「うぁ…」 何故、こんなことになってしまったのか。浮かされる熱の中で、ぼんやりと思う。何か言おうにも、言葉はろくに紡げずに、聞くに堪えない喘ぎに取って代わられる。ならば口を閉じた方がマシだと、何とか唇を噛みしめたが、それに気づいた京一が手を伸ばしてきた。 「噛むなよ。切れるだろ」 「いいだろ…っ、別に…っ」 「んじゃ、認める?」 「………ッ」 頷けば、これまでの苦労がぱあになる。龍麻は仕方なく噛みしめた唇を解いた。途端に、みっともないほど切羽詰まった息が漏れて、龍麻は思わず目を閉じた。 駄目だ。これ以上は。 そう言いたいのを、なんとか喉の奥に押し込めて。
「ひーちゃんってさぁ…」 京一が、龍麻の家に転がり込むのは珍しいことではない。というより、最近では来ない日の方が珍しい。特に、先日、いわゆる一線を越えてからは既に半分住み着いているようなものだ。今日も今日とて、龍麻が作った夕飯を食べ、片づけを担当して風呂に入り、今は床に寝そべってテレビを見ている。 風呂上がりの龍麻が部屋に入ってきたのを見ると、京一は寝そべったまま龍麻を手招きした。 「…なに?」 尋ねても、只手招きするだけの京一に、龍麻は肩を竦めて近づいた。 差し出された手に近づけば、あっという間に腕を取られ、気が付けば天井をバックに、京一の顔を見上げる体勢になっていた。覗き込んでくる顔は妙に真剣で、心臓がどきりと大きく跳ねる。なんとかそれを表に出すのを押さえ、龍麻は何とか冷静な声をひねり出した。 「あぶないだろ?いきなりひっぱるなよ」 「なぁ、ひーちゃん」 龍麻にも、この展開は予想出来なかった訳ではない。こういことは…龍麻自身がそれに慣れていなかったとしても…初めてではないのだ。しかし、その体勢で京一が言い出したのは龍麻の予想を遙かに超えていた。 「ひーちゃんってさ、キモチ良くねー?」 「はぁ?」 何のことを言っているのか。わからなくて首を傾げた龍麻に、京一はさらりと告げた。 「だから、えっちしてる時」 一瞬にして頭が白くなった龍麻に対して、京一はあくまで真面目だった。 「ひーちゃんって、えっちしてる時もあんま気持ちよさそうじゃないだろ?どっちかってーと、苦しそうってかさー」 「………」 「声も押し殺してるし、表情も辛そうだし…」 「………」 「まあ、俺もあんま余裕かましてる訳じゃねェから悪ィのかもしんねーけどよ」 「……京一、いきなりなんだ?それは?」 真っ白になった頭をどうにか叩き直して、辛うじて尋ねた龍麻に、京一は無言でテレビの画面を指した。何やら、円卓を囲んで数人の男女が声高に議論している。 その画面の隅に、派手な書き文字で本日のテーマとして堂々と出されていたそれは。 『男女で違う?キモチのイイS○Xとは!』 「……………ッ」 速攻で脇に転がっていたリモコンを取り上げて、テレビを沈黙させた龍麻だったが、やはり、京一はその話題から離れてはくれなかった。 「努力はすべきだよなぁ、やっぱ。で、ひーちゃん。希望があったら聞くぞ?」 「………」 「やっぱ、辛そうなんじゃなくて、気持ちよさに歪む表情ってのも見たいし…ふがっっ」 それ以上放っておくと、何を言い出すかわからない口に、龍麻は無言で首に掛けていたタオルを突っ込んだ。 「なに、考えてんだ、ボケッッッ!」 そのまま身体を引き剥がそうとした龍麻だったが、それを許すほど京一は甘くない。 「駄目。逃がすかよ」 「お前、頭わいてんじゃねー?とっとと離せッ!寝言は寝て言えっての!」 喚く龍麻に、京一はあくまで真剣を装って言う。 「でも、やっぱヤるのにキモチ良いは基本だろ?問題があるなら改善しねーといけねーし」 しかし、瞳に宿る悪戯っぽい光が、表情を裏切って京一が楽しんでいることを伝えていた。 「…京一、お前面白がってるだろ?」 「んなことねーよ。本気で聞いてるぜ?」 「………」 「で、どうよ?ひーちゃん。何か注文ねェの?