アン子のやたら愛想の良い笑みを見た瞬間、背中を走ったいや〜な悪寒は錯覚じゃねぇと思う。
 実際、この笑顔に騙されて、何度痛い目を見たことか。
 その度に絶対もう騙されるもんかと心に誓うんだが、如何せんコイツは人を乗せるのが上手い。ちょっとでも隙を見せたらあっという間に言いくるめられちまう。口のうまさもここまでいけば犯罪だ。
 どうせ今度も、アヤしげなネタ持ってきてるに違いねェし…
 そもそも、いきなり新聞部に引っ張り込まれた時点で、身の危険を感じるのは間違いじゃねェと思う。
 果たして、アン子は後ろ手に隠していた包みを突き付けると、きっぱりと言った。
「脱いで」
「………ついにそこまで落ちたか、アン子。年下を襲うだけじゃ飽きたらなくなったんだな。けど、俺は生憎そういう趣味は…」
 最後まで言う前に、拳が飛んでくる。
「誰が襲うよっっ!頼まれたって誰がアンタなんか襲うもんですか!いいから、これに着替えなさいって言ってるのよ!」
 と、アン子が突き出した物をよく見てみれば…
「なんだこりゃ?」
「甚平よ。見てわかんない?」
 そりゃ、見りゃあわかるが、俺が聞きたいのはなんでこれに着替えなきゃいけないかって事だ。
 聞き返せば、途端にアン子は笑顔になった。
「アンタ、手芸部の子に見本用の採寸って頼まれて、ほいほい計らせてやってたじゃない」
 そりゃ覚えがある。見本用にするからって頼まれて、OKしたんだった。
 けどなんで、それをアン子が持ってくるんだ?
「そりゃわかってる。けど、それをなんでお前が持ってんだよ?」
「やぁね、頼まれたのよ。作品は一つしかないけど、共同で作った物だから後に何か形を残しておきたいって。写真なら、みんなで持てるでしょ?」
 そう言いながら、さりげなーく腕を回して隠したもう一つの包み。似たような形してるとこを見ると、中身は一緒か?
 ……なんとなーく事情が読めてきた。
「じゃ、そっちは誰のだよ?」
「これはアンタじゃなくて、龍麻くんの…」
 言いかけてはっと口を押さえても、もう遅ェ。
「ふーん、龍麻の、なんだって?」
 そう聞けば、アン子は観念したように肩を竦めた。
「…だから、龍麻くんの分もあるのよ」
「へェ。んでついでに龍麻の写真でも撮ろうってか?」
「ほら、記念よ。折角作ってくれたんだもの、着た所を写真に撮るくらいいいじゃない。精魂込めて浴衣を作ってくれた手芸部の部員に、その位の御褒美はあっていいと思わない?」
 それをまんま信じるほど、俺はお人好しじゃねぇ。
 アン子(こいつ)がそんなかわいいコトで満足する訳がない。どうせ、本音は龍麻の写真で一儲けってところだろう。
「で?俺のにも予約は入ってんのかよ」
「そう、そこが信じられないのよ!世の中には物好きが居るものよね…」
 言いかけてやっと失言に気づいたのか、アン子は黙り込む。
「……お前な」
 呆れて溜息混じりの声を上げれば、アン子はきっと睨み返してきた。
「仕方ないでしょ!ここで稼がないと、今度の新聞が出せないのよ!」
「だからって、ここまでやるか……」
「何よ、浴衣を用意してくれたのは、手芸部の好意なんだからねっ!それだけ求められてる、ってことなんだから!」
 ったく、部活に熱心なのは結構だが、コイツのはどっか方向が違うっての。呆れて何と言おうか悩んでる間にも、アン子は拳を握って切々と続けている。
「良いじゃない、少しくらい。稼いだ分はアンタ達に持ち込むネタの調査費用に化けてるんだから」
「馬鹿言え。お前が持ち込むのは面倒ばっかだろが」
「何よ、役に立ってないとは言わせないわよ!」
 確かに、コイツのどっから調べてくるんだと首を傾げたくなるような情報は役立つ時もあるが、それとこれとは話が別だ。アン子の資金稼ぎに付き合ってたらこっちの身が保たない。
「役に立つ、立たない以前の問題だろ…」
 人の話を聞いていないアン子は、まだぶつぶつと文句を言っている。
「大体、龍麻くんはガードが固くて、こんな機会でもなきゃ写真を撮らせてくれないのよ。人気あるんだから、少しくらい公開してくれたって…」
 ふと、その言葉が引っ掛かった。
 ―――確かに、龍麻はガード固ェな。世間様は梅雨で蒸し暑いこの季節にも、首まできっちりボタンしてるし。そういや、アン子の奴、何て言ってたっけ?
