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待ち合わせのリラのドアを開けると、もうそこには先輩たちが待ち構えていた。
「あれ、マリアは?」
慌てて駆け寄るアリスに、望月が不思議そうな顔をする。
「一緒やなかったんか?」
問い掛ける織田に、アリスは首を振った。
「いえ、5コマが今日はべつべつだったんです。江神さん、5コマの間マリアと一緒だったんじゃないんですか?」
一番奥の席でラッキーセブンを咥えている江神にそう振ると、いや、と短く否定する。
「俺は本屋へ行ってたし、マリアは約束があるって言ってたからてっきりアリスとかと思ってたんだが…」
思いがけぬ返答に言葉に詰まるアリスに、江神も困った顔をした。
「え、まさか二人ともマリアに場所変更伝えてないってことないですよね?」
「え…っと」
久しぶりの飲み会の話が持ち上がったのは、昨日の話である。
その時点で待ち合わせ場所は、部室代わりの学生会館の二階ラウンジだったのだが、偶然午後からの講義が休講に決まった望月の希望で、長時間粘れる喫茶店リラへ待ち合わせ場所が変更になったのである。
お昼を友人と食べるために不在だったマリアには、アリスか江神が伝えることになっていたのだが。
「アリス、お前3コマ終わった時に6番教室の前で二人で話してなかったか?」
「いえ、あの時は必修の英語のことでちょっと…それよりも江神さんこそ5コマ始まる前にマリアと話してましたよね」
「あぁ。いやでもお前が話したかと思って言わなかったんだ」
「僕は伝え忘れたから探したんですけど、先輩が一緒だったから良いかと…」
「あーもうなんだって良いですけどね、要は伝えてないんですね」
呆れたように尋ねる望月に、二人顔を合わせて頷く。
「きっとマリア今ごろ部室で、おこっとるで」
北方の新刊をパタンと閉じた織田は、おもむろに立ち上がる。呆れたようの表情のままの望月もそれに続き、困ったアリスは江神に視線を向けると、苦笑した彼も席を立った。
「あちゃ〜もう10分以上過ぎてるな。今から行くとかなり待たせることになるわ」
「責任とってくださいよ、お二人さん」
ほら、二人とも急ぎまっせ。
さっさと会計を済ませて、出て行く二人のあとを追いかけるアリスに、横に並んだ江神が、
「悪かったな」
と声をかけた。
「いえ、僕もちゃんと声かければよかったんですけど、江神さんと楽しそうに話してたから…」
二人が楽しそうに話している姿を遠目に見かけた時に感じた、疎外感を思い出して言葉を濁す。マリアが江神のことをまるで兄のようにも、恋人のようにも慕っているのを知っているだけに、二人だけで話しているのを見るとどうにも声がかけ辛い気分になるのだった。
そんなアリスの様子に気がつかなかったのか。
「俺も二人で笑ってるのみてたから、てっきりマリアの約束っていうのがアリスと待ち合わせでもしてるのかと思ってな。…二人とも仲良いしな」
「え?」
思いがけぬ言葉に横を歩く彼を仰ぎ見ると、早足の江神は咥えタバコのまままっすぐに前を見ていた。 あながち戯言とも思えぬ真剣さで呟かれたその言葉に、不思議な気分になる。
まるで同じような寂しさを感じていたと聞こえる言葉。もしかすると彼も自分達の話している姿を見て疎外感を感じることがあったりするのだろうか。
この寂しい気持ちを感じるのは自分だけではないのかもしれない。そう考えると心なしか気持ちが上向きになるような気がする。
「そんなことないですよ、マリアとももちろん仲良いですけど僕達は多分お互い江神さんとのほうが仲良いですから」
「そうか」
「そうなんです」
急ぎ足のまま顔を見上げて微笑むと、穏やかな眼が見つめ返してくる。 そのことにほっとなったアリスは、少し照れくさくなり前を向いた。
学生会館の入り口でマリアになにやら説明している織田と望月の姿が見える。
「じゃあとりあえず待たせてしまったマリアには二人でなにか奢るか」
指差す二人に振り向いたマリアが、こちらに向かって拳を振り上げるのを捕らえながら、アリスはその提案に、
「はい」
と大きく頷いた。





20020214/Fin
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MODELED BY STUDENT ALICE / ARISUGAWA ALICE
LYRIC BY AYA MASHIRO






 *  Left Eye  *  Simplism  *