:: 時間軸は「sweet sweet sweet」
  (「同盟軍日記」収録)の少し前です。






深夜の料理人 / 後編
7つの皿





 
「そうは言うがな、シュウだって皆のこと考えて、色々動いてくれてるんだぞ。一生懸命働いてるヤツの陰口を言うのは男らしくねぇなぁ」
「テツ殿」
 いつの間にか戸口にいたのは、風呂の主人テツだった。
「だって事実じゃない。それに男らしくないって言われても、アタシは女だってば」
 口を尖らせるアニタにじろりと視線を流したテツは、どしりと椅子に腰掛けるとぴんと張った背筋で腕組をする。
「なんだかんだ言うが、シュウは良いヤツだぞ。おめぇらが酒かっくらってる間も夜遅くまで仕事してんのは、あいつら軍師達だろうが。そんなヤツを悪く言っちゃいけねぇ。それにあれでいて意外と素直な所はあるし、風呂だって皆の息抜きの為にと、いつも最高の湯質を保つよう援助してくれてんだぞ」
 すっぱり言い切ったテツは、見た目と違わず侠気溢れる正義肌だ。 
 自分が言おうとしたことを代弁されたマイクロトフは黙して微かに微笑み、アニタは苦笑して「悪かったよ」と両手を挙げてみせた。
「なんだよ、結局風呂オチかよ。って、今日の風呂は?」
 突っ込みを入れたシロウに、風呂が沸いている間は片時も番台を離れない職人気質の男は首を振った。
「ちょっと早いが今日はもう店じまいだ」
「ええええー俺、今から入ろうと思ってたのによぉ」
「馬鹿いえ、酔っ払いに入られて溺れでもされちゃ迷惑だ。自分とこの風呂で我慢しとけ。・・・それよか、いいもん食べてるな」
 ひょいと、傍で箸を使うツァイの皿を覗き込むテツに、
「ええ、マイクロトフさんが作ってくれたんですよ。一緒に食べられますか?」
 早くも半分近く平らげた皿をツァイは差し出す。
「おめぇさんの分取っちゃ申し訳ねぇ。どうせそれが今夜の夕食なんだろ?」
 この厨房の深夜の客分として常連らしき男達は、お互いの動向をよく理解しているのだろう。ははは、と頭を掻いたツァイに皿を戻すと、
「おい、兄ちゃん、悪いけどちゃちゃっと飯だけよそってくれねぇかな。どうもここは勝手が分からなくてな」
 そう困ったようにマイクロトフに片手で拝む真似をするテツに、もう会話の流れの先が見えていたマイクロトフは苦笑した。
「どうせでしたら何かお作りしましょうか?」
「作ってもらえばいいじゃん。マイクロトフ、本当に料理上手いんだよ」
「いやぁ、忙しくしてるとこ申し訳ねぇ。飯だけでいいわ。適当に茶でもぶっかけて食うってもんよ」
「では極々簡単に茶漬けでも」
 綺麗に生地を流した焼き型を石釜に放り込んだマイクロトフは、手を洗うと保冷箱に収めてある櫃を取り出す。
「すまねぇな、兄ちゃん。ところでおめえらはここで何してんだ?」
「うちらは酒飲んで、なんとなく・・・な?」
「そうそう、んでマイクロトフの料理を食べさせてもらったとこなのさ」
 幾分酔いが醒めてきたらしい三人は、最初に訪れた時よりも随分とはっきりとした声で受け答えをしている。それを聞きながら、マイクロトフは冷飯を器に盛ると、同じく保冷箱の中にあった中瓶の中身を人差し指で確かめ、魚出汁を小鍋に少量、水を足して張ると火にかけた。
「んで、こっちの嬢ちゃんは? 具合でも悪いのか?」
 微動だにせず顔を伏せて眼を閉じているニナに首を傾げ、「大丈夫か?」とテツが声を掛けるが、件の少女は聞こえていないかのように反応を返さない。
