花風句集
(09/07)
新生姜漬ける男の定年後
イスラムの人も茅の輪の里の朝
若き日に帰りし夢の昼寝かな
大雪(だいせつ)の夏山無常風きたる
鉦太鼓リズム命の盆踊り
(09/02)
流行風祓ふ願いの春一番
野菜場に流る会話の立春や
通学路辿る児童に木の芽ふく
河川沿いクリーン作戦水温む
古事記手に旧跡歩む建国日
(09/01)
塾帰り寒風仰ぐ北斗星
山の神亭主が注ぐ初お神酒
餅探る竹も弾けるとんど焼き
水墨画眺めるような冬薄日
米国に咲くやオバマの福寿草
(08/12)
通院の車窓で愛でる紅葉狩り
散りぬれば銀杏広げる黄絨毯
外泊にはずむ患者の小春日や
木枯しで妙見山が目に入れり
定年後布団たたみの腕試し
(08/11)
ひととせの錦秋織り成す寺の跡
もみじ葉の散りては流る花筏
転がるる物を思ほす落葉かな
わた菓子を分かつ姉妹の秋祭り
年寄りの急く一日や釣瓶落ち
(08/10)
混沌の澄めるもありて濁り酒
施設児の作文しぐれ天仰ぐ
秋時雨昔語りの酒を酌む
ひつぢ田に雀遊びて暮れなずむ
湯気立ちて鏡に浮かぶ白髪かな
(08/09)
校長の進路気遣ふ台風日
白菊の悲しさこらえ野辺送り
棗拭く姿に惚れる秋日和
流る川こなた彼方の曼珠沙華
鯖雲に遠き若狭の夏想ふ
(08/08)
原爆日テレビに向い黙祷す
喰い終えし白さ愛しき西瓜かな
風に乗り河内音頭で夏渡る
御詠歌の長き息して地蔵盆
傾けば野原に満ちる秋の声
(08/07)
空蝉を残して光る朝の露
雷(いかずち)の光る夏雲足早し
読み聞かせ「耳なし芳一」盆近し
六斎の太鼓の音やひっつんつん
鬼界より薮入りかぞふゑんまの日
(08/06)
校門に児童迎えし雨蛙
梅雨空に巣の声急かる親燕
田水引く流れの音の心地よさ
新暦に水無月とある豪雨災
田植え水恵みの山の満願寺
(08/05)
菩薩さえ背中を見せん江戸の初夏
鬼瓦四方を睨み雷雨去る
下校児に泳ぎを見せる子鴨二羽
鉾飾り粽に見えし京の風
里に咲く木の下闇のテント村
(08/04)
村やしろ義民を称ふ紫木蓮
相輪の光る彼方や春霞
枯れ枝で示さる地面遍路道
雨に濡れ街並み照らす花水木
黄水仙咲いて川辺に遊女塚
(08/03)
風にゆる祝ふ庶民のつるし雛
斎場に声なき集い水仙花
皺ふかく語る東京大空襲
山桜泪に映る雲の果て
年寄りも夢見る姿ランドセル
(08/02)
節分の鬼は内なる心かな
老いの眼に幼き手跡雪だるま
白銀(しろがね)を駆けし青春矢の如し
猫の恋窓辺に寄りしジュリエット
マンションに雪掻く人の一燈や
(08/01)
侘び寺の隙間風にも彌陀の笑み
清水の漢字一文字除夜の鐘
宮詣汲む若水の清冽さ
初春に百人一首眠り醒む
初氷触れて気泡の動きおり
(07/12)
雑炊の蓋取る煙り玉手箱
山ゆけば道の先にも散る紅葉
通り雨枯れたる山に虹の橋
逝く人に思い交々熱き燗
海越えて鳴門に「第九」俘虜残す
(07/11)
瞑目す湯船に届く虫の声
カラカラと落ち葉ふかれて一休み
野宿者の秋霜忘る祖国かな
寒風に千切れまいぞと木の葉鳴り
人知れず流れる音に寒き月
(07/10)
青雲の銀波の海や芒原
宇治川に紅白競ふ萩の花
診察を終えて空には鰯雲
鳴き続くここも都ぞきりぎりす
飛鳥寺甍のかなた天高し
