◆ 季 節 の 和 菓 子 ◆

 梅屋では、季節にあわせたさまざまな上生菓子をご用意しています。上生菓子は菓子職人の腕のふるいどころです。普通は季節の移り変わりを花や山水で表現し、それに模して技巧をこらして作られます。具象的にそのものを表現するより、抽象的、間接的な表現のものをめざして努力を重ねています

■睦月(1月)の菓子
 希望に満ちて新しい年を迎える一月は、一年のうちでもっともおめでたい月。お菓子も、新年の喜びを表す松、竹、梅、鶴、亀など、縁起のよい名のものが使われます。

新年菓子各種


 代表的なお菓子を以下にご紹介いたします。

 (写真上段左端)はなびら餅
裏千家の初釜のお菓子として知られています。この菓子は、慶応二年の正月、玄々斎が御所で献茶の折に拝領した「お菱葩」(おひしはなびら)を今に伝えています。餅を白羽二重にかえ、紅色の菱形餅を重ね、白味噌あんとごぼうの甘煮を包んでいます。

 (写真上段左から2つ目)松の雪
緑に染めた練薯蕷をそぼろ状にして小豆つぶ餡の周囲を包み、その上に白いそぼろの練薯蕷をのせました。緑の松に雪が降った風情を表しました。

■如月(2月)の菓子
 本格的な寒さを迎える2月ですが、暦の上では早くも立春です。2月のお菓子は梅に関したものが多く出回ります。福を呼ぶ節分用のお菓子も様々です。

早蕨(さわらび)


 いまだ残る残り雪の下から、たしかに萌え出ずる春の風情を、早蕨で表現しました。ういろうと葛を合わせた生地でつぶ餡を包みました。

■弥生(3月)の菓子
 3月になると、冬の名残はあってももう春ですね。自然の風景も少しずつ華やいできます。この月のお菓子は、よもぎ餅・わらび餅など春の息吹を感じさせるものや、ひな祭りのお菓子などが中心になります。その一つをご紹介します。

春景色


今年(2003年)の3月は少し寒いようです。名古屋の桜の開花予想は3月24日で、例年より2〜3日遅いそうです。このお菓子は、練り薯蕷の生地で、中につぶ餡です。絞ってあります。
文化出版局「ミセス」2003年4月号に掲載されました。



引千切(ひきちぎり・ひちぎり)


 ひっちぎりとも呼ばれます。引きちぎったよもぎ餅のうえに、紅色に染めたきんとんをのせてあります。銘の由来は、そう、ひきちぎったから「引千切」なのです。そのまんまですね。
 宮中の祝賀菓子に由来し、現在ではひな祭りによく使われる、可愛らしいお菓子です。
■卯月(4月)の菓子
 昔から花といえば桜をさしています。その美しさと命のはかなさから、人々に愛でられ、詩歌にうたわれてきた名花ですね。お菓子にも桜餅をはじめとして、さまざまな意匠で表現されてきました。

花見だんご


 お花見といえば何を想像されますか?  気の合う仲間と宴会?もしや、場所取りの苦労を思い出す方もいらっしゃるかも。お酒もいいけど、たまにはお団子とお茶で桜をたのしみましょう!そんなときに話したくなるマメ知識をご紹介します。
 花見団子はなぜ3色なんでしょう?しかも、必ず桜色・白・草色ですよね。それには、ちゃんと理由があるのです。
 桜色は春、白色は雪の冬、緑が萌える夏の草色。それぞれが1年の季節をあらわしているのです。・・・おや、秋がないですね。それは、言葉遊びのような理由からで、人生に「飽きが無い」ように、ということなんです。さあ!花見だんごを食べて、飽きの来ない生活をおくりましょ〜!

■皐月(5月)の菓子
 若葉の緑が鮮やかさを増し、吹く風もさわやかで心地よい季節になりました。ちまきや柏餅、つつじやあやめにちなんだお菓子が店頭に並んでいます。

ちまき


 端午のの節句、今でいう「こどもの日」につきもののちまきです。疫病除けになるといわれる故事に基づいたものです。
 よく見かけるウイロウ生地の白ちまき、それを黒砂糖でこしらえた黒ちまきの他にも、よく練った葛を笹の葉で巻いてある水仙ちまき、それにこしあんを加えた羊羹ちまきがあります。

■水無月(6月)の菓子
 春の華やいだ雰囲気も徐々に落ち着きを取り戻し、自然も人々も暑い夏を迎える心がまえを始めます。六月になると、葛や錦玉を使ったものが出始めます。

あじさい


 今年の名古屋は、まれにみる「暑い春」だったそうです。そして、梅雨の季節がやってきました。このお菓子は、あじさいを模してこしらえました。
 梅雨に入った頃から咲き始め、雨のあがる頃に花の時期がおわります。雨に濡れた風情が最も美しく、あじさいは雨の花という印象がどうしてもつきまといますね。つぶ餡に白こしあんをかぶせ、その上に淡い紫色に染めた錦玉をさいの目状に切って散らしたものです。

