたんだけど、正解だったわね」 どこが、どうたのしそうなのか心底聞きたくなったが、マイクロトフは黙ったまま軽く頭 を下げる。 「おはようこざいます」 カミューも軽く挨拶を返す。 「おはようミリィさん。あのね、ボナパルトがマイクロトフさんの顔にねペターって貼り ついたのはどうしてかって言ってたの」 「そうなんです」 リィナは軽く首を傾げると、手の甲を口許に持っていき笑いだす。 「簡単な事です。ボナパルトはマイクロトフさんの顔が好みなのでしょう」 「えぇぇぇ?!」 「はぁ〜?!」 「うっそ〜!?」 「なるほど」 カミューの言葉に三人の少女が一斉に振り向く。 腕を組み、カミューは納得した様に呻づいているが、マイクロトフは絶句したまま立ちす くんでいる。 「男前ですもの、女性以外に好まれるのも悪くないじゃないかしら?団長さん」 リィナが艶やかに微笑み、マイクロトフを見つめる。 「いや、そんな事はないです。俺なんかよりカミューの方が綺麗です」 真っ向から恥ずかしい言葉を投げるが、とうの本人はいたって真面目なのだ。 だから、始末が悪い。 カミューは軽く咳払いをするが、全然マイクロトフは気づかない。 「まぁ、いやだ。カミューさんがお綺麗なのは充分承知していますわ。私は男前と言った んですよ、マイクロトフさん」 「男前・・・ですか」 マイクロトフはいまいち分からないという様な顔をして、リィナを見つめる。 「馬鹿・・・」 カミューは小声で呟き、マイクロトフの脇に肘鉄を食らわす。 「・・・っう。カ、カミュー??」 不思議そうに自分を見つめる視線を無視して、カミューはナナミを見る。 「そう言えば、先程の続きですが、ナナミ殿はどうして私の手を?」 「う、うん。あのね、皆が会議してる時に、ハイ・ヨーさんのレストランで朝食の支度を 皆で手伝っててね。そこでこんなお話が出たの・・・」 「男の人のどこが好みかってね」 「アイリ」 ナナミの言葉を拾いあげたのは、アイリだった。 どうやら姉を追いかけて来たらしい。 「男の人の好みですか?」 「そう。でもね、どんなじゃないの、どこがなのよ」 リィナがカミューに向かって答え、その手を取る。 驚くほど様になる。 「ナナミちゃんが、男の人は手ってすごく強く言うものだから」 そこで掴んだカミューの手をゆっくりと振る。 「そこまで言うなら、きっと素敵な手の持ち主をご存じなんでしょう?って」 「そうなんです。そしたらいきなり案内するっ!とか言って走り出すものだから」 「そうよぉ〜。追っかけるの大変だったんだから〜、ねぇ、ボナパルト」 リィナに続き、アップルとミリーが喋りだす。 「だ、だって、だ、だって、カミューさんの手が浮かんだんだもんっ!本当に素敵なんだ もん」 必死に両手をパタパタさせながら叫ぶナナミを見つめ、一同は笑いだす。 「ひどーい、ひどーい。もぅ〜」 「ナナミ殿」 マイクロトフは、ナナミと視線を合わせるために片膝をついてその頭に手を置く。 「よく分かりますよ。カミューの手はとても綺麗ですからね」 「う、うん!マイクロトフさんもそう思う?」 「えぇ、思います」 リィナがまぁと呟き、アップルは明後日の方向を向き、アイリは苦笑、ミリーは不思議そ うに首を傾げている。 そして、カミューは空を仰いだ。 「どう思うよ、相棒」 「あぁ?何が?」 本拠地の2Fの窓から見つめていた光景を顎で指し、壁に寄り掛かっているフリックに 問いかける。 「ナナミはカミューの手が好みだそうだ」 「へぇ〜。まぁ、確かにあいつの手は綺麗かもな」 何度か剣を交じ合えた時の記憶を思い出しながら、フリックは呟く。 「まぁ、俺としてはこっちの方が好みだぜ?」 いきなりフリックの手を掴み。自分の方に引き寄せる。 細い体がその大きな体にすっぽりと納まると、フリックはバーカと呟きその額を軽く叩く。 「ってぇ〜。今日は何で同じ所ばっかり狙われるんだよ」 ビクトールは一人ブツブツと呟き、腕の中のフリックを抱きしめる。 「おい、クソ熊っ!!」 「あぁ、言い直すぜ、相棒。手じゃなくて、全部好みだ」 瞬時にして赤くなるフリックの反応に満足して、ビクトールは腕の力を強めた。 ナナミ達と別れ、二人は道場に向かうがカミューがその途中でマイクロトフの腕を少し強 く引っ張る。 