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四宮正貴の短歌作品 平成二十三年

老いませし父と母とを大切に日々を過ごして心足らへり

父上の喜びたまふ顔を見て心安らぐわれにしあるか

七夕といへどそれらしき行事なくただ曇り日を一人過ごせり

自らの心を正す思ひにて玄関に座り靴磨きをり

明日の朝はまた母上に電話して恙無きことを喜ぶが良し

クーラーより出で来る涼風にうながされ筆はすらすらとノートを走る

モツ焼はうまきものなり五十年の歴史を誇る下町の店

われの手を胸に抱きて離さざる父の心に涙こぼれる

とことはの命を願ふは無理なれど父の手をとり生きませと祈る

混迷の世とはいへども今日もまた朝日は昇り空に輝く

遠くより雷鳴の音の聞こえ来る夕べに食すさくらんぼかな

青色のガラス器が光を放ちゐる幽かなる世界へいざなふごとく

生きることの尊さは信じてゐるなれど苦しむ父を見るにしのびず

昭和の御代を生き抜き来たりしわが父の命尊し父よ頑張れ

心の中の刃光れり戦ひの明け暮れに生きる吾ならなくに

何処の店も同じやうな味といふなかれ冷やし中華を今日も食せり

父の声を振り切りて病室を出でて来ぬこの悲しみは何時まで続く

ベッドの上で呻吟したまふわが父を如何ともし難きこの辛さかも

母と飲む朝の紅茶はうまけれど父のゐまさぬことのさみしさ

パソコンの前に座りゐし一日が終わりて眼(まなこ)をいたはる心

大観の描きし富嶽を仰ぎ見て大いなる力湧き来たるかな

母に抱かれ父に守られし幼子の笑顔を地下鉄の中で見てをり       

戦争も軍隊もなき日本の若者たちの「幸せそうな顔」

腑抜けたる若者たちの言ふなかれ日本の國は「平和大國」

老看護婦が「民主党では駄目ですね」と言ひし言葉を聞きて肯ふ

わが命奮ひ立たせし書物なり『生命の實相』全四十巻

灼熱の太陽の下を歩み行く駅への道は遠く遥けし

君の住みゐし町を歩めど思ひ出のよすがとなるべきもの一つ無し

思ひ出の「湯島の白梅」口ずさみ夕暮時に女坂下る

三日月が深夜の空に浮かびをり昼の炎天は嘘の如くに

酒に酔ひ道を歩めば彼方より酔ひたる知人が手を振りて来る

腹の立つこと多き日々 暑さゆゑか己が性(さが)ゆゑか 鎮まれよ吾

剣菱の冷酒を呑み語らへば腹の立つこともやや忘れなむ

許せざる政治家は一人二人ならず 日本を貶しめる奴原の群れ

暗誦せし恋歌数首 与一師がこの世を去りて早十六年(中河与一先生)

颯爽と歌會に出でませしその姿昨日の如くに浮かび来るなり(影山正治先生)

『新古今』の講義を受けし遠き日を偲びつつ開く『素心臘梅』(窪田章一郎先生)

若き日に教へを受けし人々はみなこれの世を去りたまひたり

争ひの心は抑へ悪を懲らす心は常に保たむと思ふ

戦ひと争ひとは全く違ふもの悪を滅ぼすは日本の道

小學校に通ひゆきたる大給坂 久方ぶりに息切らし登る

明治大帝祀れる宮にとつくにの人々と共に参る嬉しさ(明治神宮)

雑踏の道より入り来し神域は緑濃くして池清らなり(同)

政権奪取一年にして醜悪な権力闘争繰り返す輩

新橋の賑はひの中 廃校となりし小學校の庭は静けし

一冊も読むことのなき全集がわが本棚を占拠してゐる

何時か必ず読まねばならぬと決めてゐる『鏡花全集』は本棚にあり

薄目開けて「よく来てくれたね」とのたまへる父の言葉に胸迫り来る

うめくごとく「一緒に帰らう」と言ひたまふ父の言葉に胸迫り来る

ベッドの上に苦しむ父に為す術のなきわれをこそ神よあはれめ

ゆっくりと湯船につかることもなく今日もせはしなくシャワーを浴びる

反抗せし時期もあれども今はただ父母をいたはり過ごす日々

母上の丸くなりたる背(せな)撫ぜて長く生きませとただに祈れり

太陽に照らされて立つベランダで今日の良き日の出発をする旱

湖を滑りゆく船で語らひし美しき人の面影遠し

秋刀魚の塩焼き食して嬉しき真昼間の定食堂の美しき乙女

鰯の刺身きらきら光るを食しつつ うましうましとのたまへる我

一杯が千五百円のカレーライス つつしみかしこみ食したりけり(某ホテルにて)

