買物小景





「あ、いえ、アーサーさん、私も荷物を持ちますので、渡していただけないでしょうか?」
「いい、気にするな。俺が持つ」
 気にするなと言われても、この量はさすがに気にせずにはいられない量だ。両手にぎっしり紙袋を下げ、更に箱を重ね持つ姿は、気にするなと言われて『はいそうですか』と流せる量ではない。
 どうしたものかとおろおろする日本に、「こういうのも珍しいからな」とイギリスは笑った。そういえば彼が買い物をする時は、百貨店の外渉が屋敷まで物を持ってきたり、買った物を屋敷に運ばせたりしていた。こんな風に荷物を持つのはそうないことなのかもしれない。
「あっちこっち店を回って見立ててというのは、蚤の市みたいで面白いぞ」
 こっちです〜と指を指して次の店へと楽しそうに向かう台湾を見ながら、ああ、なるほどそういう意味か、と日本は納得した。
「アーサーさんはアルフレッドさんの服を見立てたりしないんですか?」
「はぁ? あの常時Tシャツとジーンズのセンスの欠片もないあいつの服を俺が見立ててれば、今頃もっとましな格好をしてるだろう」
「でもアルフレッドさんのスーツやタキシード姿のセンスの良さは、アーサーさん仕込みかと思いましたが。なんというかお二人とも良く似合っておいでで、さすがご兄弟だなと思いますよ」
「そうか? あいつももう少し痩せればもっとましになる気はするがな」
 そう嫌みを言いながらもまんざらでもなさそうな顔をするイギリスは、
「それを言うならお前と湾の服の趣味も似てるよな。可愛いとか言って、うちでも人気があるようだぞ」と呟いた。
「ああ、ゴスロリとかそういう類ですかねぇ。確かに湾さんところとうちは結構若い人の服の趣味は似てるような気がします。まぁ彼女くらい細くて可愛ければゴスロリと言わずどんな服も着こなせるでしょうね」
「いや、お前も充分……」
「え?」
 小声を聞き取れず問い返した日本に、「い、いや、なんでもない!」と赤くなってイギリスは首を振る。
「菊さん−! アーサーさん! こっちですヨ〜」   
「はいはい」と返事をしながら、
「しかし湾さんは元気ですね」
「そうだな」
 などとのほほんと会話を交わす二人は、この買い物ツアーが前日の昼間、大好きな日本を独占し続けたイギリスに対する台湾のささやかな意趣返しだということに、最後まで気がつかなかったのだった。






2010夏の大阪インテで配布したペーパーの小話を再録。
ゆずさんの可愛い台湾絵もあったのですが、そちらは折があればUPするかもしれません。



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