１ 鰭酒のなほ注ぎ足して夜も更けむ
２ 昨日今日卓に居座るおでん鍋
３ 寒空を突く陽光（ひ）を受けて急ぎ足
４ 鰭酒や暖簾を梳きて匂い来ぬ
５ 山葵田の緑研ぎ立て雪の水
６ とらふぐの鰭威張りおり酒二合
７ 木枯らしを背に足早める車椅子
８ 鰭酒や仕事鞄を重ね置く
９ 鰭酒に酔いも熟して年忘れ
１０ 年賀の句捻ってのぼす柚子湯哉
１１ 暮早し鶏は呼ばねど小屋に入る
１２ 年の瀬は少し手暇な屋形船
１３ 初雪に昔を偲ぶ老人会
１４ 枯葉落ち空の大きくなりにけり
１５ ひれ酒や口焼き喉焼き胃の腑焼く
１６ コップ呑み熱きにむせぶ鰭の酒
１７ 鰭酒は強いわよと睨む妻
１８ 初雪や音なき朝が寝坊さす
１９ 靴音の乾きて高し夜寒かな
２０ 蝋梅の斜陽に淡く冬至かな
２１ 泰然と白き衣の富士おわす
２２ 「ひれ酒」の文字踊りたる店の壁
２３ 山茶花の落花の隙に黒き土
２４ 北風の吹きて襟立つ星降る夜
２５ 席を変え鰭酒のこと電話せり
２６ 初雪や白菊のごとブロッコリー
２７ 造成地肩身も狭くすすきかな
２８ 鋤きし田の藁と土とに霜斑
２９ 年の瀬や第九の中に友の居り
３０ いしぶみに杖ひく老女冬木立
３１ 抱き上げし嬰の微笑む小春かな
３２ 蔦枯れて六甲おろしの声いづこ
３３ 経る歳を風に送って立つや樹々
３４ 境内で寒きに耐えて注連作り
３５ 葉が落ちて逆さ茶筅の街並木
３６ 雲海に日向（ひむか）の国の夢師走
３７ からからと枯れ葉散らして年も過ぎ
３８ 薄氷（うすごおり）恐々踏み合う童達
３９ もののふの残照の如紅葉燃ゆ
４０ 小野菜と酒にほろ酔う師走風
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如水
居倉
伸平
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