「……浴衣って言ってたよな?」
「え?」
「龍麻に浴衣を着せるつもりだったのか?」
 いきなりの質問に首を傾げながらもアン子が答える。
「ええ、男物の甚平は一つしか用意してないって言うから、龍麻くんの分は先輩の作った浴衣で…って、なんでそんな事聞くのよ!?」
 ははぁ、元々俺の分しかないところを、アン子が入れ知恵して写真を撮ることにした、と。
 相変わらずの抜け目のなさには呆れるが、今度は逆にそれが都合がいいかもしれねェ。
「いいぜ?乗ってやっても」
「え?」
「要は、俺と龍麻の写真を撮りてェんだろ?いいぜ。ま、お前にも世話になってることもあるしな。浴衣(それ)、よこしな」
 しかし、この俺の申し出にアン子は露骨に眉を寄せた。
「…ちょっと、何を企んでんのよ?」
「ああ?企むって?」
「アンタがそうそう簡単に私の言う事を聞く訳ないじゃない!」
 流石、わかってるじゃねェか。
「なんだよ、協力してやる、つってんのに。別にいいんだぜ?俺ァ別に困らねェし」
 わざと背を向けてそう言えば、アン子は慌てたように前に回り込んでくる。
「ちょ、ちょっと…本当に大丈夫なんでしょうね?」
 疑わしげに言うアン子の手から包みを取り上げると、笑って言ってやる。
「安心しろ、ちゃんと龍麻を捕まえてやるって」
 そう、捕まえるだけ、だけどな。


 教室に戻れば、龍麻が少し不機嫌な顔で待っていた。
「京一、遅い!」
 そう言や、結構時間かかっちまったか。すぐ戻る筈が、アン子に問答無用で引っ張り込まれちまったからなぁ。
「悪ィ、アン子に捕まっちまってよ」
 そう言えば、龍麻は眉を寄せて聞き返してくる。
「遠野に?……何を?」
 流石に、アン子の頼みには厄介事が付き物だってのは覚えたらしい。不機嫌な色が消えて、首を傾げた龍麻の襟元はやっぱりきっちり上まで留められている。
 確かに、ガード固ェよな…
 思いつつ、アン子から奪ってきた包みを差し出した。
「なにこれ?」
「浴衣。これに着替えて記念撮影しろって」
「記念撮影って…」
「手芸部の連中に頼まれたんだと。みんなで作ったけど、ものは一個しかねェだろ?代わりに写真を配りてェからって」
 その説明に、龍麻は頷きつつも首を傾げた。
「なら、これを広げてそれで写真撮ったらいいんじゃないのか?何で俺に?」
 尤もな意見だが、ここで頷けば話にならねェ。
「まぁ、折角だから人が着てるとこがいいってことになったらしい。手芸部にゃ男は居ねェからな。アン子が引き受けてこっちに話が回ってきたんだよ」
 何気ない風を装ってそう言えば、龍麻はやっと納得したように頷いた。
「そっか。俺はまたてっきり、遠野が写真撮って売り払うつもりなのかと…」
 ずばり当たってる辺り、龍麻(こいつ)もアン子がわかってきたよなぁ…。けど、ここで頷けば俺の野望は達成できねェ。
「俺もそれは思ったけどな。勝手な真似はさせねェって条件つけて引き受けた。ま、これも人助けってな」
 龍麻は何を思ったのか、くすくすと笑いだした。
「それで?手芸部の子はそんなに可愛いのか?」
 一瞬何を言うのかと訝ったが、龍麻の言いたい事に気づいて思わず肩の力が抜ける。
「お前…俺をなんだと…」
「なんだ、違うのか?」
 笑いながら言う龍麻は、本気でわかってないらしい。
 そりゃ、採寸を頼まれた子はかなり可愛かったけど、今回は俺の狙いはそっちじゃねェし。
「勝手に言ってろ」
 少し膨れて言えば、龍麻は笑って浴衣を受け取った。
「これ、着替えたらいいのか?」
「あ、ちょっと待て。ここじゃやべェ」
「やばいって…女の子じゃないんだから、別にいいだろ」
 んなことをさらっと言う辺り、わかってんだかわかってないんだか…
「アン子に、着替え中って銘打った写真ばらまかれたくねェだろ?」
 龍麻が納得の表情になる。
「あはは、遠野ならやりかねないな」
「だろ?外から見えねぇとこで着替えようぜ?」
 それに、そっちの方が俺にも好都合だし?
