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四宮正貴の短歌作品 平成十八年 その二

 

山門の上に輝く星一つ救ひの如きその光かも(谷中寺町)

久遠元初の命さきはふ心にて手を合せたり大き佛に(谷中大佛)

寒風の吹きすさぶ道より見上げれば燕の巣が一つ軒に残れり

人気なき千鳥が淵を歩みたりやがて過ぎ行く平成十七年

月の光あはれ家々の屋根照らす久遠に流るゝ命のごとく

亡き人の写真を見ればその笑顔とこしへのさみしさ見せてゐるなり

幻となりし人ゆへうら悲し夕暮空の薄桃色も

古き神社に歩み入り来て古札をば納めたりけり師走三十日(根津神社)

母と二人寒き夜をば歩み行き観音堂に参るうれしさ

大晦日の夜の寒さをこらへつつ母と二人で道歩みたり

天つ日は永久に変らず輝きて青人草を生かしたまへり

民草は雨に濡れつゝ声の限りわが大君に歓呼し奉る

大君は雨に濡れゐる民草をいたはるみ言葉宣(の)らせたまへり

日の御旗ひるがへりゐるを眺めたり日の神まつる神垣に来て

五十鈴川清き流れに手をひたし日の大神を拝ろがみにけり

五十鈴川流れは絶えず今年また手を清めたり民草われは

歩み行く参道に人ら多くして伊勢の神垣に日の本の栄え

日の本の御親の神を拝ろがめり新春の日の清きならひと

建礼門に雪降りかかる清らかさ日の本の国はうるはしきかな

御門辺を恋ふる心に仰ぎたる建礼門は清くうるはし

旅に来しわれを清めるごとくにも淡雪はいま流れてやまず

淡雪降る京都御苑に薄日さし世の平安を祈るひと時

清らけき京都御苑に淡雪がほどろほどろに舞ひ落つるかも

清麿公まつれる宮に参り来て皇統連綿をひたに祈れり(護王神社)

訪ね来し法住寺陵に手を合せはるかいにしへの大君を偲ぶ(後白河天皇御陵)

戦乱の世にましましし大君のみささぎは清らけく鎮まりたまふ(同)

淡雪は流れるごとく降りにけり旅人一人町を歩めば

囹圄の身となりゐし人の健やけき姿にま見えることの嬉しさ(西村眞悟氏)

中天の月冴えわたる冬の夜 寒さも寒し一人歩めば

食事の後父母の肩揉むひと時に生きる命をかみしめにけり

しんしんと雪は降りをり真夜中に静心無く窓を開ければ

怒らじと思へど怒りてしまひたるわが性(さが)悲し受話器を置きて

恋をせねば恋歌などはつくれぬと自嘲しつゝも今日も歌詠む

恥多き人生なるかなと思ひつゝ弓張月を仰ぐ夜かな

酒といふ有り難きものを今日も呑む有り難きかなわが人生は

夕焼け雲遥かに浮び動かねば浄土といふがあるを信ぜむ

内裏雛うちながめつゝ皇國(すめくに)の御門辺(みかどべ)を恋ふる心満ち来る

大き目をせし代議士はあはれにも病ひと称し雲隠れせり

睡眠剤をのむこともなく眠れるを幸ひとして今日も生きゆく

幼き日に憶へし讃美歌おのづから口より出づる冬の日の夜

菅公の尊皇精神しのびつつ夕暮れ時の梅園を歩む

白梅を愛でつゝ一人歩みをり本郷湯島の玉垣の内

湯島天神女坂をばのぼり行き白き梅をば愛でにけるかも

梅の花愛でる心を大切にせむとして湯島女坂をのぼる 

今日の日は鬼畜アメリカが皇都をば焼き尽したる三月十日

ゆとりある心といふにはあらねども梅の花咲く園をめぐれり

春嵐わが住む家に吹きつける音を聞きつゝ眠らむとする

健やかな母上と共に菩提寺に参り来たりて御祖(みおや)拝ろがむ

墓石を洗ひ清めて花供へ線香あげて御祖拝ろがむ

階段を一気に昇り息切れする肥満体われをあはれみたまへ

千駄木の古き家並次々と壊されてゆくは悲しかりけり

古き旅館跡形もなく空地には二羽の鳩たち遊びゐるのみ

敷島の大和の国の桜花仰ぎてうれし谷中霊園

清らけき庭に憩ひて桜花散るを眺むる谷中天王寺

友と来て立てる墓原 静かなるこの夕暮に桜花舞ふ

岡倉天心旧居跡なる公園に桜の花は咲き満つるなり

独房に閉じ込められしごとくにも堂の中に立つ天心の像

明烏鳴き出す頃に夢の国へ入り行くことがわがならひなる

池の面に桜の花びら浮ぶなりかくて今年の春も過ぎ行く

雨の歩道桜の花びら散り敷きて歩み行く足のおぼつかなしも

春の盛り丘の上より吹く風に心なごみて歌を詠みをり

有難き友の情けの身にしみて生き行くことの有難きかな

道端の靴磨き屋もゐなくなりし東京の町をさみしみてをり

パンを食し葡萄酒飲めばキリストの肉と血といふを思ひ起こせり

マルセリーノといふ少年の映画をば思ひ出しつゝ葡萄酒を飲む

つつじの花一杯に咲く根津権現 春は過ぎ去り初夏は来にけり

たまきはる命を今ぞ燃え立たせ熱き祈りをこめにけるかも

古き館に集ひて古き文章を若き學徒と學ぶひと時

學徒といふ言葉も古くなりたりと思ひて一人笑ひこらへる

殉難者といふ言葉すら否定する人のゐることを憤りをり

外國の手にて縊られし人々を殉難者と言はずして何と言ふのか

祖國への愛も同胞への思ひやりも棄てし人等に言ふすべもなし

酷きこと繰り返したる禍つ國 独裁者の顔のいとおぞましき(金正日)

弱りたる父を悲しみ夜を過ごす九十歳近くとなりしわが父を

癒えませとひたすら祈り父上のみ体さする生みの子われは

大き寺のお堂の上の広き空仰ぎて願ふ平らけき世を(瑞輪寺)

彰義隊の立てこもりたる古き寺につつじの花は咲き盛るなり(経王寺)

破戒僧のゐたりしといふ大き寺に椎の巨木は今も残れる(延命院)

三つ葉葵の御紋といふが燦然と輝きてゐる上野寛永寺

猛きみ顔の不動明王に祈りたりわが煩悩を祓へたまへと

み仏に救ひ求める人々の心を映す慈顔尊し

戦前の特高警察の拷問のことを読みつゝ憤りをり

獄死とは名ばかりにして責め殺されし人らの恨みをいかにとやせむ

三木清牧口常三郎小林多喜二みな大君の赤子なりしぞ

日出麿といふ大いなる名の人も拷問の果てに狂ひたまへり

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