■文月(7月)の菓子
 毎日のようにふっていた雨があがり、汗ばむ日が多くなってきました。そして年に一度、牽牛・織姫が出会う七夕の夜がやってきます。
 昼の暑さを忘れ、空を仰ぎながら七夕にちなんだお菓子をいただくのも一興。この月のお菓子は、葛や寒天を使ったものがほとんどです。

清流


 山あいの、冷たい清流を切り取ったようなお菓子です。私の親戚が長野県の根羽村におります。そこには矢作川の源流が流れています。澄んだ水が渦を巻きながら流れる様子がとても涼やかで、大変良いところです。いつまでもこの姿のままでいて欲しい。そう願いながら作りました。
 道明寺羹で中のつぶあんを透かすようにし、水紋の型に流してあります。

■葉月(8月)の菓子
 真夏のお茶のひととき、よく冷やした葛菓子や錦玉は、のどを通る一瞬、日中の暑さを思わず忘れさせてくれますね。
 「葛」は万葉集にも詠まれるくらいなので、かなり古くから利用されていたようです。花は秋の七草に数えられていますが、葛の粉を利用した菓子は夏の季語に入っています。
 古来から葛の産地である、奈良県吉野郡国栖(クズ)という地名から「葛」の名がついたといわれています。

夏木立


 このお菓子は、青葉の茂る高木の木陰を表しています。
 上質の吉野葛を水で溶き、砂糖を加えてから煮て練った葛皮で、緑色に淡く染めた白こし餡を包みました。

■長月(9月)の菓子
 名古屋は例年、9月2週目ぐらいまでは汗ばむ日が多いようです。
 夏の暑さを残しながらも、自然界は着実に秋の気配を深めてゆきます。草花のひそやかなたたずまいや、高い青空に美しい模様を描く雁行…。
 お菓子も桔梗や萩、雁、十五夜にちなんだものなどに変わります。

重陽(ちょうよう)


 陰暦9月9日は重陽の節供、菊の節供。この日を重陽と呼ぶのは、陽数である九という数を重ねるからです。正月7日、3月3日、5月5日、7月7日とともに五節供の一つです。もとは中国の風習ですが、宮廷では重陽の宴が催され、菊の酒などを賜っていました。また、菊の花に綿をかぶせ、この綿で重陽の日に顔をぬぐうと、老いを捨て齢が延びるとされています。
 このお菓子は、楕円形にした薯蕷まんじゅうの中央を指でへこませ、黄色のこなしを花しんとしてつけて菊花の姿としました。緑は菊の葉に見立てました。
 薯蕷まんじゅうは、深山路の製法の中に出てきます「伊勢芋」を100%使用し、上用粉と上白糖にて生地としております。餡はこしあんです。

■神無月(10月)の菓子
 山々は錦の衣に身を包み、山の幸が味覚を楽しませてくれる季節です。(日本人でよかったなぁ〜)と、しみじみ思いますね。これから11月にかけては、柿や栗を使った素朴で味わい深いお菓子が多く出回ります。

焼き栗


 熊本、もしくは岐阜産の良質の栗のみを厳選してつかいます。栗を丸のまま充分に蒸した後に割ってみた時、実がべたつかない(水分の少ない)綺麗な薄黄色のものが糖度も高く、調子がよいようです。その栗を竹べらでほぐし、砂糖を加えて炊き、茶巾絞りにしました。栗本来の味と香りが口にひろがります。
 お客様のお好みに応じて、焼き目をつけたりします。炊いてきんとんにする時、少々柔らかめ(水分多め)で釜から上げると、パサつきが少なくて私は好きなのですが、そうすると1時間ぐらいで変色してしまうのが難点です。その炊き加減にいつも悩んでいます。

■霜月(11月)の菓子
 寒さもいっそう深まり、冬迎えにつとめる季節ですね。桜前線や梅雨前線ほどは騒がれませんが、紅葉前線は十月の上旬に北海道に現れて、日本各地を美しい色に染めながら、11月の下旬頃、九州の南にたどり着きます。紅葉は春の花のように燃える自然であり、人の心を騒がせる炎ではないでしょうか。

錦秋


紅葉が深まった風情を表しました。小豆つぶ餡をしんにして、先の細い自家製の竹の箸できんとんを丁寧に周囲に植えつけて仕上げます。きんとんは、黄色とオレンジ色に染めた練薯蕷を裏ごしした物です。
*練薯蕷…伊勢芋を蒸かして裏ごしし、白餡とあわせて練り上げた物。しっとりとして、大変評判のよい生地です。

■師走(12月)の菓子
 なんとなくあわただしく一日一日が過ぎていく師走ですね。新年を迎える準備に追われる中でも、お菓子とお茶で一服するひとときを持ちたいものです。

初霜


 小豆つぶ餡をしんにして、黒砂糖を入れた小豆こし餡(大島きんとん)で覆いました。その上に白の練薯蕷を添えてあります。大島きんとんは、苦手な方もいらっしゃいますが、黒砂糖のお好きな方にはたまらないようです(笑)。黒砂糖の風味を飛ばさぬよう、慎重に火を入れてあります。葉が落ちた冬の山に初霜が降りた風情をあらわしました。