強き雨降りてうれしきこの夕べ炎熱の日が続き来たれば

旱天の慈雨てふ言葉のままの雨 強く降りゐるを窓辺にて見る

久しぶりの雨に濡れつつ街を行くこの夕暮に心安らぐ   

われがそばに来たりしことをかすかにも感じたまへる父よいとしき

胸と背中さすれば父はやすらけき顔となりたることの嬉しさ

わが手をば両手で握り胸元に置きてやすらぐ父よ生きませ

発熱せし父の胸をばさすりつつ祈り言となへる病院の部屋

苦しめる父の枕辺に座してゐる吾は一人で祈るのみなり

強き雨降る日に父は発熱す心をこめて神に祈らむ

椅子よりぞ立ち上がりなば帰るなと我に言ひたまふ父あはれなり

晴れわたる秋空の下ご祖先の眠りまします墓を清める

墓清め花供へればわが魂もやすらぎにけり秋空の下

銀杏の木やがて散りゆく葉をつけて秋の光に照らされてゐる

京に住む人より贈られし金平糖うましうましと食べる夜かな

高楼の窓の明かりはみな灯り住む人の生活も明るくあるべし

逝きませし友と来りし街の名は人生横丁 それもなくなりぬ

邪悪をば祓ひ清める神の風吹きて日本を救はせたまへ

隣國の暴挙に打ち勝つすべなきかテレビを見つつ心はたぎる

あなかしこ祖國日本は神の國 暴支膺懲 國土安穏

友愛の海などと言ひし馬鹿宰相北京に行きて談判をせよ

石段より見下ろせば赤き提灯が灯りゐるなり行かねばならぬ

肥えし身で昇る地下鉄の階段は人生修業の一つなりけり

まんまるの月が浮かべる空を行くヘリコプターの光の動き

未確認飛行物体は見えぬかと満月浮かぶ空を眺める

夕空に耀ふ朱色の雲の波まぶしかりせば浄土を思ふ

皇居前の松の緑を眺めつつこの國に生れし幸を思へり

梅で開いて松で治めるといふ言葉 皇居に来たりて深く思へり

すめろぎの愛でたまひたる庭園に入り来たれば心清まる(皇居東御苑)

苑の道歩み行きつつ先帝の慈愛のみ心しのびまつれり(同)

昭和天皇の慈しみ深きみ心に抱かれし思ひで歩む庭園(同)

川を越え着きたる町に氷雨降り 父ゐます病院に急ぎ行くなり

よく来たねと言はれし父の言の葉は心にしみてうれしかりけり

衰へし父と母とをなぐさめていたはりて生くるがわがつとめなる

何となく良き事あるを願ひつつ大空仰ぎ深呼吸する

川に親しむことなく生き来し我にして今は毎日川渡りゆく

二七〇萬円のドレスをまとひ写し繪にポーズをとるは國務大臣

仕分けとて節約迫る大臣が二七〇萬円のドレス着てゐる

タレントかはた大臣か 柔道家かはた政治家か 二人のをみな

官僚いじめの人民裁判の裁判長 國會の中でファッションショーする

キャンキャンとスピッツが吠えるごとくにて國會討論見苦しくぞある

かつて自分もキャンキャン吠えし菅総理 今日は自分が吠えられてゐる

帰り道を急ぎて行けば友どちの営む店が我を呼びをり

秋来ればやがて散りゆく緑葉をいとしむ心に眺めゐるかも

蓮華蔵世界の真中におはします毘盧遮那仏の大いなる力(東大寺展)

日の本の國を護らす毘盧遮那仏 蓮華蔵世界の真中におはす(同)

聖武天皇宸筆の御額仰ぎ見て衆生済度の御心を偲ぶ(同)

大き手を広げて我をまもりませ 仏の慈悲を願ふ心に

題目を唱へる声が聞こえ来る日暮里の路地にしばしたたずむ

黄葉となりたる桜の並木道 秋の光に眩しく見ゆる

不忍の池を見おろす楼上で妹背の契りを結ぶ喜び

秋の日の不忍池を眺めつつ開宴を待つ時のよろしさ

ならはしの乾杯をして若き二人の門出を祝ふことのよろしさ

昔のままの古書店に入り昔のままの店主に會ひぬ歳月を越えて

神保町のにぎはひを行く秋の午後 昔の友に逢ふことはなし

ビアホールの老店主の面影偲びつつジョッキ一杯呑みにけるかも

吉田健一が談笑する姿を眺めつつビール呑みたる昔を偲ぶ

よく食べて生きてをりなば よく肥えて 秋深みゆく日々のよろしさ

のどかなる秋の日の午後 谷中なる霊園の上に白き雲浮かぶ

姿勢正し歩み行くべし木枯しはいまだ吹かねど冬近づけば

歌を詠み眠りにつくがならひにて嵐近づく夜も筆持つ

南西の島に外寇の危機ありて北の島々は奪はれしまま

一杯の芋焼酎を呑みし後 ぶっかけうどんを食し喜ぶ

とことはの幸を祈りて合掌す南無観世音大菩薩様

何事かを訴えんとする父上になすすべなきが悲しかりけり

父上が母の名呼びつつ苦しめる姿を見れば胸迫りくる

笑顔にてわが来たれるを喜びたまふ父の苦しみ少なきを祈る

根詰めて仕事続けし一日を終へて安らぎ金平糖食す

肩こらず足も丈夫によく肥えて歩み行くなる我六十二

幼き日共に遊びし友どちの健やかな姿を見るはうれしき

街の姿変りゆきつつここに住む友らも多く年老いにけり

高き空に満月浮かぶ秋の夜 迷ふことなく生きたしと思ふ

この秋の残る光に照らされし紅葉眩しき苑の華やぎ(皇居東御苑)

紅葉多き皇居の苑をへめぐりて心鎮まるわれにしありけり(同)

天然の美といふ言葉をうべなひて皇居の紅葉を眺めけるかも(同)

太き腹を撫ぜさすりつつ内臓器官健やかなれと祈りゐるなり

鬱陶しき事ありし日は 寒くとも生ビール呑むがよろしかりけり

道一面に銀杏の枯葉が敷きつめられ今年もいよいよ過ぎゆかんとす

鎌倉の山懐に眠ります葦津珍彦師に花手向けたり

混迷の世となればこそ葦津師の本に學ばんと思ひゐるなり

久しぶりに来たりし鎌倉は賑ひて古き友らと花などを買ふ

鎌倉の初冬の街を歩み行き紅葉黄葉を愛でにけるかも

夜の街を歩めばもつ焼きの匂ひする 腹すきをれば耐へ難きかも

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