「どうやら具合が悪いらしいですよ。寝かせておいてあげてください」
 三分の二は平らげた皿を「それでも」とテツに差し出しながら告げるツァイに、「すまねぇな」と今度はどこぞから引っ張り出してきた箸で相伴に預かり始めるテツは、
「寒いんだったら風呂沸かしてやるんだがな」
 と心配そうな視線を向けた。
「あーテツ爺横暴! 若い娘っ子相手だからってえこひいきかよ!」
「じゃーかぁしい!」
 同郷の誼でか遠慮会釈無いシロウの抗議に、テツはぎろりと睨む。
「酔っ払いと病人を一緒にすんじゃねぇ! 古来から病気の時には風呂に入って治す湯治っていう立派な治療法があんだよ。熱い湯につかりゃ・・・」
「・・・とぉさん」
 不意に聞こえた小さな声に、テツの力説が止まった。
 微かな声の主は、闇に紛れてしまいそうな小柄な少女のものだった。
 洗いざらしの木綿の質素な夜着に、いつも結んでいる黒髪を下ろしたトモが、ふわふわと覚束ない足取りで入ってくる。
 意外な珍客に黙って注視する大人達の視線に気がつかないのか、父親の傍まで辿り着いた少女は、娘の姿に立ち上がったツァイの腕をきゅっと掴んだ。
「遅くまでお仕事してると、かあさんから叱られちゃうよ。もう寝ようよ」
「そうだな、もう寝ないとな」
 真夜中に薄着で歩き回る娘を叱るでもなく、その頭を優しく撫でたツァイは、マイクロトフに礼を言い、テツに料理の残りを譲ると娘の手を引いて帰っていく。
 あっけに取られて、生挨拶で見送った一同は、もう慣れているのか驚いた様子もなくツァイの残した料理を平らげていくテツに説明を求める。
「今の何? なんか、変じゃなかった?」
「俺達のこと完全無視だったよな?」
 いつもなら父親に似てか至極礼儀正しいトモが、同じ場に集う大人達に挨拶もなしで済ますはずがない。
 足取りや眼差しからして危うげだった少女の訳を問えば、がりがりと頭を掻いたテツは肩を竦めた。
「ツァイ曰く、寝ぼけてんだそうだ。子供の頃からああやって、夜遅くまで仕事してる父親を呼びにきてたんだとさ。本人は、寝ぼけてのことだから全然覚えてないらしい」
「そりゃすごい寝ぼけ方だなぁ」
 呆れたように感心したように呟くシロウの言葉に、マイクロトフも内心同意をしつつ微かな危惧を抱いた。いくら城の中でも、真夜中に幼い少女が一人歩きするのは感心しないことだった。無意識とはいえなんらかの対処をすべきでは、と流れ始めた彼の意識は、続けられたテツの言葉に止まる。
「まぁ、それも小さい頃の話だったってことだから、最近のは恐らくあれだな」
 渋い顔で何事かを示唆する男に、容易にそれを察したのだろう。
「ああ、もしかしてこの間のグリンヒルがあの子の初陣だっけ?」
 軽い口調のアニタは、「だったらちょっと今不安定なのかもね」と頷いた。
「トモ殿も、この間の戦に参戦されていたのですか?」
 問い尋ねるマイクロトフの堅い声に、「ああ、そういえば別部隊だったっけ」と首を傾げたアニタは、
「そうそう、ツァイの部隊でね。あの子夏頃に来たから大きな戦はこれが初めてだったんだよ」
 と首肯した。
 歳の割りに小柄なトモは、マイクロトフの胸に届くか否か程の背丈しかない。
 殊、先ほどの冬の闇の中に佇む常より幼く頼りない姿は大人の庇護欲を刺激するもので、今しがた見たそんな少女を過酷な戦場に立たせるなど想像だけでも胸が塞ぐ。ましてや、そのせいで夢遊病に近い症状まで出ていると知れば、それは胸が痛むどころではない衝撃だった。