 …それは流石に声には出さなかったけど。



 つっても、校内で人目を避けられるとこは限られてる。部室は鍵が掛かるが、いつ部員が戻ってきてもおかしかねェとこだし…結局、手っ取り早く近場を選べば、場所は一個しかなかった。
「ちょっと待て、ここは…」
「へへへっ、ここなら確実に見えねェだろ?」
「そりゃそうだけど…ここは遠野のテリトリーみたいなもんじゃないか!」
 そう、新聞部の部室には写真を現像するための小部屋が引っ付いてる。窓も何も黒カーテンで覆われてる部屋だから、人目を避けるにこれ以上の場所はねぇ。
「アン子もまさかここに居るとは思わないだろ?…丁度、出て行ってるみてェだしな」
 そう言えば、龍麻が呆れたように息を吐いた。
「全く…こういう事だけには頭が回るよな、おまえ」
 …どういう意味だ、そりゃ。
 まぁ、いい。その辺は後でしっっかり聞かせてもらうとして。
「良いから、とっとと着替えちまおうぜ?アン子が戻って来ないうちによ」
「それはそうだな」
 肩を竦めた龍麻が身を翻す。
 乗った。
 思わず笑みが零れるのをなんとか押し殺して、俺は龍麻の後に従った。


 暗室内は狭かった。元々、一人で作業するための場所だから、そんなもんだろう。隅に荷物を放りだして、二人して着替える。
「京一のは浴衣じゃないのか?」
「ああ、俺のは甚平。ちょっと違うな」
「俺もそっちが良かったかも…」
「そうか?結構和服って似合うんじゃねぇの?」
「浴衣って、着方がわかんないんだよ」
 言い合いながら、背中を向け合うようにして着替える。脱いでる途中をうっかり視界に入れたらやばいことはわかりきってるんで、なるべく、見ないようにして。
「これでいいのかなぁ…何か違う気も…」
 そんなことを呟く龍麻に我慢できなくなって、着込むのも早々に振り向いた。
 浴衣は白地に薄い青の模様が散らされた柄だった。それを無造作に引っかけている龍麻は、腰紐を結ぶのに四苦八苦している。
 思った通り、よく似合ってる。
 薄暗くて見えにくい暗室の中でも、綺麗な黒い髪が白い浴衣に馴染んで、良い感じだ。
 何より普段は隠れてる首筋から鎖骨にかけてのラインや、肩の線はどうしてって聞きたくなるくらい凶悪に色っぽかった。
 駄目だ、やっぱ勿体ねぇ。
「ひーちゃん…」
 狭い室内では、腕を伸ばせばあっさりと身体を捕まえる事が出来る。後ろから首と腰に腕を回したら、龍麻はかなり驚いたらしい。
「ちょ…京一!」
「ん…やっぱ色っぺぇなあよなぁ」
 薄い布一枚越しに伝わってくる体温が気持ちいい。首筋をぺろりと舐めたら、怒声と拳が飛んできた。
「お前…っ!何考えてんだっっっ!!」
 それを躱して、
「何って……聞きたい?」
 意地悪く顔を覗き込んで尋ねれば、見事に顔が真っ赤になる。うわ…駄目だ可愛い。
「ここを何処だと…っ」
 皆まで言わせずに顎を捕まえて唇を塞ぐ。熱い中を思い切り貪れば、すぐに強張りは溶ける。止めとばかりに浴衣の合わせを割れば、びくんと龍麻の身体が揺れた。腕を闇雲に振り回し、振り払おうとする。
「ば…やめ…っ」
 ふーん、まだ、そんな余裕がある、と。
 こりゃ、もう少しか…?
 顔を振り、なんとか逃げだそうとする龍麻を抱きしめたまま、胸の飾りに指を伸ばす。先端を緩く引っ掻けば、悲鳴にも似た声が上がった。
「あ…っ」
 そのまま、飾りを押し潰すように弄れば、龍麻の口から溜息ともつかない息が漏れる。こうなってくれば、こっちのモンだ。浴衣を剥ぎ取って邪魔にならない所へ投げる。力の抜けた身体を支えながらその場に座り込んで、投げ出された足の内側を撫で上げた。
「や…ん…っっっ」
 既にそこは反応を示していて、僅かに指が掠めただけでも腕の中の身体は見事に反り返った。
「やだ…はな…せっ」
 しかし、生意気を言う口はそのまんまで、それがらしくておかしくなる。
「放せって、ここで止めてもいいのかよ?」
 そう言えば、潤んだような瞳がきっと睨んでくる。けど、いくら怒ってても、この状況じゃ誘ってるようにしか見えねェんだよなぁ。
「こんなになってんのに?」
 からかうようにそれを握り込めば、龍麻の目がきつく閉じられた。
「………っっ」
 じかに触れても、必死で歯を食いしばっている龍麻が恐ろしく可愛い。
「今更…止められねェだろ?」
 そう言って先端を割ってやれば、もう文句は返ってこなかった。代わりに切なげな声が上がって、それがこっちの熱も煽ってくれる。
「あ…あぁ…」
 色っぽい声に我慢できずに身体を入れ替えて、正面から抱きしめる。縋り付いてくる腕が、やたら熱くなっているのがわかる。あんま時間も掛けられねェし、そのまま龍麻のもので濡れた指で奥を探る。
「うあ…っ」

 触れた瞬間、抱きしめた身体が強張ったのを宥めるように唇を合わせて、更に奥を探ろうとした、その時。

 ぱたぱたと聞こえてきた足音に動きが止まる。
 やべェ…アン子が帰ってきやがったのか?
