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四宮正貴の短歌作品 平成二十三年 その2

言はなくともいいことを言ひて悔みをり何時までたっても愚かなるわれ

生きてゐることは尊きことなりと信じて明日もまた生きむとす

走り去りしバスを恨みて仕方なくタクシーひろふ上野広小路

古き茶房に言ひ争ひの声聞こえ劇中にゐるごとき思ひす

裏切られし思ひに過ごす冬の夜 温風機の音のかまびすしきかな

病院の玄関にポツンと置かれあるクリスマスツリーはさみしげに見ゆ

おほつごもりの夕べを静かな神域に来たりて古き札を納める

大祓の詞を唱へ罪とがを祓ひ清めて新年を迎ふ

天津祝詞高らかに唱へこの年の幸を祈れり正月一日

父母の延壽を祈り神前に手を合はせたり正月一日

新しき年を迎へて 真向かへる母の笑顔に心なごめり

元日の澄みわたる空を眺めつつ新たなる意志を確かめてゐる

大皇居(おほみかど)に人ら集ひて天皇(すめろぎ)の彌榮祈る正月二日

立ち止まるなといふ声聞きつつせはしなく二重橋をば渡り行きたり

両陛下のお出ましと共に湧きあがる歓呼の声に魂(たま)ふるへたり

つつしみて声の限りに唱へまつる聖壽萬歳高くこだます

テレビにてよく見る人が初詣の列に並べることのよろしさ

錦江湾に向かひて並ぶ墓石群 西南戦争に斃れし人ら

悲史刻む南洲墓地を訪れし昔の旅を思ひ出しをり

額田王の歌を學びていにしへの祭り心を偲ぶよろしさ

日出づる國の光を取り戻し平かなる世を持ち来たすべし

ラーメンは色々あれど鳥ガラの東京ラーメンをわれは好めり

寒鰤を食してうれしきこの夕べ友と語らふ湯島天神下

散り果てし銀杏の巨木を仰ぎつつ命よみがへる春をし待たむ

「元気でな」と言ひたまふなるわが父の言葉は悲し永久(とは)に生きませ

父上が起こしてくれとせがめども如何ともし難きこの悲しさよ

故郷の徳島に行かうとのたまへる父の言葉にわが魂(たま)は哭く

かすかにも目を開けたまひ我を見て頷く父に涙こぼるる

薄目開け我と認めて我が名をば呼びたまひたり病み伏せる父は

うれしいよと喜びたまふ父の手を握りて今日も励ましにけり

父の見舞ひを終へて乗りたる電車より見ゆる富士の峰に心安らぐ

空に月 上野の山を下り来て根津の巷に入り行きたり

夕日さす高層の窓は朱色(あけいろ)に眩しく光る燃ゆるがごとく

九十七歳の老翁にして矍鑠と論じゐるなる人のすがしさ(奥野誠亮先生)

太鼓鳴らし僧たちは道を歩み行く谷中寺町夕暮れの時

谷中には日蓮宗の寺多し太鼓の音と題目の声

これの地に命落とせし彰義隊のつはものを思ひ下る坂道

菩提寺の法要に並ぶ人々はやがて境内に共に眠らむ

歌声の無き集會が多くなり一人歩みつつ歌ふ歌あり

昭和維新青年日本の歌うたひたり會合を終へて帰り行く道

魂の激しくふるふ夜にして筆執る指の力強さよ

幼子を抱き歩める父親はいまだ少年の面影残す

夜の電車皆それぞれの顔をして向かひ合ひゐる口も利かずに

幽り世に入り行くごとき思ひにて暗き参道に歩み来にけり

東京に春立ちにけり 新しきタワーは靄につつまれてゐる

東京に春立ちにけり 渇きたる空気もなごみ靄かかりたり

マルクスもエンゲルスも知らぬ二十一世紀 國家は死滅すなどとは大嘘

心臓よ強くあれと祈りつつ胸に手を当て撫ぜさすりをり

紀元節に雪は降り来てありがたし今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと)―大伴家持の歌に習ひて詠める

