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四宮正貴の短歌作品 平成二十一年 その二

父の体抱きしめにつつ発熱のおさまるを祈る父の子なれば

新年の日輪はいま東天に昇り来たれり素晴らしき日本

大日輪輝きわたる大空を仰ぎてうれしき一月一日

新玉の年の初めに仰ぎたる日の大神の光尊し

東都北鎮根津権現に参り来て今年の幸を祈りまつれり

買ひて來しみかんを母と食べにつつ病院に伏す父を思ふも

一日も早く癒えませと祈りつつ病床の父の手を握りをり

わが父のいのちは強くよみがへり母の待つ家に帰りたまへよ

大いなる神の命の天降りわが父君を癒しめたまへ

かにかくに父あはれなり 発熱と痛みに耐える父あはれなり

わが父の苦しみ和らぐを祈りつつ胸さすりゐる夜の病室  

父と母それぞれに老いて今日の日を生きたまへるに合掌するわれ

帰り来てまづは財布を引出しにしまひてくつろぐ一人居の部屋

街角に一本立てる銀杏の木 葉は散り果てて風に吹かれゐる

父を乗せし救急車が街を走り行くこの静か夜を音立てながら

足腰が弱まりたまふなと念じつつ病院の廊下を父と歩めり

熱あればわけのわからぬことを言ふ父の手を取り相槌を打つ

民を愚かと思ひゐる政治家がのたまへる「生活第一」といふ欺瞞(小沢一郎)

地球上に悲惨といふことはなくならず人類の進歩とはそも何なるか

月光がわが部屋にさすを喜びて しばしあかりを灯さずにいる

雨あがり霞む朝(あした)の街眺め今日のこの日も生きゆかむとす

今日の日は父退院の佳き日なり雨降りをれど心浮き立つ

父君が久方ぶりに帰り来てわが家のベッドに横たわりたり

千代田線のトンネルを水が走り行き東京都心は水に没するか

荒川が決壊すればわが街も水没するかと恐れる心

つつましく生き来し父が日々(にちにち)を病ひと闘ふことの悲しさ

火の禍(まが)にくじけず國柄の學びをば続けたまへと祈りまつれり(日本國體學會)

集ひたる友らの笑顔 厳しかるこの世の中を生きゆく友の

日ねもすを冬の雨降る夕つ方寒き街行きナマコ買ひ来る

冷え冷えと冬の雨降る夕つ方鴉の声が聞こえ来るかな

観世音慈悲の御顔に経をあげ除災招福を祈りまつれり

節分會菩提寺に来て祖先(みおや)らの眠りまします墓を清める

水をかけ布で拭いてみおやらの眠れる墓所を清めまつれり

政宗の名刀といふを見つめをればわが鋭心(とごころ)の湧き来たるかな(東京國立博物館)

剣太刀われは持たねどますらをの心は常に持ちてゆきたし

ガード下の小さき飲み屋で食したるアラ汁美味し冬の夕暮れ

戊辰戦争の弾痕残る山門をくぐり行きなば静かなる苑(日暮里経王寺)

いにしへのいくさの跡の寺町を一人静かに歩みつつをり(谷中)

眠くなりし夜更けに一人ものを思ふ茫々として夢かうつつか

暮れゆけば巷の空に月浮かぶ 人は過ぎゆき時は経つとも

幾年も逢はざる友の家の前 通り過ぎつつ偲ぶ面影

花を飾る心は母の心かな 下駄箱の上の寒椿の花

古き館に集ひて學ぶ冬の夜 病みあがりの人をいたはりにつつ(神田學士會館)

人と人相語らひて楽しもよ蛍光灯が明るく照らし

中天にさへかへる月 せはしなく生きゐる我をなぐさめ給ふ

身を焦がすばかりの恋をしてみたしと 思ひつつ読む牧水の歌

さらさらともの書く音と風の音が 夜更けの部屋に響き合ふかな

タクシーに乗れば汗かく肥満體 冬の真昼間に病院へと急ぐ

萬葉の歌を講義し いにしへのわが日の本をしのぶ喜び

男坂をのぼり行きつつ息切らす いささか重しわが肉體は(湯島天満宮)

