はぐれ組





「はい、日本。お土産だよ」
「いつもありがとうございます」
  恒例の世界会議の昼休み、アメリカから嬉しそうに紙袋を受け取った恋人に、イギリスは中身を尋ねた。「お菓子ですよ」と答えるその言葉がにわかに信じられず、問いを繰り返せば、百聞は一見にしかずとばかりに、彼は中を開けてみせる。紙袋の中には確かに見覚えのあるオレンジ色のパッケージがぎっしりつまっていて、その量に思わず眉を顰めるが、そんなことよりも信じがたい事実を思わずイギリスは口にした。
「お前……アメリカんちの菓子……食べれたのか!?」
  驚愕も顕わに瞠目するイギリスに、「失礼だな! イギリス!」とアメリカは頬を膨らませる。
「日本は俺んちのチョコレートが大好きなんだぞ!」
「アメリカさんのおうちのこちらの製品は好きなんです、私」
  否定はしないまでもあくまでもこれに限ると言い添える日本は、ぎっしりと重い紙袋を手に実に嬉しそうな笑顔でアメリカにお礼を述べている。
  美味しいものを前にした日本の笑顔は実に幸せに満ち満ちて、見る者をも笑みに誘う可愛らしさだ。その満面の笑みが自分以外に向けられるのは、イギリスにとって面白いものではない。
「なんだよ、そんなにこのチョコレートが好きなら、俺んちでも売ってるからもってきてやったのに」
  だからつい口にした言葉に返ってきた反応は、予想外のものだった。
「ええええー! な、なんでイギリスさんちで売ってるんですか!」
「お、俺んちだけじゃないぞ、確か香港のうちでも……」
  殺気すら湛えて詰め寄る日本の態度は一体どうしたことか。なぜどこでも売っているようなこんな駄菓子ごときで、最愛の恋人から射殺されそうな眼で睨まれねばならぬのか分からぬまま、慌てて弁明の言葉を紡げば、彼の攻撃の矛先は、元凶へと向けられる。
「ちょっと、アメリカさん! どういうことですか?! 前に輸入させて下さいって何度も頼んだのに、ダメだって断られたのはあなたでしたよね?! それなのにイギリスさんちには輸出してるって、それどういうイジメですか!」
「えーだってこれを君んとこに輸出したら、おみやげに持っていくものがないじゃないか」
「そんなことのために……私の愛するReese'sを……」
  ずんと暗いオーラを背負い、ぐすん涙を拭う姿に、アメリカは(なんで余計なことを言うんだよ、イギリス!)と恨みがましい目を向けると、慌てて弁明をはじめた。
「だって君がおみやげは毎回このReese'sがいいって言い張るんだからしょうがないじゃないか!」
「だからってイギリスさんや香港君には輸出して、うちにしないなんて酷いです!」
「だ、だいたい、日本は我儘なんだぞ! 前にオレが美味しいんだぞっていってテディベアのグミをボトルでもってきてやったのに、結局ちょっとしか食べなくてReese'sがいいって言うし……」
「それとこれとは話が違います。大体あのグミのあの色、どう考えても……」
  子供のような喧嘩を会議室のど真ん中でおっぱじめる大国二人に、疎らながらも部屋に残っている国々が驚いたように注目し始める。
  菓子ごときで罵りあいなど、さすがに外聞が悪かろう。
「あー日本……お前がそんなにこれが好きなら、毎回持ってきてやるから機嫌直せよ」
  とりなすように声をかけると、はっと我に返ったのか、日本は涙を拭き、首を振った。
「いえ、いいのです、イギリスさん。Reese'sならよそでも食べられます。(主にそこのメタボ経由で) それよりも私はイギリスさんとこのショートブレッドが好きなのです。あのなんとも言えないほろりとした歯触り、噛みしめるとじんわりと口の中に広がるバターと塩の風味、ああ、思い出すだけでうっとりとしてしまいます。クロテッドクリームと苺ジャムたっぷりのスコーンも捨てがたいですが、海外で食すとなるとイギリスさんちの紅茶とあれほど合うお菓子は Walker'sのショートブレッド以外にないと思うのです。ですからお土産に頂けるのならばぜひ、Walker'sのショートブレッドでお願いします」
  自国が世界に誇る伝統菓子を絶賛され、イギリスは頬を染める。
「そ、そうか、まぁアレだな、その、あー……お前んちに輸出していない、チョコ掛けのショートブレッドとか、レモン味のとかあるから、ど、どうしてもっていうんなら、持っていってやらなくもないぞ」
「本当ですか?! ショートブレッドにチョコレートって魅惑のコンビネーションですね、素晴らしいです! ぜひお願いします!」
「じゃあ次回はそれを持って行こう。Fortnum & MasonやWhittardもショートブレッドによく合うが、俺のお奨めは……」
  すっかり口論をうっちゃって、二人だけの世界を作り出すイギリスと日本に、放置された形になったアメリカは顔を引き攣らせた。
「ねぇ、ちょっと君たち、人を無視ししてラブラブな空気作らないでくれないかな? 正直暑苦しいよ! ちょっと離れなよ! ねぇ、聞いてる?! ていうか、お土産もってきてやったの俺だよね? わかってんの、日本?! ねぇ日本ってば!」
  だがしかし。
  そんな抗議が食べ物の話になると近視眼になる日本と、こちらは恋人を前にするといつだって視野が狭いイギリスの耳に届くはずもなく。
  アメリカの抗議はさっくりと無視されたのだった。
 
 
 
 
     
 
  単に管理人がReese'sが好きなんだよ、コンチクショー! というだけの話。
  Reese'sとは薄いマドレーヌ状のチョコレートにピーナツバターが挟まっている駄菓子。メリんちで昔から売っている定番のお菓子だけど、日本では見かけない。(沖縄の某店にあるという情報は有り) 今年はメリんちに行ったので知らない新製品がたくさん買えてテンション上がりました。こ、こんなに種類が出てるなんて知らなかったよ……! オレンジ色ということもあり、ハローウィンばらまき用のお菓子の定番でもあります。(秋限定カボチャ味もあるらしいよ! 食べたこと無いけどね!)
  ちなみにイギんちのお菓子の定番はショートブレッド。こっちも大好き。でもクッキーとして一番美味しいのはベルさんちのJULES DESTROOPERだと思います。両方日本でも買えるので嬉しい限り。



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