「バトル・ロワイアル」
小説/高見広春・太田出版

 中学3年生のとあるクラスが、残り1人になるまで殺し合いを続けるというショッキングな内容。随所に散りばめられた軽妙なノリ。
 社会的にも大きな話題を呼んだこの作品は、果たして一体何をテーマに書かれたものなのだろうか。

1.キャラクターとテーマの関係
●相馬光子――信じていた人物から裏切られたという過去を持つ。しだいに光子は、「裏切られ、奪われる痛みをこれ以上味わうくらいなら、奪う側に回ってやる」……そういう生き方を選んでいく。他人を絶対に信用せず、逆に相手の信頼を得てそれを裏切る。プログラム中の彼女の行動は、過去の体験を投影したものだ。力で劣っている分作戦で補うという意味合いもあるが、重要なのはやはり彼女の行動理由である。

●三村信史――「ザ・サード・マン」の異名を持ち、ずば抜けた能力を有する彼が、いとも簡単にやられてしまう。その原因は、友人・飯島敬太を疑ったからに他ならない。そうでなければ彼を誤って殺すこともなかっただろうし、隙をつかれて桐山和雄の銃弾を受けることもなかっただろう。

●桐山和雄――作品の強烈なアクセントとなる人物。彼は感情を持っておらず、その行動に理由は存在しない。ゆえに劇中では完全な殺人マシンであり、まるで映画「ターミネーター」のようなノリである。自分の死に対しても無頓着、かつ人を殺しても心が動かないのだから、それも当然だろう。「プログラム参加者にとって最大の脅威」という役割を担っている。違う言い方をすれば、純粋な悪役として設定されたキャラクター。

●川田章吾――かつて「プログラム」で優勝し、同時に恋人・大貫慶子を失っている。彼はそれをずっと悔やんできたはずだ。だからこそ、秋也と典子に手を貸す気になったのだろう。かつて自分が味わった苦しみを2人に味わわせたくない。互いへの信頼を失うことなく生き延びて欲しい。そうした思いがあったに違いない。かつて自分の果たせなかった理想を、秋也と典子に託していたのだろう。そうでなければ、独自の脱出手段を持つ川田が危険を冒してまで2人を助ける理由がない。

●七原秋也――なぜ彼が主人公なのか。個性で言えば三村や桐山、川田といった連中のほうが上である。判断力、身体能力はトップクラスだが、やはり前述のメンバーにはやや劣るように思う。
 秋也が主人公である理由は、どんな状況でも他人を信じ、助けようとするひたむきな心を持っているからである。そうした純粋で優しい彼の心は日常生活においても他人を惹きつけていたのだろう。クラスの複数の女子から想いを寄せられていたことからも、それが分かる。
 川田と出会い、彼を信頼していったことが、秋也が生き残れた要因だ。これに異を唱える読者はいないだろう。彼の信頼を得られたのは、傷ついた典子を庇いながら行動していたからだ。仮に秋也が「典子は足手まといだから関わらないでおこう」などと考えて単独行動するような人物だったらどうなっていたか?
 間違いなく命を落としていただろう。

(――ちなみに他にも、北野雪子と日下友美子のように他人を信じようとした人物はいるが、彼女たちは「説得でゲームを終わらせるのは不可能」という事実を読者に提示するために殺されてしまう。はじめからそうした役割を担って登場したキャラだと思われるが、さすがに哀れである。合掌……)

●山本和彦&小川さくら――殺し合いが始まる前に、誰も傷つけず、誰の手にも掛からずに心中したこの2人。これまで取り上げてきたキャラクターとはまったく違った生き様を見せている。
 彼らは「プログラム」の敗者であるが、しかしある意味では勝利者でもある。互いを信頼していなければ、一緒に飛び降りることなどできないだろう。「もし自分だけが飛び降りたら?」などと疑えば、躊躇して当然だ。それをしなかったのだから、この2人は最後まで相手を信じていたといえる。
 生きる努力をせずに逃げた、と捉えることもできるのだが、最後は1人しか生き残れないという絶望的なゲームの中で、純粋な気持ちを持ち続けて死んだということは、非常に意義深い。

 こうしてキャラクターを見てみると、作品のテーマが浮かび上がってくる。
「他人を信じるということ」――バトル・ロワイアルの根底に流れているのはこれである。

2.シーンとテーマの関係
 このように、作中におけるキャラクターの生き様はテーマと密接に関わり合っているが、一方、設定や劇中のシーンからもテーマとの関わりを指摘することができる。
 参加者の不信が殺し合いの理由となる「プログラム」及び、それを容認する国家・民衆という舞台設定そのものが、いわばアンチ・テーマとでもいうべきものだ。

 そしてテーマが最も逆説的、かつ端的に表現されている場面がある。それは、疑心が発端となった灯台での惨劇だ。本当に些細な出来事がきっかけで、仲間と思っていた者たちが殺し合いを始める。一見、信じ合っているように思えても、実は……という皮肉を盛り込んだシーンである。