延命とは延苦なりとの医師の言葉 今もはっきりとわが耳朶にあり

水を欲る胃瘻(いろう)の父の苦しみに為すすべの無きことの切なさ

朝起きて窓を開ければ雪降りて心うれしき建國の日よ

ひたすらに生きゆくことこそ尊けれ 涙も汗もみなわれのもの

ずっしりと重たき体を歩ませて生きてゐるなり昨日も今日も

降り出しし雪にぬれつつ夜の街一人し歩むバレンタインデー

降る雪は幻の如く見ゆるなり恋せし人も今は幻

光ある中を歩めといふ言葉 長くわが胸に響きゐるなり

老夫婦の住める屋敷に白梅が咲きてゐるなり いのち尊し

高架の上をわが乗る電車は走り行く 寒天の満月に照らされにつつ

母も我もこの町に生まれ死に行くか ああ千駄木に春雨ぞ降る

パソコンにせっつかれつつ日々(にちにち)を過ごしゐるなる我にしあるか

月の光 妙に明るき寒き夜 斎場への道を急ぎ行きたり

前門(チェンメン)でしゃぶしゃぶ食べし旅の日よ 今に忘れぬ青年の笑顔(大陸の旅を思ひ出して)

わが父も訪れしてふ天壇を父の病室で思ひ出しをり(同)

黄河だとの声聞き窓より見下ろせし黄色の濁流を今に忘れず(同)

切羽詰まることは有難し おのづから道は開ける事ぞ幾度

壇上を歩き回りて語る人 情熱の言葉迸りつつ

春寒く急ぎ歩める帰り道 美しき女(ひと)と挨拶交はす

一人坐す部屋には白き観音像 われを護らす慈悲の光か 

禍事の重なり起こりし日の本の國のよみがへりただ祈るなり

海神(わだつみ)はにはかに荒び大きなる怒涛となりて襲ひ来たれり

恐ろしき自然の力がこの國に襲ひかかれり春浅き日に

大津波襲ひかかりて黒き水 川遡る恐ろしさかな

このままに衰へ行くかわが祖國 力与へよ天地の神

天罰などと言ふことなかれ 罪の無き人々多く惨禍に喘ぐ

いつも通りの朝は来たれどこの國は今累卵の危機にあるなり

窓よりの眺めは穏やかに見ゆれども地震と停電と原発の恐怖

今宵また地震ありたり 繰り返す地霊の荒び鎮まりたまへ

文明の中に生き来し我ら皆 自然の猛威にうち震へゐる

春弥生おだやかなる日に地震起き祖國日本は危殆に瀕す

懸命に作業する人の無事祈り原発事故の画面見つめる

夫や子を失ひし女性を映し出すテレビ画面を見るにしのびず

人通りも灯りも少なきわが町に寒き風のみ吹き荒びゐる

命懸けの働きをせし消防官そのうるはしき功(いさを)讃へむ

麗しき瑞穂の國に禍事が重ねて起こることの悲しさ

部屋内にこもりて嘆くことのほかなすすべはなしこの國難に

春弥生津波押し寄せ罪の無き人呑み込みて荒れ狂ふかな

天地に満ちてゐませる日の神の御稜威に生くる日の本の民  

点滴を受ける父をいとしみて頬を撫ぜやるほかにすべなし

大声で何かを訴へる父上のただ横にゐて胸さするのみ

桜花咲きさかる春となりぬれど父上はベッドに伏したまふなり

大きなる清麿像は大皇居(おほみかど)護るがごとく立ちたまふなり

煌々とまんまる月は照りてゐる地上にいかなる惨禍ありとも

海の幸に恵まれ生きる日の本の民は今海を怖れゐるなり

日の本は海の國なりその海が攻め寄せ来たりし恐ろしさかな

夜の灯の少なき街を走り行く タクシー運転手の嘆き聞きつつ

根岸なる古き酒房に友どちと春の酒呑むひと時の幸

のどかなる春の日なれど地は動き心休まることとてはなし

崩れ落ちし書籍の中にうずくまり分類整理をして過ごす春

揺れ動く大地の上に立つマンションその九階にわれは住みをり

ちらちらと散りくる桜の花びらをいとほしみつつのぼる坂道

弘法大師の御像の上に咲きさかる桜の花は永久の輝き

道灌殿の物見の丘の諏訪の神 谷中日暮里を守りまします

日蓮上人御真作てふ大黒天まつれる社(やしろ)に春風ぞ吹く

久しぶりにジーパンといふを買ひにけり若き力をとりもどすべく

み仏の慈悲をたのみて祈りたり御國の春よよみがへりませと

東北の地震に斃れし人々の御靈鎮めの讀経聞きをり(谷中天王寺慰靈法要)

