1902/1/30 日英同盟



(同盟を組んだということは、友達になったっていうことでいいんだよな……?)

 花束を片手に押し掛けて、死ぬほど驚いたり、意気消沈したり、舞い上がったり、実にすったもんだの末、イギリスは日本と同盟を結ぶことになった。
 怒濤の勢いで調印までこぎつけ、さて周囲にお披露目を、とるんるんわくわくしながら略式ながらも盛装して日本を迎え入れたイギリスは、「昨日はどうも」とたおやかに東洋風のお辞儀とやらをする日本を前にふとそんな疑問を浮かべた。
「お、おう。よく眠れたか?」
「はい、おかげさまで」
 イギリスはそのつもりだったし、ここ西洋の考え方では『同盟=友達になる』というのが常識だ。
 だがいかんせん相手は文化風習の違う東洋の、しかもつい先日まで鎖国とやらで島の中で引きこもり他国との交流を避けてきた国なのだ。この間訪問した時、初めて深く話し込んで、なかなかしっかりした考え方をする国だと感心したが、裏を返せばその程度の付き合いでしかなく、まだまだ相互理解を深めたとは言えない間柄である。

(こいつはどう思ってるんだろう?) 

 今ひとつ何を考えているのか分らない彼は、自分と友達になったという認識はあるのだろうか。
「じゃあ行くか」
「はい、ええと……どちらにですか?」
「他の国のやつらに俺たちが同盟組んだことを教えに行くんだよ」
 些かの不安を覚えるイギリスだが、「ああ、なるほど。よろしくお願いいたします」と嬉しそうに日本が向けた笑顔に、泣きたくなるような感動を覚えた。
 思い起こせば幾星霜、自分にこんな信頼しきった笑顔を向けてくれたのは、あの可愛かった頃のアメリカしかいなかった。アメリカはあっという間にでっかくなって可愛げのない態度で離れていったが、日本は違う。彼はみずから望んで、自分と同盟を組んで、こうして笑顔を向けてくれているのだ。

(お、俺は、もう、友達だと思ってるし、むしろ、親友!! って呼んでやってもいいくらい、こいつとは気が合うと思うし……!!!)

 親友という言葉にかーっと頭が沸騰する。
 東洋と西洋に分かれていても、同じ島国。
 礼儀正しく向上心があり親切な彼とは絶対に絶対に気が合う。いや、合わないはずがない!

(そうだよな、こいつんちでティータイムに呼ばれたわけだし、薔薇もすごく喜んでたし、き、昨日だって、うちに泊まったし! 同盟結んだ仲だ、親友って言ってもいいよな、もう! あー……でも待て待て)

 イギリスは親友だと思っているが日本はどうなのだろうか。
 まだ友達だと思っていたのに、自分がいきなり親友と言ったら呆れたりしないだろうか。
 たかだか同盟を結んで初日なのに親友なのか、随分と安売りな親友だ、と低くみられたりするんじゃなかろうか。
 それは困る! それは嫌だ!
 だが逆に彼は親友だと思っているのに、自分が友達と言ってしまったらそんなものなのだろかと引いてしまう可能性もある。

(友達……親友……どっちって言えば良いんだ?!)

「あの……イギリスさん?」
 本人にとっては深遠な命題に難しい顔をして悩みこむイギリスは、恐る恐るといった態でかけられた声にはっと顔を上げた。
 見れば困惑した日本が、こちらを伺っていた。

(まぁ、なんだ、その、親友とか友達とか後で二人でゆっくり話してこいつの意見も聞いてみればいいわけだしな、とりあえずは違う言葉を使っとくか)

 こういうことは自分だけが先走ってはダメなのだ。なにしろこれから彼との時間はたくさんある、と舞い上がりそうになる自分にブレーキをかける。
「すまない! ええと、行くぞ!」
 慌ててぐいと手を掴み引いたところで、その不躾さに気付きちらと伺えば、顔を赤くし眼を泳がせた日本がそれでも笑顔を向けてくれる。
 


(か、かわいい……!)

 ちっちゃくって細くて、こんな可憐な笑顔の主が俺の親友だなんて!
 これはもう俺が守るしかないだろう!
「お前ら道開けろー! 俺の相棒が御通りだーっ! ちょっとでも手ぇ出してみろ! 次の日(噂で)ぼこぼこにしてやる!」

(相棒……良い響きじゃねぇか!) 

 こちとら国力だけはあるのだ。ついでによくまわる知恵も、世論を操作する手管も、他国にかける圧力だって他のヤツらに負けない。

(絶対に同盟を組んだことを日本に後悔させないからな!)

 そう自負するイギリスではあったが、もうその時点で (こんな辱め……恥ずかしすぎます…) と日本が早々に後悔していることなど、知る由もなかった。


   




竹林の日英同盟のイギのテンションの高過ぎと、にったんの居たたまれませんな表情がたまらんです! んでもって「なんで相棒なの?」と。 「相方」だと完璧なのにねぇ(笑)



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