 また、ラスト近くで、秋也と典子が街でテレビモニタを見るシーンがある。川田がテレビカメラに向かって勝利を誇るかのような仕草を見せるシーンだ。彼は何を伝えようとしたのか、考えた読者も多いに違いない。
 この仕草は、紛れもない勝利宣言だ。ただし、ゲームを生き抜いたことにではない(すでにこのとき、川田は自身の死を悟っていたはずである)。
 他人を信じられない状況を作り出し、殺し合いをさせるような「クソゲーム」に放り込まれながらなお、信じる気持ちを失わなかった者たち――秋也と典子――を助け、政府を出し抜けたことに対する勝利宣言なのだ。
 不信を植え付けるゲームに最後まで屈しなかった仲間たち、そして3人の信頼関係を誇っているのである。

3.この作品のテーマとは
 秋也と典子が終わるあてのない逃避行に移るエンディングは、希望に満ちている。川田の言うとおり、互いに信じ合い助け合って生きていけば、いつか2人は求める場所へ辿り着けることだろう。
 信頼で結ばれ生き延びた2人の存在が、テーマを如実に物語っている。
「人を信じるということ」――このテーマを突き詰めて具体的に言えば、「他人を信じるのはとても難しいことだが、その壁を乗り越えた者は何にも代え難い絆で結ばれる」となる。

 バトル・ロワイアルは非常に純粋な青春小説である。登場人物を中学生に設定したのも心憎い。微妙な年齢のキャラクターだからこそ、その極限状態での生き様が鮮烈な印象を残す。残酷という理由でこの作品を否定する人がいるとしたら、ぜひ再考を促したいものだ。
 バトル・ロワイアルは新人賞で落とされたと聞くが、これは時期が悪かったとしか言いようがない。おそらく酒鬼薔薇事件などで少年犯罪が特に大きく取り上げられていた時期である(現在も問題となっているが)。さすがにそれを連想させるような小説は出版社としても出しづらかったのだろう。現在、こうして世に出ていることはとても喜ばしい。太田出版に感謝する次第である。もちろん、これだけの作品を書き上げた高見広春氏にも。
 次回作への期待はつきない。

(2000/07/23)


追記
 読後にブルース・スプリングスティーンの「明日なき暴走(Born To Run)」を聴きたくなった人は、俺だけではないはず。思い入れが増すこと間違いなし。
 ……そういや、至近距離でサブマシンガンを食らっても全くダメージを受けない防弾チョッキなんて、実際にあるんでしょうか。テレビでやっているドキュメンタリーだと、ひどい打撲傷を負ったり骨折したりするみたいなんですけどね。
 あと最後のところで「青春小説」とか書いちゃいましたが、「違うんじゃないの?」とか言われそう。個人的には青春だと思うんですけどね、これ。

 以下、キャラへの思い入れとかなんとか。


●相馬光子
 非常に印象に残ったキャラ。途中までは単に「女版・桐山」という感じで見ていましたが、彼女の過去が明かされ、優一郎とのやりとりが行われたとき、かなりグッとくるものがありました。優一郎いての光子という感じです。
 光子が無実のクラスメイトを殺すことに何の抵抗も持っていない(むしろ楽しんでいる)のが納得しにくいんですけどね。これがなければ好きなキャラに挙げられるのに……。あれだけ悲惨な過去を背負ってれば、人殺しに抵抗を持たなくなっても無理はないかもしれませんが。多分、「プログラム」以前にも何人か半殺しくらいにはしてそうだし。

●滝口優一郎
 その考え方と死に様が格好良いです。普段は弱い奴が、極限状況で……というシチュエーションは結構好き。

●杉村弘樹
 こいつも格好良すぎます。惚れた女に想いを伝えるためだけに、危険な戦場を駆けめぐったナイスガイ。あまりにあっけない最期を迎えてしまいますが、それがまたイイ。

●千草貴子
 弘樹との会話、これにつきます。他に何も言う必要はないでしょう。

●桐山和雄
 こいつはもう、ホントに「機械」ですね。登場人物を殺すという役割を担って(作者に)作られた男、という感じで。キャラとして捉えるといまいち面白味に欠ける存在でした。……桐山ファンのみなさん、ゴメンナサイ。

●山本和彦&小川さくら
 すごく純粋な奴らだと思います。「プログラム」開始直後にこの2人のエピソードが描かれたときには、かなりショックを受けました。人によって評価が分かれる死に様だとは思いますが、俺はこれもありだと思います。

●川田章吾
 こいつです。してやられました。桐山の銃弾を受けた時から予想はしていましたが、それでも死亡するシーンでは大泣きしましたとも。本を読んで泣いたのはポール・ギャリコの童話「スノー・グース」を読んで以来(←多分、絶版です。図書館で探せば見つかると思います)。なんというか、自分の涙腺の弱さを再認識しました。


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