公園に桜の花は咲き満ちてブランコを漕ぐ母子も華やぐ

乱にゐて治を忘れざる心をば今は持ちたし蘇れ日本

國民(くにたみ)と共に苦しまむとの大君の大御心にわが魂(たま)は哭く

天地と共に栄えむとのみことのり信じて生きむ日の本の民

すめろぎのゐます限りはこの國は永久に滅びることなしと信ず

舞踏などしたことはなき我にして「舞踏への勧誘」といふ曲を聴く

母校なる体育館で区議選の一票を投ずる春の夕暮

初恋の人の兄上が笑顔にてすれ違ひたるふるさとの町

過ぎ去りし時は帰らず 逝きましし人も帰らず さみしき心

独りごと言ひつつ部屋の掃除する 心の穢れも祓はんとして

にぎやかな曲を聞きつつわが部屋を掃除してをればまた地が震ふ

疲れたる身を横たへて昼寝せば火事の夢など見る恐ろしさ

久しぶりに訪れし三越の天女像 やや古びたる如くに見ゆる

年齢を忘れて生きることぞ良し 老いと衰へはわがことにあらず

怒りやすきわが性(さが)何とかならぬかと思ひつつ過ごす六十四歳

美しき山川草木揺れ動く大地も共にわが祖國なり

つつじの花咲き盛る道を歩み行く一時(いっとき)の平穏の有難さかな

やまと歌は静かに詠むがよろしきと思ひつつ握る静か夜の筆

敷石を踏みしめ歩めばわが意志も強くあるべしといふ心湧く

観自在菩薩の像は真白にてわれをまもらす慈悲の尊顔

茗荷など買ひ来て細かく刻んでは母と食せり春の朝餉に

晴れし日の五月の空の真青さは荒びたる世の少しのなぐさめ

石段を下り来たれば馴染みなる酒房のありてわれを呼びをり

政争に維新といふ言葉をもてあそぶ政治家といふは許し難しも

革命を夢見て赤き旗振りし若者たちは今や何処に

老人が「日曜版」の集金をする姿見れば革命は遠し

「若者よ体をきたへておけ」などといふ歌を聞きしははるかいにしへ 

わが来たるを喜びたまふ父上の笑顔を見れば胸迫るなり

幼子のごとくになりし父母をいとほしみつつ過ごす日日(にちにち)

父のゐる病院への道に慣れにけり 人影少なきさみしき道に

老父に手をかざしつつ苦しみの軽ろきを祈る日々の夕暮れ

政治家の空虚なる言葉を峻拒してただ大君のみ姿を仰ぐ

初夏の日がさんさんと照りわが部屋にさし来る朝は洗濯物を干す

つつがなく一日(ひとひ)を終へてやすらへば筆はすらすらと歌詠み出づる

静かなる夜更けに一人もの書けばペンの音のみさらさらと響く

戦後復興経済成長の道を歩み来し祖國に迫りし大き國難

わが心鎮まりにけり菩提寺の先祖の墓に真向かひ立てば

洗ひ清めし墓石の下にわれもまた何時かは永久の眠りにつかむ

蛸を食し美味し美味しとつぶやきて夜を過ごせば楽しかりけり

歩み来て古き茶房に入りにけり夕暮れ時の安らぎを得むと

家に帰りさてこれからが一仕事少しの酒に酔ひしながらに

時々に声あげて一人笑ひする 空しき思ひを打ち捨てむとて

水を入れたる灰皿を机の上に置き今日初めての煙草を吸はむ

相槌を打ちつつ相手の話聞く 同感することは少なくありとも

母校へと電話をすれば恙無くわが旧友は働きてをり

風に乗り政権取りし民主党 今断末魔の苦しみに喘ぐ

日は長く夜は短くて生きてゆく我を急かせるこの日頃なり

茶番劇と人は言ふともこれしきの事しか為さぬ今の政治家

ありきたりの言葉並べて良しとすることは慎め國難の時に

明治大帝まつれる宮にチマチョゴリまとひし婦人が詣でてゐたり

大きなる鳥居の上の菊の御紋燦然と輝くを仰ぎけるかな

大御歌に歌はれしごとき大空を仰ぎてうれしき神宮の森

神苑の泉を写真に撮らんとて若者たちが並びゐるなり

清正井の写真を持てば福が来ると若者たちは信じるゐるなり

目覚ましの時刻を合はせ床に入る一日の終りのやすらかなる時

一日が終らむとして一人居の部屋で静かに聴く曲のあり

何事もただ自らの修行ぞと思へばよろしそれで落ち着く

悲しみに耐えつつ生きるにあらねども心の底に残るものあり

やすらけく日々を過ごせばそれでよし初夏の風吹く街歩み行く

許せざる奴等がいくたりかゐる事が生きる証しと諾ひてをり

目覚めたる時にカーテンの隙間より初夏の光眩しく差しこみてをり

明日よりは新しき心で生きゆかむその思ひにて心経を誦す

魂が荒ぶることの多き我 月影を見よ 太陽を仰げ          

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