行雲句集
(08/09)
秋の灯やなお近づかぬ峠みち
台風の恵みのなくてダム細り
蕎麦ゆでる匂いにひかれ小駅かな
杣人の声すきとおる秋の暮
秋風にうなじかしげる中宮寺
(08/08)
青い眼にお齢きかれるフジ登山
気がつけば長老にされヒュッテの夜
たたき売り西瓜声ほどうまくなし
路地すみに温さ灯りぬ地蔵盆
空蝉のひとつ仰向く秋の風
(08/07)
夏雲の峰湧きやまず九十九里
炎熱に差しかけ思う傘の歳
夏雲に追憶かさね元兵士
飽きもせず夜鷹うたいて寝もやらず
口づける清水に揺れる夏の雲
(08/06)
大輪に大山蓮華山開く
青梅雨にぬれて染められ雨蛙
寿をいくつかぞえて梅雨の晴れ
安曇野を田毎にぬける青い風
玉の露光るあしたの新茶摘み
(08/05)
道づれに聴いてお呉れとホトトギス
大峰の禁制よそに天女花
鴬の一声去って早瀬音
卯の花や匂い辿りぬ鯖の道
老媼のすすむ粽や西ノ京
(08/04)
山なみを埋め春星尽くるなし
南欧の明るさつれて黄水仙
花宴より一もとうれし山桜
風光り海山青し峠みち
ブルーシート昔毛氈花の宴
(08/03)
別れにもよろこびありて弥生かな
人生の遍路は長し願尽きず
古地蔵の口もとゆるむ涅槃西風
うぐいすの初啼き掃う冬の憂さ
こがれては奥山訪わん山桜
(08/02)
幾年の脂身抜いて春近し
朔風をうけて花芽や紅こぼれ
しじま裂き春にさきがけ猫の恋
逃げ足の速き二月やわれもまた
里道のしるき靴跡黒き土
(08/01)
初春や雪が掌合わす白川郷
研ぎすまし魚影も見えず寒の川
なまはげも怖いものあり女風呂
鮟鱇やふるさと遠く寒晒
踏みきしむ雪も明るし峠越え
(07/12)
雑炊が目玉をむいたひと昔
雑炊できちっと果てる忘年会
熱燗やひと心地つく木曽の旅
雑炊をすする間はみな無心
新雪や靴音締まる峠みち
(07/11)
先急かぬ旅にはあれど散る紅葉
刈りつくし広野に遠き祭り笛
枯れ菊の時雨に濡るる地蔵堂
霜おりてみちのくの天重くなり
染めあげる山の紅葉や夕時雨
(07/10)
丹波路や峰の小島の霧海かな
煮魚の匂ういずこや路地の秋
鞍馬びと焔と熾る火の祭
燗酒を持つ手のぬくみ秋深し
紅い灯のすすきの元は蝦夷地かな
(07/09)
かなかなの一声絶えて瀬音冴ゆ
秋風のロンドを聴きつヒュッテの夜
散り急ぐキスゲの花に夏惜しむ
熱き湯の溢れる宿や蕎麦の花
露しげき野の道教え道祖神
(07/08)
敗けいくさどこ吹く風と夾竹桃
大文字の燃えてはかなく帰路遠し
ひぐらしのとよもす声や峰を分け
口づける泉に揺れる雲の峰
夢いつも帰る浅間や水引草
(07/07)
梅雨に昏れみづうみ灯る諏訪のまち
ヨッコラショ土用入りする喜寿の腰
女生徒のコーラスかろし初夏の風
詩や歌に想う釧路や夏の霧
宝石の想い出はるか夏休み
(07/06)
初桃の臀艶やかに梅雨の晴れ
カッコーの一声目覚め過疎の駅
ダム底に旱を悔ゆる村役場
白雪の三筋となりて富士の山
雪融けて黒き代馬白馬岳
(代馬とは苗代を鋤く馬のこと)
(07/05)
早瀬音耳に途切れて初河鹿
そら豆の鞘もはじける五月晴れ
ガイド嬢手袋白く夏に入る
谷底の岨道灯し朴の花
青葉木菟北斗の星と夜を明かし
(07/04)
花の雲散りて吉野に風光る
逝く春や奥千本に花惜しむ
枕辺も見果てぬ花や西行庵
桜しべ朽ちても紅く世の名残り
巣立ちした鴬なるや歌青し
(07/03)
入港す白い巨船に春息吹き
仰いでは振り向く旅や富士うらら
菜っ切れを寄せては返す春の波
富士ケ峰や白雪光り裾野萌ゆ