 外からはアン子の声が聞こえてくる。しかも一人じゃねェらしく、何やら話してるらしい。
「ったく、何処へ行ったのよ!?あの馬鹿はっ!!龍麻くんもいないし…」
「ホントに、どこへ行っちゃったのかな?蓬莱寺君と緋勇君の写真、楽しみにしてるのに」
 手芸部か、写真の『予約』組か…どっちにしても見つかったら洒落になんねェな。
「きょ…」
 固まった俺に不審を抱いたのか、声を上げた龍麻の口を手で塞いで身を伏せる。外にゃここにいるって痕跡は残してねェ。黙ってりゃ、やり過ごせる。それに、部屋は狭い上に戸口近くで抱き合ってるから、開けようとしても扉は開かない筈。
 そう踏んで龍麻に唇に指を押し当てて見せれば、外の気配に気づいたのかもろに顔が強張る。まぁ、確かに洒落になんねェ格好ではある。こんなとこをアン子に見つかるのは願い下げだが、俺の場合、少しだけ見せつけてやりてェって気持ちもあるんだよなァ…。普段は冷静沈着、ガード固いことこの上ない龍麻が、こういう表情もする…ってのをちょっと知らしめてらりてェ気も…
 ちらりと視線を投げると、龍麻は何とも言えない表情で身を縮めている。見た瞬間、危険信号を感じて喉が鳴った。
 ―――やべェ、かも。
その、余りお目にかかれない種類の表情は、俺の中のちょっとばかしヤバい感情を刺激してくれる。
 例えば、虐めてみたい、とか―――

 外では相変わらずアン子達の話が続いている。
 けど、一度思いついちまうと、試さずには居られない。
 そろそろと指を伸ばして、身を竦ませている龍麻の脇腹を撫で上げる。
「――――――ッッッ!」
 外ばかりを窺って、俺の動きを全く目に入れていなかった龍麻は、文字通り飛び上がった。けど、声を出さないのは流石と言うべきか。
 恨みがましく睨み付けてくる目も、そんなに顔が真っ赤だと効果がないってのは本人は気づいていないらしい。
 少しばかり潤んだ瞳と、何かを言いかけては口を噤む仕草はもう凶悪の一言だ。
 駄目だ、悪戯じゃ済ませらんねェ。
 丁度、組み敷いた形になっていたのも好都合だった。慌てて足を閉じようとするのを許さずに押さえつけ、片膝を立てさせて探りかけていた奥に再び指を伸ばす。
「…声、出すなよ?」
 そう囁きを落として、再び奥を探れば、龍麻は泣きそうな表情で目を閉じた。
「…………っ」
 ゆっくりとそこを探れば、龍麻は抗議と言わんばかりに腕を掴んでくる。けど、そんな仕草もこれだけ色っぽかったら効果はないっての、やっぱ本人は気づいてねェんだろうなァ。
 幾度か探ったそこを丁寧に辿って、覚えのある場所を引っ掻く。
「………ッ!」
 仰け反って首を振ったものの、相変わらず声は漏らさねェ。流石ってか、こうなりゃ意地だよな…
 わざとゆっくりとそこを攻めれば、小さく濡れた音が響いた。やたらと響くように感じるその音に、見れば前から零れ落ちた蜜が、後ろまで届いている。
 ―――なんか、ちょっといつもより反応が早くねェか?