(07/09)
草深き古城の風や法師蝉
名月の移る車窓の旅枕
病窓に滲む景色の秋時雨
露草の山道遥か裾濡るる
一駅を過ぎて涼しき秋時雨
(07/08)
復興へ燃えた街路の夾竹桃
人来たり儚き花火どっと沸く
ゆく夏に身を焦がして京の夜
妙法と浄土に灯す大文字
百万遍地蔵の前で歳を経る
(07/07)
廃校の夏の日熱く耳傾む
直売所曲り胡瓜の伸びやかさ
朝迎え今日も聞こえる蝉時雨
石地蔵まもる旧道慈雨来たる
通り道香焚く家の百合の花
(07/06)
水溜まり踏んで河童の登校児
補導員滴る梅雨を指摘され
夏の宵醒ますベンチの天と我
青春を語らい過ぎる夏の暮れ
炎天も暮るれば面(おもて)風吹きし
(07/05)
山ひとり出会いし人に五月晴れ
草深き求めし滝に不動あり
渓谷を抜けて見上げる藤の花
登校児のぼる急坂梅雨走る
淡竹(はちく)採る姥の二人は山育ち
(07/04)
躑躅咲き鶯聞くや老いの坂
青春の切符片手に遍路旅
はらはらと落花の下の花筵
行者堂放つ扉に春の風
咲けば散る花を惜しんで寺巡り
(07/03)
粗供養の箱の上なる桃の花
二月堂火の粉の雨やお水取り
振り返る夜目に見まごう沈丁花
瀬戸の海行き交う船に春光る
見開くも金刀比羅宮の春霞
(07/02)
名笛を残す早春須磨の夢
四季咲きと老婆の放つ木瓜の花
雀来る猫も目覚めし春の声
餅つきの町内会や春勇む
田起しの跡に暫しの竜安寺
(07/01)
拍子木の巡る年の瀬音高し
奥祖谷に眠り残して初日の出
暁光を迎える彌陀の初明り
前栽に植わる火鉢の餅恋し
寒菊の十三弁の放射光
(06/12)
息災の聖護大根椀に受く
清水の師走の舞台「命」愛で
冬星座煌く神話夢馳せる
レントゲン写りし骨の冬木立
簪の揺れて舞子の事始め
(06/11)
山茶花の渓谷深く赤く映え
落語会霜月にぎわす誓願寺
巡礼に路傍の柿も光り満ち
空也忌に巡りし人も時流る
枯落ち葉吹かれて長き溝埋む
(06/10)
夜鳴き蕎麦流れ遠のく秋の音
蓑つけし地蔵の笑う稲架(はざ)の暮れ
君知るや渡る月夜の江口橋
秋蝿の窓より眺む朝の雲
浮世風癒す夢路の温め酒
(06/09)
蟋蟀の闇より来たる閻魔声
野の風に紅く燃えたる曼珠沙華
台風に耐えし瑞穂の頭垂れ
妙なるか越中おわら笠の瞽女
てふてふの運動会や野の畑
(06/08)
山焦がす夏の日沈み空残る
田の水面往きつ戻りつ夏茜
軍靴裂け水虫治る焼け野原
蚊遣り火の煙一筋法話聴く
坂登る父母亡き里の蝉時雨
(06/07)
魚屋に張りつく蛸の半夏生
石臼の転ぶ庭先西日濃し
七つ立ち槍穂目指して紐結ぶ
襷架け浴衣が鳴らす鉦太鼓
朝夕な読経に続く蝉時雨
(06/06)
梅雨晴れ間笹舟競ふ嬉々の声
須磨の風吹いて青葉の笛の音
鐘の音を伝えし平戸花つつじ
車輪梅染めて奄美の島娘
黄昏て十薬白き路地の花
(06/05)
鯉のぼり大魚が群れる旬の空
初夏の風喰ひて鯉の水しぶき
闇夜ゆき蟇の初音が燈りけり
菖蒲湯に浮かぶや遠き母の影
洗濯を終えて天下は五月晴れ
(06/04)
堰音に春聞く鳥や羽根休む
春眠を覚ます時計や軒雀
野の道におわす仏や蓮華草
父母に会ふ五百羅漢の花の寺
異国丘ただ運命と山桜
(06/03)
父の声覚めても残る春彼岸