紅い灯をおぼろに流し高瀬川
(07/02)
あるかなき薫りを追うて梅見かな
雪見来て越の国原草萌ゆる
早春の憶いせつなしシューベルト
赤や黄に春節舞いぬ南京街
大正の写真の母や梅日和
(07/01)
新幹線おり立つ顔や三日果て
餅詰まり記事にはならぬ世相かな
初春や湯気をぬき立つ銭湯富士
天空にイメージ馳せる冬星座
また雪ね夢千代愁う湯里暮れ
(06/12)
ちとせふる流れや賀茂の都鳥
雪さみし出で湯はぬくし土地訛り
ひとり酌む酒に清しき京すぐき
散りつくし樹の間に大き富士の山
ぼけ封じ三つ喰うて大根焚
(06/11)
お地蔵の褪せし前だれ枯れ野菊
しぐれふるシグナル赤し山の駅
山茶花のくれない厚く秋は逝き
秋影の居場所もなくて手術室
ナースらが「看護婦」と云う秋日和
(06/10)
野沢菜の歯に沁む今宵温め酒
目くるめく紅葉黄葉に酔い重ね
野仏のつもりし塵や秋白し
煩悩も夜空に焼いて火の祭
達者でな手を振り合うて霧の尾根
(06/09)
宮城野や舌に秋立つずんだ餅
銀河行汽車をさがして星の海
ひと言の出会い別れて深山菊
リュック負う足元すがる濃りんどう
台風もおんな名ついてひと暴れ
(06/08)
秋の風立ちて音無く野辺送り
窓辺洩る夜霧の濃くて北の宿
音をあげて水虫ひそむ極暑かな
フェリー出て残る年寄り島の盆
ふみ迷う果てに花あり鳥かぶと
(06/07)
宵山にきっぱりきめて藍浴衣
神主もブランド光る山開き
はっと避け毛虫に光る雨の露
冷や奴待って始めるうたげかな
ひた下る尾根路に遠き生ビール
(06/06)
人畜に無害だけなり喜寿の夏
ほとほとと夜鷹ひと招ぶ闇の奥
そら豆の天指す鞘に夏光り
青葉かげおとす若狭や旬の鯖
青々と梅雨雲抜いて富士の峰
(06/05)
山古志の仲間達者か鯉幟
こがれつつ深山遥かに天女花
まだとちる鴬も居て谷青葉
ルピナスの溢れて鉄路さび赤し
ひと去りて消えし部落や柿若葉
(06/04)
せりみつば土の香かおる野道ゆき
円居(まどい)の灯車窓に過ぎる春の旅
散り敷ける花のじゅうたんそっと踏み
瀬戸海の釘煮や春の甘さのせ
伊予越えや龍馬の脱けし道も花
(06/03)
踏みかけた足を逸らして山すみれ
美しき遍路に会わずいぬふぐり
道しるべ草書にやさし遍路みち
峠路や遍路脊越しに小豆島
ありがたき彼岸法話や尻冷ゆる
(06/02)
主に祈り凍雪白しトラピスチヌ
陸奥の果て湯気たて駈ける寒立馬
キトキトの鰤に沸き立つ氷見湊
ランタンの灯し火映し名残り雪
ほろ酔いて歌は長崎春淡し
(06/01)
堅忍の挙げ句はかなし霜柱
妄念を微塵に払い雪あらし
友の名を冬の陽なぞり震災碑
色ありき竹叢萌える白地獄
思案してすることはなし冬の蜘蛛
(05/12)
しぐるるやはんなり熱きにしんそば
空回り口論したっけのみ仲間
軒端に干鱈ゆれて浪の花
行く年を送りて白き大文字
漁火の浮きつ沈みつ冬の濤
(05/11)
焼き鳥のにおい乗り込む十三駅
一番に大根ひろうおでん鍋
内視鏡抜かれて窓の秋日和
秋天の一しづく落ちほたる草
目覚めてはFMききつ長き夜
(05/10)
月かげにみな美女となり野天風呂
刈田焼く烟も乗せてローカル線
姥捨や棚田田毎の稲の秋
田んぼ道長きいばり(小水)の月見かな
酒の意気一声舁ぐ秋祭り
(05/9)
南蛮の手踊りいとし曼珠沙華
豊葦原水漬く稲穂や天狂い
秋風や一会別れて甲斐信濃
ひと去りし浜の白さや秋の海
お地蔵に風が掌合わす秋のたわ(峠のこと)
(05/8)
夾竹桃花咲きこぼれ敗けた日々
