2011/3/12 USA
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腕を小さく揺すられ、アメリカは浅い眠りから眼を覚ました。
隣に座る部下が眉を顰めている。
こんな時に居眠りを、と怒る部下の気持ちも分るが、眠いものは眠い。クリアな頭で適切な判断を下す為には、細切れでも休息は必要だ。なにしろ日本で起きた地震の一報が入ったのが、午前2時前。眠り端に強い衝撃を受け飛び起きてから一睡もしていない。昨日からほぼ30時間起き続けていることになる。
タイメックスの腕時計に眼をやる。針は先程から5分進んだだけだ。
だが、そんな短い眠りでも、さきほどよりも随分と気分が上向いていた。
夢を、見ていたのだった。
桜並木を日本と二人で歩いている。
歩くのが遅い日本の手を引っ張るようにして先を歩く常とは違い、桜ばかり見上げて足下が疎かになる彼が転ばぬよう、この季節ばかりは彼の後ろを歩く。
着物姿の日本がひらりひらりと舞降る花びらを、手のひらで受け微笑む。
不意の春風が花びらをピンクの渦のように巻き上げ、驚いた顔の彼が乱れた黒髪を押さえた。
その姿に思わず大声で笑って日本を怒らせた、あれはいつのことだっただろう。
あの並木は Shinjyuku だったか Ueno だったか。
それとも名もない小さな通りか。
春毎に繰り返し百年以上重ねてきた記憶の中から、それがいつのものであったかを見つけ出すことは難しい。
今度は強く、腕を小突かれた。
またぼんやりしていたのを見咎め、部下が怖い顔で睨んでいる。
今でこそ略綬を所狭しと胸につけ、厳つい顔の叩き上げの筋金入りの鬼上司と彼の部下達からは畏れられている存在ではあるが、まだ紅顔の少年兵だった頃彼を知っているアメリカからすれば、そんな怖い顔をしても微笑ましいだけだ。
にやりと笑ってみせるが、厳しい顔を崩さないその姿に、ああ、そういえば、と思い出す。
彼と初めて会ったのは、Camp Zama だった。
ベトナム還りの彼はけして口にはしないものの、彼の地に友情に近い情を持っているのをアメリカは知っている。
それだけに今のアメリカの態度が不謹慎に思え、腹立たしいのだろう。
(分ってるよ、別に不真面目なわけじゃないんだ)
そう眼差しで伝えれば、鋭い眼光が幾分緩んだ。
視線を翻す壇上では若きリーダーのスピーチが始まっている。
”……images of destruction and flooding coming out of Japan are simply heartbreaking. Japan is, of course, one of our strongest and closest allies, and this morning……”
最も強固で、最も緊密な同盟国である、日本――
「他国からの援助状況はどうなっているんだ?」
「韓国の調査隊5名がいち早く、本日夕刻、被災地入りするとのことです。こちらは外交通商部職員で構成され、自国民保護と情報収集のためと表明しています。正式な救援隊は要請があれば出動させるとのこと。他、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、トルコ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、タイ、中国からの救援隊が向かっているそうです。
義援金はタイが1400万円 、中国1000万円。なお台湾は議会の承認が下り、当初2500万円を2億5000万円に増額させ、こちらは救援隊も待機させています。それからロシアは天然ガス15万トン、救援隊200人も待機済という情報が入っております」
「ふーん、……この間GDP世界2位になったChina っていうのはRepublic of China だっけ?」
「いえ、確かその前に People's が付く方の Republic of China だったと認識しておりますが」
からりと明るい声で放つ皮肉に、部下は律儀に訂正をいれる。
大好きな日本のためにと、あの小さな国も随分と張り込んだものだ。
国として認めてもらえていないだけに、アピールに必死なのか。どれだけアピールしても中国の手前、日本は見て見ぬ振りを貫き通すに違いないのに。
それとも中国を刺激する意図でのことか。
体面を何よりも重んじる大国は、彼女の支援の前に、現状のままというわけにはいかなくなるだろう。
それも見越してならば、相変わらず顔に似合わず強かである。
「でも世界のヒーローは俺なんだぞ! 俺よりすごい援助をする国はないさ! なんてったって空母だからね!」
「ロナルド・レーガンは明日日本に到着、追ってエセックス、ブルーブリッジも合流の予定です。しかし……兵の数が多すぎないでしょうか?」
「No Problem! どうせ演習中だったんだ、演習どころか実習できてちょうど良いじゃないか。それに1日のランニングコストが何億かかるかわからない代物だ。ただ遊ばせているよりはせいぜい派手にアピールして、しっかり恩を感じてもらうべきだよ」
「確かに、良い機会ですな」
名目はなんでもいいのだ。
要は支援が出せればいい。
リーダーができうる限りの援助をと言ってはいても、足を引っ張る馬鹿はいないと限らない。そんな勢力を納得させられるだけの名分があればいいのだ。
それにこの機に乗じ、ロシアや中国が出張ってくる可能性もある。
こと、ここのところ力をつけ空母を造り海軍力を増強している中国は、日本の保護者面をする機会を虎視眈々と狙っている。
中国にしろ、イギリスにしろ、どうして兄と自称したがる者達はあんなに鬱陶しいのだろう。
今頃日本を心配して気も狂わんばかりになっているであろうイギリスを思い浮かべ、アメリカは得意な気持ちになった。
どんなに心配しても、彼は友好国として以上の支援をすることは許されない。
そこで見ていればいい。どんなに歯噛みしても、呪っても、今の日本の同盟国は、この俺だ。
「そういえば今回の作戦名が決定したそうです。”Operation Tomodachi” とのことです」
「Great!」
(大丈夫だよ、日本。君には世界の Hero で tomodachi のこの俺がついてる)
冬が終われば春が来る。
春は桜の季節。どんな災害が襲おうと、桜の花は綺麗に咲く。
きっと今年は桜を愛でる余裕など、日本にはないだろう。だから桜の季節には家まで遊びに行って、今年だけは彼の手を引いて一緒に桜を見に行こう。
そしていつか時が流れ、今のこの時が昔のことになったら、こんな年もあったね、と一緒に桜を見ながら話すのだ。
TwitterでRTされていたツィートより
「アメリカにいる、おれは、 これを伝える義務があると思う。今日、何人に励まされたかわからない。『災害は、すごく、悲しい事だけど、強い日本だったら、絶対に越えられる!』『踏ん張れ!』『冬のあとは、春がくる。幸せそうに桜をみてる日本人を、おれらアメリカ人は見るのが好きなんだ』まじ泣けた。」@japanese_juke
「日本は必ず立ち直る」とオバマ米大統領
http://news.goo.ne.jp/article/gooeditor/world/gooeditor-20110312-01.html
韓国さんの対応チーム現地入り
http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2011/03/12/0200000000AJP20110312000300882.HTML
台湾さん、義援金を2億8000万円に増額
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201103/2011031200569
中国さん、追加援助物資3億7000万円
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819481E3E6E2E1838DE3E6E2E1E0E2E3E39793E7E2E2E2
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