その13

王様の講話

12月5日タイ国王誕生日の前日、私はまだラオスにいたが、ホテルの部屋のテレビをつけるとタイの国王陛下がスピーチをされていた。(ラオスではタイの番組を見ることが出来る、ケーブルテレビであれば、NHKも見られる。)

翌日の77歳の誕生日を前に控えての国王陛下のスピーチ。私がテレビをつけた時にはもう始まってずいぶん経っていたと思うが、それでもまだ延々と続くのだった。(たぶん2時間ぐらいか。)カメラは国王陛下を正面から映すが、途中、拝聴するタクシン首相をはじめとするエライ方々の方にも向けたりする。タイ語であるから、私に全部わかるわけではないが、部分的にはわかるところがあるし、王様がこんなに長々とお話をされるという点に興味を惹かれてつい最後まで見てしまった。

確か、音楽について話をされているところから私は見たのだった。ご自身はジャズをなさる。曲を奏でる際の調和の大切さについて話されているようだった。

次に、青少年の教育の重要性を説く話に。私にわかった限りでは、「青少年が真に知識を得られるような教育をすべき。A bright idea(素晴らしい考え)を生み出し、将来へのビジョンを描けるような知識を与えられる教育が重要である」と説かれた。何度も何度も教育の重要性を説かれ、さらに、氾濫する現代文化の悪影響に触れられ、中でも最も強く説かれたのは、煙草の害についてであった。

こういうお話をされる間、そこかしこにユーモアと皮肉を組み込んで、盛装で拝聴するエライ人々の苦笑を誘うのがとても印象的であった。女性の化粧の濃さについて触れられ、昔は粉をちょっとはたいて紅をつけるだけだったのが今は塗りたくって・・というようなきついお話に、着飾って出席したエライ女性達はどう受け止めたか・・・。「タクシンは男前だから・・・」と仰りながら何か皮肉を仰ったように思えたのは錯覚か・・・。

いや、私のつたないタイ語読解力では追いつけなかった部分を、タイのニュースを解説したホームページ(タイの地元新聞を読む)で参照してみた。

音楽における調和の大切さというところでは、「ジャズの神髄で ある即興演奏は、一緒に演奏する相手の音を聞き協調関係を成立させた上で演奏しなければ全体として素晴らしい演奏は成立し得ないとし、逆にメンバーの中に一人でも突出しようとする事を欲する者が居れば全体的な統一感を損ない素晴らしい演奏は成立しないと例示された上で、首相の定例政見放送を指して、己の考えのみが 正しいと信じている者が一方的に主張し国民に聞くことを強いていると指摘、異なる 意見に耳を傾け議論を通して国の為に何が最善であるかを検討する事が重要であると 指摘された」そうである。

また、何か漫画のことを話されていると思っていたところでは、
「漫画のキャラクターがいい考えを思いついた時に吹き出しに電球の絵が描かれている事を揶揄して、タクシン首相の場合は、いい考えを思いついた場合には「一つで国の全てを網羅(監視・支配)でき、また教育機会の均等政策と言えばそれを導入して全国津々浦々同じ質の教育を提供することが出来(同時に自身に利益を供与でき)る」通信衛星を吹き出しに描いた方が似合っていると語り、暗に独裁体質と政策と自己利益を結びつける拝金主義的政権体質を皮肉られる場面も見られた、」そうである。

最後に多くの時間を割いて説かれた青少年の問題については、
「現在の青少年が国の指導者を範にしてしまったのか人の話を聞かず、また勉強離れの傾向が深刻な状況にある事に強い御懸念を表明、将来の国を担う青少年は国の進める教育機会の均等政策に応え良く聞きよく学ぶ事が重要であるとされ、更に授業そっちのけでディスコやコンサートなどの大音響で音楽が流されている場所に入り浸ることは既に15歳から16歳の青少年に増加傾向が見られる聴覚障害を引き起こし、また女性を中心に若年者の喫煙人口が増えている事も健康懸念を増大させ、いずれも国の将来を担う潜在能力のある若者達にとってはプラスにはならず、同時に国そのものの将来にも大きな影響を及ぼすものであるとして関係機関が前向きに対策を講じるべきであるとされた。」とのことだった。

私はすべて理解して聴いていたわけではないが、国王陛下に感じたのは、父親やお爺ちゃんが子や孫のことを心から気に懸け、社会全体の行く末を案じている姿と重なったことだ。

さて、権力者達はどう応えていくのだろうか。

スピーチを終えた国王陛下は席を立たれると玄関まで歩かれ、車に乗り込まれた。クルマは日本のH社のマーク。驚いたことに、ご自身で運転をされてゆっくりと去っていかれた。(王宮内で一般道に出られたわけではないと思う。)

12/9/'04

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