点滴の水泡(みなわ)見つめて夏の夜半
ねぶた去りどこかむなしき北の夜
つかの間に大文字燃えてみ霊去り
巻雲の三筋の糸に秋を知る
(05/7)
指さして槍穂はそこに夏の空
杖音のはたと途絶えて御来迎
どこまでも下る裾野や富士薊
十薬の花の溢れて廃家かな
三陸や海原砕く土用入り
(05/6)
短か夜をいくつ灯して蛍舞い
一啼きで訓話吹っ飛び牛蛙
東山なお暮れやらず賀茂あかり
カッコーの声はすれども霧ケ峰
旱天にでかいつらして夾竹桃
(05/5)
更衣節目折目のひと昔
夏は来ぬ期待に白き更衣
はぐれ猿一会別れて春惜しむ
ひとり客バスを見送る山うつぎ
瀬の上を玉の音まろぶ初河鹿
(05/4)
山笑ふ猿ども出でて新市制
黒土をこがれつ越後春闌ける
宝塚芭蕉もうたい花スミレ
たれ知らず残花散り行く深山かな
海鳴りをしばしとどめて初音かな
(05/3)
菜の片れのゆきつもどりつ春の潮
ぼんぼりの灯りて暮れず先斗町
水仙のしたり顔して余寒かな
能登果てて尽きる岬やフキノトウ
卒業の門出長引く祝辞かな
(05/2)
虎落笛聞きつ湯豆腐鍋熱し
しろがねの剣立てたり有磯海
鰤起こし鳴って北国旬に満ち
雪空の行く手たづねて道祖神
蛇踊りのうねる背中に春立ちぬ
(05/1)
福梅や湯気匂りたつ初茶かな
寒夜更け下駄音透る湯里かな
湯煙の昇りて白き里時雨れ
雪吊りの風に遊びて冬うらら
青春をさまよう果てや「冬の旅」
(04/12)
年の夜来し方めぐるひとり酒
酒のめばひとなつかしむ歳の暮れ
柿ひとつ枝に残れる小駅かな
駒ケ峰(ね)も白馬となりて宙を駈け
枯れ山に光る白樺処女眩し
(04/11)
秋晩き日ざしに白き検査室
落葉松の木の間を梳いて嶺光る
青春の残影重ね雪の峰
散り紅葉色どり締めて時雨去り
過去遠く未来つれなし秋の暮れ
(04/10)
穂芒をふみわけ辿る里遠し
熊飢えて里にさまよう秋悲し
台風や秋のあわれも吹き飛ばし
刈り入れを終えて北上広くなり
秋来てもあわれ覚えず四季乱れ
(04/09)
台風の一夜誦えてカネタタキ
秋風が呼んだ秋刀魚に海光り
落ちる葉のひとつ耳立つ小屋ひとり
老媼もわらべとなりて月のお湯
竿灯の消えて北国夏は逝き
(04/08)
空に征き墓標となりし雲の峰
うすれ行く墓碑銘なぞる白雨かな
亡きひとか掛ける声のむゆく日傘
ねぶた過ぎそっと寄りそう秋の風
大輪のうたげ散り果て遠花火
(04/07)
夾竹桃紅も盛りの油照り
ブランドが競うて登る山開き
川床にゆかた花咲く賀茂の宵
冷焼酎暑気払いして熱くなり
蚊遣り火に扇いだ祖母の遠い日々
(04/06)
郭公のこだま伴れあう二人旅
くちなしの薫れるいづこ五月闇
みじか夜の淡夢裂いてホトトギス
筒鳥の小鼓はずむ梅雨の晴れ
さみだれの傘に重たし誕生日
(04/05)
ほろ酔いて仰ぐまなこに春の星
摘みたての春の菜かおる鄙の宿
わがものとひと無き駅や蓬生い
ひとひらの命咲かせてすみれ草
武家屋敷老女名残の花卯木
(04/04)
春寒し般若湯あり高野山
ひと去りし里の廃家や花の雲
春宵や地訛りはずむいで湯かな
地酒酌みたどる野道や月おぼろ
友びとと酒酌む野辺の日永かな
(04/03)
天も地も雪にまみれて陸奥の春
竜飛んで吼える岬や春しばれ
モノクロに山河沈みて春津軽
冬の憂さのんで流るる春の河
春の幕ひき開け花の宝塚
(04/02)
雪地獄ワンゲル縋る蜘蛛の糸
埋み雪枝撥ね立ちて春の声
神将の眼光刺して冬の寺
瀬戸の鯛荼漬甘くて春二番
ふきのとう野辺に抱いて雪の嶺