リクエストにはお応えするのがモットーなんだ」 実に楽しそうに言う京一の手は、いつの間にかパジャマ代わりTシャツの裾から素肌を探ろうと不埒な動きを繰り返している。 「ざけんな、この馬鹿!なにが注文だ!離せーーーッ」 「いやだね」 「注文も何も、毎回人にあんな痛い思いさせるくせに、自分は都合の良いようにやって…よくもそんなことが言えるなッ」 その言葉に、素肌へと達してその感触を楽しむかのように動かされていた京一の手が止まる。 「ちゃんと、気持ちよくさせてるだろ?」 「冗談っ!いっつも人を振り回してばっかだろ」 龍麻の言葉に、京一の目がすっと細められた。 「それは聞き捨てなんねーな…いっつもひーちゃんも楽しんでるじゃねーか」 「誰が楽しんでるかっ!あれで気持ちいいなんて思ったことは一回もないっ!」 龍麻の即答に、京一の目に剣呑な光が宿る。しまったと思った時は、もう遅かった。 「ふーん?じゃあ…」 戯れのように動いていた指が、明確な意志を持って動き始める。 「こういうのも、気持ちよくないんだ?」 「……ッッ」 弱点である脇腹を撫で上げられて、龍麻は思わずきつく目を閉じる。しかし、一度口にした否定の言葉を取り消せるほど、龍麻も人間が出来ていなかった。 「全然…っ!」 歯を食いしばる龍麻に、京一はつまらなそうに唇を尖らせる。 「ふーん。素直じゃねぇェの」 しかし、すぐに思い直したように、龍麻の耳元に口を寄せてどこか楽しげに囁いた。 「わーった。今までは俺の努力が足りなかったんだよな。悪かった。ちゃーんと気持ちよくさせてやっから」 覚悟しろよ?
普段より幾分低い声で、耳元で囁かれて。 それだけで熱くなりそうなカラダに気づかない振りで、龍麻はなんとか笑って見せた。 ここで引いたら、負けだという自分でも良くわからない気合いを込めて。 「できるものなら」 声がかなり掠れてしまったのは、隠しようがなかったけれど。
意地っ張りだよなぁ。 決して視線を合わせようとはしない龍麻に、京一は内心溜息を吐いた。 手に入れたばかりの恋人は、何故だか京一には意地を張る事が多い。親友だった頃からその傾向はあったけれど、最近はそれが特に顕著な気がする。 他の人間にはそんな素振りを欠片も見せないから、京一としては余計気になるのだ。 そりゃあ、素直じゃないのは知っていたし、ここに至るまでの道のりにも色々あった。 想いを告げたのは京一が先だったが、それから晴れて両思いまでの道のりも、全然平坦では無かった。しかし―――少なくとも晴れて恋人と呼べる存在になった以上、少しぐらいは素直な所を見せて欲しいというのが本音なのだけれど。 そんな京一の心中など知る由もない龍麻は、まだ、ろくに触れても居ないのに朱に染まった顔を見られるのが嫌なのか、隠すように床に片頬を押しつけている。 けれど、そんな仕草が逆に、恐ろしく京一を煽ることも、きっと龍麻は知らない。 今まで、いつも余裕無く抱いていた自覚はある。だから、今日こそは少しばかり余裕を持って、ついでに少しは素直な部分を見せてもらおうというのが京一の密かな野望だった。 首筋に唇を落とし、強く吸い上げるとそれだけで震える身体に、暴走しそうな欲望をなんとか堪える。 いつもならこのまま性急な愛撫を施すのだが、それではいつもと同じになってしまう。殊更ゆっくりと掌で胸を撫でると、龍麻の眉がぎゅっと寄せられた。色づいて一番欲しがっている部分はわざと避けて、焦らすようにその周囲に指を走らせると、龍麻の顔に更に朱が上った。大分、息も上がってきている。 「ひーちゃん…どうして欲しい?」 耳元に息を吹き込むようにして囁く。京一の動き一つ一つにひくりと反応を返す癖に、龍麻の口から漏れたのはやっぱり素直とは縁のない単語だった。 「知る…かっ」 「…ふーん」 素直になるにはまだまだ熱が足らないらしい。唇で胸の飾りの周囲を辿りながら、今度は短パンの裾から忍ばせた手で、さらりと太股を撫で上げてみる。 