「なぁ、少し寄り道をしょうか?」 「あぁ、いいぞ」 大した用があるわけでもないので、マイクロトフはその案を軽く受けた。 道場の裏手にまわり、大きな樹の下に腰を下ろす。 天気がとても良く、カミューは両手を上げ背を伸ばした。 風が軽く吹き、その蜂蜜色の髪を揺らす。 普段は隠れている額が露になり、少しだけ幼く見えるそこにマイクロトフは手を伸ばす。 額に触れ、前髪を掻き上げてやると、気持ちよさそうに瞳を閉じる。 「マイクは私の手が好みなのか?」 「あぁ、好きだぞ」 「好きと好みは違うんじゃないか?」 「カミューに関しては全部一緒だ」 キッパリと宣言され、カミューはゆっくりと瞳を開ける。 額の手を握り返し、ゆっくりと顔を近づけていく。 「カ、カミュー」 「マイク、私のどこが一番好きだ?」 「それは、決まってる・・・全・・」 「全部はなし」 繋いでいない方の人差し指が、マイクロトフの唇に当てられ言葉を塞がれる。 カミューの答えにぐっと詰り、眉を寄せながら思考を色々と巡らせるが、上手く言葉が出 てこない。 「どこが好きなんだ?早く答えろ」 「難しい」 「失礼だな」 「ち、違う。そう言う意味ではなく・・・一つなどに決められない」 「決めてもらう」 互いに近い視線で見つめ合う。 カミューはたのしそうにマイクロトフの答えを待つ。 「カ、カミューは?お前こそ、どうなんだ?」 「もちろん、お前が教えてくれたら教えてやるさ」 「本当だな」 「騎士の名に誓おう」 そう言って軽く片目を瞑ると、マイクロトフは照れた様にカミューから視線を外し空を仰 ぐ。いつも引いている顎が美しく天を向く。 カミューは何よりもマイクロトフの横顔が好きだ。 左顎の下に見える三つの小さな並んだホクロ。 きっと、本人は知らない。 普段なら絶対に分からない場所。 そう、例えばマイクロトフが・・・・・ 空を見上げた時に気付いた。 自分を抱きしめた時にその顎のラインを見つめ気付いた事。 何よりも強く熱く、感じ合う時に朧げに瞳に映るそのホクロ。 何度も口付けて、噛み付いて、跡を残した。 霞む意識の中でも、あの日の横顔と重なる三つのホクロ。 自分だけの秘密の様な気がして、カミューは一人微笑む。 「マイクロトフ、降参するかい?」 「い、いや。その様な情けない事は騎士道に反する。たのむ、もう少し待ってくれ」 カミューは軽く笑い、その頬に口付けをして、そのまま顎に軽く噛み付く。 「カ、カミュー」 「嘘だよ、マイク」 「えっ?」 「私だって、お前の全部が好きなんだから。一つになんて決められないよ」 首にぎゅっと抱きつくと、マイクロトフの両手がその腰に絡みつく。 「あぁ、全部だ」 朝からどこまでも甘く。 いつまでも続く二人の幸せの摂理。 |
lovable reporter 222:ましろあや様 カミューから見た、マイクロトフの体の一番お気に入りの部分vvvv |
はい、こんにちは。ましろさーん、遅くなってしまって大変申し訳ありません。 キリバン二作目でこざいます。「カミューがマイクロトフの体で一番好きな所」 という何とも素敵なリクを頂きまして、ありがとうございます。 そして、ビクフリまで・・・書いてしまいしまたよ・・・びっくりねぇ〜★ なのに・・・あたしってば、何か、何か、すごく手に執着をしてしまって(笑) でも、カミューのお気には「顎のラインの三つ並んだ小さなホクロ」でございます。 これは、本当に密着をしなければ見えませんっ。 それに、いつも顎を引き締めている青騎士団長なので(笑) まぁ、一番見えるのはベットに押し倒された時でしょうね(うきゃ〜) ああっ、失礼しました。 それでは、ましろさん、心を込めて捧げさせて頂きます。 2000/1113<キリリクリクエストSS> |
有村さん素敵なお話をありがとうございました!! 有村さんの書かれる青赤の甘さ加減がとっても心地よいのですv いつも幸せを満喫しながら読ませて頂いているのですが、今回は青赤に加え 同盟軍の女性陣も出演と言うことで読んだ時、もう狂喜乱舞してしまいました。 本当に素敵なお話どうもありがとうございましたv * ましろあや * |
Blue the Sun&Red the moon
好きと好み?どちらも惚れてしまえば同じ事。 |