(04/01)
無人駅茶パツ厚底雪も乗り
賀状来ぬ知己を案ずる歳となり
真白なる存在すわる富士の山
地吹雪を声明衝いて禅の寺
地のひとのなさけを酌みて酒熱し
(03/12)
鰭酒に酔いも熟して年忘れ
コップ呑み熱きにむせぶ鰭の酒
山葵田の緑研ぎ立て雪の水
いしぶみに杖ひく老女冬木立
からからと枯れ葉散らして年も過ぎ
(03/11)
閑日を何かせかして散り落葉
厚化粧小じわ隠せぬ秋の天
古峠の石畳うき秋斜め
から松の燃ゆる黄金に秋は逝き
旧き友つらみ話や秋夜長
(03/10)
締込みの男伊達栄え秋祭
あい寄って散っては消えて秋の雲
秋の風だけが過ぎ行く古宿場
ひと様に猫も古びて過疎の秋
休耕田ふえてコスモス花盛り
(03/9)
湯治女のほつれ毛なでて秋の風
みちのくは稲穂天指し秋となる
夜霧きて思いに沈む山の宿
竜胆の紫目覚め露しぐれ
穂芒の露の玉散る山路わけ
(03/8)
爆音が絶えしあの日の蝉しぐれ
手振る児に開けし車窓や早稲かおり
去るフェリー見つめて老女盆も暮れ
天の川流る音聴く真夜の峯
やれ窓を流星飛んで峯の小屋 (破れ窓)
(03/7)
焼く鱧の川風連れて神渡り
翠嵐に鐘の音沈む京五山
雲水のあやめもつかず梅雨の果て
山猪もふとりて丹波青田満つ
小坊主の読経そぞろに土用昼
(03/6)
新庄の軽口聞けぬ梅雨の中
生き死にの輪廻あざやか樟葉かな
ほとほとと夜鷹しきりに闇の底
郭公もひとりの旅か霧の山
尾根嶮し見開く地図の緑かげ
(03/5)
谷奥の宿場はなやぐ遅桜
冬ざれの峠越え来て里若葉
真白なほむら燃え立ち辛夷咲く
春うたい総身渾身四十雀
冬枯れの山に灯ともし辛夷花
(03/4)
阿蘇広し天の果てまで春闌ける
菜の花の中にきこえるへんろ鈴
女高生口咲き競う駅の春
通学生みんな下車して初蛙(かわず)
日がわりに爛漫落花旅の窓
(03/3)
ぼんぼりの灯影慕いて名残り雪
花の峰友いくつ越え七七忌
美女抱きて淡雪と消え春の夢
時刻表見果てぬ旅の遠霞
冬の憂さ春の愁いや老い行路
(03/2)
ひと前を猿どもよぎる里の春
寒しのぎ上臈凜と梅開く
白菜のつや目にしみて春寒し
ローカルの人無き駅やふきのとう
大空に末を広げてけやき萌え
(03/1)
遍路塚枯れて一輪寒椿
巡礼の墓碑銘なぞり細雪
征くひとを送りし峠虎落笛
お地蔵の拈華微笑や寒ぬくし
酒熱きお地蔵も笑む峠みち
(02/12)
鱈ちりにこころほぐされ吹雪の夜
鱈鍋に越の海鳴り遠くきく
鰤起こし旬に沸き立つ越の海
菊酒に夢もまろやか加賀の冬
湯気むこう貨車の過ぎ行く赤のれん
(02/11)
ひと群らの鶫急ぎて峠暮れ
木の実落つしじま深みて里遠し
黄や赤に染まる流れに秋惜しみ
遭難碑濡らして過ぎる冬の雨
里もみじ峯ほの白く比良暮雪
(02/10)
顔しらぬ祖母の遠野の花野かな
ゆく雲のさだめはいづこ秋の風
バスガイド弾む冗句や秋晴天
守りびとの去りし灯台秋白く
秋絶景眼にやきつける老いの旅
(02/9)
瀬音冴ゆ気動車過ぎし秋の夕
老僧の笑い皺うき秋日和
ヤクの影うつるテントの星月夜
秋風のすがくハープや多々羅橋
仲秋の天のしづくか露の花
明日香野を丘いくつ越え彼岸花
瀬戸浦の小島つたいて夏は逝き
(02/8)
地のひとの誼みのうたげ秋ゆたか
舌先にまろぶニッカや秋余市
茸汁に積丹の秋匂い立つ
秋の雲あい寄り離れ駅広場
ひとときの一会の旅や秋の風
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