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四宮正貴の短歌作品 平成十七年 その二

 

過ぎ行きし年月のことを思ひをり 地球は廻るわれも生きゐる

この出湯は本物なるかと思ひつゝ湯船につかる秋の夕暮

エイホーと掛け声かけて走り行きますらたけをは水垢離をする

現御神すめらみことのみ姿を仰ぎて祝ふ天長の佳節

大君の生(あ)れましの日にみ民われ皇居の庭に萬歳を唱ふ

経巡れる佐渡には多くの能舞台 貴種流離の歴史今に傳へて

雪の降るおほつごもりを父母とそば食しつゝ語らひにけり

一年の穢れを清むるごとくにもおほつもごりに雪は降りける

内宮の参道を行くうれしさよ日の大神を拝ろがむとて

あなかしこ伊勢の大神のみやしろに新春の日は降りそゝぎをり

わが手をば御裳濯川にひたしたり新しき年の新しき日に

奈良の都に一人し行けば三笠山やさしくわれを迎へくれたり

萬葉人の恋ひ慕ひたる三笠山仰ぎつゝ歩む今日の旅人

旅の宿の窓より見ゆる山々は大和の國の神ゐます山

東塔と西塔並ぶ美しきみ寺をバスの窓より拝む

遠き代の皇子ねむります小さき丘を拝ろがみまつり心かしこむ

山背大兄王子の御墓(おんはか)と傳へられゐる丘を仰げり

今此処が浄土の如き思ひにて古きみ寺の塔を仰げり

参道を歩み行きなばわが友は三輪山のふもとに健やかにをり

懐かしき友の姿を見てうれし大和の國の三輪山の麓

贈られし素麺の箱の重たさにいよよはなやぐわが心かな

老板前が鼻をこすりしその手にて刺身を切るは切なかりけり

酌み交はし挙句の果てに口論し席を立ちたること幾度か

明日もまた為すべきことを為しにつゝ命生きゆくわれにしあるらし

ご遺族の泣き声響く斎場で菊の花もて棺を覆へり(冨士信夫先生御逝去)

モンテンルパを訪れし旅を思ひつゝ渡辺はま子の歌声を聞く

ともかくもこの世を強く生き抜かむ命ある限り生ある限り

雨の降る街にネオンは煌めきて穢れも欲も覆ひ隠すか

ビハリボースゆかりのカレーを食したり新宿中村屋の片隅に坐し

わが心鎮めて今宵も眠らなむ般若心経を誦したるのちに

詫びの手紙書きたる後に一杯のコーヒーを飲み心慰さむ

冬の夜更け静かなりせば温風器の音聞こえ来る無機質の音

町行けば寺の鐘の音聞こえ来る闘諍堅固の末法の世に

得入無上道と書かれし卒塔婆を道路より見つつ歩めり谷中寺町

いにしへより日の本人が仰ぎ來し毘盧遮那佛の大きなる姿(唐招提寺展)

鑑真和上の坐像に人らは群がりて博物館の閉館迫る(同)

入りつ日の赤く耀ふ時の間に燃え立つごときわが命かも

根津権現の清きみあらか眺めつつS坂といふをのぼり行くかな

歩み行く本郷西片幼き日に通ひし教會も昔のままに

歩き疲れ入りたる茶房で一杯のコーヒーを飲むひと時の幸

侵略し併呑狙ふ國をこそ今し懲らしめ撃ち祓ふべし 

反日を國是となしつつわが國に迫り来るなる十二憶の國

笑顔にて覇権拡大の意志示す「中國外相」をテレビにて見る

合掌し観音像に真向かへば大慈大悲の光遍し

久しぶりの「台独集會」熱気溢れ民族の炎燃ゆる今宵ぞ

町に住み町に出で行き人々の雑踏の中を歩み行くかな

近づける春の季節を喜びて雨に濡れつつ町を歩めり

十萬の無辜の民らが殺されし酷き歴史をしのぶ今日の日

合掌す三月十日の空襲で焼き殺されし人の御靈に

ぶつぶつともの言うごとき歌詠まず明るく大らかな歌を詠むべし

わが父は健やかにしてともどもに道を歩むはうれしかりけり

后の宮の丹精したまひし蚕をばたゞありがたく拝ろがみまつる

機織の伝統をこそ護ります后の宮の尊き心

日の本の春は来たれり大皇居(おほみかど)東御苑に花咲き出づる

面影は永久(とは)に美しく浮び来て君今いづこにをはすか知らず

真っ直ぐに生きゆくことを望みつゝあはれなるかな曲がることあり

親は子を子は親を殺す世の様を悲しみにつゝ新聞を閉づ

しばらくは海見ることもなく過ごす都の中の生活(たつき)なりけり

歩みゆく正面の空に満月が吾(あ)を呼ぶ如くくっきりと浮ぶ

月の世界に入り行けば心の安穏があるべきものかと仰ぐ満月

またしても地震(なゐ)は起れりアジアなる大海原の神は怒るか

かくまでも祖國を呪ふ者共を神は許さじ我も許さじ

秩父嶺を見はるかすなる丘に立ち歌をうたひし昔を偲ぶ

双手(もろて)挙げ日輪仰ぐ朝(あした)かな かくてこの日もいのち生きゆく

しばしの間母のことなど語らひし父との會話に涙さしぐむ

法華経の写経の跡を眺めつゝ清盛入道の心を偲ぶ(『厳島神社國宝展』)

清盛の写経といふを見つめつゝ盛者必衰のことはりを思ふ(同)

鳴鶴翁の気高き文字を仰ぎたり春の盛りの谷中靈園

春は今日盛りなりけり九段坂 桜の木々は耀(かゞよ)ひてをり

英靈をまつれる宮に友どちと参り来たれば桜花爛漫

散りそめし桜の花を見上げては また来年も逢はむとぞ思ふ

こぬか雨春の夕べに降りつゞき 心も濡れて一人歩みぬ

葉桜となりにし並木を眺めつつ やがて来たらむ夏を恋ふかも

移りゆく季節をいとしみ 日々を生きゆくことをよろこびとせむ

大き木の上に浮かべる白雲を仰ぎて今日の生をうべなふ

急激に夏は来たれり新緑の上に降り注ぐ太陽の光

心にしみる歌謡曲などなくなりていよよ荒める日の本の國

母君と道を歩めばありがたし この人よりわれは生まれ来しなり

うらうらと照れる春日を身に浴びてベランダに立つ時ぞよろしき

歌詠みて一日(ひとひ)終へるをならひとし今日も筆とる夜更けの部屋で

ノートにぞ歌を記して眠むらなむ夢の世界に入り行かむとて

わが肉體重たかりせば地下鉄の階段昇るも切なかりけり

咲き盛る春の花々 下町の路地裏を行くは楽しかりけり

蝋燭の炎を見つめしばしの間 もの思ひゐるを神よあはれめ

うまきもの食して喜ぶ春の宵 荒々しき世に生きてをれども

若き命よみがへるごとき思ひして青葉若葉の森を行くかな

近代の短歌といふはなにゆへか悲しく暗き歌多きかな

誰人も参り来たれる様子なき古く大きな墓は悲しも(上野寛永寺徳川家墓地)

良き人と語り合ひたる春の午後 昔の思ひ出明日への希望 

大きなる惨事起きたり文明の力に頼る人間世界

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