10/31 Hallowe'en



「Hey、日本! 楽しんでるかい!」
「ええ、お気遣いありがとうございます、アメリカさん。今年も随分と盛況ですね」
「勿論さ! ヒーローのこの俺が主催してるんだからね」
 今日はハロウィン。アメリカ邸では毎年恒例のハロウィン仮装パーティがひらかれている。
 毎年このパーティはトルコの誕生日のパーティの直後というハードな日程となっており、正直出席だけでも面倒な行事だった。しかし同盟国、友好国として、パスするわけにもいかない。
 それに日本はこのパーティのお菓子の供出要員であり、参加する国達の間でも日本の菓子はとても人気なのだ。中には日本の菓子を目当てにこのパーティに参加するのだと豪語する者もいるほどである。ならばとせっせと旧作から新作まで各種オススメ日本菓子を準備し、その結果さながら日本製菓の見本市のようになっている。
 まぁアメリカさんが満足ならいいですけどね、と内心肩を竦める日本の横から、狼男の扮装をしたイタリアが、アメリカの持つ小道具を突く。
「ねぇ、アメリカ、そのチェーンソーってほんとうに動くの?」
「もちろんさ! 試しにその椅子切ってみせようか?」
「お前の家のものだから切るのは自由だが、破片が飛び散るし音が煩いだろうからやめておいた方が良いんじゃないのか」
 こちらも同じく狼男の扮装のドイツが嗜めるのを眺めていると、いつの間にか近づいたフランスが日本に声を掛けた。
「その格好すっごくいいね! 狐ってことはお稲荷さまのコス?」
「ええ、まぁそのようなものです。フランスさんも格好良いですね。何の仮装なんですか?」
「俺? 俺はねぇ一応洋館に住み着いたゴーストってことにしてるんだ。本当はコテコテに吸血鬼辺りをやろうかと思ってたんだけど、ほらあの坊ちゃんがやるっていうし、被るのは勘弁して欲しくてさ」
「ああ」
 思わず視線を流す先には、鮮やかな青マントを翻し、ステッキを片手に持つイギリスがいる。すらりとした長身に映える紳士然とした格好に思わず目許が緩む日本を見てとったフランスはニヤリと笑った。
「あの馬鹿がどうでも吸血鬼の格好をしたがったのは、絶対日本相手に吸血鬼のシチュエーションプレイを狙ってだと思うから、くれぐれも気をつけてね。Trick or treat! とか言ってご無体されないように。あのエロ眉毛のことだから、Trick を選んだら悪戯するだろうし、Treats を選んだら甘いものとか言って日本のこと美味しく頂く気だと思うんだよね☆」
「フランスさん!」
 こんな所でなんてことを言うんですか! と日本が赤くなると、後ろから「そうだぞ!」といつの間に話を終わらせたのか、アメリカも加勢をする。
「随分自慢げに犬歯を見せてたけど、あの牙に噛みつかれないように気をつけるんだぞ! 奴に噛まれたらあの眉毛の呪いにかかるからね」
「そんなまさか……」
「いいや、あの眉毛は感染するんだぞ! 香港だって、オーストラリアだって見てみなよ! イギリスとずっと一緒にいたせいで、あんな可哀想な眉毛になっちゃってさ」
 指さす先の某ゲームキャラの仮装をしている香港の眉は、確かにイギリス譲りの立派なものだ。
「大体俺がさっさと独立したのは、イギリスみたいな眉になりたくなかったからというのもあるんだぞ」
「そうそう、カナダは俺が守ってたから幸いあの呪いからは逃れられたんだよね」
「ちょっと、フランスさん! 放してよ〜」
 腕を組んでうんうんと頷くアメリカの横で、フランスはマッドハッターの仮装をしているカナダを抱き寄せ、嫌がられている。
 落ちそうになる帽子を押さえながらフランスに口を尖らせるカナダの眉は確かに細い。
「ということで今夜のベッドでは吸血鬼の牙には気をつけてね、狐さん」
 イギリスとカナダを見比べる日本に、にやにや笑いながらフランスはそうのたまった。



「……と言われたんですけど」
「なんだよそれ。信じてんのかよ、そんな馬鹿げた戯れ言」
 呆れとも怒りともつかぬ表情を浮かべるイギリスに、日本は曖昧な笑みを浮かべた。
 勿論そんな非科学的、非現実的な話は普段ならば信じるはずもない。
 だが、今日はハロウィン。一年のうちで一番魔力が強まる日だ。
 普段からたまにとんでもない魔法をかけて、他国を混乱に陥れるイギリスの魔法の威力が強まるとなると、どんなことが起こるか分からない。噛みつくことで相手の眉毛を太くすることくらい、簡単にしそうではあった。
「そんなことより、俺はこの尻尾が気になるぞ」
 おもむろに尻尾を撫で上げられ、日本は思わず腰を浮かせる。
「パーティ中もたまにゆらゆら動いたり、ピンと跳ねたりしてたよな。魔法の匂いはしないようだが、一体どうなってるんだ?」
 トンと軽く押されて、床に膝つく体勢になった日本は、眉を寄せた。
「それは企業秘密です」
「ふーん……分からないものは基本分解して調べるべきだよな」
 そういうなり、襟首に手を掛け、ぐいと肩を露わにするイギリスを睨む。



「ちょ、やめてください!」
「勿論抵抗しても良いんだぜ、狐狩りはうちの伝統だしな。久しぶりに狩りも一興だ。ちなみに言っておくが、俺は狙った獲物を逃がしたことはないぞ」
 吸血鬼の犬歯を見せてにやりと笑う姿は、腹立たしいほど格好良い。
 不覚にも赤くなった日本は、
「アメリカさんちなんですから、変なことはしないでください!」
 と慌てて牽制する。
「もちろん、変なことなんてするわけないだろう」
 鷹揚に頷いたイギリスだが、続けられた言葉は引っかかりを覚えるものだった。
「今日はハロウィンだからな。Trick と Treat のどっちかだ」
「……悪戯と甘いものの違いはなんですか?」
 嫌な予感を覚え、恐る恐る訊ねた質問の返答は単純明快だった。
「Trick は合意なし、Treat は合意ありだな。というわけで Trick or Treat?」
「そんなのどっちも嫌です!!」
 どっちも嫌なら両方だぞ、と押さえつける腕からじたばた逃れながら、フランスの推察の鋭さを思い知った日本は、となれば吸血鬼の牙の呪いもあるいは、と青くなり、本気で逃げるべく身体をばたつかせたのだった。


   




ハロウィンと言えば菓子と仮装。
イギの吸血鬼にもにったんのお狐様にも萌たぎりました。
でもってゆずさんのハロウィン絵を見て、ええ、これは書かせていただきます・・・! と(笑)
このイギ、超ノリノリでセクハラだと思うんですが、まぁにったんが可愛いからいけないんだよねー。うん。



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