色即是み空に春の声聞こゆ
長生きてフキの天婦羅味いとし
路傍にもホトケノザあり花咲きぬ
今更に水仙を知る墓参り
(06/02)
銀盤に舞いて白鳥金メダル
太宰府に届けと京の梅の香や
春路ゆく影と同行二人旅
河川沿い芽吹く生気をもらい受く
栃餅を食みて故郷広がりぬ
(06/01)
初詣鬼貫尋づぬ伊丹酒
髭剃りて阿弥陀とデート元旦会
修正会囲む昆布茶の温かさ
薄日にも椿の紅のほころびぬ
葉牡丹の色紅白に据わりたる
(05/12)
輝いて雪山のごと雲の嶺
乱れての目覚めてみれば大寒波
寒風に凛と遠きを太子像
仲間あり渡る年の瀬たよる杖
夢前(ゆめさき)の川風吹かる枯尾花
(05/11)
豆腐浮く小さき鍋の独り酒
大橋の電飾冴える冬の海
冬茜惜しむ散歩の老夫婦
風呂吹きの大根に見る満ちた月
立呑のおでんの湯気に集まりぬ
(05/10)
風吹くな満ちて儚き池の月
敦盛の笛に誘わる須磨の月
星月夜浮ぶマンション夢潮路
天災の多き地球の神無月
京を向く楠公像や天高し
(05/9)
故郷を眺めて山の彼岸花
庭池に映して眺む京の月
坂登り鈴虫聞こゆ異人館
電燈に見立てて飾る彼岸花
芦の屋に秋風吹くや打出浜
(05/8)
短冊の舟渡りゆく天の川
絹の道たどりて飾る祇園鉾
ともしてはこの世の夢の走馬燈
年降りて来た道わする終戦日
雲変げ行く末追えば秋の空
(05/7)
雨空を突いて飛び立つ親燕
紫陽花の色それぞれに雨に咲く
梅雨籠り生まれ姿の偽坊主
真夏へと雷の轟くマーチング
生まれては浮世を励む蝉時雨
(05/6)
玄関の靴は減りけり初夏の風
尉と姥こどもに帰り蛍追う
くちなしの香り流れる城の跡
燕飛ぶ訓練生の白き羽根
休耕地つばめにすずめてふ集う
(05/5)
花水木散りては覚める夢彼方
夢追いて酔うてゆく夜の五月かな
御簾懸けて母を偲ぶや衣更
舞扇そっと見せるは揚げ羽蝶
風薫る父を偲びし阿弥陀經
(05/4)
山笑ふ触れる巌の温かさ
經に添え木蓮映ゆる法華寺
利休忌に重ねて偲ぶ母のお茶
職に就く娘荷造り春はゆく
風の谷フカイ漂う花粉症
(05/3)
雛納め旧暦で良し父放つ
沈丁花なぜに弾むか宵歩き
釘煮食み網干(あぼし)の故事に念仏す
春門出むすめ手料理鼓打つ
涅槃夜に満月眺む不可思議さ
(05/2)
鬼やらい被災の民へ金棒を
歩みゆく年寄りのさき雲雀飛ぶ
景色解け犬吠えもせで人通る
誘われてゆたりと歩む春景色
春の風わたりて来る老いの坂
(05/1)
枯れ紅葉きくや勝尾の寺の鐘
近遠に百八の鐘心急く
除夜のかね大役おえて福をまつ
獅子舞の遠くなりける都人
舞子浜いにし海人ねむる山
(04/12)
木枯しで転がる先に赤提灯
年忘れ明かり燈かりの梯子酒
紅葉はへ鐘じょうじょうと勝尾寺
菜園にそっと水仙かぜに揺れ
箕面滝さざんか高くいろ白し
(04/11)
三門の飛天に高く共命鳥(ぐみょうちょう)
秋の夜を映して池は夢幻境
菊の香がほのかに流る法話かな
すき焼きに松茸入りし遠い日々
線路沿い春の桜が秋紅葉
(04/10)
秋祭り遠きにありて郷おもう
大日に祈る行者へすすきの穂
念仏の鉦に誘われ秋嵯峨野
狂言で一足先に紅葉狩り
銀杏と塚口御坊あみだぶつ
ご感想・ご意見をこちらまでお寄せください