 厳しい表情で何事か考え込みながら黙って手だけを動かしているマイクロトフの様子に、仲間達は顔を見合わせる。そして、彼らしくもなく仏頂面で言葉少なに料理の碗をテツに差し出すと、アニタが宥めるような声をかけた。
「そう深刻に考えすぎんじゃないよ、マイクロトフ。私だって初陣は十七だったしね。最初はちょっとショックだったけどそのうち慣れたな」
「アタシは幾つだったかもう忘れたくらい昔だねぇ。まぁ、いきなり大きな戦に出たわけだから少々びっくりしたかもしれないけどさ、父親だって一緒だったんだしねぇ」
「しかし、トモ殿のような方に剣を持たせない為に、我々騎士がいるのですが・・・」
 戦力不足のこの同盟軍においては、詮ない繰言だと分かっている言葉を吐けば、ずずずと茶漬けをかきこんだテツが口を開いた。
「おめぇさんの気持ちも分かるがな、トモだって別に強制されて戦に出たわけじゃねぇ。守りたいものがあるから、戦うことを選んだ。ただそれだけのことだろう。それはおめぇさんと同じじゃねぇのか」
 過剰な同情や批判はむしろ少女への侮辱へ繋がるという示唆に気がついたマイクロトフは、未だ堅い表情ながらも「そうですね」と頷いた。
 大人の目から見れば、まだ庇護すべき子供でも、それぞれ独立した想いをもって行動しているのだ。それを痛ましいと咎めだてるよりはむしろ、できるだけ彼らを想いと心を守るよう行動するのが自分達のとるべき道だとは、この同盟軍に来てマイクロトフが悟ったことだった。
「しっかし子供って可愛いよね。寝ぼけてても親のこと心配して呼びに来るなんてさ」
「父親冥利に尽きるってもんだよな」
「ということで、・・・マイクロトフ」
「・・・はい?」
 綺麗に並べた煮林檎の上に丹念にパイ生地の覆いを被せていく作業をするマイクロトフの返事は、心ここにあらずだ。
 石釜に収めて鉄扉を閉じ、やれやれと息をついた途端、がしりと粉に塗れた右手を両手で握りこんだアニタの言葉に、マイクロトフは眼を丸くした。
「やっぱりアタシと結婚しよう」
「・・・はぁぁ?」
「アタシもあんな可愛い子欲しいんだよね。綺麗な黒髪に、雪のような白い肌。絶対アンタとアタシの子なら可愛いに違いないよ」
 先ほどのプロポーズと同じくどこか怖い満面の笑顔でずいと身を乗り出され、マイクロトフは思わず一歩下がる。
 この程度で怯むなど、怖いものなしのはずの青騎士団長の名が廃るという思いがちらりと過ぎれど、うふふと不気味な笑みを洩らしながら迫ってくる女剣士の姿は正直腰が引ける妙な迫力があった。
「いや、大変申し訳ないが、自分は結婚などということは考えていないので、俺は折角なのだが遠慮させて・・・」
「そりゃカミュー相手じゃ結婚なんてしたくてもできないだろうけどさ。正直顔と剣の腕と床具合は劣るかもしれないけど、胸の大きさはアタシの方が上だし、子供が生めるという特典はお買い得だよ」
 真っ白になった頭で搾り出した言葉は、一人称すら変動する覚束なさだが、それをばっさり切って捨てるアニタの返しはある意味大層容赦も遠慮も品もない。
 なぜカミューの存在を知っているのに、結婚を迫るのだ。