女坂を下り行きつつ五分咲きの白梅愛でる夕つ方かな(同)

面影を偲びつつ君が住みてゐし湯島新花町を一人歩めり

温もりし部屋の中にて父母と語りゐるなり外は雪ながら

真日昇り下町の空を照らす時 新たなる一日(ひとひ)が始まりてをり

一日を机に向ひ過ごしたり もの書くことの何と楽しき

春なれど冬より寒き日となりて震へつつ友を街角で待つ

盗み来たりし仏の像に手を合はすその心根の測りがたしも

幼き日に通ひ行きたる幼稚園 跡形もなくなりしさみしさ

東京に生き来て六十有余年 ふるさとと思ふ千駄木の町

九重の緑美しきこの夕べ遠く眺める民草われは

光満つる九重の庭にくつろぎて大空仰ぐ民草われは(皇居東御苑)

久方の大空仰ぎ聖帝の御歌唱ふる九重の庭(同)

松の緑青空の下に麗しく日に照らされる九重の庭(同)

買ひて来しナマコをぽん酢で食したり コノワタといふは美味きものなり

健やかに一日でも長く生きたまへと祈りつつ日々を父母と過ごすも

久しぶりに晴れわたりたる空の下 洗濯物を干してよろこぶ

父の手を取りつつベランダに佇めば天津日の光二人をつつむ

尾山篤次郎の歌を読みつつ煙草吸ふ 禁煙を美徳とする世に逆らひて

怒りの念鎮ましめつつ手を合はす如意輪観世音の白きみ姿

田中・金丸金権政治の後継ぎが日本一新と言ふは片腹痛し

會果てて夜道を家へと急ぎ行く 帰るべき家があることぞ良し

オフレコと言われてむなくし筆を置く 講演會場に勇み来れど

葵の御紋 屋根に輝くを仰ぎたり上野寛永寺根本中堂

歴代将軍眠りゐるなる霊園に春の風吹く平成の御代

佳き人の朗らかな笑ひが聞こえ来る朝の電話はうれしかりけり

閃光が街の姿を浮かばせて雷鳴響く春の夕暮

やすらけき心となるを拒絶する如くに響く春の雷鳴

春の宵三日月冴える空の下 急ぎ行くなり父母待つ家へ

夜の更けに目覚めてをればエレベーターの動く音にも不安なる心

この夜更一階毎に止りゐるエレベーターの音の不気味さ

谷中なる大仏は慈悲のみ顔にて拝ろがむわれを見下ろし給ふ

春の盛り東叡山に参り来て薬師如来を拝ろがみまつる

ゆたかなる春の光が満ち溢れ九段の坂は桜花爛漫

大君の御成婚五十年を祝しまつる春の日は明るくうららなりけり

両陛下永久に健やかにあらませと祈りつつ記帳を終へにけるかも

春嵐吹き来る上野の山に来て大西郷像を仰ぎ見るかな

窓辺より庭の緑を眺めつつ やすらけく過ごす昼下がりかな

無名烈士の御墓邊の前で合掌す 御霊は永久に生きたまふなり

愛らしき乙女が運び来し讃岐うどん食してうれしき根津の夕暮

近道と思ひて行きしに遠回りをしてしまひたる口惜しさかな

み仏に仕へまつれる皇女たちの御跡を偲び宝拝ろがむ(『皇女たちの信仰と御所文化』展)

満員の通勤電車に一人して異邦人の如くに座る我かも

八幡神まつれる宮に小雨降り池の鯉たち舞ひ泳ぎゐる(富岡八幡宮)

念ずれば花開くてふ言葉ありみ仏の前で口ずさみをり

父母は心も體も弱まりてわれを頼りに生きたまふなり

父の手を引きて道行く春の朝うらうらと照る日の有難し

父母のおだやかな笑顔を見てうれし夜遅く家に帰り来たりて

日の本は緑濃き國さはやけく清らけく今日も生きゆかむかな

見上げれば三日月浮かぶ初夏の宵 酔ひたるまなこにさはやけきかな

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