「ひぁ…っ」 不意打ちが効いたのか、龍麻の口から悲鳴じみた声が漏れる。それに気をよくして、京一は更に内側に指を滑らせた。 「はぁ…あっ」 眉を顰めて快楽をやり過ごそうとする龍麻の表情は酷く扇情的で、それだけで張りつめる自分が居る。 「もっと…聞かせろよ」 けれど、そう囁いた途端、龍麻の瞳には理性の光が戻ってきてしまった。 「………っ」 唇を噛みしめてしまった龍麻に、京一は眉を寄せる。 どーして、そこでこう来るかねぇ? 片方だけ腕を抜いたシャツの下から見える素肌は紅く上気しているし、忙しなく吐く息と、短パンの上からでもはっきりと形を露わにしている欲望の証。 身体はこんなに素直なのに、どうして中身はここまで頑固なんだ? なんだか、それが自分と龍麻の想いの違いを表しているようで。 そりゃ、先に惚れたのは間違いなく自分だとは思うけれど。 ……意地でも、落としてやる。
京一は固く心に誓って、再び龍麻を追い上げはじめた。
何、考えてるんだ? 段々霞がかかってきた頭の隅で、龍麻はぼんやりと考えた。今日の京一はどうもおかしい。いつもなら、性急に追い上げてくる京一の手が、今日はやけに緩やかなのだ。まるで、焦らすかのように肝心の部分には触れず、しかし時折掠めるように触れてくる愛撫は、既に身体は苦しいほどの熱を帯びている。今まで、こういう種類の我慢をしたことがない分、その熱さを龍麻は持て余していた。 「あ、あぁっ…」 なんとか押し殺している声も、堪えきれなくなってきている。しかし、もっと押さえられそうにないのは。 「なあ、どうして欲しい?」 さっきから何度も繰り返されているこの問いに、応えそうになってしまっている自分の身体。 「……っ」 否定の言葉を返す余裕も無くなって、もう、首を横に振るしか出来ない。口を開けば、きっと懇願してしまう。それだけは避けたかった。 しかし、問いかけてきた相手は、龍麻のその答えが気に入らなかったらしい。 「…どうしても、言いたくないのかよ?」 それまでとは違う、どこか冷たさの感じられる声に、龍麻が思わず視線を向けるより早く。 「―――ひゃっ?」 一瞬、何が起きたのか龍麻には解らなかった。持ち上げられるような感覚の後に、ひっくり返されて。 「何して―――や、やめっ、ああっ」 獣のように腰だけを持ち上げられ、直接舌で内側を探られている事に気づいた瞬間、龍麻の全身がかっと熱くなった。 「なんっ…あ…やめ…やめ…っ」 意地でも言うまいと思っていた否定の言葉が、口をついて出るのを押さえられない。 舌のぬめるような感触が、奥に滑り込んでそこを濡らしていく。 肝心な部分にはまるで触れられていないのに。 キスすら交わしていないのに。 腰が揺らめいて、更なる刺激を求めるのを、もう押さえられなかった。 「くぁ…ああっ」 何も考えられなくなりそうに白くなる一瞬、不意に京一の動きが止まった。 「ひーちゃん」 そう呼びかけられたのにも、すぐには気づけないほど、龍麻の意識は彼方に飛びかけていて。 「ひーちゃん」 再び呼ばれて頬に当てられた手に、ようやく龍麻は目を開いた。いつの間にか、再び身体を返されていて、京一がじっと見下ろしている。 何故か、覗き込んでいる京一の表情は苦しげで、龍麻は眉を顰めた。 「…京一?」 「なあ、そんなに嫌、か?」 「……?」 京一が何を言っているのか解らない龍麻は、視線で疑問を表す。京一はそれに答えるように、すっと龍麻の頬に当てた手を動かしてみせた。その、濡れた感触に、龍麻はやっと自分が泣いていることに気がついた。 「あ、れ…」 自分でも意識してなかった涙に、龍麻も驚く。 京一はそんな龍麻の表情にすっと視線を下げた。そしてそのままぱふりと龍麻の肩口に顔を伏せた。 「京一?」 熱を持った身体に、京一の髪が柔らかく触れるのに鼓動が跳ねるが、それよりも京一のどこかいつもとは違う仕草が気に掛かる。 