 訳のわからなさに混乱した頭で、救いを求めて周りに視線をやる。しかし飲み仲間の二人は面白い見世物だと頬杖をついてにやにやと眺め、ニナは顔を伏せたまま動かない。味方になってくれてもいいはずのテツも「いいんじゃねぇのか、結婚」と実にいい加減かつ適当極まりない声を掛けるだけだ。
 『助けてくれ、カミュー・・・』と、この場にいない恋人の姿を思い浮かべれば、『これしきのことで・・・』と脳裏の恋人は苦笑する。
 きっとこの惨状を見れば、浮かべるであろう呆れたような恋人の笑顔を思い起こせば、ここはしっかりすべきが男、と逃げの一手だったマイクロトフの腰も据わった。
「折角のお申し出、ありがとうございます、アニタ殿。しかし俺はカミュー以外の人間と、恋人付き合いをすることなど考えておらず、ましてや結婚などありえません。これはアニタ殿が相手だからどうこうというのではなく、カミュー以外の人間だからと理解していただければ助かります。女性の身でこうして声を掛けてくださるのは勇気のいったことと思いますが、それを断わるような不調法者で申し訳ない」
 勢いをつけてがばりと頭を下げれば、
「あらら、振られちゃったねぇ」
 それまでの妙な迫力が嘘のように、からりと笑い肩を竦めたアニタに、横でロウエンもからからと笑う。
「やめときなよ、アニタ。この騎士さん達とくりゃあ、未成年のシュエやナナミの前でもいちゃいちゃしてる熱々ぶりだったんだよ。本人達隠してるつもりだったみたいだけど、それでも色に出にけりなくらいの間に割り込もうとしたら、馬が飛んでくるんじゃないかい」
 違いない、と賑やかしく笑う女性達の姿に、マイクロトフは恐る恐る顔をあげ、あっけにとられて呆然とした。
 凡そ、数秒前にプロポーズを拒絶されたとは思えない、陽気な空気がそこにはあった。
「えぇと、・・・さきほどまでのは冗談か何かだったんですか?」
 思わず問うた言葉に、返るのはしかし「まさか」という否定だ。
「冗談な訳ないさ。本気も本気だよ。ま、確率は限りなくゼロに近いと分かってたけど、提案するのは無料だしね〜」
「そうそう。これで良い男が釣れればラッキーだろ」
 冗談にしか思えない軽やかさで笑い合う女達の横で、茶漬けを食べ終わったテツも爪楊枝を使いながら半畳を入れた。
「おいおい、こいつぁ高級魚かなんかなのか?」
「さしずめ、サーモン辺り? あれかなりのレアだから、ハイ・ヨーが高く買ってくれるんだよね」
 この間、キニスンが釣り上げてさ、と流れていく話に苦笑する自分に気付けば、つい今しがたまで重く胸に蟠っていた気鬱は欠片もない。
 突拍子のないアニタの求婚の衝撃で、鬱然とした気持ちはあっさり流れていってしまったらしい。
 我ながら単純なことだ、と自嘲したマイクロトフは、眼の前で笑いあう仲間達の姿に、これはもしや自分の気を紛らす為の仲間達の配慮だったのかと思い当たった。
 勿論、それは自惚れかもしれない。
 聞いてみようと口を開きかけたマイクロトフは、だが結局それを閉ざした。
 問いただすような野暮な真似はやめることにして、それよりも彼らと共に笑うことを選ぶ。
 その方が、礼の言葉よりも彼らは喜ぶような気がしたのだった。
 女三人には足りぬ二人でも十分に口が回る彼女達のお陰で、話の種は尽きず笑いも絶えない。
 だらだらと続く緩くも暖かいその談笑を止めたのは、やがて厨房に響いた低く短い言葉だった。
「・・・・・・一体ここは何の騒ぎだ」
 眠そうな眼で顔を顰め、戸口に佇んで一同を睥睨しているのはシュウだった。
 