「……もしかして、いつもより感じてる?」
 思いついてそう尋ねたら、閉じていた瞼の端から、雫になった涙が零れ落ちた。
 その目元がほんのり赤く染まってんのが目について、堪んなくなって口づける。
「ん…」
 唇を離せば、鼻に掛かった小さな声が漏れる。
 ここがどこかとか、すぐそこに人が居ることとか、もうぶっ飛んじまってる、表情。
 こんなモン見せつけられた日にゃ、どう頑張っても我慢なんか出来る訳がねェ。けど、それを承知で虐めてみたい気持ちもあって。
「声、出すなって。バレちまうぞ?」
 そう囁けば、陶然としていた龍麻の表情がはっと改まる。けど、それを許さないように奥を解きながら胸の飾りを引っ掻けば、もう一筋、涙が零れ落ちた。
「きょういち…!」
 小声で、名前を呼んでくる龍麻は限界に来てるようだった。ってか、こっちも限界。もう、これ以上ちんたらやってたらこっちも辛い。
「とにかく…まだ校内に居るのは確かなんだから…」
「もう一回、見て回ってみようか」
 そんな会話が聞こえてきて、立ち上がる気配。
 丁度良い。足を抱え上げて、十分に猛る自分のものをあてがえば、龍麻はきゅっと目を閉じて首にしがみついてくる。
「あぁ……っっ!」
 口を塞ぐ筈が、一瞬間に合わずに声が漏れる。閉じた空間に、それは妙に大きく響いた。次の瞬間、龍麻がはっと身を縮める。
「…………」
 聞こえたかとこっちの身も一瞬竦んだが、幸い、気配は遠ざかっていく。
 丁度扉が閉まる音に上手く消されたらしい。
 暫く待って、気配が完全に消えたのを確認して、それから言葉もなく身を縮めてる龍麻に囁く。
「お待たせ」
 言葉ついでに突き上げれば、声もなく龍麻が仰け反った。
 よっぽど堪えてたのがキツかったのか、龍麻自身も腰を揺らしている。
「は……っ」
 熱い内側は、突き込まれるのを拒む癖に身を引くとまるで逃すまいとするかのように絡みついてくる。揺すられ、締め付けられて思わず声が漏れた。
「龍麻…っ」
 ったく、どっちが虐めてんだか…
 こっちが虐めてる筈なのに、気が付けば貪られてるような気分になっちまうのは、やっぱ反則だよなァ。
 そんな事を考えていられたのもそこまでで。
「ふ…あ…あああぁ…っっっ」
 今まで抑えていた分、枷が取れたかのように声を上げる龍麻に煽られて、熱を吐き出したのはすぐのことだった。


「……お前な」
 シャツだけを引っかけたままの龍麻は、呆れ返ったという顔で俺を睨み付けている。
「ゴメンっっっ!調子に乗りすぎた!」
 先手必勝。とにかく謝り倒すに限る。
 手を合わせて拝むようにして頭を下げれば、龍麻が大きな溜息を吐く。
「…ったく。見つかったらどうするつもりだったんだ」
「そん時はそん時。ちゃんとガードしたって!」
「……ホントに?」
 疑わしげな眼差しを向けられて、取りあえず笑ってみる。それに呆れたのか、納得したのか、龍麻は肩を竦めて投げ出していた浴衣を拾い上げた。
「お前のお陰で疲れた。とっとと済ませて帰りたいよ」
 そう言ってシャツを脱ごうとした龍麻を、俺は慌てて止めた。
「ひーちゃん、そりゃマズイ!」
「?なんだよ?まだ写真撮ってないぞ?」
 問い返されて、言葉に詰まる。
 浴衣で撮影?
 出来る訳ない。
 龍麻の首筋には、くっきりとさっきの名残が残ってる。
 …けど、それを正直に言えばどうなることやら。
「ひーちゃん、疲れただろ?無理すんなって」
「だ・れ・が!疲れさせたと思ってるんだ!」
 龍麻は憮然としているが、撮影だけはマズイ。絶対駄目だ。
「そりゃ悪かったって!けど、よく考えたら、アン子が手芸部だけに写真を回す筈もねェしな。あいつには貸しこそあれ、借りはねェし。無理にこんなモン着なくてもいいって」
「………なんか、さっきと言ってた事が違うけど」
「と、とにかく、今アン子に見つかるのはヤバい。行こうぜ」
「ったく…お前は…」
 呆れたように溜息を吐きながらも、龍麻はあっさりと浴衣を手放した。
 問題は、アン子じゃねェ。うっかり首筋に痕を残したせいで、浴衣はもう着ないなんて言われたらそっちが問題だ。挙げ句、夏中お預けなんて言われた日にゃ…
 何と言って誤魔化すかも悩むところだが、取りあえずは学校を出ちまわねェと。
「悪ィ。帰りにラーメン奢って、そんでもって家まで送るから、よ」
 そう言えば、龍麻は仕方ないなと言わんばかりに、綺麗に笑った。