京一は、龍麻の肩に顔を埋めたままくぐもった声で呟いた。 「…お前には、俺なんてどうでもいいんだよな」 「…はぁ?」 「俺に、無理矢理迫られて仕方なしにこういうの、許してるだけなんだよな」 いつも、身体を許してもどこか苦しそうなのは、それが俺が強請った結果であって、お前自身が欲しい訳じゃないからなんだよな? そんな事を言う京一を、龍麻は呆然と見つめる。一体、どういう風の吹き回しで、そんな寝惚けた事を言っていると聞き返そうとしたのだが、京一の真剣な表情に押されて言葉は口の中で消えた。 「悪い、な」 そう言って身体を離そうとした京一の腕を龍麻はがしっと掴んだ。 「お前、馬鹿かっ!」 京一は驚いたように目を見開いたが、それを無視して龍麻は怒鳴りつけた。 「俺が、同情でこんなこと許してると思うのかよっ!どうでもいい相手にこんなことしてると本気で思うのか?誰がお前を欲しくないって?勝手に人の中に入り込んできといて、よくそんな勝手なこと言えるな?これ以上、お前に振り回されるのはごめんだから俺は…っ」 ずっと好きだった。京一が好きだなんて言い出した時は、冗談でからかわれてるのかと思ったぐらい、信じられなくて。けれど、それが本当らしいと理解した時は、どっかおかしくなったんじゃないかと思うくらい嬉しかった。 けれど、それと全てを委ねて溺れきってしまうのは話が別だ。 もし、この想いに溺れきってしまった後で、それが不意に消え失せたら? 多分、自分は立ち直れない程の痛手を負う。 だから、ちゃんと自分を押さえなくてはいけない。 身体を重ねるようになっても、それに溺れてしまわないように、ちゃんと距離を置いた。いままではそれもちゃんと成功していたのに、こんな風に焦らされては――― 京一の真剣な眼差しが、龍麻の顔を覗き込む。自然に距離が縮まって、唇が重なる。 じきに深くなったキスは、お互いに奪い合うような激しいものになる。息を奪い合い、舌を絡ませればじきに先刻の熱が帰ってくる。 堪えきれなくなった龍麻は、京一の首に腕を回した。
もう、どうでもいい。
さっきまで僅かに残っていた理性は、さっきのキスでどこかに飛んでいってしまって、残ったものは一つだけ。
京一が、欲しい。
「焦らすな…よっ」 貪り合った唇が離れた後、掠れる声でそう告げると、京一はにやりと笑って答えた。 「お望みのままに」
今度は小細工も何もなく、直接胸の飾りに手を伸ばす。指で摘んで捻り上げると、龍麻は堪えきれないといった風に嬌声を零した。 「ひーちゃん、気持ちいい?」 そう言いながら残った片方を舌で責めて歯を立てる。 「ひぁっ!いい…いい…から…」 焦らすな、と。 濡れた瞳で訴えられて、京一自身も熱を押さえきれなくなった。 「ん…腰上げろよ」 言われるままに腰を浮かせる龍麻の足から、まだ引っ掛かっていた短パンを下着と一緒に引き抜く。 勃ちあがりかけている自身を握りこんでやると、堪えきれないといった風に龍麻は声を上げた。 「ふあ…あああっ…や…っ」 散々煽ったのが効いていたのか、先端を割って何度か性急に追い上げると、あっけないほど簡単に龍麻は達した。 「いぁぁぁっ…ふっ…ん」 その声に、堪えきれずに京一は些か乱暴な手つきで絡めた密を先刻舌で濡らした蕾に指を押し込んだ。 「ん…っ」 一瞬、苦しげに眉を寄せた龍麻に気づいて、京一は暴走しそうな自身をなんとか押さえ込んだ。 ゆっくりと、中を探り、そこを溶かしていく。じきに龍麻は切なげな声を上げ始めた。 「きょう…いち…焦らす、なって…っ」 「焦らしてるんじゃ、ねェよ」 「うそ……ひゃっ!ああああっ」 指が掠めた一点に、龍麻の身体が仰け反った。 「気持ちよく、してやるって言ったろ?」 確かめた場所を本数を増やした指で責めると、龍麻は堪え切れぬといった風に首を振った。 「やっ…ああああっ…んんっ」 「いい、か?」 「いいから…いいからもうっ…きょういちっ」 一度放った龍麻自身も、再び蜜を零している。息を切らせて懇願する龍麻に、京一も限界を悟って指を引き抜いた。 「いくぜ?」 そう尋ねると、龍麻はうっすらと目を開いて、酷く艶やかに笑んで見せた。 「上等」 その言葉に、京一も笑みを返す。 「覚悟しろよ?」