 
 
 
 
 
「どうぞ」
 鮭の燻製と酢漬け野菜を挟んだ丸麺麭を目の前に置くと、じっとそれを眺めたシュウはぼそりと「いただきます」と呟くと、それを手にとった。
 正直予想外だったその言葉にマイクロトフは眼を丸くしたが、それを口に出すほどの愚は犯さず素知らぬ顔で石釜の鉄扉の窓越しに中の様子を伺う。
 そしてそろりと視線を後ろに流せば、どれだけ飢えていたのか両手で抱え持った麺麭をあっという間に半分以上シュウは平らげていた。
 しかし不機嫌そうな顔は相変わらずだ。
 その仏頂面に追い出されるようにして仲間達も出て行った厨房は今、薪の爆ぜる音とシュウが食べ物を咀嚼する音だけが響く静かな場所に変わっていた。
 パイも菓子も焼きあがるまでにあと数分だと、目星をつけたマイクロトフは、茶壷に湯を挿し机に戻った。
 ゆっくりと茶を注ぎ、茶碗を差し出すと、あっさり二つ目の麺麭も食べ終わったシュウは、目礼で茶を受け取ると、ゆっくりと茶を啜る。
「寝てるのか?」
 そして視線で指すのは、顔を伏せたまま動かないニナの姿だ。
「どうでしょう。先ほどまでは起きていたようですが・・・・・・」
 先ほどと言っても随分と前のことだった、と気がついたマイクロトフは、そろりと声を掛けた。
「ニナ殿、起きておられますか?」
 躊躇いがちに肩に手をかけそっと揺すっても、返事一つ返らない。
「・・・寝てますね」
 フンと鼻先で返事をしたシュウの無愛想振りは、傍から見れば傲慢この上ない態度だったが、マイクロトフは気を悪くすることがなかった。
 こんな夜遅くまで働いていたであろう男が相手だと思えば、同じ組織の上に立つ立場の者としてその重圧が分かるだけに少々の態度では動じることもない。
 ふと思い出して石釜を開けると、菓子もパイもちょうど良い頃合だった。
 重い鉄板を操り、横の台に出して置けば、思ったよりも薄い焼き色だが十分美味しそうな色付きを見せている。
 小麦粉とバターの焼けた独特の甘い香りに、焼いた林檎の香りも混じり、これぞまさに冬の味覚に相応しい馨しさだった。
「シュウ殿が林檎を手配してくださったお陰で助かりました。ありがとうございます」
「例年よりは流通が少ないせいもあり、儲けになるから扱っただけの話だ」
 礼などいらん、と言葉ではそっけない反応を見せるシュウは、満腹のせいなのか、それとも見るからに眠そうな疲れのせいなのか。素直に視線を気になっているのであろう焼き菓子とパイに向けている。
「それでもシュウ殿の尽力がなければ手に入らなかった筈ですから」
 昔主計部の同輩が流通が少ない品を交易に載せようとして散々苦労をしていたのを知る者としては、仮にそこまで苦労はなかったかもしれないとはいえ、言葉を惜しむべきではないとマイクロトフはきっちり頭を下げた。
「クラウス殿から伺った、ハイランドの菓子を作ってみたので、作戦部の方々で召し上がってください」
 そして手早く油紙と藁紙で包んだ菓子を差し出せば、頷き素直に受け取ったシュウは微かに表情を緩めたように見えた。
「・・・遅くにすまなかったな」
 夜食の礼を言って立ち上がったシュウは、ふと動きを止めた。
「こいつはどうするんだ?」
 顎でしゃくるのは、寝入っているニナだ。
 正直そこまで考えが及ばなかったマイクロトフは、はたと固まる。
「・・・・・・どうしましょうか?」
 ニナが寝ている部屋は、妙齢の少女達ばかりが集う相部屋だ。
 運ぶにしても男の自分が、彼女達が寝静まっているこんな時間に立ち入るわけにはいかない。かと言って、このまま置いていくわけにはいかない。
 どうしたものかと固まるマイクロトフに、一つ溜息を吐いたシュウは、
「今日はナナミがシュエ殿の部屋にいるから、ナナミの部屋に放りこんでおけばいい。それがダメならアップルに引き取らせる」
 と裁を下した。
「その代わり、お前が運べよ。俺はもう眠い」
 ついでに手がふさがっていると、包みを翳してみせる相手に、マイクロトフは苦笑し頷く。「ニナ殿、運びますよ」
 断りを入れて少女を抱き上げれば、さすがに重量はあるが、恋人の重さほどではない。
 これならいけるか、とそっと揺すり上げて抱えなおしたマイクロトフは、すたすたと部屋を出て行くシュウの後ろに慌てて従う。
 そして薄明かりの厨房には誰もいなくなった。
 
 
 
 


 :: 7つの料理
 赤葡萄酒と肉桂を利かせた林檎の蜂蜜煮
 千切り馬鈴薯焼き固めの目玉焼き掛けと腸詰肉&酢漬け玉菜の細切り添え
 玉葱と玉菜の千切りの豚肉細切れお好み焼き風
 鮭の焼き米結び茶漬け
 クグロッカ(牛乳と蜜柑汁を使ったハイランド風林檎菓子)
 鮭の燻製と酢漬け野菜の丸固焼き麺麭挟み
 林檎パイ





web拍手

back

* Simplism *