イタちゃんと日本さん





 いい加減お昼ご飯を食べねばならぬ。
 
 本日は完全な休養日。なにもせずにだらだら過ごすと心に決めていた日本は、朝から新作アニメDVD-BOXの制覇を始めていたのだが、さすがに昼も過ぎればお腹がすいてきて、仕方がないとのろのろと立ち上がった。
 正直食事をするのも面倒である。
 なぜに人は食べ貯めができないのか。美味しい料理がある時に、満腹感や食べ過ぎを気にすることなく思う存分食べ、面倒な時にはストック燃料補給という形で食事を抜くことができれば随分合理的だと思うのだが。
 そんなことを考えながら台所へ向かう。
 ああ、献立を考えるのも面倒だ。
 食道楽のきらいがある日本ではあるが、現在彼の関心は一時停止しているアニメの上にあり、それ以外のことを考えるのは億劫だった。
 だから目についたもので何も考えずに済む献立に決定し、身体が覚え込んだ手順をなぞっていく。
 あの話の続き、自分なら……などと意識を飛ばしながら、とりあえず切って炒めるだけの工程を機械的にこなしていると、不意にガラガラガラと玄関が開く音とともに聞き慣れた声が聞こえた。
「日本〜! 日本〜! 遊びに来たよー」
 賑やかな呼び声と共に、台所に現れたのは、イタリアだった。驚きに眼を瞠った日本だが、「久しぶり!」と抱きつくイタリアの明るい笑顔に、つられて笑顔を浮かべる。
「これはイタリア君、いらっしゃいませ。今日はお一人なんですか? ドイツさんはご一緒ではないのですか?」
「ドイツはねぇ、今日は来ないんだよ。俺だけなんだぁ」
 聞けば上司と共に用事のある隣国まできていて、帰りに彼だけこちらに寄ったのだという。
 そんな説明の最中、チンと鳴った電子レンジを慌てて開けると、イタリアは眼を輝かせた。
「ねぇねぇ、それってパスタだよね〜? なんで電子レンジから出てくるの?!」
「おや、これは恥ずかしいところをお目にかけてしまいました」
 確かに手にしているものはイタリアのソウルフードであるパスタではあるが、日本が現在とっている調理法はある意味邪道。鍋で湯を沸かす従来の方法ではなく、電子レンジで麺を茹でるという手抜き法である。
「ええと、うちではレンジでパスタを茹でる容器を売っておりまして。これは規定量まで水を入れ、通常の茹で時間に5分足したら茹で上がる仕組みになってるんです。水からですからお湯をわかすのに比べて光熱費もかかりませんし、茹でてる間にソースや具材を準備したらすぐに食べられる案配ですので、料理時間も短縮されます。それに何よりも楽なんですよ」
 少々弁解がましい日本の言葉に、
「えええーいいなぁ、そんなに早くパスタが茹でれるんだ! お湯沸かすのに時間がかかるんだよね〜」
 俺いっつもお腹すいちゃうんだよーとイタリアは眉を下げて見せる。
 その反応に、日本は内心ほっとする。料理くらいはきちんとせねば、と思う日本にとって、この手の器具は少々良心(というよりプライドというべきか)が痛む代物なのだった。
「いいなー俺も買おうかな! お腹すいたらすぐパスタ〜素敵だよぉ〜!」
「3ユーロくらいで買えますから、後で買いに行きましょうか?」
 と日本が提案すると、イタリアは目を輝かせた。
「3ユーロですぐパスタ! 絶対欲しい!」
「じゃあ、お昼ご飯を食べてしまいましたらぜひご一緒に。お昼ご飯、一緒にいかがですか?」
 面倒だから夕飯分も冷製パスタにして作り置きしておけ、との目論見のおかげで量には不足ない。
 わーい! と喜ぶイタリアは、ふと思い出したように呟く。
「あ、でもうち電子レンジないんだった……」
「え?! イタリア君のおうちでは電子レンジは使われないのですか?!」
「うん、うちんちではあんまり電子レンジって使わないんだよね。・・・・・・電子レンジから買おうと思ったら3ユーロじゃすまないよね?」
 がっくりと肩を落とすイタリアに言葉に困る。
 とりあえず確実なのは電子レンジは3ユーロでは買えないだろうということだけだった。
 



   


電子レンジでパスタを茹でる容器、めっちゃ重宝。
お湯を沸騰させてから投入すれば、素麺もすぐにできます。野菜も茹でられます。
しかしイタちゃんちは電子レンジをあまり使わないんだそうで。
これイタリアに持って行ったら売れるんじゃね? と思ったものの、電子レンジがなきゃ意味がないなとがっくりでした。




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