溶かしたとはいえ、やっぱりそこは狭くて、龍麻は苦痛の色を滲ませた声を上げる。 「ひぁっ…つっ…」 しかし、京一にも流石にこれ以上の我慢は出来なかった。 「悪ィ。もう、限界」 「ちょ、ちょっと待て…あああああっ」 勢いをつけて突き上げると、龍麻が背をしならせて喉を晒す。そこにキスを落として、京一は小さく笑った。 絡みつく、龍麻の中は熱くてそれだけで達してしまいそうで。 それに、声を殺すこともない、全身を朱に染め上げている龍麻の姿は間違いなく京一を欲している。 それは、何よりも甘い快楽。 「すんげぇ…気持ちイイ」 そう告げると、龍麻は荒い息の下から京一を睨んだ。 「ばっか…やろ…自分ばっか…」 「そりゃ、ごもっとも」 額を寄せて、指を絡めて。 「龍、麻…」 「きょう、いち…」 名前を、呼んで。 「一緒に、イこうぜ?」
そうしてお互いの瞳の中に、同じ光を見つけたら――― 後はもう、溺れるだけ。
「…京一、俺にも寄越せ」 「はいはい」 掠れた声で水を要求する龍麻に、京一は飲みかけのペットボトルを回してやる。起きてからというもの、ひたすらシーツに顔を埋めて顔を上げようとしない龍麻は、やっぱり顔を上げないままボトルを受け取ると、これまた反対側を向いたまま、顔を上げずに器用にボトルを傾ける。絶対に顔を上げようとしない龍麻に、京一は息を吐いた。 「なぁ」 「……」 「ちょっと、こっち向けって」 「………」 そっぽを向いたままの龍麻に、京一はがしがしと頭を掻いた。 「んだよ、気持ち良くさせてみろ、つっただろ?」 「…誰が、動けなくなるまでやれ、つったよ」 床の上だけでは事足りずに、場所をベットに移してお互いを貪り合った結果、龍麻はまともに立つこともままならずにベットに沈んでいる。機嫌が悪いのも無理からぬ事だったが、京一の方も顔も上げずに拗ねられてはたまらない。 昨夜は、あんなに素直だったのに。 「ちゃんと、気持ちよかっただろ?」 「………」 遠慮のない京一の物言いに、龍麻の頭が動いたが、流石に否定は出来ないと思ったのか、帰ってきたのはやはり沈黙だった。けれど、僅かでも反応があった事に気をよくして、京一は更に続けた。 「そうだよな、ひーちゃんもノリノリだったし」 「………」 「ちゃんとリクエストにも応えたし」 「………」 「あんなに乱れといて、そこでどうしてそんなに拗ねるかぁ?」 「…誰が乱れたかっっ!」 我慢できなくなった龍麻ががばっと身を起こして怒鳴ったのと、それを見越して待ちかまえていた京一が、龍麻の腕を捕まえて顔を寄せたのはほぼ同時だった。 「へへっ、やーっと顔見せてくれた」 間近に迫る京一の顔に、龍麻の顔が火がついたように真っ赤になる。 「ば、ばか、離せっ!」 そのわかりやすい反応に、京一は思わず頬を緩める。 「…もしかして、照れてる?」 「……っ」 更に顔を赤くする龍麻に、京一は我慢できずにがばりと抱きつく。 「ひーちゃん、かわいいっ!」 「こ、こらっ!なにするんだっ!」 「へへへっ、ひーちゃんがあーんまりかわいいからさぁ…」 「誰が可愛いかっ!こら、変なところを触るなっ!」 「いいじゃん、昨日の続きしよーぜ、続き〜」 「いい加減にしろ、昨日やりたい放題やっただろーがっ!あっち行け、離せ〜っ」 「動けないくせに、強がんなって」 「誰が動けなくしたと…っっっ!この、馬鹿ーーーっっっ!!」
怒声の後に響いたのは、嬌声か悲鳴か?
それは京一だけが知っている。
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